514 留学初日の学院生活
あれから、1週間の時が過ぎ、私達が留学生として、ソマリアの学院へと通う日は直ぐにやってきた。
その間に、シュタインベルクにいた時に、高級衣装店であるジェルメールで、ソマリアの学院に通うために誂えたドレスや、セオドアやアルが着用する予定になっていた衣装を、私達のため、急ピッチで間に合わせるように作ってくれたであろう、ヴァイオレットさんから届いたことで、中身については事前に確認していたものの、私は、今日、初めて、半袖のそのドレスへと袖を通していく。
一年を通して、殆どの土地が海に面しているものの、ソマリアでは、冬は温暖、多湿で、夏は高温、乾燥の気温を持っており、冬でも20℃を超える日もあるくらい、極端に、寒くなることがないことから、その殆どが半袖で過ごすことが出来るような国になっていた。
今回、ソマリア側からは、私達が留学するにあたって、この6年の間で、シュタインベルク自体が、魔女などといった差別される赤を持つ者に対して、大分、その人権を保護してきたという実績を持つことから『ソマリア自身、先進国でありながらも、まだまだそういうことには遅れを取っているからこそ、是非とも、そういった面などで、勉強することが出来れば嬉しいのだ』と言われていたこともあり。
私自身、ドレスに赤を取り入れると、髪の毛と色味が被ってしまうことから、ドレス自体は桃色のものにしたものの、ネックレスに赤色の宝石であるルビーを使ったものを取り入れてみたり、ピンクに近いような薔薇色の靴にすることで、積極的に、赤やそれに近しい色を取り入れるようにしていて……。
異国の地で、赤色を身につけるということに、内心で、ドキドキして不安がなかった訳ではなかったのだけど。
今回、ソマリアに外交に来る理由が理由だっただけに『そういったことに関して、期待されているんじゃないかな』と感じていた私の予想は的中し。
この1週間の間に、ソマリア側の人達とは、一緒に、王城の中にある食堂で、外交相手として国が出してくれる、美味しくて豪勢な食事をとるようになったことで、学院に入学する前に、色々な話をすることが出来て。
ノエル殿下や、その場に控えるように立ってくれている、ノエル殿下のお付きのバエルさんや、私達のお世話係として、メインで付いてくれることになったアルフさん。
それから、日によって来てくれる時とそうでない時があるのだけど、宰相であるダヴェンポート卿や、外交を担当しているヨハネスさんなどといった面々には、事前に、その話をしたことで、『そこまで考えてくれていたとは……っ』と、驚き、感心したような視線を向けてもらえた。
特に、ダヴェンポート卿からも、外交担当であるヨハネスさんからも……。
『シュタインベルク側で用意して頂けた衣装に赤が入っていることは、今後のソマリアのためにも、大変、有り難いことだと感じます……っ!
今後、シュタインベルクのように、そういった先進的な目線に立った政治を行うことが、より我が国を発展させることになるでしょう』
だとか……。
『えぇ、本当にそうですね……っ。
ダヴェンポート卿の仰る通りだと思います。
そういった姿勢からも、勉強になることは山のようにありますし、皆様方には、逆に、我が国でも多くのものを学んで頂ければ、こんなにも嬉しいことはありませんねっ!』
というふうに言ってもらうことが出来た上に、ノエル殿下からは、『俺も、学院では講師をしているんだが、この国じゃぁ、赤を身に纏っているのが俺くらいしかいないもんでね。……みんなが、学院で、赤色を身に纏ってくれるっていうんなら、本当に、有り難いことこの上ない』と言った感じで、好意的に声をかけてもらえて……。
この食事の場で、唯一、レイアード殿下だけが、私達に対して、あまり好意的な視線を向けてくれることがなく、暫く過ごしているうちに、段々と、ただの人見知りだという訳でもなさそうな雰囲気を持っていたことから……。
『もしかして、レイアード殿下は、私達の留学には反対なのかなっ?』
と感じてしまうほどに、私達がノエル殿下や、バエルさん、それからダヴェンポート卿や、ヨハネスさん達と交流を深めていく度に、僅かばかり眉を寄せ、ずっと複雑そうな表情を浮かべていて、そのことが凄く気がかりだったけど。
それ以外の人達からは、概ね、好評だったことに、私も、緊張して張り詰めていた気持ちが少しだけ緩み、ちょっとだけ肩の荷を下ろすことが出来た。
その期間、国王であるはずのギュスターヴ王は、私達が玉座の間で謁見した時に『忙しくしているのだ』と言っていた言葉の通り、一度も、食堂に来ることもなく、私達の前に姿を見せてくれるようなこともなかったのだけど、ノエル殿下もレイアード殿下も、それが日常のことなのか、誰もそのことに言及することもしないまま、あっという間に、時間が経過していってしまった。
「わぁぁぁ、アリス様っ、今回のドレスも本当に凄く可愛くて、あまりにも素敵すぎますねっ!
