484 悲しい過去と、お母様の気持ち
お母様が、お父様に対して、そういった想いを募らせていたことを、お父様自身も今まで知らなかったこともあり、驚いた様子で、色々なものが綯い交ぜになったような感情を抱いたのか、沈痛な面持ちで、お母様の日記に目を通していた。
私自身も、お父様とお母様がデビュタントの時に、二人きりになっていたことを知らなかったため、お母様の日記の内容を読むことが、お父様とお母様の関係性を知るための第一歩になるのだと、そのことに凄く複雑な感情は抱いてしまったものの、日記の内容に書かれているお母様と、お父様の出会いや、その時にお母様がどう思ったのかなどといったことを、この機会に、きちんと知れることで、当時のお母様とお父様に、どうしても思いを馳せざるを得なかった。
デビュタントを終えたあと、二人のことを見守っていた大人達が気を利かせて公爵邸の広い庭で、お父様とお母様が、二人きりになれるような時間を作ったというのは、先ほど読んだお母様の日記からも、伝わってきたと思うんだけど……。
当時、お父様に出会えたことが余程嬉しかったのか、10歳の頃のお母様の可愛らしい文字で書かれたお母様が書いたお父様に関する日記の内容は、それだけではなく……。
お母様の淡い恋心や、優しい時間の思い出を日記の中に閉じ込めていつまでも残しておきたいというように、公爵邸の広い庭にあるガーデンアーチのもとで、お父様と初めて対面して、言葉を交わしたことなどが、ふんだんに書き記されていた。
――小さい頃のお母様は、凄く純粋な子供だったというのが分かるくらいに……。
当時、お母様と5歳違いだったお父様は、既に15歳という年齢であり、お母様は、お父様の姿を見た瞬間から胸の高鳴りが抑えられなくなって、思わず赤面してしまったほどだったみたい。
それが、恥ずかしくて、ひたすら、何て話しかければいいのか分からずに、もじもじしてしまっていたら『もしかしてだけど、体調が悪いのか……?』と、お父様に心配されて、嬉しい気持ちと共に『少し気分が優れないかもしれません。……でもっ、あの……っ、全然大丈夫です』と、慌てて返答してしまい、そのことを少し後悔してしまったことや……。
お父様を前にすると、緊張から、どうしても上手く話せなくなってしまったけれど……。
それでも、お父様は凄く優しくて、お母様が元々、病弱だったこともあり、お母様の言葉を真に受けて、心配から、お母様に自分の上着をかけるなど、あれこれと自分のことを気に掛けてくれたりして、舞い上がってしまったことなどが書かれていて……。
お父様を公爵邸の庭へと案内するうちに、ちょっとずつ距離を詰めるように、次第に打ち解けることが出来るようになってきたことがあまりにも嬉しくて、この人が、将来、自分の旦那さんになる人なのだと、その隣を歩きながら、終始ドキドキしてしまっていたみたいだった。
その上で、お父様と一緒に、初めてのデビュタントで緊張したことなどを話したりしている内に、『自分の時もそうだった』と、どう考えても、そうは思えないけど、お父様からそう言われたことで、自分のことを婚約者として気遣ってもらえているんだなと感じられて、お母様自身が、笑顔も見せることが出来るようになってきた頃……。
公爵邸の庭の中心にある、秋薔薇が咲き誇るガーデンアーチのもとまで辿り着いたことで足を止め、それまで他愛ない会話をしていたお父様から、庭に咲いているリンドウの花を一輪だけ、大事に摘んだあと、何気ない仕草で『似合うと思うぞ』と、お母様の髪に髪飾りとして挿してくれたことから、お母様は、もうそれだけで、嬉しい気持ちに包まれてしまったみたい。
