532 パーティーで開催される催し物決め
翌日、外部講師としての立場があるため、学院の講師達が集まっている場所として。
「俺たちは、ミーティングのために、一度、執務室に立ち寄る必要があるから、お前達とは、ここで別れることになるな」
「あぁ、そうだな。
……俺が言うまでもないと思うけど、セオドアも、アルフレッド君も、お姫様のこと頼んだ」
と声をかけてくれたお兄様達とルーカスさんに、セオドアが『あぁ、勿論だ』と頷いてくれてから、二人と別れ、私は、今日は、なるべく、ノエル殿下と近づけるように頑張ろうと内心で決めて、セオドアとアルと一緒に、学院の講義室にある魔法研究科へと足を進めていた。
ちなみに、今日の朝ご飯も、ダヴェンポート卿や、ヨハネスさん、バエルさん、レイアード殿下、ノエル殿下と、ソマリアで私達に関わってくれているメンバーが、食堂に一堂に会すことになっていたんだけど。
私達は、学院に行かなければいけないし、ダヴェンポート卿やヨハネスさんは、仕事の準備などに慌ただしい様子で、朝ご飯自体が、晩ご飯に比べると、品数も少ないメニューとなっていることから、必然的に、夕食時よりも食事をする時間も短めになってしまっていて、そんなにもは、きちんと話せなかったんだよね……。
因みに、今日からは、学院の案内をしてもらう必要はないものの、王城から馬車が出ることに変わりがないということもあって、時間さえ合えば、ノエル殿下や、レイアード殿下、バエルさんとも一緒に来ることが出来れば良かったんだけど。
講師としてやっておかなければいけないことがあるということで、ノエル殿下が、一足早く、学院に向かってしまったというのもあって、必然、その傍に付いているバエルさんは勿論のこと。
昨日は、ノエル殿下と一緒の馬車に乗っていたけれど、今日は違う馬車だったにも拘わらず、レイアード殿下も、そそくさと私達の存在そのものを避けるかのように、先に、王城を出てしまった。
そうして、魔法研究科は、この学院の中でも、一番新しく、新設された科だということもあって、最上階にあるから、学院内の階段を上がっていく必要があるんだけど。
私達が、上の階に向けて階段を上がっていると、丁度、昨日、仲良くなったばかりの、ソマリアの令嬢である、パトリシアと、ソマリアの伯爵家の次男である、素朴な雰囲気のステファンが、後ろからやって来ていたみたいで、階段の途中で、私達の姿を見つけてくれて。
「アリス様、おはようございます……っ!」
と、階段を上がり、こちらへと駆け寄ってきてくれたあと、代表して、パトリシアが声をかけてくれた。
その言葉に振り向いたあと、私自身が、昨日……。
『皆様も、どうか私に対しては、一国の皇女としてではなく、同じ生徒同士として、遠慮なく接して頂けると嬉しいです』
と言ったこともあって、敢えてだと思うんだけど、一国の貴族としての礼儀を欠くことなく、こちらに向かって頭を下げてくれつつも、パトリシアが親しげな雰囲気で明るく挨拶をしてくれたことを嬉しく思いながら。
見知った顔で、親しく接することが出来る人がいるのは有り難くて、そのことに、ホッと安堵しながら胸を撫で下ろしつつ……、二人に向かって、私も『二人とも、おはよう』と柔らかく微笑んで、簡単に、朝の挨拶をしていく。
その際、セオドアやアルにも視線を向けてくれて『お二人も、おはようございます』と、パトリシアと、ステファンが、同様に頭を下げてくれたことで、セオドアやアルも『あぁ、昨日ぶりだな』だとか『うむ、おはよう』と言った感じで、二人に向かって挨拶を返してくれた。
そうして、そのあと……。
「皇女様、折角、ここでお会いすることが出来ましたし、宜しければ、僕達と共に講義室まで一緒にいきませんか?」
と、ステファンから、一緒に講義室に行こうと誘われたことで、私はセオドアとアルに一度視線を向けて、こくりと頷きあったあと、昨日親しくなってから『二人と、もっと交流を深めていきたい』と思っていたこともあって、その誘いに快く乗ることにして、魔法研究科の講義室まで、一緒に歩き始めることにした。
「学院生活も、まだ二日目ですけど、アリス様も、皆様も、少しずつ、この生活に慣れてきましたか?」
「うん、段々と慣れてきてると思うよ。
魔法研究科での講義の内容も、勉強になることが多くて、今日の授業も、凄く楽しみだなって思ってて、今度、学院で執り行われるパーティーについても、ソマリアで、まだ、アクアパッツァは食べたことがないから、どんな味がするんだろうって、今から凄く気になってるのっ」
そうして、授業開始までには、まだ時間があることもあって、みんなでゆっくりと階段を歩きながらも、パトリシアに、そう問いかけられたことで、私は、今度、学院で行われるというパーティーに思いを馳せながら、返事をしていく。
「アクアパッツァは、ソマリアの伝統的な料理ですし。
魚を丸ごと、野菜や貝などと一緒に、強火で煮るので、魚介の旨味が出汁に凝縮されていて、魚料理が好きなら、とにかくお勧めですよ。
是非、皇女様にも、皆さんにも、美味しく召し上がって頂きたいです……!
