527 国王への疑問とこれからについての話し合い
私が挨拶をすると、図書館にいた司書の人も慌てた様子で、私達に向かって頭を下げてくれた。
見たところ、この図書館の中には、カウンターに一人の司書がいて、図書館の端っこにあるカウンターの奥にもう一つ、小さな小部屋と繋がっている扉があることから、その中には、スクライブと呼ばれている写本の作成士がいるのだと思う。
きちんとした原本があるにも拘わらず、写本として、手書きで書物を複製する理由については、経年劣化などで傷んで読めなくなってしまうのを危惧して、幾つかの予備を保管しておいたり。
戦争などで、王城に何かあった時などに、特に貴重な書物の内容が失われないようにと、複製した書物を、国にある学院や国の修道院などに、あらかじめ寄贈しておくことで、たとえ原本に何かあったとしても問題ないようにして、書物に書かれた貴重な知識そのものを、後世へと受け継がせることを目的にしたものでもある。
『それだけ、知識は、何にも代えがたい重要な宝物だと言ってもいい』
この時代に書かれた文献だけではなく、過去に書かれたものまで全て、後の世にまでしっかりと残しておくことで、その時代の学者達などによって研究が進められ、時代背景や、世界の成り立ちなどを深く知る上での貴重な情報源ともなり得ることから、シュタインベルクのみならず、どこの国でも書物というのは大事にされ、特別なものとして扱われている。
シュタインベルクの図書館にも、そういった写本の作成士はいたから、ソマリアの図書館の中にも、絶対にいるだろう。
だけど、本の貸し出しや返却時の対応、本の管理などを仕事にしている司書の人とは違い。
彼等は決まって一日の始めに、自分の作業分だけの書物を持って、作業用部屋である写本制作のための『写字室』に入ると、殆ど、部屋に籠もりっきりで、表に出てくるようなことはないから、これから、この図書館で、セオドア達と色々な話をするのに、彼等の視線については、あまり気にしなくても大丈夫なはず。
「それでは、私は、これで失礼致します……っ。
大体のことは、この図書館内にいる司書に聞いて頂ければ問題ないかと思いますが、それ以外のことで気になることや、学院に使う文献資料、メモ用紙、インクなどといったものがほしいなどというご要望などがありましたら、私自身は、基本的にいつも、先ほどの執務室にいますので、お気軽にお申し付け下さい。
また、ここからだと、皆様がいつも過ごしている貴賓室からは距離が離れているため、少し頼りにくい部分もあるかと感じますが、私の部下であるアルフには、何なりとお申し付け下さって構いませんので」
そうして、此方に向かって、軽く会釈をしながら、ここに来るまでに『夕食の準備などがありますので、私は、これで失礼します』と言って、自分の仕事に戻っていったアルフさんも含めて、自分にも遠慮なく、いつでも頼ってほしいのだという言葉を伝えてくれたあとで、ダヴェンポート卿は『仕事に戻ります』と一度、私達に対して頭を下げると、忙しそうに図書館から出ていってしまった。
『ここまで、丁寧に、私達を案内してくれていたけれど、自分の仕事に関しては、きっと、まだ終わってないんだろうな……っ』と思うと、本当に凄く大変そう……っ。
ほんの僅かばかり、疲労が窺えるような、ダヴェンポート卿のその背を見送って、私は、みんなと目配せをし合い、自分の仕事の手を止めて、此方に向かって頭を下げてくれたカウンター越しの司書の人に『これから、図書館の中にある本を見させてもらいますね……っ』と伝え、『はい、勿論です……! 館内にある本につきましては、どうぞ、ご自由に御覧になってください』といった感じで、軽い遣り取りを交わしてから、視線を図書館の内装と本棚の方へと移していく。
図書館の中は、外から沢山の光を取り入れて、光の空間を演出するため、天井近くに、アーチ状の高窓が幾つも取り付けられて開放感があり、更に、平らな壁には、模様や形が浮き出すように彫り上げられた繊細な彫刻と、美しい装飾が施され、図書館全体の雰囲気としては、荘厳さを感じさせるような煌びやかな雰囲気が漂っていた。
パッと周囲を見渡してみた所、今の時間に、図書館を利用している人は、私達以外には誰もいないみたいでホッとする。
ダヴェンポート卿曰く、みんな、お仕事で忙しいって言っていたから『仕事の資料を探しに来たりする』などの特別な用途がない限りは、ソマリアの王城で働く文官達も、図書館に立ち寄ったりする暇がないのかもしれない。
そうして、カウンターを離れながら、早速、本棚の方に、みんなで向かい始めたタイミングで、近くにいる司書さんに、会話で違和感を持たれないように気を付けつつ。
「あのね……っ、私自身、ソマリアに来たばかりだから、色々な文化を詳しく知りたいなって思ってて……。
折角だから、ソマリアの歴史に関係するような本が見たいんだけど、どこにあるんだろう……?
