516 ソマリアの皇子達の複雑な立場と事情
あれから、私達はお兄様達と合流し、学院の中にある食堂へと向かうことにした。
国が運営している学院ということもあって、食堂では、高い吹き抜けの天井に、沢山のシャンデリアが飾り付けられ、豪奢な雰囲気で、広々とした空間に、テーブルクロスのかかった横長の趣のあるテーブルが、幾つも置かれていた。
そうして、華麗な意匠が施された椅子へと着席したあとに、お昼ご飯として、ソマリアでよく食べられている新鮮なお魚をメインにした料理が運ばれてくるみたい。
普段の王城などでの食事や、畏まった場でよく出てくるような、コース料理というほどキッチリとしたものではなくて、品数は少ないみたいなんだけど、それでも、ソマリアが誇るこの学院では、学院を運営するのに、貴族達から多額の寄付金を募って、賄われているのだというし。
この学院に通うために、貴族達は、授業料などを含めた施設の使用料金などに関しても、一括で、教育費用として、最初の入学時に、かなりの金額を支払わなければいけないということもあって、彼等がかけている金額を考えると、食事の席に着いた瞬間から、きちんとしたシェフが作った温かい料理が運ばれてくるのは、当然のことだとは思う。
それだけ、沢山のお金が、この学院のために支払われているし、高い費用を払わされてしまう貴族達のお陰で、この学院が運営され成り立っていっていると言っても過言ではないだろう。
――それでも、自分の家から、学者や、研究者などといった栄誉ある役職を持った人材を輩出することも出来るとあって、この国の貴族達は、こぞって、この学院に通わせたがるのだとか。
それから、それだけ、国にとって誇り高い人達を多数輩出することが出来る最高機関ということで、一部の高位貴族達が学院を運営するのに、少なくない金額の寄付金を国のために献上すれば、それに伴って、他の貴族達も、国のためになるような学院について放置することも出来ずに、それなりに、しっかりと纏まった金額を出さざるを得なくなってしまう。
『凄く、よく考えられたシステムだな……っ』
内心で、その制度に驚きつつも感心した私は、バエルさんに『皆様、こちらです』と案内されつつ、どこの席に着くのかは、勉強をするための講義室と一緒で、特別決まっている訳でもないということで、この大人数でも座れるような席を探して着席することになった。
その際、ノエル殿下のお目付役として貴族が着ているようなものほど、華やかに飾りが付いている訳ではなく、ノエル殿下やレイアード殿下よりも目立たない格好をしていたバエルさんのシャツの袖口のボタンが、いつもきっちりしているバエルさんにしては、珍しく取れかけていたことで。
「バエルさん、シャツの袖口のボタンが取れ掛かっていますよ」
と声をかけた私は、『あ、教えて下さってありがとうございます、皇女殿下……っ!』と、バエルさんにお礼を言われたあと、シャツの袖からちらりと見えた、腕にある青痣のような傷に、ビックリしてしまった。
『一瞬のことだったけど、打撲痕のような傷があったよね……?』
――もしかして、私の見間違いだったのかな……?
そのことに、戸惑って、声をかけるべきかどうかで悩んでいると、ノエル殿下を始めとして、ソマリアの人達も、お兄様達といった面々も、私以外のみんなが席に着きはじめてしまったことで、結局、そのことは、バエルさんに聞けないまま、有耶無耶になってしまった。
それから私達が椅子に座ると、時間も空けず、直ぐに、じゃがいもに、茹でた卵、トマトなどが入った見た目にも鮮やかで、ブラックオリーブ、お塩、レモン汁などで味付けされた、さっぱりとしたニソワーズと呼ばれるサラダが、前菜として、テーブルの上へと、ことりと置かれていく。
サラダを食べるのに、フォークを手に持ったあと、きちんとしたマナーを意識しながらも……。
「お兄様も、ルーカスさんも、赴任してから初めての講義はどうでしたか……っ?」
と、問いかけるように首を横にちょっとだけ傾けて、私を挟んで、アルの隣に座ってくれていたお兄様とルーカスさんの方へと視線を向ければ、『あぁ、それは俺も聞きたかったんだよな。二人とも、初めての授業はどうだったんだ……?』と、私の前の席に座っていたノエル殿下も、お兄様達に向かって声をかけてくれた。
因みに、私達が座っている席は、左からセオドア、私、アル、ルーカスさん、お兄様の座り順となっており、ノエル殿下達は、私とアルとルーカスさんの対面にそれぞれ着席していた。
「あぁ、そうだな。
俺が、特別講師として教えることになったのは経済学だが、実際に、元々ソマリアで経済学を教えている講師達もいることと、事前にどういったことを教え済みなのかという資料も手渡してもらっていたことから、割と、スムーズに講義をすることが出来たと思う。
そのあと、学院生達から、休憩時間なども使って勉強を教えて欲しいと、あっという間に取り囲まれてしまったしな」
「あ……っ、俺も、殿下と一緒だよっっ!
