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479 久しぶりの面会

 


 あれから……。


 皇宮に帰ってすぐ、私達はお父様の許可を得て、毒薬を飲んでしまったことで療養しているルーカスさんのいる一般的な医務室や、病室などとは違い、鍵のかかっている特別な病室へと面会しに行くことになった。


 アル曰く、一回飲むだけでは、さほど大事(だいじ)にはならないということだったものの。


 ほんの僅かばかり、幻覚作用も出てくるような代物だったらしく、完全に身体からその成分が抜けきるまでは、ベッドで療養していた方が良いだろうということで、ルーカスさんは、お父様から事情聴取をされたりする時以外は、未だ、皇宮にある病室で、その身体を休めることに専念していた。


 お父様から事情聴取といっても、ベッドから出ることはせず、この部屋内で、ルーカスさんの調子が良い時に、極秘に聴取が行われることになっていたから、基本的に、この場所から出ることは出来ていないみたいなんだけど……。


 皇宮にある一般の病室とは違い、24時間、騎士が一人、部屋の前で、必ず常駐することになっている『専用の鍵のかかった特別な個室部屋』の前まで行くと、任務を全うしていた騎士が私達の姿を見つけて慌てたように挨拶をするため一度敬礼し……、幾つか束になっている鍵の一つを選び、個室部屋の扉を開けてくれた。


 そうして……。


 扉が開いたことで、ウィリアムお兄様の先導の下、私達がその部屋に足を踏み入れると、真白い清潔な部屋のベッドの上で、ルーカスさんが上半身を起こした状態で、個室部屋の中にある窓から、晴れ渡った空を真剣な様子で眺めているのが目に入ってきた。


 私達からは、横顔だけしか見えなかったため、ともすれば儚いような姿にも見えて、私は、ほんのちょっとだけ胸が痛くなってきてしまったんだけど……。


 私が言葉を発するよりも前に、直ぐに物音に気付いた様子で此方へと振り返ってきたルーカスさんの表情は、驚きに満ちあふれた様子で、私達の姿を見つけて『一体、どうしたのか……?』と、戸惑うように、ただただ目を丸くしていた。


 実は、ベラさんの寿命を戻して……、引っ越しの準備などもしなければいけなかったことから、面会できる日付が変わる可能性もあって、ルーカスさん自身には、今日、私達が面会する予定になっているとは事前に伝えていなかったため、突然の来訪に、ビックリするのも仕方がないことだと思う。


「お姫様……?」


 そうして、ルーカスさんの口から、躊躇(ためら)いつつも、私の姿が一番に見えたのか、そう呼ばれたあと……。


「えぇぇ、……っ!?

 殿下も……っ、お兄さんも、アルフレッド君も、みんな揃って、一体、どうしたの……っ?

 面会があるだなんてことも、聞いてなかったんだけど……っ。

 もしかして、わざわざ俺に、会いに来てくれた……っ?」


 と、ふわりと笑みをこぼしながら、ほんの少しの嬉しさと複雑な心境が入り交じったような瞳で、ベッドの上から私達の方を見つめてくるルーカスさんに、私は、先ほど、ルーカスさんの姿を見て、咄嗟に()()と感じてしまったものの、思ったよりもずっと元気そうで、ホッと胸を撫で下ろした。


 ――多分だけど、毒の影響など、副作用の面に関しても、もう殆ど、身体からその成分が抜けきってはいるのだと思う。


 それに、私達の姿を見て、真っ先に嬉しいと思う感情が出て来てくれたということは、凄く良いことだと感じるし、こういう苦しい時だからこそ、無理をしている様子ではなく、自然に笑みが溢れ落ちてくれた姿を見ることが出来て、私自身は、本当に心の底から嬉しい気持ちになってしまった。


「……っ、ルーカス、お前に会いに来れて、本当に良かった」


「ルーカスさん、お久しぶりです……っ」


 そうして……、少しだけ、何て声をかけようか躊躇ったあとに、ウィリアムお兄様が声をかけたのが見えて……。


 私も、ルーカスさんに久しぶりに会えたことで、嬉しい気持ちを隠すこともなく、ほんの少し微笑みながらも、その姿を見て、色々な感情が心の中でごちゃ混ぜになりつつも、喜ばしい気持ちと、悲哀の気持ちが入り交じって、ちょっとだけ目尻に涙が浮かんできてしまい、涙声になりながら、ルーカスさんに声をかけることにした。


