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第1章 8 最初の罠、瓦礫の村『アムル』

「我々は一介の兵士に過ぎませんから、高貴なお方のエスコートなど恐れ多くて出来ません。お1人で降りて頂けますよね?」


たっぷりと嫌味を込めた言葉を並べる兵士。

乗る時だって手を貸さなかったくせに、降りるときに敢えてこのような台詞を言うのは明らかな悪意が込められている。

既に回帰前の世界で経験済みだ。


あの時の私は失礼な兵士に激怒し、彼らを怒鳴りつけた。

そしてその様子をこっそりと眺めていた『アムル』の村の住人たちが白い目で私を見ていたのだ。


やはり、『クラウディア・シューマッハ』は噂通りの最低な女だと―。


それが全ての始まりだったのだ。

だが今回は違う。




「ええ、大丈夫。私の為に貴方の手を煩わせるわけにはいきませんから」


笑みを絶やさず私は返事をした。


「…!」


私の態度に一瞬、兵士は驚いた顔を見せたがすぐに今まで通り人を小馬鹿にした笑みを浮かべた。


「では、私は住民たちに挨拶をしてきますので」


兵士はそれだけ告げると去って行った。


すると私のすぐ背後にいたリーシャが憤慨した。


「な、何ですかっ?!あの生意気な兵士の態度はっ!仮にもクラウディア様の乗った馬車のドアをノックすることも無く勝手に開けて、挙句にエスコートもせずに立ち去っていくなんて!」


「落ち着いて、リーシャ。私との約束覚えているでしょう?」


リーシャを宥める為に声を掛けた。


「え、ええ…勿論です…何があっても慌てず騒がず、冷静に…ですよね?」


「ええそうよ。この村はね、これから私たちの運命を大きく左右する始まりの場所…と言っても過言ではないのよ?」


リーシャに言うことを聞いてもらう為に少し話を大げさに盛った。


「ええっ?!そうなのですか?!」


「そうよ。だから…後生だから、どんなに気分を害しても、理不尽だと思っても‥どうか堪えて頂戴ね?」


「はい。分かりました」


私の訴えが通じたのか、リーシャはコクリと頷いた。


「では、降りましょう?」


そして手すりをしっかり握りしめると、私は馬車から降り立った―。





「な、何なんですか…?クラウディア様…この村は…一体…」


馬車から降り立ったリーシャは目の前の光景を見て呆然としていた。


「…」


私は目の前に広がる光景を黙って見つめていた。そこはとても村とは呼べるような場所では無かったのだ。

家々の半数以上は倒壊し、瓦礫の山と化していた。

かろうじて倒壊を免れた家はある物の窓ガラスが割れたり、壁にはヒビが入っている建物が多く目立っていた。

さらに周辺に生えている木々は幹の大部分が黒焦げになっており、無残に葉を散らせている。


唯一、無傷で残されていたのは眼前に見える教会だけであった。



そう、ここ『アムル』の村は…戦争の被害を大きく受けた村だったのだ。


戦火は平和だったこの村を巻き込んだ。

食料が尽き、飢えに苦しんだ兵士たちはこの村から徹底的に略奪行為を行った。


食料を奪い、家畜を殺し…家々は焼かれ…この村は心無い兵士たちの手によって、壊滅状態になってしまったのである。


そして『レノスト』王国の敗戦という形で半年ほど前に終わりを告げた戦争から、未だに『アムル』の村は復興の目途が立っていなかったのであった―。


「クラウディア様…こ、これは、一体…」


リーシャが震えなが尋ねてきた。


「リーシャ。この村はね…先の戦争で戦火に巻き込まれた村なのよ。見て分かる通り、とても貧しい村だから未だに復興もままならないの。けれど兵士たちにも一応良心はあったのね。だって教会だけは手を付けなかったから」


私の言葉にリーシャは驚きの声を上げた。


「そ、そんな…!だ、だったらこんな村で食事どころか休憩すら無理ではありませんかっ!しかも…何ですかっ?!あの付き添い人や兵士たち…何もしないであんなところで楽しそうに話をしているだけじゃありませんかっ!」


リーシャは悔しさをにじませながら、瓦礫の山から少し離れた位置に馬車を止めて談笑しあっている『エデル』からの使者たちを恨めしそうに睨みつけた。


「ええ、それだけじゃないわ。彼らはこの村がどういう場所か…村人たちが私たちにどんな感情を抱いているか、全て承知の上でわざと立ち寄ったのよ」


そう…全ては私を陥れる為だけに。


「え…?クラウディア様…それは一体どういう…?」


リーシャが言いかけた時…。



「ちょっと!あんたたち!一体この村に何しに来たんだいっ!!」



鋭い声が瓦礫の村に響き渡った―。


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