シュタインベルクでも殿下について色々なことを勉強していて、本当に良かったっていうか。
俺自身は、前期と後期で二科目、物理学と哲学を教えに、違う科に通わせてもらう予定になっているし、今日は、物理学の方に行かせてもらったけど、学院生達もみんな、勉強熱心で、凄くやりやすかったな……!」
そのあと、お兄様と、ルーカスさんから、講師としてどうだったのか、初日の感想を教えてもらったことで、何でも、そつなくこなすことの出来るお兄様達だからこそ……。
多分、どこにも問題なんてなかったんだろうな、と聞く前から、おおよその答えに関しては分かりきってはいたものの、実際にお兄様達の口からそうだったのだと聞けたことで『良かった。お兄様達も、講師として順調そう……』と感じつつも。
「そうだったんですね。それなら良かったです」
と、返事をしたあとで、私は、ウィリアムお兄様からの『学院生達から、休憩時間なども使って、あっという間に取り囲まれてしまった』というその言葉に『確かに、大人気だったもんね……!』と、深く同意出来てしまった。
というのも、私達が、お兄様達に、お昼ご飯を一緒に食べようと誘いに行った際、お兄様も、ルーカスさんも違う階層の、それぞれ別の科にいたんだけど、どちらも沢山の貴族達に囲まれて……。
『ウィリアム殿下、今回教えて頂いた内容、凄く分かりやすかったです。宜しければ、お昼を食べたあとにも、なるべく優先して、勉強を教えて下さいませんかっ?』だとか。
『ルーカス先生っっ、もしも良かったら、私達にも、もっと色々と教えて下さいませっ!』
『やだわっ! 前の時間から、ルーカス先生に教えてもらいたくて、頼んでいたのは、私の方よっ! 順番は守って頂戴っ!』
といった感じで、競い合うように、学院生達から『ぜひ、自分に勉強を教えてほしい』と乞われるほど、本当に引っ張りだこの様子だった。
特に、二人を取り囲んでいるのは『女子学生の割合』の方が高くて、目の色をハートマークにしていたことから、恐らくだけど、お兄様とルーカスさん目当てで、勉強を教えてほしいという気持ち半分、お兄様達と親密になりたいという気持ち半分のような感じで近づいていた人達も多かったような気もするけど、それでも、私が見た限り、真剣に学びたいと思って声をかけていた人達だっていっぱいいた。
それだけ、きっと、初めての授業だとは思えないくらい、お兄様の教えも、ルーカスさんの教えも凄く分かりやすかったんだろうし、二人が行った講義によって、あっという間に、学院生達の心を掴んでいってしまったんだと思う。
「それより、アリス。……お前達は、どうだったんだ?
俺自身、あまりにも耳馴染みがなくて、魔法研究科というのが、全く想像がつかないんだが。
ノエルから、どんなことを教わった……?」
そのあと、私に質問を投げかけられたことで返事をしてくれていたお兄様が、今度は、優しく穏やかに微笑んでくれながら『お前達の方はどうだったんだ』と、私に向かって声をかけてくれる。
「それが……、初めての授業で、ちょっとだけ不安だったんですけど、色々なことを教えてもらえたことで、凄く勉強になりました……っ!