 あの食事会の日から……、そんなに期間は経っていないはずなのに、この短期間に、あまりにも色々なことが起こりすぎて、お兄様が言葉をかけるのを一瞬だけ躊躇った理由がよく分かるほど、ルーカスさんと話すのに、私自身も緊張でドキドキしてきてしまう。


 目の前にいるルーカスさんと話すのが嫌だったからだとか、そういった理由じゃなくて……。


 みんなルーカスさんのことが心配だからこそ、今、ルーカスさんの負担にならない言葉をかけたいという思いが溢れるばかりで、(はや)るような気持ちから、こういう時に、上手く言葉が出てこなくて、結局、挨拶をするような感じになってしまったんだけど。


 私達のそんな様子を見て、ルーカスさんの方が、からっと柔らかい笑みをこぼしながら……。


「もしかして、二人とも、俺のことを気遣ってくれてる……っ?

 あぁ、もう……っ、ほんとに、優しいんだから……っ。

 これから、国を背負って立つべき二人が、揃って、そんなにも悲しい顔をしてどうするの?

 特に、お姫様は、今にも泣き出しそうになってるよ……っ?」


 と、逆に、私達の方を見つつ、気遣ってくれて、私はそんな姿に、ただただ救われるような気持ちになってしまう。


 ルーカスさん自身、今までしてきたことに対して罪の意識を感じてはいるだろうし、そういった償いの気持ちは『ずっと持ち続けている』のだと、その様子からも明らかだったものの。


 それでも、どこかスッキリとした雰囲気があるのはきっと、今までしてきたことへの後悔に(さいな)まれて、自分の罪を誰にも告白出来なかった頃のことを思えば、今の現状は、嘘や偽りなどもなく、真実を公にすることが出来て、犯した罪を償いながら、前を向いて歩くことが出来る状態だからなのかもしれない。


 ――ルーカスさんは、本当に、心の底から芯の強い人だと、私は思う。


 これまでしてきたことに後悔して、自分がしてきた罪を償うというのは、勿論、今まで傷つけてしまった人への罪悪感と贖罪(しょくざい)のために生きるということでもあると思うんだけど……。


 それ以上に、自分がこれからどういうふうに生きていくのか、何が出来るのかを考えて行動に移し、反省して、これから先の未来で、誰にも非難されることがないように、社会に貢献しながら、自分自身を磨き、精一杯『努力』をし続けることが何よりの償いになるのだと感じるから……。


 今の段階でも、ルーカスさんを見れば、そういった人としての肝心なことについては、しっかりと出来ているのだと伝わってくるし……。


 あまりにも()いだ瞳で、ただ、ありのまま、全てを受け入れている様子を見れば、ここに来てからずっと、この部屋の中で、償いの気持ちを持って、自分が犯してきた罪に対して真摯に向き合っていたのだということは、私にも如実に伝わってくる。


 先ほど、窓の外を見ていたのも、ただただ空を眺めていた訳ではなくて、色々なことを考えながら、真剣に罪と向き合っていた証拠だったのかもしれないと、ここに来て、私は先ほどまでのルーカスさんの行動に合点がいき、納得してしまった。


「……あのっ、ルーカスさん。

 私、ルーカスさんに、お会いしたら、お伝えしたいことがいっぱい、あったんです……っ! えっと……っ、」


 そうして、なるべく早くソフィアさんのことについて、きちんとした情報を伝えてあげなければという気持ちばかりが()いてしまって、言葉につっかえながら、慌てて声をかける私の姿を見て……。


「お姫様、落ち着いて。

 ……一体、どうしたの? 全然、ゆっくりでいいよ……っ?」


 と、目の前で、ルーカスさんが、私に向かって心配そうな表情で声をかけてくれたのと……。


「姫さん……っ、言いたいことが溢れすぎて、止まらなくなってるから……っ。

 一回、深呼吸してみようか……?」


 と、セオドアが優しい口調で声をかけてくれたのは、殆ど、同時のことで……。


 私は、二人のその有り難い言葉に、『あ、ありがとうございます……っ』と、声を出しながら、スー、ハーと、一度、心を落ち着かせるように深呼吸をして、自分の気持ちを何とか落ち着かせたあと、嬉しい報告が出来ると喜びの感情をそのままに、ルーカスさんに向かって、柔らかく微笑みかけながら……。


「あの……っ、ソフィアさんのことなんですが、年齢を操作することもなく、無事に、その寿命を魔法を使う前までの状態に戻すことが出来ましたっ……!

