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537 ちょっとずつ感じる国への違和感と、飲みの誘い



 あれから、私自身、初めての学院生活で、更に、イベントを行うということ自体が初めてのことだから、まだまだ始まったばかりの劇の準備に関して、浮き足立つような気持ちで思いを馳せながらも……。


 そのあとの時間で、セオドアや、アルとも一緒に、ノエル殿下から教えて貰う講義に耳を傾けていた私は、休憩の時間を使って、なるべく自分から声がかけられるように、私が座っていた椅子の周辺に座っていた他の生徒達とも積極的に交流を深め、大分、パトリシアや、ステファン以外のクラスメイト達の名前も覚えることが出来て、彼等とも親しくなれてきたと思う。


「ソマリアは、水の都なので、海産物系の食べ物が美味しいということ自体、誰もが知っていて、そのことは広く他国にも知れ渡っていますが。

 とにかく、基本的に、王都も含めて港町ばかりなので、冒険者として、船に出て、漁に出るような荒くれ者の数が圧倒的に多いんです。

 なので、そういった人々に対応するために、自然と街の人達の言葉遣いなんかにも影響して、王都の街でも、下町のような親しみやすさがあるのが特徴だったりするんですよ……っ!」


 そうして、シュタインベルクの冒険者は、鉱山で、鉱石を採掘するのがメインになっているけれど、国が変われば、当然、ソマリアでの冒険者の扱いは違うみたいで、こっちの国では、船を出して魚を捕るのを生業にしている人が多いということで、王都の街は、港の近くだと朝早くから空いているお店も多く……。


 そのまま、漁から戻ってきた冒険者が小規模のお店を開き、魚や、海老、貝類などといった、朝、穫れたばかりの新鮮な海産物を売ったりもしていて、太陽が昇って朝日が出るくらいの時間から活気づいているんだとか。


 勿論、それに合わせて、そういった新鮮な魚介類を食べられるお店も、朝早くから開店していたりするみたいで、そういうお店は、朝が早い分、お昼くらいまでの早い時間に閉まることもあるみたい。


 シュタインベルクの王都でも果物などを売ったりしている市場(いちば)などはあるけれど、比較的、遅めの時間帯からお店がオープンし始めて、ゆったりとした雰囲気が漂っていることを思えば、本当に真逆な雰囲気かもしれないなと思う。


 休憩の時間は、勿論、講義で習ったところの勉強に費やすのも良いとは思うんだけど、こういう風に、講義室の椅子に座ったまま、色々な人と、お喋りをすることが出来る時間を持てると純粋に楽しいなと感じるし。


 シュタインベルクでは、オリヴィアやナディアといった令嬢達だけでなく、ソフィアやベラさんなどといった魔女同士の遣り取りとかだと気兼ねなく、近しい距離で接することが出来ているものの。


 私の皇女という立場が邪魔をして、そういった友人達以外の人達が私に近づく時には、どうしても形式張った感じになってしまいがちということもあり、堅苦しくなってしまうことの方が多いんだけど。


 こっちだと、初めて会ったばかりで、まだまだ距離はあるし、一国の皇女として私に対しての礼節は持ってくれているといえども、割と、最初の段階から、気さくな雰囲気で会話が出来るような気がしてくるのは、私が皇女としてではなく、普通に接してほしいと頼んだことと、同じ学院で学ぶ生徒同士だからなのと思う。


 昨日から、ちょっとだけ張り詰めたような雰囲気で、否応なしに周囲の人達のことを疑ったりしなければいけない状況が続いていたから、こういった雑談めいた話が出来ることで、ようやくちょっとだけ、ホッと一息吐くことが出来ているかも……っ。


「ソマリアの冒険者達は、ライセンスを取って漁に出ているんですよねっ?