もしも良かったら、みんなにも、探すのを手伝ってもらえたら嬉しいなって感じているんだけど、……ダメかなっ?」
と、私は、敢えて、大きすぎず、小さすぎず、普段通りの声色を意識しながら、セオドアやみんなの顔を見上げて、お願いするように声をかけた。
「……ソマリアの歴史に関係するような本か。
それなら、丁度、今日の講義で、この世界で起きた戦争について、ソマリアで実際にあった戦争のことも交えて、ノエルが語ってくれていたし。
ソマリアの歴史書に、魔女の関わりが細かく記載されているとは限らないが、そういった戦争について記されているような本を見れば、今日の授業についての理解度も増やせるかもしれねぇよな?
俺も、今日の授業を受けてから、そういったことについては詳しく知りたいなって思ってたし、姫さんが見たいなら、一緒に探しに行こう」
その言葉を聞いて、直ぐに、私が言葉に出していないところに込めた『その意図』を、正確に汲み取って、調子を合わせるように声をかけてくれたのは、セオドアだったけど。
みんな、私が何を言いたいのかを察して、続けて……。
「あぁ、別に構わない。
これからの勉強にも役立つだろうし、歴史に関する書物というのは、全ての学問に通じる部分があるからな。
俺自身、学生達に経済学を教えるためにも、経済史などの観点から詳しく調べて、シュタインベルクとの違いなどを、もっと細かく掘り下げて、講義をしたいと感じていたし、一度は見ておきたい分野だった」
「うん。俺も、賛成だよっ。
お姫様が見たいなら、先にそういうところから見ていこう。
一緒に探すと、その分だけ、時間も短縮できるしねっ!
俺が担当することになった哲学関係の書物だと、確か、ソマリアで凄く有名な学者がいたはずなんだよ……っ。
俺自身も、その学者が書いた哲学書を読む前に、その頃の時代背景についても、もっと詳しく知ることが出来れば、より理解も深まるだろうなって思うから、そういった本も含めて探したいしね」
「……うむ、ウィリアムの言う通り、確かに、歴史に関係するような本なら、どのようなものでも、国をよく知るという意味でも勉強になるだろう。
僕自身も、これから、ソマリアで学院生達と交流を深めるのなら、そういったところから話題を広げるのにも役に立つと思うし、アリスのためにも良いことだと感じるから、どこにそういった本があるのか、一緒に探すことにしよう」
といった感じで、ウィリアムお兄様も、ルーカスさんも、アルも、それぞれが違和感のないように自然に会話を続けてくれながら、私の言葉に同意して頷いてくれた。
ここに来るまでの道中での、ダヴェンポート卿との遣り取りから、みんなと『そのことについて』会話をするために、なるべく怪しまれないよう、図書館内を見て回っているフリをしながら話をすることが出来れば良いなと思って声をかけたんだけど、みんな、私の意図をしっかりと理解してくれた上で、返事を返してくれるから、凄く有り難いな。
それに、色々と、ソマリアの時代背景に関する歴史書などが見られれば、そういったところからも見えてくるものがあるかもしれないと、折角だから、それに関係するような本も探していければと思って『歴史書というジャンル』を選んでみたんだけど。
お兄様が言ってくれたように、どの学問に関しても通じる部分があるから、みんなとも自然に、さりげなく会話をするには持って来いの話題だったかも……っ。
図書館の中は、シュタインベルクの図書館とも似たような感じで、しっかりとカテゴリー別に分かれていて、比較的、どこに何の本が置いてあるのかも分かりやすく、本棚の中から、確実に見たい本を探すことが出来るように整えられていて……。
歴史書に関連する書物は、丁度、図書館の奥まったところの、カウンターからも見づらい位置にスペースが作られていることもあって、死角になっているような部分もあり、私達が内緒話をするのには、おあつらえ向きの場所になっていた。
「……みんな、さっきの、ダヴェンポート卿の話、どう思う……?
凄く隠したがっているような雰囲気だったけど、渡り廊下を渡った先の離れの棟には、一体、何があるのかな……?