 きっと、今、この瞬間まで心配してくださっていたと思いますが、もう、安心してくださって、大丈夫ですからね……っ!

 今は、元気に動けるようになるまで、回復しています……っっ!」


 と、なるべく明るく、ソフィアさんの症状について具体的に知らせることにした。


 私のその言葉を聞いて、まさか、そんな報告が私達の口から出るとも予想していなかったのか、ルーカスさんは初め、何を言われているのか分からず、固まってしまったんだけど、徐々にその言葉の意味をしっかりと噛みしめるように理解してくれたのか……。


 普段、明るい雰囲気で人を和ませてくれるルーカスさんには珍しく、大きく目を見開いたあとで、そのまま、殆ど表情を変えることもなく、ボロボロと大粒の涙を溢し始めてしまった。


 その姿を見て、慌てたのは、私の方で……。


「えっ、……えっと、ルーカスさんっ、あの……っ、? 大丈夫……っっ、で……、?」


 ――大丈夫ですか……?


 と、その姿を心配して、オロオロと声をかけながら、私が言葉を言い終えるその前に、『……っ、お姫様…………っ!』と、ぎゅっと力強く手を握られてしまった上で、本当に申し訳なさと、嬉しい気持ちがいっぱい詰まった様子で、声にならないほど、小さな嗚咽混じりの言葉を出しながら……。


「……っ、あぁ……っ、ソフィアが、元気に動けるようになったって、ほんと……っ?

 ごめんね……っ、疑ってる訳じゃなくて……っ、ただ、もう……、何て言ったらいいのか、本当に、分からなくて……っ、こみ上げてくるものが、抑えられなくて……、俺……っ、俺……っ、……っ!

 今まで、ずっと、そのために、生きてきたようなものだから……っっ、!

 っていうことは……、お姫様は、ソフィアのために、命を削ってくれたってことだよね……っ!?

 ごめんっ……、本当に、お姫様には申し訳ないと思っているんだけど、俺、それでも、今は、滅茶苦茶嬉しくてっ、……卑怯にも、心の底からホッと安堵してしまってる……っ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……っ」


 と……、涙声で、何度も頭を下げられながら、感謝されてしまって……。


「……そんなっ! とんでもありません……っ!

 目の前に救える命があるのなら、出来る限り救いたいと思っているだけなので、私のことは気にしないでください。

 ……ソフィアさんのことを助けられて、本当に良かったです……っ!」


 と思わず、私ももらい泣きをするかのように、少しだけ引っ込んでいた涙が、また表に出てきそうになったことで、グッと堪えてしまった。


 だって、ルーカスさんの今の言葉には、私に対する謝罪の気持ちと、それでも自分の妹であるソフィアさんが助かったことへの感謝や、嬉しい気持ちが、これまでずっと、一人で抱え込んできてしまっていた想いの分だけ、様々な感情があふれ出すように乗っかっているというのが、手に取るように理解出来たから……。


 やってしまった方向性は間違っていたかもしれないけれど、13歳の時からずっと、この三年間、誰にも言えず、色々な気持ちを背負い込んだまま、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という恐怖を周囲にはおくびにも出さず、一人で戦っていたことは、どれほど、心細い日々だっただろうか。


 それでも、ルーカスさんは、誰かに泣き言を言うこともなく、たった一人で、ソフィアさんのことも、テレーゼ様のことも、アルヴィンさんのことも、エヴァンズ家のことも、自分だけで対処しようと決めて、行動し続けてきたんだよね……?


 それは、確かに罪だったのかもしれないけれど、それでも、そのことを責めたりなどは、私には出来ないし、今までのルーカスさんの苦労を思うと、どうしても、今、ルーカスさんがこうなってしまっていることに『どうして、もっと早く気付いてあげられなかったのか……?』と、悔しい気持ちも()き出てきてしまう。


 私自身、皇女という立場だからこそ、もっと、他に、ルーカスさんに寄り添って出来ることがあったんじゃないかって……。


 ルーカスさんが、誰に対しても壁を作って、()()()()()()()()()()()()()()と強く拒絶していたとしても、ルーカスさんの瞳から、何か抱えているものがあるんじゃないかと薄々感じていたこともあって、もっと、その話をしっかりと、たとえ嫌がられたとしても、違和感を感じた段階で聞くべきだったんじゃないかって……。


 ソフィアさんの知らせに関しては嬉しい報告が出来て良かったと思う反面、そういった感情から『複雑な気持ち』も()り上がってきて、(こら)えていたはずの涙が、ぽろぽろと自然に溢れ落ちていってしまうと……。


 慌てたのは、この場にいた、セオドアや、お兄様、アルといった面々だけでなく、目の前で私に対して感謝の気持ちと謝罪の気持ちを伝えてくれていたルーカスさんもで……っ。


「……どうして、お姫様が泣いてるの……っ?