 海に出るのは、どうしても危険が伴うものでもあると思いますが、やっぱり、ソマリアでは、そういう職業に就こうとする人は多いんでしょうか?」


「うむ、そうだな。

 それは、僕も気になっていたというか。

 シュタインベルクだと、採掘のための道具であるピッケルなどを持ったり、野生生物への対処で、洞窟に入るのに、それなりの重装備に整えなければいけないが、ソマリアでは、漁のための道具のみならず、船とかを揃えるために、莫大な初期費用がかかったりはしないのか?」


「そうですね……。

 ソマリアで、こういう職業に就こうとする冒険者の数は、やっぱり多いですよ。

 なんていったって、漁業は、ソマリアでも一大産業の一つですから。

 ですが、船で海に出て海産物を()る仕事をやろうと思うのは、そんなにも大変じゃないと思いますよ。

 勿論、簡易的な感じで自分用の小型船を有している人も中にはいますが、船は、ギルドでも貸し出すことが出来るようになっていますので、国が発行している船の免許を取るのに大変なくらいで、冒険者のライセンスさえ持っていれば、比較的、容易に、誰でも始められることが出来るんです。

 ただ、天候や、その日の海の状態なんかにも激しく左右されますし、そういうのを見極める目を持っていないと、肝心の魚が(つか)まえられないので、漁の腕に関しては、経験の長い者が有利でしょうけどね……」


 それから、私とアルの質問に、返事をしてくれる形で、ソマリアのことを色々と教えてもらえて、港町が殆どなくて、鉱山として鉱脈(こうみゃく)のある山々の方が多いシュタインベルクとの違いに勉強になるなと感じつつも。


「シュタインベルクは、鉱山大国として、もの凄く有名な国ですもんねっ?」


 と、今度は逆に彼等から自国のことを聞かれた私は、改めて、宝石大国と呼ばれているシュタインベルクのことを、ソマリアの人達にも知ってもらうために口を開いていく。


「そうですね。

 シュタインベルクには幾つもの鉱山などがあって、地域や場所によって、その鉱山の中でも多く採れるものとそうでないものなどがありますが、世界中から人気で、一般的に宝石としての価値が高いものとしては、ダイヤモンドや、オパール、サファイアなどの鉱石が有名です。

 それから、市場(しじょう)に出回ることは殆どないくらい、希少価値の高い宝石として、パライバトルマリンという、透き通ったように色鮮やかで美しい水色の宝石や、若葉を思わせるような淡いブルーグリーンのフォスフォフィライトなども、中々手に入らない分だけ、オークションなどでは高値で取引きされることが多くて、手に入れるのを待ち望んでいる人が沢山いるほど人気だったりもするんです……っ」


「まぁ……っ、そうなんですのねっっ、オパールや、ダイヤモンドなどは、私達も知っていましたが、パライバトルマリンやフォスフォフィライトという宝石は、初めて聞きました。

 実際に、我が国の貴族達の間でも、ジュエリーにするなら、シュタインベルクの宝石を使ったものが、他国で採れるものとは一線を画すほどに輝きが違って、質量(カラット)や、(カラー)透明度(クラリティー)などといった品質も含めて、一番価値があると言われていて高い人気を誇っていますし、国内にいると手に入りやすいでしょうから本当に羨ましいですわ~!

 鉱石をカットして加工する職人の数も多いのでしょうし、それだけ、国内に、プロの職人が沢山いることで、宝石の価値は更に跳ね上がって、ジュエリーにした際には、一際、輝いて見えますものねっ!」


 そうして、シュタインベルク自体、自然豊かな国でもあり、水や緑などの資源も豊富にあるけれど、やっぱり、周辺の国の人達から見ても、シュタインベルクといえば、宝石や鉱石などといったものが、一番有名だということもあって、特に、宝石やファッションに目がない貴族の令嬢達ほど、この話に興味があったみたいで、シュタインベルクの宝石について『輝きが違うし、手に入りやすくて羨ましい』と、一人の令嬢が褒め出してくれると。