ただ、僕は、料理を自分達の手で作るということの方が心配です……っ。
僕自身、料理だなんて、今まで一度も作ったことがありませんから……」
「それは、ほんとうに、そうなんですよねっっ。
私も含めて、大体の貴族は、料理経験なんてないので、ちゃんと作れるかなって……。
折角、ソマリアの伝統料理を食べてもらえる機会だから、アリス様にも、皆さんにも、美味しい料理を召し上がってほしいのに、私の腕だと、あまり出来る気がしないというか……。
私自身は、完全に、当日に、料理を教えてくれる、スヴァナ先生頼りです……っ」
そのあとで、ステファンが、アクアパッツァについて軽く説明をしてくれると、パトリシアが、当日の料理について『料理をしたことがないから、当日、教えてくれるスヴァナ先生に、全面的に頼ることになるだろう……』と、ほんの少し自信なさげに、こちらに向かって声をかけてくれた。
……パトリシアからの、その言葉を聞いて、私は、ノエル殿下が説明してくれた内容について、何で、私達の学科に、淑女科のダンス講師であるスヴァナさんがやって来ることになったのか、その経緯については、よく分からなかったものの。
自炊の出来る講師の人が助っ人として来てくれるだけでも、心強いことにはなるだろうなと感じつつ。
どうしてか、私自身、昨日から、スヴァナさんのことを考えると、何故だか、ちょっとだけ、ちくちくと胸が痛むような気がして……。
この思いの正体が、一体、何なのか分からなくて、普段は、あまり思わないような、もやもやとした複雑な気持ちになりながらも、『やっぱり、どう考えても変だよね? セオドアの昔馴染みの人だから、私自身も、スヴァナさんと、出来れば積極的に交流を持てたら嬉しいなって思ってるはずなのに』と、私は、突然、降って湧いたように出てくるこの思いに、ほんの少し混乱してしまった。
そのあと、よく分からない気持ちを抱えたまま、そっと、セオドアの方を見つめてみたけれど……。
――セオドア自身は、スヴァナさんの話が出ても、特に表情が変わったりするようなことはないものの、ライナスさんとスヴァナさんとは、昔から付き合いがあることもあって、多分だけど、一緒に、ご飯を食べに行ったりするのも、きっと嬉しいことだよね……?