 俺は、本当に、お姫様に対して心の底から感謝してるし、そんなにもぽろぽろと涙を溢してたら、折角の可愛い顔が台無しになっちゃうよ?」


 と、困り切った表情で、ルーカスさんにそう言われてしまい、私は『ふぅぅぅっっ……、』と、堰を切ったかのように溢れ落ちる涙に、嗚咽混じりの声をこぼしながら、私が泣いてちゃダメだと、抑えきれない涙を何とか堪えるように、ずびっと鼻を鳴らして、ぐしゃぐしゃになりそうな顔を両手で、一生懸命に(ぬぐ)うことにした。


 その様子を、見かねてくれたのか……。


「姫さん……、泣かないでくれ……っ。

 俺まで、胸が痛くなってきてしまう……っ、!

 ちょっと待っててほしいっ……、俺の胸……、服じゃいけないだろうし……、ハンカチか、タオルを今すぐ用意するから……っ!」


「……いいっ、セオドア、俺が出す。

 病室の中に、新品のタオルが備え付けられているんだが、お前じゃ分からないだろうっ?

 アリス、ここにタオルがあるから、とりあえず、これで、顔を拭いてくれ……っ」


 と、なるべく涙を流さないように努力はしていたものの、ボロボロと泣き始めた私を見て、自分の服じゃまずいとタオルを探し始めてくれたセオドアに、お兄様が直ぐに動いてくれて、病室の中にあった薬品棚の引き出しを開けて、私に向かって新品のタオルを差し出してくれると……。  


「うむ、アリス、お前の気持ちは僕にも分かるぞ……っ!

 僕も、ソフィアをお前が救ってくれたことで良かったとは感じているが、ルーカスの現状に、気付いてやれなかったことが悔しくてな……。

 ここにいる、みんなが同じ気持ちだろう……っ?」


 と、アルが、私の気持ちを汲み取ってくれたかのように、代弁して、言葉をかけてくれた。


 その言葉に、こくこくと頷きながら、本当にそうなのだと、同意しつつ。


「今まで、苦しい状況だったのに気付いてあげられなくて、本当にごめんなさい……っ。

 もっと、早くに、私が、ルーカスさんの話を聞けていたら……っっ!」


 と、しゃくり上げるように声を上げて、ルーカスさんに向かって謝罪をするために頭を下げると……。


「アリスと、アルフレッドの言う通りだ……っ。

 ……アリスだけじゃなくて、お前の置かれている状況に、もっと早くに気付いてやれればと、みんな後悔しているんだ。

 少しでも、相談してくれていれば違っただろうにっていう気持ちもあるが……、お前の傍にいたのに、気付いてやれなくて本当にすまなかった」


 と、私の隣で表情を強ばらせたウィリアムお兄様の口から、ルーカスさんに対して、改めて、私の言葉に続くように謝罪の言葉が降ってくるのが聞こえてきた。


 そんな私達の姿を見て、私にもの凄く感謝した様子で『ありがとう』とお礼を伝えてくれていたルーカスさんが、その感情をそのままに、けれど、どこか困り果てたような雰囲気で……。


「……いや……っ、お姫様が、俺に申し訳なさを感じることでも、殿下が、そんなふうに感じることでもないでしょ……っ?

 二人から、そう言ってもらえるのは、本当に有り難すぎて、滅茶苦茶嬉しいんだけど、これは誰の所為でもなくて、俺が勝手に判断して、自分の意志で決めたことだからね……っ?

 寧ろ、謝らなければいけないのは、俺の方でしょ……っ?

 お姫様になんて、それ以上のことで、迷惑を掛けてしまってるんだし……っ。 

 ソフィアのことも含めて本当に感謝しかなくて……っ、みんなが俺のことを見れていなかっただなんて思う必要もないことだから……っ、! ……本当にごめん、みんなに、心配、掛けちゃって……っ!

 っていうか、みんなってことは、アルフレッド君だけではなく、もしかしてだけど、お兄さんも、俺の心配をしてくれていたりするってこと……っ?