ヴァイオレットさんが作ってくれた衣装も素敵ですけど、やっぱり、私は、アリス様がアイディアを出して作る衣装が一番好きで、アリス様がドレスを着ている姿を見ていると嬉しくなってきちゃいます……っ!」
そんなこんなで、今日から学院に通い始めることもあり、ローラに手伝ってもらいながら、私がドレスに着替え終わって、緩く結んでくれたリボンに、髪の毛の準備なども済ませると、エリスが私を見て感嘆の吐息を漏らし、私以上に嬉しそうに、きゃぁきゃぁと黄色い声で絶賛するように声をかけてくれた。
胸元はスッキリとしているものの、腰から裾に向かって柔らかな広がりを見せる女性らしいAラインのドレスは、肩を出しながらも、さりげなく腕周りをレースで覆ったようなオフショルダーになっており。
上品な感じで刺繍が施され、繊細で美しく洗練された雰囲気に、細部まで拘った作りになっているため、デザインをしている段階から可愛くなるはずだと思っていたけれど、実際に、出来上がった衣装を目にすると本当に、想像以上の出来映えで……。
袖を通して着てみると、まるで、これまでもずっと着ていて長く愛用していたものかのように、私に馴染み、ぴったりとフィットするそのドレスに、いつものことながら『私の想像を形にしてくれる、ヴァイオレットさんの仕事ぶりが凄いんだよね……っ』と、感じながらも、エリスが絶賛してくれたのと、私の姿を見たルーカスさんや、お兄様からも。
「それ、ジェルメールで新しく作ったドレスでしょっ……?
お姫様、滅茶苦茶、可愛いなっ。
俺自身、6年前から、お姫様のセンスが凄く好きだけど、そのドレスも、お姫様のためにあるんじゃないかなって思うくらいに、本当に、よく似合ってる」
と、言ってもらえたり。
「あぁ、アリスがジェルメールで新作の衣装を仕立てる時は、俺もいつも楽しみにしているが、このドレスもお前らしくて、凄く良いな」
と、声をかけてもらえたりもして、そんなふうに言ってもらえるのを嬉しく思いながらも、二人にお礼を言ったあと、私は、目の前で、私と同じように、ジェルメールで作ってもらった衣装を着ている、アルやセオドアの方へと視線を向けて、思わず。
「わぁぁぁ、二人とも、元々の素材が良いからっていうのもあるけど、拘り抜いた衣装だから、着る人が着れば、きっと、服に着られるようになってしまって、万人が着ることの出来るような衣装でもないのに……。
全く違うタイプの衣装を、二人とも洗練された雰囲気で、スタイリッシュに着こなしていて、本当によく似合ってるっ……っ」
と、デザインを考案した身として、私が考えた衣装を、二人が着こなしてくれていることを嬉しく感じながら、絶賛するように声を出して目を輝かせてしまった。
普段、騎士の隊服を着ていることが多いこともあって、私自身も、そっちの方が見慣れているから、セオドアがスーツっぽく、シャツにジャケットを着こなしている姿を見るのは凄く新鮮だったし。
セオドアが着ているジャケットも、華やかに目を引くような色鮮やかな赤という訳ではなく、くすんだ感じの、落ち着いたえんじっぽい色合いで、大人の男性の深みのようなものが出て、一段と、セオドアのことを引き立てており、更に、赤一色という訳でもなく、そこに黒が入ることで引き締まり、より、セオドアに似合う衣装になっていて、パッと見ただけでも、凄く格好いいと思う。