そのあとで、『そなたは、咲き誇る大輪の艶やかな花よりも、こういう清楚で可憐な花の方がよく似合う』と笑顔を向けられたことで、きっと、自分だけが、こんなにもドキドキして意識をしているだけで、お父様にはそのつもりは全くないんだろうなと感じながらも、あまりにも幸せな気持ちで、お父様のことを見上げるのが精一杯だったんだそう……っ。
その時に、お父様から貰ったリンドウの花が、お母様にとっては、何よりも大事な花になり、どうしてもお父様から貰ったそのリンドウを枯らすことが出来ないと感じて、押し花にすることで紙に貼り、最終的に栞にして、この日記の中に大切に保管するつもりだということも書かれていて……。
実際に、お母様は、その栞を亡くなるまで大事に取っていたことが明らかになり、現物が、この日記の中に挟まれていたことで、お父様自身が、そのことを知らなかったと凄く後悔したような瞳で、その栞のことをただ真っ直ぐに見つめているのが見えて、私は胸が痛くなってきてしまった。
生前、お母様が、リンドウを、こよなく愛していたのには、そういった理由があったんだと知れたことで、リンドウの花を大事に部屋に飾って、それを見つめているお母様の瞳に宿る愛しさと寂しさのようなものの意味が、私にも、漸く、ここに来て、理解出来ていると思う。
今まで、私達が外出するのを禁止されていたこともあり、お父様がお母様のことを大事に思ってくれているのは私も理解していたし、その視線からも明らかだったけれど、それだけではなく、今、この瞬間、お母様がお父様に恋心を持っていたと知って、明らかに動揺し、お父様自身もお母様について、ぽつりと誰に聞かせる訳でもなく、『私も、彼女のことが、大切だったのだと思う……』と、声に出してくれたことで、私は、驚いて目を瞬かせてしまった。
お父様の口から、お母様に嫌われているかもしれないという話は今までにも出てきたことがあるものの、お父様の口から、自分がお母様にどのような感情を抱いていたのかは、聞いたことがなかったから、お母様のことを『大切だったのだと思う』という言葉が聞けただけでも嬉しくて、私は、胸がいっぱいになってしまった。
お母様の淡い恋心のようなものも、今のお父様のお母様に対する気持ちについても……。
――私にはまだ、そういう気持ちは、全然理解出来ないけれど、これから先の未来で、そういった気持ちも知っていくのかな……っ?
お母様が大切に心の奥底に仕舞っていた、お父様とお母様のそんな思い出の風景を、私が知ってもいいものなのかどうかすら分からずに、思いがけず知ってしまったことで、思わず、ドキドキしてしまったんだけど……。
この瞬間に、少しでも、お母様のそういった気持ちが垣間見れることが出来たのは、良かったことだったのかもしれない。
それでも……、その後に続いて、綴られていた日記によると、お母様が10歳の子供の頃からずっと、周りの令嬢達から受けていた暴言により、精神的な苦痛を感じていたのは間違いなく。
この日に感じた、淡い恋心さえも、言葉の暴力で徐々に侵食するような影となり、やがては、お父様の心が一切、自分には向いていないのだと、自信を無くしていったのが、私にも手に取るように伝わってきた。
その上で、幼い頃から受けていた虐めは次第にエスカレートしていき、暴力などは、お母様の高い身分を考慮してか、バレた時に大問題に発展してしまうからか、そういった類いのことは辛うじてされてこなかったみたいだけど、それでも、お母様が心身を病んでいってしまうには充分すぎるくらい、社交界に出る度に、影で、酷い罵声を浴びせさせられたり、ドレスを汚されたりなどといった悪質な嫌がらせに、辛い思いをしていて……。
お母様は、社交界に出ても次第に誰とも、距離を詰めるようなこともなく、煩わしいと嫌な表情を浮かべることで、人を寄せ付けなくなり、いつも気怠そうな雰囲気を纏わせることで、自分の身を守るようになっていったみたいなんだけど。