 あー……っ、ごめん、分かった。……()()()()()()()ってことだよね……っ?

 えぇ……っ、本当に……っ!? 俺、お姫様にも、殿下にも、アルフレッド君にも心配してもらえたことが嬉しいんだけど、お兄さんから、まさか心配してもらえるだなんて思ってなくて、それはそれで、ちょっと感動かもしれない……っ」


 と、私達の顔色を窺うように、一人一人の顔を順番に見つめてきたルーカスさんが、此方に向かって戸惑ったような言葉をかけてくるのが聞こえてきた。


 皇宮に戻って直ぐ、私達が、ルーカスさんのことを話題に出して、本当に心配しながら廊下を歩いて、ここまでやって来たということもあって、基本的には、その心配については、私とアルがメインで話していたものの、セオドアもお兄様も言葉少なめではありつつも、どこまでも心配していた様子だったから、そのことが、ルーカスさんに伝わって嬉しいなという気持ちを抱きつつも……。


 私は、どこまでも、ルーカスさんらしい、敢えて、この場の空気が重くなってしまわないようにと、明るく振る舞ってくれる()()()()()()()()()()()()()()に、ちょっとだけ、ほっこりと胸が温かくなってきてしまった。


「……つぅか、俺が、アンタのこと、心配してちゃ悪いかよ……?」


 そうして、ぶっきらぼうな言い方をしながらも、表情は口角を吊り上げて、気安い友達にするかのように挑発した雰囲気で『早く罪を償って来い』と、わざと発破(はっぱ)を掛けるような言い回しをするセオドアに、ルーカスさんの方が驚いた様子で、目を見開きながらも……。


「お兄さん、俺に対して、厳しすぎない……っ?

 言われなくても、誠心誠意、罪を償って、頑張りますとも……っっ!」


 と、ちょっとだけ嬉しそうな表情を見せていて……。


 私は、いつの間に、こんなにも仲良くなったんだろうと感じつつも、セオドアがルーカスさんのことを受け入れてくれていることも、それに応えるように、戦友のような雰囲気を出しているルーカスさんについても、元々、あまり仲が良くなくて険悪(けんあく)な雰囲気だった頃のことを思えば『あの食事会の席なども含めて、お互いに認め合える瞬間があったのかな……?』と感じられ、嬉しい気持ちの方が(まさ)ってしまって、ゆるゆると、二人を交互に見ながら、ふにゃっとした笑みを向けてしまった。


「……オイっ……、お前は、病人に向かって、発破をかけることしか出来ないのか……っ?」


「いや、アンタも多分、俺と立場が一緒だったなら、同じ事を言ってただろうっ!?

 つぅか、アンタの方が大概(たいがい)だし、何なら俺は優しい方で、アンタの方が厳しすぎると思うぞ……っ?」


「……え……っ? なに……、なにっ……、殿下っ、俺に対して、何か厳しいことをしようとしている訳っ!?

 聞くのが、滅茶苦茶、恐いんだけど……っ。

 ていうか、お兄さんと、殿下はいつの間に、そんなにも仲が良くなったの……っ?

 何か、仲良し度合いが、パワーアップしてないっ!?」


「別に、仲良くなってねぇよ……っ!」 「別に、仲良くなどなっていない……っ!」


 そうして……。


 そこに、ウィリアムお兄様も入ったことで、一気に雰囲気が賑やかになってしまったあと、どこからどう見ても私には仲の良い友人同士の遣り取りにしか見えなかったんだけど、ルーカスさんの言葉に、セオドアも、ウィリアムお兄様も絶対に認めようとせずに否定をしていることから、私はアルと顔を見合わせて、思わず、その光景を微笑ましく感じながら、二人で噴き出し笑いをしてしまった。


「アリス、ここに来てもなお、セオドアも、ウィリアムも絶対に認めようとしないな……っ!

 ……というか、ルーカスも交えて、アレはもう、仲良しの部類だろう……っ!?」


「そうだよね、アル……、私もそう思う……っ!