だからこそ、私がスヴァナさんに対して、そんな感情を抱いているって知ったら、凄く嫌な気持ちになると思うし。
『一体、どうして、こんな気持ちになってしまうんだろう?』という思いと共に、出来ることなら、こんな感情は出てきてほしくないなと、ちょっとだけ、もやもやした気持ちを抱えながら、ぼんやりと、セオドアの方を見上げていたら……。
『うん……? 姫さん、どうした?』と、私の視線に気付いて、心配そうに、セオドアに問いかけられたことで、私は慌てて『ううん、何でもないよっ』と首を横に振った。
そうして、スヴァナさんのことについて考えていたのをやめて、私は、パトリシアとステファンの二人が言う調理実習の方へと思考を切り替えていく。
二人とも、この感じだと、初めての料理に凄く不安に思っているみたいだけど、私自身も、普段、料理に関しては、ローラに任せっきりで頼ってしまっていることから、料理初心者だという二人が不安に感じてしまっているのも、凄く、理解することが出来るなぁと思ってしまう。
昨日、何を作るか決める際に、アクアパッツァ自体、候補に挙がった段階で『比較的、簡単な料理だと、厨房のシェフから聞いたことがある』とクラスメイトの一人が言ってくれていたこともあって、その話を聞く限り、多分、大丈夫だとは思うんだけど、それでも、私もそうだけど、料理初心者からしたら、『美味しく作れるのかどうか』は、どうしても心配になっちゃうものだよね。
――特に、自分達だけが口にするものじゃなくて、周りの人達にも食べてもらうものだから、余計に、気を遣うようになるというのだけは、確かだった。
因みに、お兄様が担当している経済学部や、ルーカスさんが、今、現在、担当している哲学部では、まだ、当日に作る料理を何にするのかは決まってなくて、今日決めると言っていたから、私はその内容を知らないけれど、他の学科の人達が作る伝統料理が食べられるのも、凄く楽しみで、今から、パーティー当日が待ち遠しい。
それから、昨日は、調理実習で何の料理を作るのか決めるだけの話し合いで済んでいたけれど。
「昨日、サークル活動をしに行って、他の学科の子達とも、その話で盛り上がったんですけど。
何でも、他のクラスの人達が言うには、ただ、ダンスをしたりするだけではなく、パーティーの中で、他にも何かしらのイベントが用意されているというのを、学科の講師から、ほんの少し匂わされたクラスもあるみたいで。
そのイベントに関しては、パーティーが始まるまでに、学科の授業と並行して、準備期間があるんだとか。
まだ、その詳細については、どういったものかは分かっていないらしいんですけど、そういう意味でも、何が行われるのか楽しみで仕方がないなって思いまして……!」
と、今、この瞬間に、パトリシアが軽く説明してくれた限りでは、当日のパーティーでは、料理を持ち寄ってダンスを行ったりするというだけじゃなくて、軽いイベントとして、他にも何かしらの催し物が用意されていたりもするみたい。
「わぁぁ、そうなんだね。
それなら、クラスの人達とも、もっと交流を深められるだろうし、私も凄く楽しみだな……っ」
「うむ、そうなのか。
っていうことは、もしかしたら、今日、そういった話し合いになったりもするのかもしれないな」
「あぁ、それにしても、今回の学院内でのイベントについては、本当に、色々なことが考えられて、計画されたものなんだな。
俺たちへの歓迎会の意味を込めつつ、差別や偏見をなくして、様々な人種がいる国として多様性を認めるために開催されるパーティーだって聞いた時には、一体、どういうものなのかと思ったが。
それなら、このイベントが開催される意図も、しっかりと伝わってくる」
そうして、私とアルの言葉に続くように、セオドアがそう言ってくれたことで、私も、その言葉に同意するように、こくりと頷き返した。
昨日、ヨハネスさんが、学院で開かれるこのパーティーについては、国の上にいる人達で取り決めたことだと言っていたけれど。
一見すると、留学したばかりで、まだまだ、クラスの人達と距離がある私達のことを思って、パーティーへの準備期間を設けることで、クラスメイト達と交流をして仲を深めることが出来るようにしつつ、色々と盛り上げるために、様々な企画を用意してくれていて、シュタインベルクから留学しに来た私達に配慮した上で、しっかりと考えてくれている内容だとしか思えないんだけど。