そうだったとしても、嫌がらせのようなものが一切なくなる訳ではなく、酷い時には、集団で寄って集って周囲を囲まれたあと、周りの令嬢達から責められるような状況さえもあったみたい。
そうして……、テレーゼ様が、お父様の第2妃としての婚約者になったのが世間に知らされたことで、もう既に、こんな自分を愛してもらえるはずがないと思っていたお母様にとって、その報告は、今まで保ってきていた、自尊心にヒビが入ってしまい、足下がぐらぐらと揺れてしまう感覚に、まるで崖下に突き落とされたような気持ちがして、凄く苦しかったのだと綴られていて……。
私自身、お父様からは、『お母様のために、テレーゼ様と、どちらにとっても利益のある政略的な結婚をしたのだ』と聞いていただけに、お母様のその勘違いについては、どうしても胸が痛くなってきてしまった。
――今のお父様の姿を見れば、お母様がお父様に大切にされていなかったなんてことは、先ずあり得ないと、分かってしまうだけに、余計……。
お母様の心情がどんどん詳らかに、明らかになっていくに連れて、お父様とお祖父様の表情が硬くなり、以前、お父様は、そのことを公爵の口から伝えてくれているものだと思っていたと言っていたけれど、多分、お祖父様のこの表情を見る限りでは、お祖父様自身もお母様にそのことを伝えるのは憚られて、どちらも、お母様にそのことを詳しく説明していなかったのだと思う。
私自身も以前、思ったことがあったけど、初めてお祖父様に会った時、お祖父様は皇宮で皇后という大役を果たさなければいけないと決まっていたお母様のことを厳しく育ててしまったと後悔している様子だったし……。
たとえ、第二妃という立場であろうとも……、それが、お母様のためになることで、お父様とテレーゼ様の間でお互いに利害の一致する政略結婚だったのだとしても、自分の娘よりも先に、テレーゼ様がお父様と結婚することになったというのは、お祖父様からすると、きっと、心中では、もの凄く複雑だったはず。
だからこそ、娘のことを思うと言い出せなかったというのは、私にも理解出来るし、お父様がその当時、本気で、お母様のことを考えて、病弱なお母様のためにテレーゼ様を『第二妃』にすると説明していたとしても、お祖父様がお父様のことを勘違いしていた可能性は、かなり高いんじゃないかと私は思う。
実際、私が、お祖父様と初めて会った時に、お父様のことをお祖父様が嫌っていた様子だったのは、お父様からすると不義理ではなかったことも……、お祖父様側からすると、本当は、お父様の本音の部分で、テレーゼ様と結婚したいと思っているのに、それを言えば、真っ向から反対されるだろうからと、お母様が病弱なのを理由にしていたんじゃないかと勘違いされていたとしても、何ら可笑しくないはずで……。
そこで、すれ違いや、行き違いのようなものが発生してしまっていることで、長年、そういったものが塵に積もって、お祖父様のお父様への悪感情のようなものに繋がっていってしまったのだろう……。
だからこそ、私が初めてお祖父様に会いに行ったあと、お祖父様とお父様の間で、どういった手紙の遣り取りがされていたのか、今まで私にはよく分からなかったけど……。
ウィリアムお兄様が私のデビュタントの時に言ってくれていたように、お祖父様が私のデビュタントに来ることが出来るよう、招待の手紙をお父様が出した時、ウィリアムお兄様は、お祖父様からの手紙が私達に届かなかった件で、私の検閲係をしていた三人が捕まったことについて、お父様が謝罪の手紙も一緒に出したという話をしてくれていたけれど……。
もしかしたら、その時に、お母様が亡くなってしまったことへの正式なお詫びなどもあって、『お母様のことを今まできちんと見ることが出来ていなくて後悔している』などといった言葉が、お父様が直筆で認めた手紙には、書かれていたんじゃないだろうか……?
