507 初めてのカジノ(後編)
此方、元々、507話として、同じ『初めてのカジノ』という題名で、前編と後編に分かれておらず、一つのお話だったのですが。
このたび、個人的に、あまりにも長くて読みにくかったなぁと感じたので、二話分にわけて、投稿する運びとなりました……!
(元々は、1万4千字くらいありました……っ(汗))
なので、どちらも507話として、前編、後編に分けさせて頂いております……!
お話の内容自体は、全く変わっておりませんので『もう、読んだよっ!』という読者様の方は、是非とも安心して頂ければ幸いです……!
何卒、宜しくお願いいたします……!
(此方のメッセージは、既存の読者様用に改稿の通知が行くため、前編、後編のどちらにも、前書きとして記載させて頂いています)
「ありがとうございます……っ!
まさか、勝てるだなんて思ってもいなかったので、そう言ってもらえると、とっても嬉しいです。
次のゲームも一緒に頑張りましょうね……っ!」
そんな感じで、オルブライトさんが、もの凄くいい人だったことから、『ええ、勿論です。それなら、次のゲームは、皇女様の幸運にあやかって、私も同じところに賭けることにするとしましょう』などと、お互いに、パァァッと明るい笑顔で、どこまでもほのぼのとした会話の遣り取りをしつつ。
このゲーム自体、複数回、遊ぶことが出来るようにと、なるべく席に着いているお客さんの意向が優先されて、一回、一回、ゲームの終了時に、次も継続してゲームをするかどうかを決めることが出来るということで、私も、オルブライトさんも含めて、この場にいた5人のお客さんが変わることはなく、次のゲームが始まろうとしていていて……。
『姫さん、次のゲームは、どこに賭けるつもりなんだ?』とセオドアに問いかけられたことで。
『今度は、バンカーと、プレイヤー側のどっちに賭けようかな……っ?
さっき、プレイヤー側の勝利だったから、次は、バンカー側の勝利になるかもしれないし……っ!
高配当の引き分けもあるけど、どうしよう……っ!?』
と、私は、ううんと頭を悩ませながらも、オルブライトさんも私が選んだところに賭けるって言ってくれているし、もの凄く責任重大だなぁと感じつつ、まだ、カードなども置かれていないテーブルの上へと視線を向けて、次に賭ける内容を、プレイヤー側と、バンカー側のどちらにしようか、それとも、確率は10%ほどしかないけれど、高配当の引き分けを狙うべきかと、一生懸命、頭の中で考えていく。
それでも、やっぱり、頭の中で色々と思い悩むほどに訳が分からなくなって、ごちゃごちゃとしてきてしまうことから、『これはもう、直感で行くしかない……っ』と、私自身は、元々、勝っても負けても、その雰囲気を楽しめれば充分だったから、折角カジノに来たんだし、この空気感を最大限に楽しみたいと感じて、いつ終わってもいいように、普段はあまりしない遣り方として、こういう時くらいは、なるべく、一気に賭けてみようと、もう一度、手持ちのお金の殆どを、今度は、バンカー側に賭けることにしてみたんだけど……。
カードをフルオープンしてくれたディーラーさんの声かけにより……。
「……それでは、発表させて頂きます……っ!
プレイヤー側の下一桁の数字が5で、バンカー側が7ですので、バンカー側の方の勝利ですっっ!」
バンカー側に賭けていらっしゃった方、本当に、おめでとうございますっ!」
と、まさかの次も当ててしまう展開になり、さらに、3回目、4回目も自分が賭けた方が勝利したことで予想が的中し、元手が5000ゴルドしかなかったのに、1万から2万、そして、4万、更に、その倍となり、気付けば、順調に、約8万ゴルドまでお金が増えていき、周りの人達がざわつき始めた上で、私が賭ける方にずっと賭けてくれていたオルブライトさんからも……。
「皇女様、本当に凄いですっっっ! 貴女様は、この場に舞い降りた幸運の天使に違いありませんっっ!」
と、大喜びで、感激した様子で、思いっきり感謝されるような事態にまで発展してしまった。
それを見て、面白くなさそうな表情を浮かべたのは、最初から負けが続いているのかなと感じていた神経質そうな貴族の男性で、一回だけ当てた瞬間もあったものの、勝負に使ったお金の方が明らかに多いみたいで、全く儲けることは出来ておらず、使ったお金の額すら回収することが出来ていなさそうな雰囲気で、私に対して直接的に何かをしてくる訳ではないけれど、目に見えて、苛立ちを募らせた様子で、どんどんと不機嫌になっていくのが目に入ってきた。
その上で、次はどれに賭けようかと私は頭を悩ませてみたんだけど、理論上は、10回やって1回くらいの確率で引き分けになることもあるんだよねと感じながら、私は、ちょっとだけ自分のお金にも余裕が出てきたことで……。