授業中、ノエル殿下が、凄く分かりやすく教えてくれていたことで、他の一般の学院生の方達についていけないこともなく。
国同士で、戦争に魔女が出てこないようにと絶対不可侵の協定を結ぶことになるまで、今まで、どのような魔女達が戦争などで活躍していたのかなどを教えてもらったり。
それと……、ノエル殿下の発明品が、魔女と一般の人達の髪の毛を明確に区別して、魔女の髪の毛のみに反応して、音を出す仕掛けになっていて、そういったものを見させて頂くような時間もあったことで、本当に有意義だったんです」
そうして……、この6年の間で、私自身も、皇女として沢山のことを勉強してきて、今回、学院に通うことになった経緯である外交などの目的がなかったとしても、入試にパスして通えるくらいの教養も学力も、しっかりと身につけてはいるものの……。
魔女のことを学ぶ学科というのは、凄く新鮮で、特に、ノエル殿下が発明していた『機械人形』に関しても、そういったものを見せてもらえるとは思ってもいなくて、私自身の知的好奇心を擽るようなものだった。
だから、普段よりも、ちょっとだけ熱が入ったように『色々なことが勉強出来て、本当に楽しいです』と声をあげれば、そんな私の様子を見て……。
「あぁ……、姫さんは、多分、あの講義室にいた誰よりも、勉強熱心だったと思う。
どこまでも丁寧に、要点をしっかりと纏めながら、一生懸命に、ノートに文字を書き写していたくらいだからな」
と、セオドアが、授業の風景を見ていなくて、私達がどういうふうな感じで授業を受けていたのか知らなかったお兄様達に、補足するように説明してくれるのが聞こえてきた。
因みに、この一週間の間、セオドアも初めは、敬語を使って話してくれていたんだけど。
従者という立場でありながらも、普段のセオドアは、私達にも、特別敬語で喋ったりはしていないし。
そういった様子を見ていたソマリアの人達からも、セオドアは、シュタインベルクにおいても特別な臣下として認識されたみたいで、ノエル殿下から『これから、学院に通う同じ仲間だってのは間違いないことだから、俺も普通に接するし、セオドアも普通に接してくれ。レイアードも、俺も、そっちの方が気兼ねしなくて良い』と言ってもらえたことで、みんなと話す時には、敬語を取り払ってくれていた。
それから……。
お兄様も、ルーカスさんも凄く驚いた様子ではあったものの、ノエル殿下が作った機械人形に関しては、興味津々だったみたいで。
「そんなものが作れるのか……? 一体、どうやって……?」
と問いかけたお兄様に、流石に、そのことについては、ソマリアで国家機密にあたる情報になっているらしく。
「いや、その内容については、詳しく明かすことが出来ないんだが、俺自身も、今まで作った発明品の中では一番といってもいいくらいの出来になっていると思う。
まぁ、俺自身、機械を弄るのが趣味みたいなもんだからな」
と、ノエル殿下が、ほんの僅かばかり口元を緩めながら、此方に向かって説明するように声をかけてくれた。
その瞬間……。
「そう……、それで、兄上は、父上からの評価を得てる……っ。
これが切っ掛けで、兄上は、父上から、次期、国王の座に就かせるって言われて、学院でも重要なポジションに就くことになった」
と、ぽつりと、私達に聞こえるか聞こえないかの声量で、レイアード殿下が、淡々と、事実を事実として伝えることだけを目的としたかのように、そう言ってきたことで、この場の雰囲気が、ほんの僅かばかり、凍り付くように固まってしまった。
――今、さらっと、レイアード殿下、凄く重要なことを言ってこなかった……?