私は、最初、王妃様が療養しているのかなって思ったんだけど、あんまりしっくりは来なくて……」
そうして、一応、あくまでも、不自然にならないよう本棚の中の書籍のタイトルに視線を向け、ソマリアのことがよく分かるような目ぼしいタイトルのものがないかと探しつつ、先ほど、ダヴェンポート卿から聞いた話について、ちょっとだけそわそわしながら、みんなに向かって、こっそりと問いかけてみると、直ぐに私の言葉に、こくりと頷きながら……。
「あぁ……。
俺自身、王妃がどこで療養しているのかについては、離れの棟にいるってのも、あり得ない話ではないだろうなって思うんだが。
仮にそうだとしても、あの反応を見る限り、それだけじゃなくて、他にも、何かしらの秘密が、あの場所に隠されているのは間違いないだろうな」
と、セオドアが返事を返してくれた。
「いや、うん、そうだよな。
離れの棟に関しては、俺も滅茶苦茶気になってるし、幸いにも、渡り廊下に近い図書館に来ることが出来たのは、ラッキーだったけど、そこから、どうするかは、問題だよな?
さっき、ここに来る道中で、ちらっと渡り廊下が見えたものの、それでも、しっかりと確認出来るほど、きちんと見えた訳じゃないし、出来れば近くまで行って、何かしらの手がかりが得られれば嬉しいとは思ってるんだけど」
「あぁ、それに関しては、時間も限られるかもしれないが。
幸いにも、ダヴェンポート卿が自分の仕事に戻ってくれたお陰で、図書館を出て貴賓室まで帰る道のりは俺たちだけだろう?
夕食の時間もあるし、あまりにも帰ってくるのが遅ければ心配もされるだろうが、その時間を有効活用すれば、何か見えてくるものがあるかもしれない」
そのあと続けて、視線は、あくまでも本棚の中の書物へと向けたまま、ルーカスさんとお兄様も此方にむかって、自分達の意見を伝えてくれながら、これからのことを一緒に考えてくれ始めた。
とりあえず、離れの棟について、たとえ、今日の調査で、その全貌がきちんと見えてこなかったとしても、そっちの棟に何があるのかについては、時間をかけてでも、詳しく調べあげることは絶対条件だよねっ。
それに『勿論、言える範囲でのことしか教えてくれてはいない』んだと思うけど、ノエル殿下やレイアード殿下のことも含めて、ギュスターヴ王のことなどについても赤裸々に教えてくれていた、ダヴェンポート卿の話には、色々と気になる点が多くて、その話を聞いて、お兄様達がどう思ったのかは、凄く気になってしまった。
――出来れば、ここで、みんなの意見も聞いておけたら嬉しいかも……っ!
「あの……、ここに来る道中で聞いた話について。
ダヴェンポート卿から見た時の人間関係については、凄く分かりやすかったと思うんですけど。
私は、二人の出自や事情に関する話を聞いて、一番上に立っている人に、凄く違和感を覚えてしまいました。
みんなは、どうでしたか……?」
私が、ダヴェンポート卿から聞いた話について『みんなは、ギュスターヴ王のことについてや、ノエル殿下、レイアード殿下についてどう思ったんだろう?』と。
ここからだと、私達が小声で交わしている遣り取りについて、カウンターで仕事をしている司書さんには、きっと聞こえていないだろうけど、念には念を入れて、ノエル殿下達のことに関しては、敢えて、名前を出すこともなく、窺うように問いかけてみると。
私の隣に立って、一緒に本を探してくれていたセオドアが、此方へと視線を向けてくれてから。
「あぁ、俺も、元々、優れた人だって噂があった分だけ、話を聞けば聞くほど、もしかしたらその噂自体が間違ったものなんじゃないかって違和感が募ってる。
言ってることに一貫性がないっていうか、最初に会った時の違和感が、そのまま大きく膨らんでいっているような感じだ。
さっきの話で、そこまで言及はされなかったが、それでも、王城で働く周りの人間達から、不満などが浮き彫りになるように出てきてしまっているんなら、そういう部分を解決するのも仕事のうちだろうっ?