「次は、引き分けに賭けてみようと思うんですけど、当たらなかったら、本当に申し訳ないので、もし宜しければ、オルブライトさんは、バンカー側かプレイヤー側のどちらかに賭けて下さっても、全然、大丈夫ですからね……っ」
と、私自身、今までは取らなかった選択肢に冒険してみようと、8万の全てを賭けるのは、少し恐いなと感じて、3万ゴルド分だけ残して5万ゴルド賭けてみようと思ったんだけど……。
私が決めた内容を見て、流石に、今度こそ当たることはないだろうといった感じで、周りの人達の間で、私の連勝記録もここまでだろうという雰囲気が漂い始めると……。
「……まぁっ、ここまでは、素晴らしかったと思いますが。
幾ら、皇女様にツキが付いていようとも、流石に、それが当たることはないでしょうねっ……!」
と、自分の中に溜まってしまったフラストレーションとして、ムカムカした気持ちを、ほんの僅かでも外に放出したいと思ったのか、不敬にならずに問題にならない範囲で、私に対して声を出してきた神経質そうな貴族の男性に……。
「いいえ、誰が何と言おうとも、私は、ここまで来たら、皇女様の幸運に賭けてみたいと思っています……っ! 何といっても、皇女様は、私にとっては、幸せを運んで下さる女神様ですからっ!」
と、私が賭ける内容に付いてきてくれると言わんばかりに、さらっと天使から女神へと格上げして私のことを持ちあげてくれ始めたオルブライトさんに、私は、当たらなかった時のことを考えて『外れていたら、本当に申し訳なく思っちゃうな……』と思いつつも、そう言ってもらえているのなら、気にせず、引き分けに賭けることにしようという思いで、思い切って、テーブルの上に、5万ゴルド分のチップを置くことにした。
その上で勝っても負けても、ハイリスクハイリターンなこの勝負で……。
ディラーさんの手によって、バンカー側と、プレイヤー側に2枚ずつカードが配られることになると、バンカー側の数字は、ハートの6とダイヤの7で合わせて13、下一桁の数字は3に。
プレイヤー側の数字は、クローバーのエースと、ハートの4で、下一桁の数は5になったことで、双方ともに、三枚目のカードが引かれることになって、このバカラというゲームでは、この一瞬が、一番緊張してしまうものだけど、私はことの成り行きを見守るごとに『どうなるんだろう……?』と、ちょっとだけハラハラとしつつも、感情が高まって、祈るような気持ちでテーブルの上を見つめながら、思わず息を止めて手に汗を握ってしまった。
「では、皆様、ご注目下さいっ!
バンカーと、プレイヤーの双方に、1枚ずつ、3枚目のカードが配られることになりましたっ!
カードを、同時に、オープンしていきましょうっっ!」
そうして、ディーラーさんが、バンカーと、プレイヤー側にカードを伏せた状態で3枚目のカードとして1枚ずつカードを配ってくれたあと、焦らすように、ゆっくりと時間をかけて、私達に見えるようカードの表面が見えるように捲ってくれると、バンカー側のカードで見えたのは、スペードの9、そして、プレイヤー側のカードで見えたのはクローバーの7ということで、一瞬、どちらとも、足すと二桁を超える数字になることから、どちらの数字が大きいのか、その勝敗の行方が分からなかったんだけど……。
「バンカーが13だったことから、9を足して22、下一桁の数字は2になりますっっ!
そして、な……っ、なんとっ、プレイヤー側の数字が5だったことから、7を足して12っ! 下一桁の数字は、これまた、同じで2となりますので、よって、この勝負は、引き分けとなります……っ!」
と、それまで、盛り上げられるだけ盛り上げてくれていた、ディーラーさんの声が驚いたようなものへと変わっていくと、一気に、これまで周りで観戦していた人達の視線が私の方へと向いたかと思ったら、『わぁぁぁぁっ……!!』という、溢れんばかりの歓声の渦が、この場を支配するように広がっていき、その中心で、まさか、当たるとも思っていなかった私は、1人、戸惑いながらも……。
『えっと……、今、5万ゴルド賭けたから、それが9倍になってしまったっていうことは……』
と、全く実感もわかないような状態で……。
『わ……っ、まっ、待って……っ、どうしようっ!? これって、本当に、現実なのかなっ?
数えてみると、もの凄く大変なことになってしまっているかも……!
だって、もしかして、5万ゴルドだったお金が、一気に45万ゴルドまで、跳ね上がってしまうことになったんじゃ……っ!?』
と、カジノで一攫千金を夢見て一夜にして大金を稼ごうとする人だっているみたいだけど、まさかの膨れ上がり方に、たった10分くらいの間に、こんなにも大金が稼げてしまうことになるだなんて、と、私は、いきなり目の前に訪れてしまった現実に、くらりと目眩がしそうになってしまった。
「わぁぁぁっ、皇女様、やっぱり貴女様は、我が国きっての勝利の女神に違いありませんっ!