ソマリアの君主であるギュスターヴ王の後継に関しては、ノエル殿下が第一皇子であることからも、普通に考えたら、ノエル殿下が、そのまま、跡を継ぐ可能性の方が高いとは思うんだけど……。
それでも、私達が、ソマリアに初めて来た時に、殆どの家臣達が、ノエル殿下に冷たい視線を向けていて、レイアード殿下を支持するような態度だったことから、後継者争いなどに関しては、色々大変なのかもしれないと感じていたものの、さらっと、レイアード殿下の口から『ギュスターヴ国王が、ノエル殿下を後継者に決めたのだ』という言葉が降ってくるとは思ってもいなかった。
「すまないが、俺は、家臣達からの態度で、レイアードの方が、次期、国王として推されているのかと思っていた」
「あぁ、俺も、それについては不思議に思ってた。
……あからさまに、そういった雰囲気を出していない場合もあるが、大体の家臣達の、レイアードを見る目と、ノエルを見る目が違ってたから、そこに、多かれ少なかれ何かあるんじゃないかって感じていたんだが……」
そうして、ウィリアムお兄様と、セオドアが、今の今まで、私達の全員が気にしていたことを、あまりにも率直な意見として伝えてくれると、ノエル殿下が『あーっ……』と言いながら、レイアード殿下の方を見つめて、『俺は、レイアードの方が君主に相応しいって思ってんだけどなっ』と、声を出してくる。
そうして、それに対して、バエルさんが、どこまでも冷静に、私達がそのことに気付くのも時間の問題だったと思っていた様子で、『やっぱり、そこには気付かれてしまいますよね……』と苦笑しながら、声をかけてくれたあと。
「私も、ノエル殿下も、レイアード殿下の方が、君主には相応しいと思っているんですよ。
何せ、ノエル殿下は、既に亡くなられた第二妃であったアレクサンドラ様が生んだ子供であり、レイアード殿下は、王妃様であるシャーロット様がお生みになった子供で、ソマリアの殆どの貴族や家臣達が、レイアード様を、次期、国王にと望まれていますので」
と、きっと、ソマリアでは特に隠されていないんだろうけど、ノエル殿下とレイアード殿下の詳しい事情について、赤裸々に私達に教えてくれた。
ノエル殿下やレイアード殿下のことについては、そこまで詳しく知らなかったから、みんなからの話を聞いて『なるほどな。お前達は、腹違いの兄弟だったのか……っ』と、驚きながら声を出したアルと同様に、まさか二人が、私とウィリアムお兄様のように、別々の妃の子供であり、腹違いの兄弟だったとは思っていなくて、私自身、ビックリしてしまった。
シャーロット王妃様の噂は、シュタインベルクにも、ギュスターヴ王が名君であるという噂と共に、聡明な王妃様だということは伝わってきているものの。
既に亡くなられているからか、第二妃であるアレクサンドラ様の情報というのは一切、入ってきていなくて詳しく知らなかったし。
私とお兄様みたいに、はっきりと性別の区別がついていて、ウィリアムお兄様が後を継ぐと言われていてもなお、根強く、私のことを女王に推そうとする派閥もあるくらいだから、ノエル殿下や、レイアード殿下は、性別が同じな分だけ、もっと大変だろう。
それに、第二妃から生まれてきた第一皇子のノエル殿下と、王妃様から生まれてきた第二皇子のレイアード殿下の立場を考えると、本人達の意思がどうであれ、そのことが、より事態を複雑にしているように思う。
ノエル殿下とレイアード殿下だったら、確かに、王妃様が産んだというレイアード殿下を、『次期、国王に』と望んでも可笑しくはないと思うけど、それでも、ノエル殿下が、そこまで周囲から支持を受けていない理由はなんなのだろう……?
