541 第二妃の話と、集まってくる仲間達
「あの……、ノエル殿下、もし良かったらでいいんですけど、第二妃であるアレクサンドラ様は、どのような方だったんでしょうか……?
ノエル殿下をお生みになった際に、亡くなったのだとお聞きしたので、もしも、ノエル殿下が言いにくいようなことを聞いていたら、申し訳ありません……っ。
その……、王妃様のことについては、ダヴェンポート卿やヨハネスさんからも、産後の肥立ちが悪くて肺炎を患ってしまったことで、今、現在、療養しているのだと聞いたのですが、アレクサンドラ様のことは、あまり話題にも上がらないので、どのような方だったのかと気になってしまって……」
そうして、勇気を振り絞って、一歩踏み込みながら、王妃様と第二妃であるアレクサンドラ様の共通点として産後の肥立ちが悪くて、王妃様は療養することになって……、アレクサンドラ様は亡くなってしまったという話を聞いていたこともあり。
更に言うなら、時期が違うものの、ギュスターヴ王の側近だった、クロムヴェル大司教の不審死なども含めて気になってもいたから、そういうところから、何か見えてくるものがあればなと感じて、ダヴェンポート卿とかから話を聞く限り、王妃様への評価は高かったけれど、アレクサンドラ様はどうだったんだろうと、質問をしてみることにすれば……。
「あー、俺の母親だった人か……。
いや、特に何の感情も湧いてこないっていうか、色々と最低だったって話だ。
元々、身分の高い令嬢ではあったんだが、当時、王妃一筋だった父上にも、自分の立場を弁えずに色んなことをやらかして回ってたみたいだからな。
まぁ、だからといって別に、俺が父上に対して申し訳なさを感じたりするようなこともないんだけどな。
俺自身も、この世に生み出された被害者だってことに間違いはないし、顔も見たことのない人間に、いつまでも想いを馳せたって仕方がないだろっ?」
と、意外にも血のつながりも感じられないほど、自分も被害者なのだと、バッサリと斬り捨てるように、どうだっていいと、心底、そう思っているような雰囲気で、他人行儀に言葉を返されて、私は思わず目を見開いたあとに『言いにくいことを聞いてしまって、ごめんなさい』と、慌てて謝罪する。
まさか、ノエル殿下の境遇に、そんな事情があっただなんてことも……、アレクサンドラ様が、国内でもあまり評判が高くない方だったというのも、今の今まで知らなかったけれど、知らなかったからといって何を聞いても良いわけじゃないはずで……。
ノエル殿下のこの口ぶりをみるに、アレクサンドラ様が、世間的に色々と言われていた方なのだということは、否応なしに窺い知れて、実の息子であるノエル殿下の口から、言いにくいことを言わせてしまったことも含めて、私が聞いてもいい話だったのかと、そのことに、ただただ申し訳なさを感じていると……。
「いや、そんなに、畏まって謝罪なんてしなくても……っっ。
俺自身、そのことについては、本当に、心の底から、どうでもいいっていうかさ。
この世の中に生み出されたことに関しては、本当に、勘弁してほしいことでもあったけど、普段から、そのことについては、一切、何とも思っちゃいないんだ……。
人ってのは、俺自身も含めて、いつか、死ぬものでもあるし、それが今日になるか、ずっと先になるかは分からないだろっ?
だから、俺の母親だった人も、ただ生きて死んだ、っていう事実と結果だけが残ってる。
まぁっ、どうせ、そうなるんならっ、ド派手に生きて、死にたいってのが俺の信条っていうかさ。
……っっ、あぁ、でも、なんていうか、アリス姫は、本当に、人が良いよな……っ。
俺が今まで、出会ったことのないタイプっていうか、それ、本気で言ってるんだろう?」
と、アレクサンドラ様のことについては、先ほどの視線と同様に、興味すらないといった感じでありながらも、私に対しては、どこまでも探りたいというような視線を向けてきて……。
私は思わず、ノエル殿下のその表情と、その言葉に、以前からちょっとずつ、ノエル殿下の人生観のようなものは垣間見えていたけれど、達観しているようにも、どこか投げやりのようにも感じられながらも、その奥底には、本気でそう思っているのだと言わんばかりの気持ちが見えて。
『ノエル殿下は、そんなふうに考えていたんだ……っ』
と、そのことに驚き、戸惑いつつ、小さく息を呑みながらも、私自身が今出した謝罪の言葉については、本当に本心からの言葉だったからこそ、ノエル殿下の問いかけに肯定するようにこくりと頷き返した。
アレクサンドラ様のこと、ノエル殿下は、本当に心から、どうでもいいって思っているんだろうな。
それだけのことを、アレクサンドラ様がしてきたということは、国内でも広く知れ渡っているようなことなんだろうか……?
