480 心臓を打ち抜く矢
「別に、俺は、甘くなどない……っ。
そもそも、俺がお前のことを、手放しに甘やかすと思うか……っ?
お前が罪を償った後からが、本当の戦いになってくるだろう……っ!?
一般の民衆はともかく、世間は、一度でも罪を犯してしまったお前に対して厳しいだろうし、その座を明け渡せと狙ってくる国内の貴族連中を相手にしながら、お前は逆境の中、自力で這い上がってくるしかないんだっ。
まぁ……、だが……っ、お前なら、そういったことも、しっかりと出来るだろう……っ?」
その上で……。
お兄様が、一見すると、その表情からも、厳しさしか感じられない真剣な顔をして出したその言葉の中に、親友としての確かな絆や愛情、信頼がふんだんに込められて、その表情からは考えつかないほどに、ルーカスさんに対しての優しさしかないというのが、私にも如実に伝わってきて……。
その言葉を聞いた『ルーカスさんの瞳』が驚愕に見開かれたあと、お兄様に対し、申し訳なさと有り難いという感謝の表情が強く宿りながら、ほんの僅かばかり、ふっと和らいだその瞳から、お兄様に対する厚い信頼が感じられたあと……。
「……あー、前言撤回っ。
本当に殿下ってば、手厳しいんだから……っ。
それって、俺に努力して、ここまで這い上がって来いよって、言ってるようなものでしょっ?
もちろん……っ、世間からの非難の目も、貴族達からの強い視線も覚悟の上で、また、一から生まれ変わったつもりで、罪を償いながら努力していきますとも……っ!
だからこそ……、今の俺が言えた義理ではないんだけど……っ。
今回の一件で、最大限配慮して下さった陛下の恩に報いるためにも……、殿下の気持ちに報いるためにも。
将来、殿下が陛下の跡を継いだ時、俺自身、国のためになるような臣下であるべきだし、エヴァンズ家の先代が今まで守り抜いてきた、その役目を全うすることこそが俺の使命で……、それが、これから先の未来においては、せめてもの罪滅ぼしになるだろうから……っ、頑張っていかなければいけないと思っているよ」
と……、ルーカスさんが、ウィリアムお兄様に向かって、自分が今まで犯してきたことに向き合いつつ、これから先の自分について、エヴァンズ家の次期侯爵として、国にとって貢献出来るような臣下であるべきだと声を出したのが聞こえてきた。
その言葉からは、お兄様の厳しくもあり優しくもある叱咤激励の言葉に対して、『どこまでも応えるつもりである』と、今、この瞬間からも努力し続けるのだという、ルーカスさんの覚悟が伝わってきて、私は、ルーカスさんからその言葉が聞けただけでも、もの凄く嬉しい気持ちになってしまった。
「その言葉が、お前の口から聞けただけでも、充分だ」
そうして……、お兄様が、そんな、ルーカスさんの方を見つめながら、ほんの少しだけ嬉しそうに口角を吊り上げたあと……。
『それから……、エヴァンズ侯爵からの伝言を言付かっているから、心して聞いて欲しいんだが』と、ルーカスさんに向かって声をかけるのが聞こえてくると……。
あの食事会の時以降、家族には誰にも会っていないであろうルーカスさんの表情が、ちょっとだけ強ばって、『親父から……?』と珍しく背筋を正しながら、僅かに不安そうな表情を浮かべたのが見えて、私は、このあとのお兄様の言葉がどんなものなのか分かっていつつも、お兄様とルーカスさんの方を、心配からドキドキと見つめてしまった。
「あぁ……っ、お前に対しての伝言だが、一回しか言わないから、きちんと聞いておけよ?
アリスがお前の妹を救って皇宮に帰ってきた時に、父上から直接、侯爵が言っていたのだと聞いたことも付け足しておくが……。
この大馬鹿者っっっ!
子供なんだからっ、家族に甘えたって良いし、一人で抱え込んで、とんでもないことをしでかそうとするな……っ!
お前が帰ってきても、エヴァンズ家自体は揺らがないんだから、安心して、罪を償ってこいっっ! ということだ。
……これだけじゃなくて、エヴァンズ侯爵夫人も、お前を心配して碌に寝られてもいない様子だったぞっ! ……この親不孝者め……っ!