一方で、アルは、聖職者の人達が着るようなデザインの、白に赤の装飾が散りばめられたローブを着ていて、ゆったりとしたフード付きのマントが付いていることで、清らかで、神聖な雰囲気が出るような衣装になっていて、セオドアと二人揃って並ぶと、白と黒で対になっていて、こちらも、デザインの段階から、『アルに絶対に似合うだろうな』と感じていたけれど、実際に、着ているところを見ると、アルの中性的な雰囲気とも凄くよくマッチしていて、精霊らしく、どこまでも神秘的な空気を纏わせていた。
そうして、私がセオドアとアルの二人に対して、『二人とも、凄く格好いい……! どっちも、衣装、似合ってるねっ!』と、声をかければ、セオドアもアルも、私の本心からの言葉を聞いて目を細め、嬉しそうに微笑んでくれたあと。
「この衣装が俺に似合ってるなら、それは、姫さんのお陰だ。
俺自身、6年前に作ってもらった隊服や、最近作ってもらったものまで含めて、どれも、本当に大切で仕方がないし、姫さんから贈ってもらえたものだってだけで、ずっと愛用しておきたくなる」
と、口元を緩ませたままのセオドアから、そう声をかけてもらえたことで、6年前に贈った隊服もそうだったけれど、私が贈ったプレゼントを、セオドアがずっと大切に思って、何年も大事にしてくれていることを知っているだけに、今回の衣装についても、そう言ってもらえて嬉しいなと思う。
そうして……。
初日は、どうしても色々な準備などで、バタバタしてしまうだろうからと、ノエル殿下やダヴェンポート卿などから配慮してもらえたことで。
今日の朝ご飯は、使用人頭のアルフさんや、その他の侍女達などから、初めて、ソマリアに来た時の夕食時のように、ほかほかで焼きたての、挽肉とマッシュポテトなどを中に入れ込んで、スコーンをちょっとだけ柔らかくしたような、ポアチャと呼ばれる伝統的なお惣菜パンなど、複数のパンを数種類用意してもらえていたり。
ソマリアでは古くから愛されているという、魚介類と、タマネギ、トマトなどを煮込んだブイヤベースというスープなどを続々と運んできてもらえて、この部屋で、みんなと一緒に、気兼ねなく頂くことになった。
それから、あまり時間がないこともあり、手早く食事を終えたあと、私達は、先に食事を終えて待ってくれていたノエル殿下や、レイアード殿下、バエルさんといった面々と合流して、ソマリアが用意してくれた馬車に乗り込んだあと、王城からそんなに離れていない距離にある学院へとみんなで向かうことにした。
今回の留学にあたっては、宰相であるダヴェンポート卿や、外交官のヨハネスさんなども、度々、私達の様子を見に学院まで視察に来てくれたりするみたいだし、なんと、今回、シュタインベルクからも一人、私達がソマリアで生活をしていくにあたって、サポートの任に就いてくれる人がいるみたい。
その人は、シュタインベルク人でありながらも、ソマリアでの文化などにも詳しい人らしく、何かと私達の力になってくれるのではないかということと、王城に勤めているソマリア側の人達とも親交があって繋がりが深い人だということもあって、白羽の矢が立ったんだとか。
『一体、どんな人なんだろう……?
きっと、初めて出会う人だよね……?