出来ない理由があるんだとしたら、その理由については、滅茶苦茶気になってる」
と、やっぱり、セオドアも私と同じ部分で引っかかっていたみたいで、私達が玉座で会ったギュスターヴ王の姿を思い出してくれた様子で『一国の王として、統治者での在り方に、ずっと疑問を抱いている』のだと、慎重に返事を返してくれた。
「ああ、それに関しては、確かに俺も疑問には思っている。
ただ、実際に、この世の中に流れてきている噂全てに信憑性がなかったかと言われたらそんなことはあり得ないだろうし。
一つの事柄だけではなく、政治的な手腕での賞賛の声などが幾つも漏れ伝わってきていたことを思えば、以前までは、確かに、名君と呼ばれるほど優れた人物であったことに代わりがないだろう。
だとしたら、元々、秀でた人ではあるが、近年の言動や統治の仕方について、明らかに精彩を欠き始めた可能性の方が高いと言ってもいい気はするが……。
その言動については、不可解な要素の方が多いのは確かではあるものの。
政治的な手腕などについて、理解出来るような部分もあるだけに、ちぐはぐ感が目立つというか。
その裏にある事情について、詳しく把握出来ていない分だけ、俺たちが見えていないものもあるのかもしれないな」
「うーん、そうだよなぁ……。
確かに、近年、精彩を欠いているっていうんなら、俺たちが初めに会った時の、威厳さが損なわれているような感じだったあの姿も理解出来る話ではある。
ただ、殿下の言うように、俺自身も、身勝手だとは思うものの、自分の後継をどちらにするか決めたことについては、引っ込み思案な雰囲気を持っている彼のことを思えば、その単体だけで、その話を見た時に、これから先のことも見据えての判断だったと言われれば、完全に、理解出来なくもはないんだよね。
実際に、功績を挙げているっていうのも事実だし、弟君の方の思いなどは読めないものの、彼自身、自分がって感じで、率先して手をあげて前に出たり、上に立ちたいって強い意志を持っているようには、どうしても見えないし。
勿論、一番の問題は、上に立っているその人の判断によるものだと思うけど、問題は、周りの人間達が揃って、一方だけの支持に偏っちゃってるところにもあると思う。
そういったところも俺からすると、滅茶苦茶、疑問なんだよな……っ。
ただ、一番上に立っているその人に、みんなが、可笑しいなって思っていることについては、俺も全面的に同意だよ」
――肝心なのは、一番上に立っている人間について、どうやって、その辺りのことを探るか、だね。
そのあとで、お兄様と、ルーカスさんが続けて、今、与えられた情報だけで推測するには、これくらいのことしか出来ないといった感じで、ギュスターヴ王の世間での評価のことも交えながら、どう思っているのかを教えてくれたことで。
私自身も、ギュスターヴ王とは、現状、本当に滅多に関わりを持てないから『どうやってコンタクトを取ればいいのだろうか』と、それについては頭を悩ませてしまった。
ルーカスさんの言うように、ダヴェンポート卿や、ヨハネスさん、それから、ノエル殿下や、レイアード殿下、バエルさんとは、ある程度、定期的に、コンタクトが取れるようにはなっているけど。
ギュスターヴ王については、今、王が、この広い王城の中のどこにいるのささえも分からないほどに、私達の対応は出来ないと明言された上で、距離を取られてしまっていることから、関わることさえ、碌に出来そうもない。
一応、さりげなく周囲の人達に、普段、ギュスターヴ王がどの辺りで仕事をしているのかなどを聞いて、王城の中で、偶然、遭遇する可能性を狙うことも、出来なくはないと思うんだけど、あまり頻繁に行動していたら怪しまれるだろうし、不確実な要素が高すぎて、現実的な作戦だとは、どうしても言い難いよね……?
「うむ、そうだな……。
僕自身も、一番上の人間を探っていくということについては、賛成だ。
その方法について、良案が直ぐには思いつかぬが、それでも船の中で、僕達が、一番と二番の名前を出した際、誰も彼もが、複雑そうな表情をしていたであろう……?