多分、ノエル殿下のこの言い方からすると、その話は事実なんだと思うんだけど、幾ら、ノエル殿下が、アレクサンドラ様について、どうでもいいと思っている様子であっても、普通の人だったら、こういう話を振られることは、きっと嫌だと感じてしまうだろうから、この話は、今後、ノエル殿下に聞くよりも、ダヴェンポート卿とかに聞いてみたりする方が良いのかもしれない。
あとは、意外にも、パトリシアとか、ステファンなんかも、アレクサンドラ様の詳しい事情については知っていたりするかもしれないな……。
出来れば、それについては、ノエル殿下のいないところで聞いていけたらな良いなと感じつつ……。
「それに、俺自身も、アリス姫のことについては、色々と聞きたいと思ってたから、今、この瞬間に、こういった話が出来て嬉しいっていうか。
……単刀直入に聞くけど、この間、オルブライト卿が言っていたように、アリス姫は、魔女の能力を、本当に持ったりしていないのか……?」
そのあと、椅子に座ったまま、私の瞳を真っ直ぐに両の眼でジッと見つめてきて、問いかけてくるノエル殿下のその言葉に、あまりにも思いがけない質問が飛んできたことで、今、この瞬間に、『魔女じゃないのか?』と聞かれるとも思っておらず、一瞬だけ動揺しかけて、ほんの僅かばかり、びくりと肩を震わせそうになり、何とか、それを押さえ込んだ私は……。
「いいえ……っ、シュタインベルク国内でも、そういった噂も出てるみたいですけど、私自身、オルブライトさんにそのことを聞くまでは、本当に、寝耳に水なことだったので、どうして、そんな話が出て来ているのかもよく分かってなくて……」
と、内心でドキドキしつつも『魔女の能力を持っているだなんて噂が流れていること自体が、あり得ないこと』なのだと、ここで、嘘を吐くのは、やっぱりちょっとだけ気が引けてしまうけれど。
それでも、私自身が魔女であることと、時を司る能力を持っていることがバレてしまうことがないように、慎重に言葉を伝えていけば、ノエル殿下は、そんな私のことを、ほんの少しジッと見つめていたものの、そのあとで、『だとしたら、やっぱり、相当、優秀なんだな』と、褒めるように声を出しながら……。
「アリス姫は謙遜していたが、アリス姫が今までしてきた功績は、俺の知る限りでも、やっぱり凄いと思う。
シュタインベルクでやっている施策が、ソマリアのためになるような場合もあるし、出来れば、もっと他にも色々と、アリス姫がこれまでやってきたことについて知っていきたいんだが」
と、伝えてくる。
どこか、詮索するような色を乗せるノエル殿下のその瞳に、私のことをただ知りたいと思っているだけなのか、それとも私のことを知った先に何か別の思惑みたいなものが混ざっているのか、ということは、ジッと見つめてみたその瞳からは、あまりしっかりとは読み取ることが出来なくて、困惑しつつ。
私は今まで自分がしてきたことについて、魔女関係のことなどについては伏せたまま、今日の一限目に、水質汚染の件や、観光船のことについて……、それから、この6年の間に、お父様に進言して、大分、先進国として赤を持つ者への人権を確保することが出来てきたことなど、既に、ノエル殿下が知ってくれているものが殆どだと伝えることにした。
私のその話に、ノエル殿下は、殆ど口を挟むこともなく、ただ相づちを打つことだけをしてくれていて、『それでも、冒険者のアンドリューや、サム達からあれだけ敬愛されているのなら、他にも、アリス姫が認知していないだけのものもあるんだろうな』と言ってくれたものの……。
なんていうか、こうして、二人きりで話してみて、じっくりと観察してみると、よく分かるんだけど。
時折、見つめた先の、私の話に耳を傾けるノエル殿下のその瞳が、表面では、どこか、からっとしたような雰囲気を纏わせながらも、その奥底で、時々、瞬間的に、暗い色を帯びてしまうことが、私は、どうしても気になってしまった。
――ルーカスさんの時とかとはまた違って、時折見せる、冷たいほどの鋭さを称えたような漆黒にも思えるようなその瞳の奥深くでは、あまりにも影が色濃く出てしまっているような気がする。
「功績といっても、そんなに大したものではないんです……。