少なからず、ソマリアで一緒に過ごすうちは、ほんの少しでも親しくなれたら良いな……っ!』
――もちろん、その人が、シュタインベルクで、どんな派閥に属しているのかにもよって変わってくるだろうけど。
私が頭の中で、その人が、どんな人なのかということを考えていると、ソマリアの王都の街並みを走っていた馬車は、あっという間に、王城よりも一回りほど小さい建物がある敷地内へと到着していた。
シュタインベルクでも貴族の邸宅などの門としてよく見られるけれど、華やかな鉄細工の造形として、装飾が施された黒色の豪華な門扉の中をくぐると、手入れが行き届いた幾何学式庭園に噴水や彫像が建てられていて、王城ほどではないものの重厚感があり、柱や建物などに細かく彫刻が施された全体的に煌びやかな雰囲気の学院が見えてきたことで、この学院が、ソマリアの王族達からも重要視されている場所だということが、私にも、しっかりと伝わってくるほどだった。
それもそのはずで、ここは、ソマリアが世界に誇る、一般的な勉強過程を学び終えたあとの人達が通うことになる、学術の研究に関する『教育の最高機関』として名高い場所だからだろう。
「ソマリアの王城も煌びやかな雰囲気でしたけど、この学院も華やかで、敷地も、凄く広いですね……っ!」
「あぁ、そうなんだ、アリス姫。
ここは、我が国、ソマリアにとっても、重要な要となる場所だからな。
他国から来る人間などは、まだまだ、あまりいないが、それでも、有り難いことに、この場で勉強して学びたいと思うような人間も多くいるし、この場所が、誇り高い場所であることは間違いない。
……なっ、そうだよな、レイアード」
「……っっ、あ、えっと、はい……。そうですねっ、兄上……」
そうして、馬車から降りた私が、学院を一度だけ、ぐるっと見渡してから声をかけると、直ぐ横で、ノエル殿下が、さらりと私の質問に答えてくれたあと、普段、自分から、あまり積極的には、中々、話してくれることがない、レイアード殿下にも話を振ってくれた。
この1週間、日増しに、レイアード殿下の視線は、最初に出会った頃よりも悪化するように浮かないものになっていき。
私達が優しく声をかける度に、その表情が、どこか硬くなっていっている気がして、私は、セオドアや、お兄様、ルーカスさん、そうしてアルとも話し合い、彼のことについては、なるべく気にかけるようにしていた。
とはいっても、私自身も、なるべくその目を見て話すようにしていることもあってか、視線を向けることで、目が合うと、レイアード殿下は慌てたように、私から視線をそらしてしまうんだけど。
『この一週間、こんなふうに、ずっと素っ気ない感じだから、ちょっとだけ、心にきてしまうかも……っ!』
そうして、広い敷地内にある専用の場所に、ソマリアの王族の証しである紋章の入った馬車が停まると、やっぱり、どうしても目立ってしまうのは避けられなかったみたいで……。
私達自身、留学初日だということもあって、学院生活に早く慣れるために、簡単に施設内の見学として、ノエル殿下と、ノエル殿下のお付きであるバエルさん……、それから、一国の王子として、一応、私達の相手もしなければいけないとは感じているみたいで、レイアード殿下も一緒に、学院を案内してくれることとなり……。
これでも、大分早い時間に出発して王城を出たんだけど、ここが、成人を終えた貴族の人達が通う場所だということもあって、数は多くないものの、ちらほらと敷地内にいた、ドレス姿やタキシード姿の人達から、あからさまに、此方のことを気にした様子で、注目されるという状態になってしまっていて……。
『シュタインベルクでもそうだけど、周りから注目されてしまうことには、いつになっても、本当に全然慣れないな……っ!』
と、感じつつも、私は、一国の皇女としての立場で外交に来ているのだからと、なるべく周りの人達から見た時には、皇女として、清らかで正しい振る舞いに見えるよう気を付けながら……。
「いよいよ、学院にも到着したことですし、先に、重要な施設について、ご案内させていただきますねっ!