「私も、シュタインベルクから、わざわざ宝石を取り寄せてアクセサリーに加工したんですの」だとか。


「あら、私もですわよっ! まさに、国宝と言ってもいいくらいに本当に美しいですものね」


 といった感じで、学院には、あまり華美なアクセサリーを付けてきたりすることは良しとはされていないものの、みんな、ジュエリーケースに大事に保管するように、幾つかのアクセサリーなどは、日頃から持ち運んだりもしているみたいで、即席で、机の上に広げて、ジュエリーの見せ合いっこが開催されることになった。


 透明なダイヤモンドや、青緑(あおみどり)色のターコイズなどを始めとして、机の上に広がる色とりどりの輝きを放つジュエリー達を見て『やっぱり、爵位が高い貴族の令嬢ほど、こういったものは、必ず、一つは持っているものだよね』と感じつつも、私自身、そういえば……、と思いだした内容について……。


「あの、私自身、シュタインベルクで採掘を生業(なりわい)にしている冒険者から聞いたんですけど、確か、ソマリアは、国全体で、シュタインベルクで採れる鉱石の買取価額が高いことでも有名なんですよね? 

 私自身も、ノエル殿下から以前、資源に使われる鉄や、(どう)などといったもの、それから、黒色の鉱石であるヘマタイトなどは、自分が趣味で機械を発明したりするのに必要だから欲しているという話は聞いていたんですけど、他の鉱石などについては、積極的に国で買い取っていることで、ソマリアの国内でも、特に、広く流通しているんでしょうね……っ」


 と、パッと見て、令嬢達の間でも、シュタインベルクの宝石を持っている人の割合が比較的多かったことから、そう問いかければ。


「……え? そうなんですか……?

 アリス様、それって本当に、ソマリア内でのお話なんでしょうか……?

 勿論、シュタインベルクの宝石については、確かに、一時期から、高値で引き取ってもらえるようにはなりましたが、それは、シュタインベルクの宝石自体の価値が更に上がったことで、どこの国でも一緒なのかなって思っていましたし。

 シュタインベルクの宝石を、ソマリアで買うことが出来ないかと言われたら、そうではありませんけど、もしも、国が販売目的で、シュタインベルクの宝石を大量に輸入していたのだとしたら、絶対に、沢山出回っていますよね?

 ですが、現状、我が国で、そんなにも大量に、シュタインベルクの宝石が市場(しじょう)に出回っているだなんて、本当に、まずないことだと思います。

 寧ろ、シュタインベルクの宝石は価値が高い分だけ、珍しいとされていることの方が多いので、うちの国で販売されているものを探すより、わざわざ、個人的にシュタインベルクの商品を扱っている行商人を呼びつけて、購入する人もいるくらいですし……っ。

 ですので、国がシュタインベルクの鉱石を積極的に買い取っているという話に関しては、初めて聞いたかもしれません……!」


 と、パトリシアから困惑したようにそう言われてしまったことで、てっきり、ソマリアの人達からすると、この話は、みんなの共通認識として常識なのかなと思っていただけに、私も、その言葉に思わず戸惑ってしまった。


 ヒューゴを筆頭に、シュタインベルクで鉱石を採掘している冒険者達の間では、広く知られているようなことだったから、ソマリアに住んでいる人達こそ、そういったことに関しても精通していると思っていたんだけど、意外にもパトリシア達は、シュタインベルクの鉱石や加工された宝石などを『ソマリアのように、高値で買い取ってもらえる』のは、どこの国でも同じことだと思っていたみたい。


 彼女達の言葉から、ソマリアでも、シュタインベルクの宝石が人気であることには間違いがないんだろうけど、一つ一つが高額なものであることから、頻繁に買えるような代物ではないというのも、勿論、影響して、ソマリアにいる一人の貴族が、シュタインベルクの宝石を、幾つも所有しているとは、どう考えても思えない口ぶりであり……。