私自身、生まれた時から、赤を持つことで苦労してきたので、そういった人達のために何が出来るのかを考えて歩んでいたら、それが、実を結ぶことになっただけで……。
でも、私は、赤を持つ人達のために、今も何が出来るのか、どういうことをしていけるのか、皇女という立場だからこそ、出来ることをして進んでいきたいなって思っています」
そうして、ノエル殿下のその瞳については気になったものの、柔らかな口調で、これから自分がしていきたいことを話していけば、ノエル殿下は驚いたような瞳を一瞬だけ私に向けたあと『人が良い、人が良いって思ってきたけど、アリス姫の、その優しさは、本当に無償のものなんだな』と、なぜだか、私に対して、これまで以上に、もっと強く興味を持った様子だった。
そのことを、不思議に思いつつ……。
そのあと、話が途切れたタイミングで、小さな部品を、なるべく一つ一つ見やすい位置におけるように、敢えて散らばせて置いているものから、ノエル殿下が手順の手本を見せてくれたものとして、私がオルゴールを動かして演奏する動作を見せる機械人形の製作を頑張っていると……。
ノエル殿下が横から、さっき私に見せてくれた、見本用のオルゴールではない、自分の作りかけの別の制作物を持ってきて『このあとは、俺もここで、自分用の制作物を作らせてもらうつもりだし、他の部分で気になることがあるなら遠慮なく質問してくれ』と、声をかけてくれた。
その言葉に『ありがとうございます……。では、他にも、分からない所とかがあったら、遠慮なく声をかけさせてもらいますね』と伝えてから、私は、ひとまず手を動かして、機械を組み立てていくのに専念することにした。
機械を組み立て終わったら、材料として持って来ている、自分が選んだ木箱の内側を綺麗にして、箱の外側に布地を貼り付けたり、装飾なんかを施していくと、きっと可愛くなるはずだよね。
そのために、一生懸命、今できることをしていければ良いなぁと感じつつ。
ふと、ノエル殿下の作っている制作物の方へと視線を向ければ……。
「わぁ……っ、ノエル殿下、その子、凄くお洒落な雰囲気で可愛いですねっっ。
鳥さんのモチーフですか……?」
と、私の目に入ってきた、ノエル殿下の鳥をモチーフにした機械人形が、既に作りかけの状態であろうとも、動力によって歩いたり、首を動かしたりといった感じで精巧に作られているのが垣間見えて……。
私達がオルゴールや、時計などといった、元々、存在する機械と共に、そこに機械人形の方も組み込んで動くといった感じの作品を作っているのとは違い、ノエル殿下は、完全に独立した機械人形だけの作品を作っているのが本当に凄いと感じられてしまった。
ただ、鉄製で出来た鳥さんの機械人形の羽などの部分に敢えて、幾つか、丸い何かを嵌めるような窪みがあるのは一体何なのだろうと『ノエル殿下、これは……っ、?』と、私が問いかけると……。
「あぁ、これか?
今の作品は、鳥……、特に、孔雀をモチーフにして作ってるんだ。
んで、これは、孔雀用に、折角だから、色取り取りの宝石を嵌め込むことが出来れば、より映えるだろうって思って作ってみてるっていうか。
まぁ、まだ、褒めてもらえるほど、そこまで、出来映えもよくない試作品の段階なんだけどな……?
俺は、鳥の中だったら、艶やかに美しく、色彩が豊かな孔雀が好きっていうか、孔雀ってのは、豪華絢爛で、ド派手で、何よりも目立つだろう?
それに、モチーフにしている孔雀には、色々な意味が込められるしな」
と、ノエル殿下が、機械を組み立てているその手を止めて、ちらりと顔をあげて、私の方を向いて答えてくれたことで、私は確かに、孔雀をモチーフにするのなら、羽などの部分に、宝石を散りばめると凄く綺麗で映えるだろうなと内心で思う。
――それよりも、宝石、かぁ……。
今の私が『宝石』という言葉に、特に過敏になっているからかもしれないけれど、ノエル殿下が作っている機械人形については、両手で抱えきれるくらいの大きさしかなく、そこに幾つもの宝石を散りばめるというのは、確かに、ちょっとだけ贅沢な感じはして、豪華だとは思うものの。
それでも、国が沢山、宝石を集めているのと、ノエル殿下が私的な感じで宝石を使うのとでは、その量に、どうやったって差が出て来てしまうよね……?
それとも、ノエル殿下の他の作品にも、宝石が使われていたりするんだろうか……?