だとしたら……、それまで怒っていたお祖父様の姿から一転して、恐らくだけど、孫娘である私のためを思って行動してくれていた部分も沢山あったと感じるものの、私のデビュタントの時に、お祖父様とお父様の間に流れていた気安い雰囲気や、冗談の言えるような間柄を垣間見ることが出来たのにも、納得することが出来る。
あの時のお父様も、お祖父様も、どちらも喧嘩をするように怒ってはいたものの、憎しみあうような、そんな嫌悪感の混じったような会話をしていた訳ではなかったし、お母様のことについても何の遺恨もないような様子で……、舅と義理の息子という間柄ではなく、親族に対する距離感があって、そこには皇族としての、叔父と甥の関係性が色濃く出たような遣り取りだったと私自身も記憶しているから、あの時点で、大分、和解していたことに、もの凄く、不思議には思ってしまったんだよね。
でも、そうだとしたら、全てにおいて合点がいって、その理由に説明が付いたことで、ストンと、そのことが私のお腹の中に落ちてくるような気がして、目の前が、パァァァッと明るくなって開けていくような感覚がした。
一方で、お父様とお祖父様の顔色を見ると、もう既に、当時のお母様のことを思って、自分に出来ることがあったんじゃないかと、もの凄く後悔した表情を浮かべていて……。
双方共に、いっそ、此方が心配になってしまうくらいに、顔色が凄く悪くなってしまっていた。
特に、お父様は、お母様にそういった意味で思われていたのだと全く自覚がなかった分だけ、『私も今までは、妹のように感じていたのだが……、思えば、出会った瞬間から、彼女の笑顔に惹かれていたのだと思う』と、私達に、自分の気持ちを吐き出すくらいには、心痛の面持ちで……。
「私は、ウィリアムや、ギゼルといった息子のこともそうだが、テレーゼも含めて、お前達のことも、きちんと見てやれていなくて……、本当に……っ、何が、父親だ……、何が、夫だ……っ、」
と、悔やんでも悔やみきれないほどに、唇を噛みしめて、普段の威厳があるお父様の姿とはかけ離れた様子で、苦しそうに俯いてしまった。
そうして、テレーゼ様が第二妃という立場になったことで、お母様の立場は、結果的に、それまで以上に悪いものになってしまって、お父様がお母様のことを思ってやったことが裏目に出てしまい、世間からの評判も高かったテレーゼ様と否応なしに比べられてしまう環境から、テレーゼ様とお父様が政略結婚だったと、何も知らなかったお母様は、社交界に出ることすら殆どしなくなり、病弱なのを理由にして、皇后宮に引きこもるようになってしまって……。
その上で、お母様自身が、周りから貶されてしまっていたことで、自己肯定感が低くなり、誰のことも信じられなくなっていき、10歳の時を境にして、我が儘や、癇癪のようなものも出るようになっていったことから、公爵家の人間からも、『きっと、もう、信頼さえもしてもらえていないだろう』と思い込んでしまっていたみたいで、頼れる人もいなくなり……。
それでも、一生懸命、お母様なりに、誰にも見えないところで努力を重ねて、皇后になるための勉強や、后としてのマナー、教育などは、きちんと続けていたみたいなんだけど、いつだって、お父様が公の場に連れて行く人は、テレーゼ様のことの方が多く……。
『陛下は、私のことをいつも、体調が悪いのだろう? 無理はしなくてもいい』と、気遣うようなフリばかりして、本当は、私のことなんて、見てもいないくせに……。
誰もが羨むような素晴らしい性格の持ち主で、誰もが尊敬する、第二妃になられたあの御方のことが心底大事に違いないと、ずっと勘違いして、苦しい胸の内を、日記にだけは、書き記していた。
今なら、それを『勘違いだった』と伝えることが出来るのにと……、きっと、この場にいる誰もがそう思ったことだろう。
今まで、お母様が自分が置かれた環境に苦しんでいたことについては、もう、どうしようもなく変えられないことではあるけれど、そうすることが出来たなら、お父様に、これほどまでに思われていたのだということを、ほんの少しでもお母様が知ることが出来て、嬉しい気持ちになれたかもしれないのに……。
私達がそんなふうに思いながらも、日記を読み進めていくと、とうとう……、『陛下に……、医者から、病弱なお前が産める子供は、生涯に、一人だけだと聞いているのだが、たった一人だけでも良い、私の子供を産まないかという打診があった』と、私のことに触れるような一文が、お母様の日記に書かれていて、私はひたすら、ドキドキしてしまった。
今、この場において『ほんの少しでも良いから、お母様が、私に良い印象を持ってくれていれば良いのにな』という淡い気持ちが、どうしても出てきてしまうのを抑えられなかったものの……。
それでも、お父様が、お母様と接する中で『子供を作ることには積極的ではなかった』と、お母様の当時の態度について教えてくれてはいたからこそ、お母様の日記で、自分自身が傷ついてしまう可能性の方が高いのは理解していて……、私自身、あまり期待だけはしないようにしようと、自分の心を、ひたすら落ち着かせるのだけに専念することにした。
そうして、お父様の指が、日記のページを、一枚捲ってくれると……。
【急に、陛下から子供のことを言われて戸惑ってしまった……。
後継者になるのは、ウィリアム殿下で間違いないはずなのではないだろうか……?