みんな、お前のことを心配しているんだ……っ!」
その上で、ルーカスさんに、エヴァンズ邸で、エヴァンズ侯爵の口から言付かった内容が伝えられると『もっと厳しい言葉が降ってくるんじゃないか』と身構えて予想していたのか、そんなふうに、自分のことを思い遣ってくれる言葉が、お兄様や私に伝えられていたとは、夢にも思っていなかったみたいで……。
目に見えてルーカスさんの瞳から、『ソフィアさんの体調が問題なくなった』ということを聞いて、潤んでしまっていた涙が復活するかのように、一粒、一粒、ゆっくりと、まるで、その言葉を噛みしめるかの如く、ぽたぽたと、手の甲と、シーツを濡らすように、冷たい雫が溢れ落ちていくのが見えて、私はウィリアムお兄様の今の言葉に、補足するつもりで……。
「あの……っ、ルーカスさん……っ。
ルーカスさんのことを心配して、そういうふうに言葉をかけようとしていたのは、エヴァンズ侯爵だけではありませんよ……っ。
エヴァンズ夫人もなんですが……っ!
今まで、ルーカスさんがしてきたことは、ソフィアさんのためを思ってしたこととはいえ、決して褒められたものではないからこそ、そんな、ルーカスさんには厳しくしなければいけないと、自分を律しながら、私達に、そう言ってきた上で……。
本当は、面会が叶うのならば、この腕に抱きしめて、どうして、こんな馬鹿なことをしたの……っ、と叱ってあげたかった……っ。
それ以上に、やったことについて、駄目だと分かっていても、ソフィアのために、今まで、ずっと一人で悩んで、苦しかったでしょう……っ?
あなたが、背負うことでもないのに、私達の分まで、本当にありがとうと伝えてあげたかったんだって……。
だからこそ、テレーゼ様のその手を取る前に、私達に一言でもいいから相談してほしかった、と言っていたんです……っ!
……ルーカスさんが家族を大切に思うように、ルーカスさんも家族から、凄く大切にされていることを、しっかりと分かってもらえたら嬉しいです……っ、!」
と……、私が、この短期間の内に、エヴァンズ夫人と接する中で聞いた本心からの言葉を、嘘偽りなく真っ直ぐに伝えると……。
ルーカスさんは、その言葉を聞いて、更に目を見開き、自分にかかっている真白いシーツを持っていたその手をぎゅっと強く握りしめ、目から涙が溢れ落ちるのをグッと堪えている様子だった。
何よりも大切にしている家族から、そんなふうに思ってもらえているのだということを知れただけでも『凄く嬉しい』と感じてしまう気持ちと……。
だからこそ、家族への申し訳なさを感じて、やってしまったことへの後悔のようなものが、複雑に入り交じってしまって、今、現在の、ルーカスさんの胸中に、様々な感情が浮かんでいるのだということは、その姿からも、一目瞭然で……。
「……っ、あぁ……っ、そうだったん、だ……っ。
親父と、お袋が……、そんなことを……っ、!
殿下も……っ、お姫様も……っ、わざわざ……、二人の言葉を、俺に伝えに来てくれて、本当にっ、ありがとう。
ソフィアのことだけでも、凄く嬉しかったのに、家族が心配していることまで、伝えてくれるだなんて……っ。
もう……っ、それだけで、俺は……っ、充分、周りの人達に恵まれているなって、心の底から、実感するよ……っ!
これから先は絶対に、家族に悲しい思いをさせたり、殿下やお姫様といった大事な人に、迷惑をかけたり、心配をかけるようなことはしないって、約束するから……っ、!