見た所、パトリシア達の制作物は、この部屋の中にそれぞれ置かれているみたいだけど、ノエル殿下の作品は、他に置かれているような感じがしないんだよね。
パトリシア曰く、ノエル殿下は、本当に機械工学に凄く長けた人で、何に使うのかは、パトリシア達も今ひとつよく分かっていないみたいだけど、機械人形といった小さなものから、それとは別の大きな鉄製の機械まで作ったりしているらしいから……。
もしかしたら、そういうのは、この部屋に置ききれず、どこか別の所に保管されていたりするのかもしれないよね……?
『ノエル殿下は、そこに色々な意味が込められるって言っているけど、孔雀からイメージ出来る言葉としては、確か、富と繁栄、不死や復活とかがあるかな?
あとは、神秘的なイメージを持つ孔雀には、一羽でいるときの方がより輝いていることから孤独な美などといった意味合いもあったはず……っ』
そこまで、私が思いを馳せたところで……。
「そうなんですね……。
でも、謙遜しなくても、凄くセンスがあってお洒落な感じがするっていうか、もう今の段階で、充分、素敵だと思います……っ」
と、声をかけると『あぁ……、ありがとうな、アリス姫』と言う言葉が、ノエル殿下から返ってきたあとで、ノエル殿下自身も、機械人形を組み立てるのを再開し始めたこともあって、私も、オルゴールの演奏をさせる予定の男の子と、女の子に洋服を着せたり、色々と装飾を施していくことにした。
折角だから、木で出来た頭の部分に栗色のフェルトを貼り付けて、女の子は巻き髪にして、男の子の方は貴族っぽい感じで『フェルトで作ったシルクハットを被せたら、可愛くなるかも』と思いながら、色々と、布地を切ったり、貼ったり、縫い付けたりして、帽子から出てくるであろう髪の部分も含めて細部までしっかりと拘って作っていく。
そのあと、女の子の服と、男の子の服のデザインを考え、洋服作りのための型紙から切っていき、パトリシアが持っていた針と糸を借りて、布地を縫い合わせながら作っていたら、何故か、ビシバシと、周囲からの強い視線を感じて、私は、そちらへとパッと顔を上げることにした。
周りを見渡してみれば、『なんで、こんなにも突然、周りの人達から注目を集めてしまっているんだろう……?』と思ってしまうくらいに、私が機械人形のために作っている洋服を見て、ノエル殿下は、普通に作業をする手を止めて、ビックリした雰囲気だったし……。
それまで、ノエル殿下と私の様子を、かなり心配そうに見つめてくれていたルーカスさんやお兄様、アルだけではなくて、パトリシアや他の部員の人達の手も完全に止まって、私のことをジッと凝視してきていた上に、そんなにも遠くない位置で、みんなと同じく、ただただずっと心配そうに私のことを見守ってくれつつ、器用に、自分の作業もこなしていたセオドアが……。
「姫さん……っ、すまない……。
姫さん自身も、機械の部分で、色々と困っていることがあるなら、俺で役に立てることは全力で教えるつもりだし、頼ってくれたら嬉しいんだが。
実は、今、滅茶苦茶行き詰まってて……、姫さんが、モチーフにしている人間の衣装を作っているように、俺も、自分の作品で、モチーフにしている動物に、なるべく衣装を着せてやりたいと思っているから、作り方について詳しく教えてもらっても良いか?
つうか、姫さんは、本当に衣装作り、プロ並みってくらいに上手いし、店で売っているのかと思うレベルで、凄すぎると思う。
俺も、なるべく、周囲の部員から、針と糸を借りてやってみたんだけど、マジで、御覧の通りの有様なんだ。
針仕事なんかに関しては、どうしても不器用さが勝っちまうみたいで、姫さんみたいに上手く出来そうもなくて……、助けてもらえると、本当に有り難い」
と、自分の椅子を私の座っていた作業台まで持ってきてくれた上で、今の間に、何とか作ってみたという、ぼろぼろの布地の試作品第一号を見せてもらったことで、私は……。
『いつも、何でも器用にこなすセオドアからしたら、本当に凄く珍しいことかもしれない……』
と感じつつ、私の斜め前にいるノエル殿下の真正面に座って、衣装作りについて教えてほしいと、お願いするような瞳で見つめてくるセオドアに向けて『私で良ければ、いつでも、セオドアの力になりたいなって思うし、全然、遠慮しないでもらえたら嬉しいな……っ』と柔らかい言葉をかけていく。
その言葉を聞いて……。
「アリス、それなら、僕も頼んで良いかっっ!
僕自身、出来れば、妖精を作りたいと思っていたのだが、普通の状態で作るには、中々、衣装作りとやらが難しいと思っていたところでなっ!