 だとしたら、どうやっても、国が保有する宝石の数と、貴族が欲している宝石の数とで、需要と供給が釣り合っていないように思えるけど……。


 ――こんなふうに、純粋に驚いた様子のパトリシアを見れば、恐らくだけど、国民や、貴族の人達は、ソマリアが他国よりも、更に、高いお金を出して、シュタインベルクの鉱石を積極的に買い取っているということは知らなかったんだよね。


 そのあと、宝石の話が一段落ついたところで……。


「そういえば、話は変わってしまうんだけど、ソマリアが漁業が盛んな国で、国内の冒険者の人達が、船に乗って仕事をしているというのは、勿論、私も理解しているものの。

 自国民から雇い入れるようなことはせず、それとは別に、わざわざ移民を受け入れて、継続的に、仕事の出来高制で彼等に細々(こまごま)とした仕事を任せたり、傭兵のような仕事をさせたりしているのは、慢性的な人手不足だったりもするのかな……?

 勿論、自国民を雇い入れるお金の方が、多少、高く付いてしまうというのもあると思うんだけど……」


 と、これまでの間に、ちょっとだけ気になっていたこととして、冒険者の人達とは別に、移民の受け入れを積極的に行っているソマリアの内情について、人手不足も影響しているんだろうかと感じて、問いかけてみると、パトリシアも、それについては『国の仕事に関して、慢性的な人手不足というのは聞いたことがありませんが、国の方針で、いつ頃からか、自国民ではなく移民に仕事を任せ始めたのは、確かに、私達もちょっとだけ不思議なんですよね』と、言ってくれつつも。


「あまり深く、そういったところについて考えたこともなかったのですが、雇い入れる段階で身元の保証がきちんとされているかどうかでも冒険者達と移民達とで、完全に区別はされていると思います……。

 冒険者達の中にも荒くれ者は沢山いますが、移民達は、身元の保証も出来ておらず、より貧困層の人達が多いですから……。

 仕事に関してでいえば、たとえば、傭兵として雇われているような移民の人達は、国境沿いの警護などの任務に当たったりしていることがあるというのは聞いたことがありますね」


 と、教えてくれると。


「あれ?

 僕は、細々とした雑用として、日雇いの仕事で、他国から輸入してきたという土嚢(どのう)などを王城に運びいれる仕事をしているって聞きましたけどね」


 と、ステファンが、横からそう言ってきたことで、私はきょとんとしてしまった。


 今の世の中は、比較的平和な世の中ではあるものの……。


 傭兵として、国境沿いの警護に当たっているのに関しては、近隣の国々との絡みなどもあって、念のためにそうしているというので分からなくもはないけれど。


 ――他国から輸入してきた土嚢というのは、一体、何に使うんだろう……?


 本来なら、洪水なんかの時に、堤防などに積んで用いることの多い土嚢だけど、それなら普通に水辺の近くに運び入れたりしていた方が、何かしらの災害があった時にも直ぐに対処出来るし、問題ないと思うのに、どうして、わざわざ、王城へと運び入れる必要があるのか、ちょっとだけ、不自然なような気もしてしまうよね?


 それが、本当に、災害時に備えた時の土嚢であるならば、絶対に海の近くまで運んでおいた方が良いと思うんだけど……。


 ただ、パトリシアもステファンも、国が雇い入れている移民に関しては、衣食住の保障と共に、比較的安価な報酬で、国にとって必要な仕事や、肉体労働などの仕事をしてもらえるということで、双方にとって利のある契約だというくらいの大雑把な認識でしかないらしく。


 それ以上の詳しい仕事内容については、国と、移民同士の遣り取りでしかないことから、そこには、それほど介入することが出来ないようになっているみたいで、あまりよく分からないというのが現状みたい。


 けれど、パトリシアとステファンの説明に『そういえば、王城に土嚢を運び入れるっていう仕事に関しては、俺の時からそうだったな。……俺がその仕事を請け負っていた頃、袋の中に入っているのは、土だって言われただけで、それが土嚢用のものだっていうのは説明されたことはなかったけど』と、ぽつりと、そう言ってくれたのは、私の隣の席に座ってくれていたセオドアで……。


 セオドア曰く、自分がソマリアにいた6年以上前に『中身は土だ』と説明されて、外側からは、決して中が見えない薄茶色の麻袋を王城に運び入れる仕事をしたことがあったんだとか。


 ということは、ソマリアは、6年以上前からずっと、移民の手を借りて、王城に『土の入った袋』を運び入れ続けていることになるよね……?