さっきまでも、ちゃんと罪を償うつもりだったんだけど、今の状況に感謝しながら、本当に、心を入れ替えて過ごしていかなきゃいけないよな……っ?」
その上で、ルーカスさんが、穏やかな表情を浮かべながら、心を入れ替えて過ごすと言ってきたことに関して、私は、出会った時からずっとあった、ルーカスさんの『これ以上は、決して入らないでほしい』という壁が、まるで雪解けのように溶けていくのを感じながら、心を開いて、本心からの笑顔を私達に向けてくれるルーカスさんに、本当に良かったと、感激してしまいそうになった。
ルーカスさんの笑顔は、今までにも、沢山見てきたけれど……。
出会った当初から、いつも飄々としていて、抜け目がないような感じで、その人となりがよく分からなかったものの、何に対しても器用にこなしているように見えて、本当は凄く不器用に、ただ自分の家族を守るために奮闘していて……。
接していく内に、そういったことが明らかになっていくほど、過去に、教会で会った時のルーカスさんの言葉の意味や、表情の変化が分かるようになって……。
――きっと、今だからこそ、理解出来る。
あの日……っ。
【俺? 俺はねぇっ、? 薄情な神様にお祈りを……】
と、どうしようもない未来に嘆き、どんなに努力しても、自分の力だけでは変わらない現状があるということを嫌というほどに思い知り……。
どこまでも真剣に、真面目な表情を浮かべたルーカスさんの、ソフィアさんを想う儚さが感じられるような姿も……。
私に対して『そう。……だからね? 俺、皇女様が、王になってくれたらいいなって思ってンだよ』と、ウィリアムお兄様のことを支持しつつも、嘘なのか本気なのか分からないほど、冗談交じりに言われたその言葉は、確かに、ウィリアムお兄様のことを思って、ウィリアムお兄様と敵対する可能性のある私の真意を早い内に確かめようとするものではあったと思うし、今までは、それだけだと思ってきたけれど……。
【歴代に、女王がいないからって、今後もなれないなんて決まってる訳じゃないでしょ?
可能性なんて、無限に転がってるし、どこで風が吹くかなんて誰にも分からない。
……もしも、お姫様が、女王になったら、そりゃァ、必然、歴史も変わらざるを得ないだろうなァ?
だって、王が、紅を持ってんだから、誰も其処には手出し出来なくなる。
うちの国は完全に、魔女擁護派の、絶対不可侵の聖域って奴のできあがり、だ】
という言葉の奥底に……。
――ソフィアさんのことを思い遣る、本当の願望のようなものが込められていたことも……。
その上で、ウィリアムお兄様がお父様の跡を継ぐということを、ルーカスさん自身が、しっかりと認めて、分かっていながらも、赤を持つ者への感情から、ウィリアムお兄様が君主になった暁には……。
【殿下が、この国で、皇族としての誇り高い金を持っている以上、殿下はこっち側には絶対に来ないだろうね?】
だとか……。
【うん、ここの教会みたいに、“赤色”を持つものを保護したり、積極的に助けたりね。
そういう施策は多分、表立って打ち出すことはしないんじゃないかなァ? 周囲からの反発も凄そうだしねぇ……】
と、言っていたことも、あの当時は凄く分かりづらくて、また何か濁された状態で、煙に巻かれているんじゃないかと感じてしまっていたけれど、全て本心からの言葉だったのだろう。
その上で……。
【……あァ、でも一個だけ。
殿下がそういう施策を、将来するかもしれない可能性の芽は、ないことも、ないか。
多分、あり得るとしたら……っ】
と、ルーカスさんは、あの当時から、ある程度、ウィリアムお兄様と私が仲良くなるという未来を予想していたのかもしれない。
ウィリアムお兄様と私が仲良くなれて、家族仲が改善したのは、決して、ウィリアムお兄様が私に歩み寄ってきてくれたからという理由だけではなく、それまでの、ウィリアムお兄様の分かりにくかった本心を、横目で見ながら、ルーカスさんが、都度、教えてくれて、手を貸してくれたお陰も凄くあると感じるから……。
ギゼルお兄様が、私に皇宮の図書館で怒ってきた時も、兄妹仲が改善するように、ルーカスさん自身が、ギゼルお兄様の境遇や、ウィリアムお兄様の目の秘密について気に掛けてくれて、さりげなくフォローをしてくれなかったら、きっと、今のようにはなっていないんじゃないかな……?