僕にも、教えてもらえると、本当に凄く助かるのだが……っっ!」
「えっ? マジでっっ!?
セオドアも、アルフレッド君も、お姫様のところに集まるのっ?
それじゃぁ、俺も、木彫りの胴体のものにすれば良かったな……っ!
機械人形自体、全部、鉄製のものにした上に、動物モチーフにしたから、衣装を作って着させるのは難しすぎるし、本当に、失敗したなって思うんだけど、でも、みんなが、お姫様のところで作るなら、俺もそうしてもいいかなっ?」
「……オイっ、お前達……っ、全員、寄ってたかってアリスの所に行こうとするのを少しは遠慮しろっっ!」
と……、何故か、衣装作りに悩んでいるというセオドアだけではなくて、同様に、困っているというアルと、それから、衣装作りをする予定は一切ないのだというルーカスさんと、みんなに遠慮をした方がいいと窘めるように声を出したお兄様も含めて、続々と私の作業台のもとへと集まってきてしまった。
「あー、俺は、アリス姫とだけ一緒に作っていたかったんだが……っ。
結局、全員が、ここにやって来ることになるのか……っ?
それよりも、ウィリアム、そうは言っても、お前も、アリス姫のもとへとやってきてるだろう?」
「俺の場合は、お前達が、アリスに何かしないかの監視の意味合いも籠もっている」
「……つうか、これだけ、この場所に一気に野郎が集まってくると、狭すぎるだろ……っ?
何で、お前ら、全員、俺に便乗してくる形でやって来てんだよ……っ? 姫さん、大丈夫か……?」
そうして、ノエル殿下のちょっとだけ嫌そうなニュアンスが籠もった言葉に、ウィリアムお兄様が、しれっと妹を心配する体で答えてくれたあと、セオドアからかけてもらえた言葉に、作業台がそこそこ広いこともあり『うん、私は全然大丈夫だよ』と、何も問題ないということが伝わるように、こくりと頷き返していく。
私自身は、作業台に向かって、充分なスペースのもと、誰かが横にいる訳でもなく、一人で木製の椅子に座っているから、寧ろ、作業台の上の方が、みんなの制作物で、ごちゃっとなってきてしまったかもしれないなと感じつつ。
更に言うなら、私の斜め前の、作業台が置いてある通路側には、依然、ノエル殿下がいてくれた上に、その横に、ウィリアムお兄様が、さらっと椅子を持ってきて腰掛け、その反対側に、セオドアが座り、私の正面に向き合う形で、アルと、ルーカスさんが座っていて、ぎゅうぎゅう詰めになっているのは、ノエル殿下とウィリアムお兄様、そして、アルとルーカスさんの方だったんだけど……。
「あの、みんなは、大丈夫ですか……っ?
もしも良かったら、私がこの中で一番小さいですし、私の隣に誰かが椅子を持ってきて座ってくれた方が、ちょっとでも、空きスペースは作れるかなって思うんですけど……」
「いや、姫さん、それはダメだ。……戦争になる」
「うん、お姫様、それは、本当に良くないなって俺も思う。
誰が、そこに座るかで、絶対に争いが起きちゃうからな……っ」
と、私が、みんなを気遣って、みんなの方が大丈夫なのかと質問をすれば、セオドアと、ルーカスさんが、どこまでも真剣な表情をして、真面目に『争いが起きる』と脅すようにそう言ってくるものだから、私は、そのことに困惑しつつも、みんなが、そういうのなら、そうなのかもしれないと感じつつも、一気に賑やかになったことで『みんなと一緒に、製作出来るのは楽しいだろうし、一人じゃない分だけ嬉しいな』と感じて、思わず、頬を緩ませてしまった。
『みんなが、どんなものを作るのかも、興味があるしね……っ』
勿論、ルーカスさんとお兄様は、それぞれが完全に鉄製の機械人形を作ることが決まっているみたいで、特に、衣装作りは必要ないみたいで私の手を借りなくても大丈夫そうだけど、それでも、私自身、こういう細かい作業をするのは好きだから、他の部分でも何かしら、二人の役に立てることがあるかもしれない。
それに、セオドアや、アルも含めて、みんなが、私の作業台に来てくれて『教えてほしい』と聞いてきてくれたことで、ちょっとでも、自分の得意なことで、みんなのためになるようなことが出来るのなら嬉しいなと感じつつ、私は、主に、セオドアとアルを中心に、一緒に二人のモチーフにしている機械人形の衣装作りを手伝っていくことにした。