『更にいうなら、仕事を請け負う移民には、それが土嚢だっていうことすら、説明していない……?』


 どう考えても可笑しな状況に、思わず黙ってしまった私を見て、パトリシアとステファンも、セオドアがソマリアで、元々、働いていたことがあるという情報には、凄く驚いたような様子だったけど。


 もしも、それが事実なら『確かに、それは変な話ですね……っ』と、思いっきり首を傾げてしまっていた。


 特に、ステファンは『土嚢を王城に運ぶのは災害に備えているそうだ』と、最近、自分の父親である伯爵から聞いたということもあって、移民達に向けて、この1年くらいの間に、新たに始まった仕事内容だと思っていたんだとか。 


 私達がそこまで、話し合ったところで……。


「あぁ、セオドア……っ、やっと見つけたっ!

 ここに、いたんだねっ!

 先に、騎士科の方へ行ったりして、アンタのことを探してたんだっ!」


 と、がちゃりと、講義室の扉を開けたあと、この部屋の中に一通り視線を巡らせ、セオドアの姿を見つけると嬉しそうに、ヒールの音を立てながら、ツカツカと此方へと駆け寄ってきたその人に、私は驚きつつも『スヴァナさん……!』と、その姿を視界に入れて、セオドアとアルと、一体、どうしたんだろうという視線を交わし合っていく。


 そんな、私達の様子に、ちらりと一度、私の方を見つめたスヴァナさんは、ちょっとだけ、キュッと唇を噛みしめた上で複雑そうな表情を一瞬だけ醸し出したあと、直ぐに、サッと私のことを避けるようにして視線を逸らすように、ふいっと、セオドアの方を向いてしまった。


 あからさまにそうされたという訳ではなかったけれど、どこまでも(かげ)りのあるその表情に『……あれ? もしかして、私、気付かないうちに何かしてしまったのかな?』と感じながらも、思い当たる節が全くなくて、どうして、そんなふうな視線で見られて、避けられてしまったんだろうと首を傾げていると。


 直ぐに、それを見て、セオドアが『……オイ、スヴァナ……っ』と、私に向けられた、スヴァナさんの表情に関して、ちょっとだけ咎めるような口調で、怒ってくれるように、その名前を呼んでくれたことで……。


「……っっ、あー、いやっ、シュタインベルクの、お姫様……、皇女様に、ご挨拶を……っ。

 なんていうか、セオドアも、お姫様も、今のアタシの視線には、決して悪気があった訳じゃないから、勘違いしないでほしいんだよね……っ。

 セオドアのことは、本当に、心の底から信頼しているんだよっっ!

 だけど、昔っから、アタシ自身、ライナスや、アンタ、それから、同族であるみんな以外には、未だに、人への不信感が拭えないままで、そういうのが色濃く出ちゃっている人間だからさぁ……っ。 

 だから、お姫様に対しても、度々、警戒するような視線を、自然と向けちゃうことがあるとは思うんだけど、これが、アタシの通常運転だから、気にしないでほしいっていうか……っっ、

 ほらっっ、アタシ達が、そういうふうにしか生きてこられなかったっていうのは、セオドアも、分かってはくれているだろうっっ?