レイアード殿下との一件があるから、もしかしたら、そこで、なにか起こってしまうんじゃないかなと、気がかりに思ってしまう気持ちも凄くある。
私が、そんなことを考えている間にも、学院の最上階にある魔法科の講義室へは、直ぐに到着した。
扉を開けて中に入れば、それまで、がやがやとしていた講義室の中で、既に、机の前の椅子に座って、場所取りをしていたクラスメイト達が、私達の姿を見て、慌てた様子で立ち上がり。
「皇女様、アルフレッド様、セオドアさん、おはようございます」
と、紳士淑女の礼を執りながら、しっかりとした挨拶をしてくれたんだけど。
出来れば、パトリシアのように、親しく接してくれたら凄く嬉しいのになと感じつつも、昨日は、パトリシアと、ステファンを中心に会話をしていたこともあって、彼等と仲を深めるには、まだ、そんなにも話していないから、これから、一緒に過ごしていくうちに、きっと親しくなることが出来るはずと……。
「皆さん、おはようございます……っ。
あの……っ、いつも、丁寧な挨拶をしてもらうのは大変でしょうし、私自身は簡単な挨拶でも凄く嬉しいので、良かったら、これからはそうしてください」
と伝えると、皇女である私の対応に、周りの人達が驚いたように目を見開いた上で、そう言って頂けると本当に有り難いなという雰囲気が流れたことで、私自身も、クラスメイトである彼等と、今、この瞬間にもちょっとだけ距離を詰めれたことを嬉しいなと感じつつ、学院で開かれるパーティーまでには、もう少し距離を縮めておきたいなと思う。
そうして、そのあと、私は、ここまで一緒に来てくれた、パトリシアとステファンともなるべく近い距離に座れるような場所を見つけて、セオドアとアルと一緒に、空いていた席へと腰掛けることにした。
私達が席に座れば、クラスメイト達の視線は、まだまだ、昨日、シュタインベルクから来たばかりの私達のことを、ビシバシと意識して気に掛けている様子だったし、話したいと思って、そわそわしてくれているような人達の姿も大勢見られたものの。
直ぐに『授業には、ちょっと早いけど、みんな集まってるか?』と、この講義室に、ノエル殿下が入ってきてくれたことで、私達だけじゃなく、彼等の視線は、一様に前を向いた。
そうして……、一番前の教壇に立ったノエル殿下の口から……。
「これから、授業を始めるんだけど、その前に、今度の学院でのイベントで、パーティーが行われる件について、当日は、料理だけじゃなく、各学科、30分程度の持ち時間で、劇やオペラなどのショーを執り行うことが決まってな。
学科の授業とも並行して、来週から準備期間が用意されることになった。
だから、授業に入る前に、今日は、どんなショーにするのかを決めていきたいと思う。
とりあえず、どんなものがしたいのか、多数決を取っていこう」
という言葉が、降ってきたことで、私は、パトリシアから『料理だけじゃなくて、何かがあるみたい』と、事前に聞いていたものの。
まさか、そんなふうに大がかりな催し物をすることになるだなんて思ってもいなかったこともあり、みんなが驚いたみたいで、一気に、『ショーを自分達で執り行うなら、結構、大きなイベントになりそうだけど、準備ってどんなことをするんだ?』だとか『楽しみだけど、当日は料理も作るし、初めてのことだらけで不安かも』といった声で溢れ、一気に、ざわざわと響めいてしまった。
そうして、私は私の前の席に座ってくれていたパトリシアが、『アリス様、聞きましたか? まさか、ショーをするだなんて、本当に予想外でしたねっ』と小声で声をかけてくれながら、こちらに振り向いてくれたことで。
私も『うん、予想外のことで、本当にびっくりしたね。……どんな感じになるんだろうっ?』と返事をしたあとで『でも、凄く楽しそうだよね』と、視線を合わせていく。
ソマリアの内情を探ったりしなければいけないだとか、その裏に何かあるのかだとか、そういったことは勿論、考えなければいけないことではあるんだけど。
普通にイベントとして、凄く楽しめそうだったし、舞台に立つというのは緊張してしまうことかもしれないけれど、ただの留学生としては、周りの人達と交流を深めることも出来るし、嬉しいイベントかもしれない。
とはいっても、突然、ショーを執り行うと言われたことで、直ぐに、どんなものにするのか、みんな困惑した様子で、最初は、あまり意見が出てこなかったものの。
それでも、次第に、ぽつぽつと意見が出始めてきて、多数決で決めた結果、私達のクラスでは『劇』をすることに決定した。