皆様、私に付いて来て下さい」
と、代表して、色々と説明をしてくれることになったバエルさんの先導のもと、ノエル殿下やレイアード殿下もこの場にいてくれつつ、三人の後ろを、セオドアや、お兄様達と一緒に、案内に従って付いていくことにした。
学院の中は、迷ってしまいそうなくらいに広々としていて、上流階級である貴族達が通うことから、5階建ての建造物として華やかな雰囲気の場所になっていて……。
バエルさん曰く、私が今回通うことになる『魔法研究科』は、魔女や赤を持つ者達への人権を守る法律などに関しては、シュタインベルクよりも遅れをとっているというけれど、ノエル殿下が『魔女に関する研究のスペシャリストであり、第一人者』と公言していることで、5年ほど前に、ギュスターヴ国王陛下の指示で、ノエル殿下が講師として就任し、比較的、新しく生まれた科として、この学院の一番上の5階に、勉強のための部屋が用意されているみたい。
――ということは、私は、生徒と講師という立場で、ノエル殿下から色々と勉強を教えてもらえるっていうことだよね?
『それなら、これから、ノエル殿下とは、更に親睦を深めることが出来そうかな……っ?』
私が、内心でそう思ったところで、何故か、セオドアも、ウィリアムお兄様も、ルーカスさんも、そうして、アルまでもが、もの凄く微妙そうな表情で、私とノエル殿下のことを見つめていて、それに気付いたノエル殿下が。
「いやぁ、アリス姫が俺の科に通ってくれるようになるなんて、こんなにも嬉しいことはないな……っ!
これから、是非とも、講師と生徒として宜しく頼む。
……アリス姫には、俺の科で色々なことを学んでもらいたいっ!」
と、私に笑顔を向けてくれながら、どこまでも、本心からではなく、敢えてとぼけたような様子で、あっけらかんと言い放ったことで、ルーカスさんから……。
「ていうか、そうなることが分かった上で、この国に、お姫様のことを呼んだんでしょっ?
自分が、そうなるように手配したくせに、何で、今知って、驚いたみたいな雰囲気を出してんだよ……っ!」
と、真っ当に、突っ込まれてしまったあと、『俺も同感だ』と声を出してくれたウィリアムお兄様と、厳しい視線を向けながら、ノエル殿下のことを訝しむように見つめるセオドア……、そうして、アルからも、ジトッとした瞳で見られてしまっていたけれど、ノエル殿下は、まるで気にしていない様子で……。
「まぁまぁ、みんな、そんなに恐い顔してちゃ、人生楽しくないだろっ!
俺は、自分の欲求については我慢しないことにしてるし、人生ってのは、ただでさえ短いんだ。
祭りも、花も、人の人生そのものも、それから、一国だろうと、結局、みんな同じだ。
どんなものにも、永遠なんてものはない。
だからこそ、栄華を極めたものの何もかもが、艶やかに華やいでは終わっていくような……、美しいものが散っていく様には風情ってものがある。
短い人生のうちに、欲望に素直になって、何でも、ド派手に楽しまないとなっ!」
と、からからとした笑顔で、あまりにも突然、そんなふうに考えさせられるような、ドキッとするような事を言ってくるものだから、私はノエル殿下のその言葉にビックリしてしまった。
ここまでの間に、多少、仲良くはなってきたつもりだけど、今の言葉の大半に、ノエル殿下の人生観が込められているのかな……?
どういう意図があって、そんな言葉を出したのだろうと、その瞳を真っ直ぐに見つめてみたけれど、その瞳の奥からは、ただただ、私達に対する明るい視線があるだけで、何も見えてこない。
「皆様、本当に申し訳ありません。……ノエル殿下は、このような方なんです。
ノエル殿下に付き合っていると、話が進みませんので、案内に戻らせていただきますね……!」
そうして、私がノエル殿下に気を取られている間に、バエルさんが説明を再開してくれたことで、慌ててバエルさんの方に視線を向けてから……。
「一応、この学院では、世界各地から幅広く高名な学者を雇っており、ノエル殿下が講師を務める魔女研究科以外にも、生物学や天文学を学べるような学科があったり、経済学の学科や、哲学、物理学に関する学科など、専門的な分野で複数の学科があることも、我が国の自慢となっています。
それから……、あぁ、丁度良い所に……っ、皆さん、この窓から見える外では、今現在、騎士科に在籍する方達が訓練をしているのですが、見えますか……?