勿論、私自身が変わったことで、お兄様が気に掛けてくれるようになったというのは、本当のことなんだけど……。
そういった意味でも、私は、ウィリアムお兄様とのことだけではなく、ギゼルお兄様のことについても、ルーカスさんには凄く感謝しているし……。
今まで隠され続けてきた、ルーカスさんの感情や、深い思いをしっかりと理解することが出来て、ルーカスさんが、これから先の未来を見てくれていることに嬉しい気持ちになりながら、私がほのぼのと、一緒になって柔らかい笑みを溢していると……。
「……っ、お姫様……っ、そんなに、嬉しそうな表情をして……っ。
俺以上に、俺のことを、喜んでくれてるの……っ?」
と、『本当に、お姫様って優しい子だよなぁ……』と、ちょっとだけ呆れたような雰囲気も混じりつつ……。
ルーカスさんに苦笑しながらそう言われたことで、私はハッとして、『私、そんなに、嬉しそうな表情をしていましたか……?』と、キョトンと首を傾げてしまった。
それを見て……。
「姫さん……っ、この男の口から、これから先は、ちゃんと心を入れ替えなきゃいけないっていう言葉を聞いて、滅茶苦茶、嬉しいのも分かるけど……。
そんなっ、可愛い表情をするのは禁止な……っ?」
と、本気で怒っている訳ではなさそうだったものの、どこか不満げな様子で唇を尖らせた、セオドアからそう言われて、更に困惑してしまっていると……。
「あぁ……、もう、本当に……っ、お兄さんさぁ……っ、滅茶苦茶、分かりやすすぎ……っ」
と、いつもなら、セオドアの過保護な対応に揶揄うような視線を向けてくるルーカスさんの口調が、はたと、何かに気付いたように、そこで止まり……。
不思議そうな表情をして、私と、セオドアの二人を凝視してきたあとで、自分の胸を片手で一瞬押さえたあと、その瞳が一気に驚愕したようなものに変わった上で……。
「あぁ……っ、そっかぁ……そうなんだ……っ、俺……っ」
と、何故か、もの凄く戸惑ってしまったあと、上半身を起こしていた状態から、前に折り曲げるかのように、バサッとシーツの上に一回だけ伏せたのが見えて、私は、ルーカスさんの体調が急に悪くなってしまったのかと……。
「ルーカスさん……っ、? 一体、どうしたんですか……っ? もしかして、体調が……っ!?」
と、その体調を気遣うように、声をかけたんだけど……。
その体勢は長く続かず、ガバリと、いきなり起き上がったルーカスさんは、誰のことも見ようとせずに、あたかも自分だけで自己完結してしまうかのように……。
「いや……っ、お姫様……っ、俺、滅茶苦茶元気だよ……っ。
っていうか、今になって、グサグサと、心臓を矢が打ち抜いてきたっていうか……っ!
年齢差だとか……、お兄さんのこととか考えたら、色々、まずいかもしれないって分かってるのに……っ。
あぁ、もう、終わりかもしれないっ、精神的に、ごりごりと削られていってしまってる……っ!」
と、苦笑したあと、まるで自分に対して信じられないとでもいうかの如く、自分の顔を両手で覆って、大袈裟なジェスチャーで、さめざめと泣いているような素振りを見せてきて、私はアルと二人で、一体どういうことなのかと顔を見合わせてしまってから……。
「うむ、よく分からぬが、一体、どういうことなのだ、ルーカスっ?
お前の心臓を打ち抜いてきた矢とやらは、そんなにも殺傷能力が高いものなのかっっっ!?」
「そっ、そうだよね……っ、? ……アルっ!
見えない矢が、いつの間に、ルーカスさんの胸へ……っ?
私も、そんな特殊な矢には当たったことがないので、心配です……っ、!」
と……、二人してオロオロと慌てつつ、まるで自分の感情に追いついていない様子で『あぁ……、マジかぁ……』と、どこまでも困り果てた様子で声をあげるルーカスさんのことを案じて、口では元気だって言っているけど、明らかに先ほどまでとは打って変わって、その様子が変であることに、どうしたら良いのかと、体調不良ならタオルなどが必要かと心配から声をかけると……。
「……アンタ、まさか……っ」
「ルーカス……、お前……っ」
と、殆ど、同時のタイミングで……。
ルーカスさんの変化から何かを察したのか、驚きに目を見開いたセオドアと、同じように戸惑った表情を浮かべたウィリアムお兄様に見つめられて、困惑した様子で、ルーカスさんが、一度は、『違う……っ』と首を横に振って、二人からの追及を否定していたものの。
段々、自信がなくなってしまったかのように、『いや……っ、ごめん、違わないこともないかもしれない……』とその声色が、次第に、尻すぼみになっていきながら……。