あの表情に意味があったなら、その裏に何があるのかを知っておいて損はないだろうからな。
それに、今日、学院の廊下で、あの男が、アリスにどうして、あのようなことを言ったのかは分からぬが、このままいくと、何かしら、僕達にとって、不利益になる可能性が高いことは間違いないだろう。
そういったことについての関連性も含めて、これから探っていかねばならぬだろうが……」
そうして、アルから続けて補足するように言ってもらえた言葉には、私自身も『確かにそうだよね』と、こくりと頷いて納得することが出来た。
私達にこれから、何か良からぬことが起きるかもしれないという可能性がある以上、それが直接、関係のないことであっても、ソマリアの内情に関して広く知っておくだけでも大分違うはず……。
いつもなら、そういったことは絶対にしないけれど、これが国同士の友好関係にも、ヒビが入り兼ねないことだというのなら、放っておくことは絶対に出来ないし、事は、私達だけで済まない可能性だってある。
それに、ギュスターヴ王については、怪しい点ばかりじゃなくて、学院に『魔法研究科』を作ったことなどは、私から見ると、凄く画期的なアイディアだったように思えるし、本来なら、隠し通したいと誰もが思うようなことですら、学びのために広めているというのは、一見すると悪いことではなくて、絶対的な『暗君』であるかと言われれば、そういう感じには見れなかったりもするんだよね。
勿論、その裏には、何かしら、他の意図が隠されているのかもしれないけれど……。
そこのちぐはぐ感というか、しっかりと考えられているように見える部分と、行き当たりばったりな感じにも見える政治的な手腕などで、そういった部分が複雑に混在していることから、お兄様も、ルーカスさんも、ギュスターヴ王について、ああいう評価になったんだと思うから『暗君なのか、名君なのか』といったところについては、きちんと見極める必要は絶対にある。
それから、ノエル殿下と、レイアード殿下にそういった混み合った事情があったのなら、二人の兄弟としての関係性というのも、もっと、きちんと調べていった方がいいような気もするし。
ノエル殿下が『機械人形』を開発したことで功績を挙げたっていうのは勿論、理解も出来るんだけど。
ギュスターヴ王がノエル殿下を君主にしたいと言っていたということについて、6年ほど前に何があったのか、より詳しく知るために、ノエル殿下とは、これまで以上に、もっと交流の機会を深めていった方が良いのかもしれない。
直接、本人と、関わる機会が極端に少ない以上、現状では、それが、ギュスターヴ王のことを少しでも知るための手立てにもなり得るはずだから……。
「あの……、でしたら、一番は、次期、後継にと言われている人と、積極的に交流の機会を持っていった方が良いですよね……?
特に、サークル活動の見学をしてみたりするとかっ」
私が、みんなに向かって、ギュスターヴ王のことも含めて、ノエル殿下から、もっと話を聞いた方が良いよねと意見を述べると、みんなも『その方向性で行こう』といった感じで、私の意見に同調するように頷いてくれた。
そうして、そのタイミングで、セオドアが一早く、その耳で私達には聞こえないほどの小さな音を聞き分けて『シッ、この図書館に、新しく誰かがやって来た』と、私を庇うように、後ろ手で隠しつつ、人差し指を口元に持っていって、これ以上は喋らない方が良かもしれないという、ジェスチャーをしてくれたあと。
ここから、図書館の入り口の扉の方を見てくれたことで、私達は、慌てて、口を閉じてから、そっと、通路側に設置されていた本棚の隙間から、セオドアの視線を追って、そちらの方を覗き見ることにした。
瞬間……、私達自身も、ギュスターヴ王のことなどについて、この話を終えたあと、幾つかの本を、カモフラージュ用に借りつつ、図書館を出てから、離れの棟などがある渡り廊下の方を確認した上で、これから、話を聞きに行こうと思っていたヨハネスさんが、図書館の入り口から入ってきて。
カウンターで仕事をしている司書の人に向かって、『ウィリアム殿下や、アリス殿下が此方にいらっしゃっていると聞いて来たのだが……っ』と問いかけているのが見えて、私達は、思わず、顔を見合わせてしまった。
「はい、いらっしゃっていますよ。
今は、皆様、歴史書が置いてある本棚の方で、色々な本を探しておいでだと思います」
そうして、司書さんの言葉を聞いて、直ぐに『分かった。歴史書の棚の辺りだな……?』と、納得したように言葉を出したあとで。
ヨハネスさんが、大股で、ぐんぐんと此方に向かって、歩いてきはじめたことで、彼が完全にこっちに来てくれる前に、私達は、向こうからも、こっちの姿が見えるように、みんなで、ひょっこりと通路側の方へと出ることにした。
「あぁ……っ、良かったです、皆さん……っ!
此方に、いらっしゃったんですね。
皆さんのことを探して、アルフに、どこにいらっしゃるのか知らないかと、話を聞いてきました。
行き違いにならずに済んで本当に良かったっ!」
そのあと、私達の姿を見つけた途端に、ヨハネスさんの表情がどこまでも明るく、友好的なものへと変わっていくのが見えて、私は、その言葉を受け取ってから、丁度、ダヴェンポート卿以外にも話を聞ける人が来てくれて良かったと感じつつも。
『ここまで、探しに来てくれたっていうことは、多分、初日の学院生活についてどうだったか聞きに来てくれたんだよね?』と、本来なら、此方から出向くことでもあると思うのにと、ヨハネスさんに向かって、ほんの僅かばかり、眉を寄せ、申し訳ないという表情を作り出した。