 瞬間的に、どうしても複雑な顔をしちゃうのは、昔のアンタも同じだったろうし。

 だ、だからさっ、そんなにも、顰めっ面しないでくんない……っ?」


 と、ほんの僅かばかり、今の自分の言動に対して失敗したと言わんばかりに、その表情を思いっきり曇らせてから、セオドアに対して本当に申し訳なさそうな表情で、スヴァナさんが『決して、誤解しないでほしい』と言わんばかりに、幾つもの言葉を言い募ってきたあとで、直ぐに、私にも、複雑そうな表情を浮かべながらも、ちょっとだけ謝るような視線を向けてくる。


 その言葉と、態度からも感じられるけれど、セオドアに対しては心を許していても、私に対しては、昨日初めて出会った人だからと、直ぐに直ぐ、打ち解けられる訳でもなく。


 昨日も、そういった感じで、ライナスさんと一緒に、ちょっとだけ用心するように距離を取られてしまっていたことから考えても『私のことを警戒してしまう』と、スヴァナさんが、今、伝えてきた言葉については、きっと、本心からの言葉なのだろうし。


 その瞳をみれば『これまで、忌み嫌われてきたからこそ、人をあまり信用出来ない』というような視線が、沢山乗っていることもあって、スヴァナさんがノクスの民である以上、今まで、凄く大変な思いをしてきて、本当に心の底から信頼出来る人が限られるんだろうなというのも理解することが出来た。


「だとしても、今、この瞬間、お前には特に何もしていないのに、あからさまに、そういう表情をするのはやめてくれ。 

 普通に、人としても失礼だろ……っ?」


「……っっ、あぁ、勿論、それは分かってるさ。

 だけど、そういうのが、一朝一夕でなくなる訳じゃないから……っ。

 これから、なるべく、善処はするようにするけど、難しいものは難しいだろうし、そういう表情が出てても、そういうものだって思ってくれた方が良い。

 まぁ、もっとも、お姫様が、それについて、どうしても許せないって憤慨するようなら、アタシと関わり合いは持たない方が良いとは思うけど……」


 そのあと、セオドアがスヴァナさんに対して、私のことで、窘めるようにそう言ってくれてから……、スヴァナさんが、セオドアの言葉に『それは充分に理解しているけど』といった感じで、更に言葉を重ねたのが見えると。


「姫さんは、そんなことは、絶対にしねぇよ」


「……っっっ、!!」


 と、セオドアが断言するような物言いで、スヴァナさんの言葉に『私はそんなことで怒ったりはしない』と、真っ直ぐに伝えてくれたのが聞こえてきて、私自身、セオドアのかけてくれた言葉に、本当に凄く嬉しいなと感じて、胸が温かくなりつつも……。


 それでも、自分が赤を持って生まれてきたことで、否応なしに周囲の人達から蔑まれてきた経験から、人を直ぐに信じることが出来ないというその気持ちについては理解出来るからこそ、スヴァナさんの言っていることは本当なのだと思うし、それを強制することは出来ないなと感じて……。


「セオドア、ありがとう。

 あの……、スヴァナさんっ、私自身は本当に何も気にしていないので、お気になさらないで下さい……っ。

 スヴァナさんが、私に対して警戒心を持ってしまうのも、まだまだ、知り合ったばかりのことで仕方がないことだと思いますし、その、もしも良ければ、これから、ゆっくりでも、スヴァナさんと仲良くなっていけたら、凄く嬉しいです……っ」


 と、口元を緩めながら、ふわりと柔らかく微笑みかけて、私自身、スヴァナさんに対して、安心してほしいという視線を向ければ……。


「……ほらなっっ? お前が警戒する必要なんてないくらい、姫さんは、こんなにも()んだ人なんだ。

 お前が、どんな態度で接しても、怒ったりなんて一切しない人だからこそ、俺は姫さんのことが大事だし、姫さんが気にしなくても、俺が気にするんだよ。

 大切な人が、警戒心のようなものを向けられてんのを見過ごすことは出来ない。

 それが、俺の古くからの関わりがある奴からだっていうんなら、尚のこと。

 だから、お前も、人に対して不信感とかを募らせたりすることもあるのかもしれねぇが、姫さんに対しては普通に接してくれ」


 と、セオドアがスヴァナさんに、私のことを思って声をかけてくれたことで、スヴァナさんの瞳が大きく見開いて『これから徐々に仲良くなっていけたら嬉しいな』と、私は感じているけれど、まだ、私に対しての警戒心のようなものは、勿論、取れてはいないと思うから、ちょっとだけキュッと唇を結んだ様子で、それでも、『……あぁ、分かった。アンタが言うなら……、なるべく、ね』と、言葉を返してくれて。