私自身、この6年の間に、何度か、王都で開催されている劇なども見に行ったりしたこともあるけれど、自分達が劇に出るという体験をするのは初めてのことで、色々と疑心暗鬼になってしまうような気持ちを、つかの間忘れて。
一生徒として、どんな劇になるんだろうとか、どういうふうに準備をするんだろうと、ワクワクしてくる気持ちで、セオドアと顔を見合わせて、ぱぁぁっと明るく表情を綻ばせていたら、『色々あるけど、楽しみだな?』とセオドアの瞳が、すっと優しく細められていくのが見えて、私もこくりと頷き返していく。
そのあと、生徒の一人から『劇の練習は勿論しなければいけないかと思うんですけど、ノエル殿下、準備期間では、他にも、何かすることがあったりしますか?』という質問飛んでくると、ノエル殿下の口から、続けて……。
「……あぁ、それなんだが。
来週から、約一か月間くらいの間、授業の時間をかなり減らして、その時間を準備期間に充てるようになっていてな。
うちのクラスは、劇に決まったから、劇の練習と並行して、大道具として舞台装置のセットや小道具などを作るための時間にしようと思ってる」
と、言う言葉が降ってきたことで、この場のざわめきは、更に、大きなものになってしまった。
『ただ、劇をするだけじゃなくて、一から、大道具としての舞台装置のセットや小道具作りをしたりするのは、凄く本格的かも……っ』
「一応、外部からの手厚いサポートを受けることは問題ないとされているから、みんなが貴族だってことで、たとえば合唱をするなら歌の講師が来て直々に教えてくれたりするようになるし。
他の内容のものだったとしても、当日、ちゃんとしたものになるように、色々とクラスで使える予算がもらえることになってるんだ。
俺たちのクラスは劇になったということで、ソマリアの王都の劇場で、実際に、普段から、大道具などを作ってる職人を手配して、みんなと一緒に作るようにしようとは思う。
だからこそ、どんなものを作れば良いか分からなくて戸惑うことはないだろうし、より本格的なものになることは間違いないはずだ。
因みに、ショーで着る衣装に関しても、ショーの内容が決まってから、発注するつもりだから、そこについても、安心してくれたらいい。
それから、パーティーでは、差別や偏見をなくしたいというテーマから、必ず、赤色のものを衣装や小物に取り入れるようにするというのが、宰相である、ダヴェンポート卿の提案になっててな。
そっちに関しては、それに合わせて、当日までに、各自、衣装を用意しておいてくれ。
勿論、どこかに赤が入っていれば良いから、ピアスや、胸ポケットのポケットチーフ、靴などといった小物でも何でも構わないからな」
そのあと、ノエル殿下からきちんとした説明が降ってきたことで、わざわざ劇場から本職の人が来てくれるだなんて、滅多にないだろうし、それなら、初心者の私達でも、ちゃんとしたものが作れそうだなと感じて、私は、ホッと胸を撫で下ろしていく。
でも、そうだというのなら、当日の舞台では、しっかりとした舞台のセットが作られることで、チープな感じにはならず、しっかりと作られた背景の中、劇をやることになるから、それなりに練習をしていないと舞台負けしてしまう可能性があるよね……。
『まだ、どんな内容の劇で、どんな登場人物を演じることになるのか私自身も分からないけど、何の役をするか決まったら、いっぱい練習をしなくちゃ……っ』
そうして、私が頭の中で、そう思ったところで……。
「それじゃあ、早速だけど、これから続けて、劇の内容について何をするのかということと、登場人物の配役についても、しっかりと考えていくことにしよう」
と、ノエル殿下にそう言われたことで、私は『劇の内容はどんなものになって、みんな、何を演じることになるんだろう?』と、ドキドキしながら、隣に座ってくれていたセオドアとアルと、楽しみだねと顔を見合わせたあと。
こちらに向かって『料理も、劇も楽しみで仕方ありませんっ!』といった感じで笑顔を向けてくれたパトリシアと。
『本当に、これから、特別なイベントが開催されるんですね……!』と言わんばかりのステファンに。
「当日までに、二人とも、一緒になって、色々と、準備を進められたら嬉しいな」
と、声をかけて、私は、劇の内容と配役について何にするのかクラスの人達とも意見交換をしなければいけないだろうからと、改めて、教壇の前に立っているノエル殿下の方を向くことにした。