それと同時に、どこの国でもそうだけど、王家の問題などに関しては、色々と本当に大変なんだなと、私は思う。
シュタインベルクでも、お母様が死んでしまった件や、テレーゼ様の一件などで、皇宮は、バタバタと慌ただしかったけど、ソマリアでも確か、王妃様が崩御されたという話までは聞かないけれど、随分前に、ご病気を患い治療しているんじゃなかったかな。
その噂以降、目立った噂が流れてこないことをみるに、王妃であるシャーロット様は、未だ、療養中の身なんだと思う。
――だからこそ、今回の国王への謁見では姿を見せることもなく、ギュスターヴ王のみが対応することになっていたんだろう……。
私が内心で、そこまで思ったところで……。
丁度、そこに給仕がやってきて、前菜である、サラダとパンを食べ終わったお皿を下げ、今日のお昼のメイン料理として、『海老のサガナキ』という料理を運んできてくれた。
サガナキというのは、両手つきの小さなフライパンや耐熱皿のことであり、この器で作るチーズのフライのことを指していたり、フェタという羊乳を使って作るチーズに、辛みのあるトマトソースで味付けをした魚介のトマト煮を指したりするらしいんだけど、今回、私達のテーブルに運ばれてきたのは『魚介のトマト煮』の方だった。
この『サガナキ』という料理は、ソマリアの貴族達の間では、割と頻繁に食べられているものなんだとか。
お皿の上に品良く盛り付けられている、ぷりぷりの海老は、ソマリアの港でとれたものだからこそ、一目見ただけでも新鮮そうで、複数の、バジルなどといった香草が使われているのか、香りが凄く良くて、食欲をそそる匂いがふわっと立ちこめてくる。
同じバジルや、トマトを使った料理でも、パスタや肉料理などにそういったものが使われることの多いシュタインベルクとは、やっぱり、出される料理にも違いがあるし。
ソマリアらしく、魚を美味しくアレンジしたような、私の知らなかった料理が沢山出てくることで、普段とは違った食事が楽しめて全く飽きることがない。
「パンを食べていたことで、少しだけお腹が膨れてしまっていましたが……。
ぷりぷりの海老の身に、トマトとバジルがしっかりと絡んで、本当に、凄く美味しくて、幾らでも、食べれちゃいそうですね……っ」
そうして、一口食べた瞬間、香ばしい匂いに、トマトとバジルの濃厚なソースが口いっぱいに広がって、思わずあまりの美味しさに口元を緩め、にこにこしながら、初めてのサガナキを堪能する私を見て……。
「皇女殿下に気に入って頂けたなら何よりです。
我が国の料理をそういうふうに、美味しいと言って頂けるだなんて、こんなにも光栄なことはありませんから」
「ああ、ソマリアは、本当に魚介を使った料理が多いし、そのどれもが、かなり美味いからな。
みんなも、遠慮なく、食べてくれ……っ!」
と、バエルさんと、ノエル殿下の二人が声をかけてくれた。
その一瞬あとで……。
「……ソマリアは、独特な料理が多いから……。口に合わない可能性もある……」
と、ぽつりと、レイアード殿下が、声を出してくれたことで、私はレイアード殿下の目を見つめながら……。
「確かに凄く色々な料理があって……、シュタインベルクの料理とは違うことも多いですが、でも、そのどれもが凄く美味しかったですよ。
私自身、ソマリアで、今まで頂いた料理は、一番を決めるのに悩んでしまうくらい、どの料理も凄く好みでした」
と、声をかければ、レイアード殿下は、私の言葉を聞きながらも、驚いたような雰囲気で目を見開いて、直ぐに、『そう……、だったなら、嬉しいです』と、か細い声で声をかけてくれた。
その言葉に、私は、レイアード殿下が、そう言ってくれたことを凄く嬉しく思いながら、隣にいたアルとセオドアに『ねぇ、ねぇ、二人とも見てくれた……? レイアード殿下が、もしかしたらちょっと心を開いてくれたかもしれない……っ!』という視線を向けたんだけど。
二人からは、『アリスは、本当にお人好しだな』だとか。
『あぁ、全くだ。姫さんが嬉しそうなら、俺は良いけど。……でも、レイアードのこの態度は、普通に、外交のこととかを考えたら、あまり良くないぞ』と言わんばかりの視線を向けられてしまった。
そうして、私達が、ソマリアのみんなと和気あいあいとしながら談笑しつつ、美味しいお昼ごはんを食べ終わると……。
そのタイミングで……。
「帝国の未来を照らす月と、可憐な花にご挨拶を。
ウィリアム殿下っ、皇女様っっ! いやはや、お捜ししましたよ。
講師達が沢山集まっている執務室にいけば、この時間は、お昼ご飯を食べに食堂にいるのではないかと教えてくれましてなっ!
皆様方とは、ソマリア行きの船以来の再会ですなぁ……っっ!
改めまして、ソマリアで、皆様方のサポートをする役回りを担っております、オルブライトです」
と、わざわざ、シュタインベルクでの正式な挨拶を使って、どこまでも柔らかく、人の良さそうな雰囲気で声をかけてきた人がいて、私は、その顔を見て、『オルブライトさん……っ』と思わず、ビックリしながら、その名前を呼んでしまった。
――だって、まさか、クルーズ船で出会ったその人と、再び、こんなところで再開するだなんて思ってもいなかったから……っ。