 そのあと、ほんの少し切り替えてくれたのか……。


「それよりも、ライナスとセオドアと、また三人で一緒に呑みに行こうって行ってた日があっただろ?

 昨日、あれから、ライナスとも相談して決めてさっ、日程が決まったから、伝えに来たんだっ!

 来週の、週初めに、学院が終わってからとかはどうだい?

 ライナスも、その日は、普通に仕事を終えてから呑みにいけるっていってたし、セオドアが大丈夫なようなら、アタシ、滅茶苦茶、嬉しいんだけど……っっ!」


 と、セオドアにそう言ってきたことで、私達は顔を見合わせつつ。


 スヴァナさんが、この時間を使って、昨日言っていた飲みに行くという話を、早速、セオドアに持ちかけてきたのが分かって、『三人で、昔のこととか色々と話すことは凄く良いことだよね』と、思いながらも、ちょっとだけ、そのことにキュッと、また、よく分からない感じで、ツキンと刺すように胸が痛むような気がしたものの……。


 私は、セオドア自身、いつも、私に遠慮して、私の傍から離れようとしないで護ってくれているのだから、たまには羽目を外して、気兼ねなく友人同士で過ごしてほしいなと感じながら、セオドアの顔を見上げて『折角のお誘いだし、私のことは気にしなくて良いから、いつでも遠慮なく行ってきてね……!』という視線を向けることにした。


 

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♡正魔女コミカライズのお知らせ♡

皆様、聞いて下さい……!
正魔女のコミカライズは、秋ごろの連載開始予定でしたが、なんとっ、シーモア様で、8月1日から、一か月も早く、先行配信させて頂けることになりました!
しかも、とっても豪華に、一気にどどんと3話分も配信となります……っ!

正魔女コミカライズ版!(シーモア様の公式HP)

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1話目から唯島先生が、心理的な描写が多い正魔女の世界観を崩すことなく、とにかく素敵に書いて下さっているのですが。

原作小説を読んで下さっている方は、是非とも、2話めの特に最後の描写を見て頂けたらとっても嬉しいです!

こちらの描写、一コマに、アリスの儚さや危うさ、可愛らしさのようなものなどをしっかりと表現してもらっていて。

アリスらしさがいっぱい詰まっていて、私は事前にコミカライズを拝見させてもらって、あまりの嬉しさに、本当に感激してしまいました!

また、コミカライズ版で初めて、お医者さんである『ロイ』もキャラクターデザインしてもらっていたり……っ!

アリスや、ローラ、ロイなどといった登場人物に動きがつくことで。

小説として文字だけだった世界観に彩りを加えてくださっていて、とっても嬉しいです。

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本当に沢山の方の手を借りてこだわりいっぱいに作って頂いており。

1話~3話の間にも魅力が詰まっていて、見せ場も盛り沢山ですので、是非この機会に楽しんで読んで頂ければ幸いです。

宜しければ、新規の方も是非、シーモア様の方へ足を運んでもらえるとっっ!

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※また、表紙や挿絵イラストで余す所なく。

ザネリ先生の美麗なイラストが沢山拝見出来る書籍版の方も何卒宜しくお願い致します……!

1巻も2巻も本当に素敵なので、こちらも併せて楽しんで頂けると嬉しいです!

書籍1巻
書籍2巻

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✽正魔女人物相関図

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+注意+

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