正直に言って、私自身、本当は、陛下の子供を産みたいという気持ちを持ってしまっている……っ。
どうして、あの方に、そんなふうに言ってもらえるのかは分からないけれど、それでも、たとえ、愛されていなかったとしても構わない。
大切な人の子供を産めることが、どれほど、私にとっては希望となり、嬉しいことなのか……っ。
あの方は、気紛れで声をかけてくれたのかもしれないけれど、それでも、あの方に、たった一度でも良い、愛情を向けられることがあるのなら、それすらも幸せに思う……っ】
という言葉が書かれていて、私は思わずビックリして、食い入るように、その日記の内容を見つめてしまった。
【そんな……っ、! お母様は、本当は、私を産みたかったの……っ!?】
――お父様から、お母様が子供を産むのに積極的になっていなかったという話は聞いていたから、私もお母様の本当の気持ちについては、そもそも私を産むことすら嫌だったのだろうなと思っていたんだけど……。
そうじゃなかったのだろうか……?
そのことに、あまりにも衝撃を受けすぎて、碌に、そのあとのことさえ、きちんと見れていなかったものの、それでも私が目を通した範囲では、お母様は『陛下に声をかけてもらえて、本当に嬉しい』と書いていた上で、それでも不安な気持ちの方が強くなってしまったのか……。
【陛下自身も気紛れかもしれないし、今更、どのような顔をして、陛下に自分も子供が欲しいだなんてことが言えるのか分からず、心とは裏腹に、全く、正反対の態度に出てしまった……。
呆れられていなければいいのだけど、私は、どうしていつも、このようなことしか出来ないのだろう。
ただでさえ、陛下のお荷物になっているというのに、これ以上、陛下に嫌われることだけは、避けたいのに……っ】
というふうに書いていて、私は否応なしに、お母様から本当は望まれて産みたいと思われていた子供だったのだと、心が沸き立ってしまう気持ちを抑えることが出来なかった。
だけど……、それでも……っ。
まるで、嬉しい気持ちが、ピシャリとそこで凍ってしまうかのように……。
それほど、それまで、子供を望んでいた様子だったお母様の嬉しい気持ちなどが、私が産まれてから、日を増すごとに萎んでいくように、それまでの内容と比べると、明らかに、口数が少ないとも思えるような分量の日記に変わっていき。
様々な感情が入り交じっていたのか、産後の自分の体調の変化などを書き記すのみで、私の誕生すら、あまり喜んでいないとも思える文面が続き、とうとう……、私が産まれて3ヶ月くらいが経った頃……。
「生まれてきた自分の子供が皇帝陛下に似た金髪で、金色の瞳をしていた子供だったなら、どれほど良かっただろう……。それなら、愛してあげられたかもしれない」
と書かれていて、私は、あまりにも、その言葉に衝撃を受けたあと、暫く呆然とするように、その場に一人、固まってしまった。