騎士科の講師を務めている者の中には、セオドアさん、あなたと同じで、ノクスの民である講師も在籍していて、凄く優秀な人なんですよ」
と、続けて、バエルさんの口から、学院に関する色々な説明が降ってきたことで、私は、バエルさんの目線の先に沿うように、廊下の窓から、学院の敷地である外へと視線を向けた。
お城の内部にあるような、大きな窓が幾つも並んでいて、床には絨毯が敷き詰められ、高級そうな調度品などが品良く置かれているこの学院の廊下から見える、外の敷地内にある大きな訓練場では、朝早くから来ているのか、多分だけど、自主的に、騎士科に通っている人達が剣を振って、その腕を磨くように鍛錬をしていて。
ここからは、人が小さくて、そこまでしっかりと、その剣技などについては見ることが出来なかったものの、騎士科の講師として、セオドアと同じ、ノクスの民の人がいるだなんて思ってもおらず、私は、バエルさんの言葉に、ビックリしてしまった。
「あぁ、3年ほど前から、うちの国で講師をしてくれてるんだ。
アリス姫の護衛騎士である、セオドアも、剣の腕がかなり立つって聞いているが、うちにいる講師も、なかなかの腕前だぞっ!
セオドアは、メインでは、魔法研究科に通う、アリス姫に付きながらも、騎士科へと行くのも許可されてるっていうのも聞いているから、多分だけど、そのうち、手合わせ出来るんじゃないかっ?」
「……そうっ……。
これは、うちの国……、ソマリアも……、シュタインベルクには、恥じないようって……。
そういった人権を、保護するような施策の一環で……。うちの、父上が決められたこと……」
そうして、ノエル殿下の説明に、今まで喋らなかったレイアード殿下が、突然、話に入ってきてくれたことで、私は、ちょっとだけ驚きつつも……。
レイアード殿下の気持ちが、どんなものであろうとも、こうして、少しでも、話しかけてくれようと思ってくれたのだとしたら、交流を深める意味合いでも凄く良いことだと思うと感じながら、レイアード殿下の方へと柔らかい笑顔を向けて、『そうだったんですね』と声をかける。
ノエル殿下や、レイアード殿下の話だけを聞いていると、ギュスターヴ王は、やっぱり世間で噂されているような名君で間違いないのだとは思うんだけど。
まだまだ、私達がギュスターヴ王のことを、あまり知らないから、ノエル殿下や、レイアード殿下が語ってくれるギュスターヴ王と、実際の、ギュスターヴ王の姿に、ほんの少しの違和感を感じてしまうんだろうか……?
それから、私達は、順調に、バエルさんに学院内を案内してもらって、お昼ご飯を食べための部屋として完備されている食堂へと行ったあと。
ソマリアの女性専用の学科で、学院内にある礼拝堂によって、毎日礼拝を欠かさずに行ったり、それまで以上に、マナーや、礼儀を学び、芸術などの方面にも特化し、音楽や美術などを嗜むような学科として……。
国内にいる貴族のご令嬢の中でも爵位が上の選ばれた令嬢達が、他国の重要な臣下などに嫁ぐために、色々と勉強をすることが出来る学科などもあると教えてもらってから、普段、授業を行ってくれる学者などといった講師達が集まる執務室のような部屋へと通してもらえたことで。
この学院の講師全員が揃っている訳ではないけれど『この度、ソマリアへ外交のためにやってきた、シュタインベルクの皇女である、アリスフォン・シュタインベルクです』と、何人かの講師の人達に、挨拶をさせてもらうことが出来た。
そのあと、まだまだ、行っていないところなどもあるけれど、これから早速、授業が始まるとのことで……。
「それじゃぁ、アリス姫と、アルフレッドと、セオドアは、俺とレイアードと一緒に、魔法研究科に行こうか」
と、ノエル殿下に声をかけてもらえたことで、私は、セオドアと、アルと一緒に、この学院で講師を務める予定になっているウィリアムお兄様とルーカスさんとも別れて、勿論、バエルさんも私達と一緒に来てくれるみたいだけど、それまで説明してくれていたバエルさんと交代するように案内してくれ始めたノエル殿下に付いていくことにした。