「本当に、そんなつもりじゃなかったんだよ……っっ。
今は、ただ、ソフィアのこともあるから、きっと凄く恩を感じているだけで……っ。
っていうか、もう、本当に抱えきれないほどの恩があることを思えば、俺の感情についても自然っていうか……っ」
と、目に見えて狼狽したかのように、取り繕うことも出来ない様子で落ち込みながら声を出したのが聞こえてきたことで、もしかして、何か私に関係することなのかなと感じつつも、『セオドアとウィリアムお兄様には、ルーカスさんが言っている言葉の意味が分かったのかな? 一体、どういうことなんだろう』と、私は首を傾げてしまった。
そうして、ルーカスさんから続けて降ってきたその言葉に、セオドアも、ウィリアムお兄様も、戸惑った様子を見せつつも、どちらも、ルーカスさんの言葉に眉を寄せ、どこか『嫌だ』と言っているような感情を隠しもせずに向けていて……。
その上で、何となく、セオドアの方がまだ、ルーカスさんのその感情については理解出来るとでも言いたげな視線を向けていて、お兄様の方がより顕著に、どこが嫌だとか、そういったこともあまり分かっていない様子で、ただただ自分の感情を表に出すよう、ルーカスさんの方に向けてしまっていたかもしれない。
二人のその表情の変化に、私が戸惑ってしまっていると……。
「お姫様、ごめんっ。……お願いっ、君は、何も知らないままでいて……っ」
という、ルーカスさんの言葉と……。
「そうだな……っ。
俺自身も悩んでるんだけど、そういった感情については、まだ知らない方が良いと俺も思う。
ただでさえ……、ここ最近は、色々と事件が起きたばっかりで、皇宮内も慌ただしいし、皇后などのことで、その身に負担がかかってしまっていて、心配な部分があるから……っ。
自覚したことを周りには知られちまってるし、俺も大概、隠しきれてはいねぇと思うんだけど、そうした方が良いんじゃないかって、あの事件以降は特に、自分の感情をなるべく抑えるようにはしてるんだ。
正直、今は、誰の感情も、負担でしかねぇと思う……。
あと、俺は、ハッキリ言っておくけど、それでも、譲るつもりはねぇからな……?」
「……うん、ごめん、そうだよな……っ。
お兄さんの気持ちも充分に理解しているんだけど、ただ、俺もちょっと、今、自覚したばっかりで、何とも言えないかも……っ!
それでも、負担になるようなことについて、なるべくしたくないと思う気持ちは、同じだよ……っ!」
という、セオドアとルーカスさんの二人にしか分からないような遣り取りが聞こえてくると……。
「オイ、お前等、分かったような素振りで、勝手に話を進めるな……っ!
それは、負担になる、ならない、以前の問題だろう……っっ!
というか、セオドア、お前も、やっぱり、そうなのか……っっ!?
そのことを、ルーカスは知っていて……っ、!?
俺は、そのことを聞いていないぞっ! いつの間に、お前等の間で、そんな話になったんだ……っっ?」
と、ウィリアムお兄様が、驚愕した様子で、二人に向かって険しい表情を浮かべているのが見えて、お兄様のその責めるような言葉に、セオドアとルーカスさんが揃って、顔を見合わせたあとで……。
「……殿下、ごめん……っ。
心配なのは凄く良く分かるんだけど、俺は、別に悪い虫じゃないし……。
サクッと心臓に矢が刺さっちゃって……っ」
「あー……、悪いっ。
そうだよなっ。……最近、自覚したばかりだ。
……っていうか、俺は、割と、今までも出してきたつもりなんだけどな……っ。
諦められねぇから、許してくれ、お兄様……っ」
と、どこか結託したようにも見えるような雰囲気で、お兄様に対して、セオドアとルーカスさんの口から、そんな言葉が降ってきたことで、ウィリアムお兄様が『……頭が痛いっ』と、思いっきり、二人のそんな様子に、頭を抱えてしまった。
その様子を、アルと二人で見つめていた私は、頭の中を疑問符でいっぱいにしながら、キョトンとしてしまったんだけど……。
「アリス……。
お前のことを護ってやれるのは、もう俺しかいないかもしれない……っ!」
と、深いため息を溢したあと、何故か、私の姿を見て、心底、心配そうな表情をしたウィリアムお兄様に、そう言われてしまって、私は、セオドアも、いつも私のことを護ってくれているし、ルーカスさんも、いつも私に優しくしてくれるけどなぁ、と……。
お兄様の、その言葉の意味がしっかりと理解出来ていない状態で『……?? そうなんでしょうか、……?』と、戸惑いつつも、何となく、ここで頷かないといけないという雰囲気を感じて、言われるがままに、こくりと、一度、その言葉に頷き返した。