本当にありがとうございますっっ!
私自身、最初のゲームで大金を掛けて負けてしまっていたことで、少なくない金額を損失してしまっていましたが、皇女様のお陰で、最初のお金が戻ってきたばかりか、懐もプラスで潤っていますっ!」
そうして、オルブライトさんにぎゅっと手を握られながらも、感謝をするようにそう言われたことで、私は自分が賭けに勝ってお金を手にするようになったことも、勿論、嬉しいことではあったけれど、そう言ってもらえると、オルブライトさんの役に立てたことが何よりも嬉しいなぁと感じつつ、にこにこと微笑みながら『オルブライトさんのお役に立てたなら良かったです……っ!』と、声をかけることにした。
その姿を見て、セオドアやアルからも『姫さん、本当に凄いな……っ! 一度も外さずに、連続して5回も当てるだなんて、滅多にないことだと思うぞ』だとか、『うむっ! 一攫千金というのは、こういうことを言うのだな……! アリスは、賭け事の才能もあるな』といった感じで、私のことを、絶賛するように褒めてくれるのが聞こえてくると、周りの人達も含めて、更に、この場の空気がお祝いムードに包まれていったんだっけど……。
「……こんなの、可笑しいだろっっ!
どう考えても、皇女様だからって、運営側が忖度してるんじゃないだろうなっ!?
5回も連続で、それも、当てるのが難しい引き分けまで見事に的中させるだなんてこと、平然とやってのけられる訳がない!
騙されるんじゃないぞ、お前達……っ!
皇女様だっていうことで、客寄せか何かの目的で、運営側と、何かしら繋がっているのではないかっ?
絶対に、カラクリがあるに違いないはずだし……っっ! 俺は、納得出来ないっっっ!」
と、どうにも、腹の虫が収まらなかった様子で、乱暴に椅子から立ち上がったあと、此方に向かって大きな声で吠えるように声を出してきたその人に、水を差されるかのように、この場がシーンと静まり返ったことで、声の主の方へと一斉に視線が集まった上で、空気が凍り付いてしまった。
そうして……。
私の隣で、不愉快そうに眉を寄せながら、険しい表情を浮かべてくれたセオドアが、突然、騒ぎ始めたその人の方へと近寄って、この場を収めてくれようとしてくれて……。
「オイ、適当な言いがかりで、姫さんのことを侮辱して貶めようとするんじゃねぇぞ。
どっからどう見ても、イカサマなんて何もしてなくて、姫さんは、ただ単純に真っ当な遣り方でカジノを楽しんでいただけだろうが。
姫さんが、ディーラーと不自然な遣り取りをする瞬間があったか? そんな瞬間、一度もなかったし、俺の主君は、そんな卑怯な真似をするような人じゃねぇんだよ」
と、私の護衛騎士として注意するように声を出してくれるのが見えると、それでも、納得がいっていなくて、目の前の貴族の男性が更に言い募ろうと『ですが、どう考えても……っ!』と、口を開きかけて、私達の方へと前のめりになって近づいてこようとしたところで……。
「あーあ、その目は、本当に節穴か、ってな。
喧嘩も、祭りも、賭け事も、派手にやるのが粋だっていうけどよ、お祝いムードに水を差すようなことまでしてちゃ、ちょっとばかり、おいたが過ぎるんじゃねぇかっ?
俺の目から見ても、シュタインベルクの皇女様には、何の不正も見られなかったけどな……!」
と、この場において、パッと、華やかなまでに、どこまでもよく通る第三者の声が、沢山の人の間をすり抜けるように聞こえてきたことで、私自身、驚いて、そちらへと振り返ると……。
「初めまして。シュタインベルク皇女、アリス姫。
ソマリアの第一皇子、ノエル・フラン・グレイグです。
美しい方だと、兼々、噂では聞いていましたが、想像以上のようですね。
ずっとお目に掛かりたいと思っていました。あなたに出会えて光栄です」
と、深い海のような色を思わせるネイビーブルーの髪色に、肩くらいまでのやや長めの髪の毛で、耳や、指に目立つような赤色のピアスや指輪を複数個つけ、何よりも、黒と赤で、リバーシブルになっている派手なマントが特徴的な、20代前半くらいの、ルーカスさんやお兄様と同い年くらいの人の姿が見えたことで、私は思わず息を呑み……。
――この人が、ソマリアで、好んで赤を身に纏うと言われている風変わりな技術屋と評判の、第一皇子……っ、!
と、突然の、派手な感じの登場に、一体、何故『ソマリア行き』のこの船に、彼が乗っているのかまで含めて疑問に思いながらも、私は、私に向かって、堂々とした様子で笑顔を向けてくる、その人の方へと釘付けになってしまった。