 いつもの、みんなの雰囲気が戻ってきたみたいで、凄く嬉しいな……っっ!」


 そうして、特に、ひそひそ話をする訳でもなく、嬉しい気持ちが隠せなくて、アルと、パァァァっと明るく表情を輝かせて、にこにことしていたら、私達の言葉を聞いて話をするのを止めた、セオドアとルーカスさんとウィリアムお兄様から、もの凄く微妙な表情で見つめられてしまった。


 みんな、仲が深まったことを認めようとせずに、絆などないといった感じで、仲良くはないと言いたげな雰囲気だったけど、こうやって揃って、同じ表情をしていること自体が、もう仲よしの証拠なんじゃないかなと、私は思うんだけど……。


 そのあと……、三人の中でも特に、取り繕ったようにコホンと、わざとらしく咳払いをしたあとで……。


「ルーカス、今日は、お前に良い話と、悪い話と、両方持ってきたんだが……。

 どっちから、聞きたい……っ?」


 と、ウィリアムお兄様が、それまでの和やかな雰囲気から一転して、セオドアの『つぅか、アンタの方が大概だし、何なら俺は優しい方で、アンタの方が厳しすぎると思うぞ……っ?』という言葉に対し、きちんと、ルーカスさんに話しておかなければいけないことがあると判断して声をかけてくれた。


 私達が今回、特例で面会することになった理由については、ルーカスさんにソフィアさんのことがどうなったのか伝えに行く目的が一番であり、お父様の配慮でもあったんだけど……。


 それと同時に、私達がブランシュ村に経つ前に決まった『ルーカスさんの処遇』については、お父様ではなく、ウィリアムお兄様が発案者だったということもあり、お兄様の口から伝えるのが良いだろうということで、今回の面会で、ルーカスさんにソフィアさんのことと一緒に伝える手筈になっていた。


 そのことから、私は、さっきまで和やかだった雰囲気から一転して、張り詰めるような雰囲気になって、ドキドキしてしまったんだけど……。


「うーん、そうだな……っ。

 別に、どっちからでも良いんだけど、それって、俺に選ばせてくれたりするの……っ?

 えーっ、どっちにしようっ!? 殿下ってば、本当に優しいんだから……っ」


 と、茶化すようなルーカスさんの言葉が聞こえてきたことで、その雰囲気も瞬く間に緩和され、ウィリアムお兄様が呆れた様子で……。


「ほざけ……っ、口を開けば、冗談染みた言葉しか言えないのか、お前は……っ。

 お前がどっちでも良いと思ってるなら、とりあえず、良い知らせの方から教えてやるよ……っ」


 と、声をかけたのが見えたあと、『うん、それじゃ……、それからで、俺は全然構わないよ』と言った感じで、特に怒ることもなく納得したように声を出すルーカスさんといった、二人の何の遠慮もない会話に、私は暖かい雰囲気を感じ取って、ホッと胸を撫で下ろした。


「お前が、ずっと、家族に迷惑をかけたくないから平民になるって父上に言って聞かなかったってのは、俺も把握しているんだが……。

 お前の処遇が、このたび、決まって……、お前が強く望んでいた、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ついては、お前は、これから先、父上の跡を継いだ俺を支える侯爵家の……、筆頭貴族として、これから国を盛り立てていくという役割を担っていかなければいけなくなるだろう。

 そのつもりで、覚悟しておいてくれ……っ」


 その上で……、ウィリアムお兄様の口から、さっきのセオドア以上に、敢えて、発破を掛けるような強い言葉が、ルーカスさんに降ってくると……。


「はぁ……っ!? それが、一体、どうして、俺にとって良い知らせになるんだよっっ!?

 俺は、完全に、平民になるつもりで、これから先、エヴァンズ家を盛り立てていくのは、分家に跡継ぎになれそうな人間がいるから、その人に託そうと思っていたし……っ!

 家族には、絶対に迷惑をかけたくないからっ、殿下、陛下に言って、今からでもその判断を取り消してよ……っ!

 ていうか、もしかして、陛下に頼まれて、俺の説得要因として、面会に来ることになったんじゃないだろうな……っ?

 俺は、絶対に首を縦には振らないからな……っ!

 ……うんっ、でも……っ、あれ……っ!? ちょっと待てよっ……!?

 殿下のその言い分だったら、エヴァンズ家は、侯爵家(マーキス)から伯爵家(アール)へと降爵(こうしゃく)しない感じになってないか……っ!?

 いや、待って、俺が仕出かしたことを考えて……っ、エヴァンズ家が責を負うことになれば、それは、完全に可笑しいと思うし、一体、どういうことなんだ……っ!?」


 と……、目に見えて、拒絶反応を示したルーカスさんの口から、当初、お父様がウィリアムお兄様に頼もうとしていたことを、完全に理解した上で、家族のことを考えて絶対に首を縦に降らないと、強く否定の言葉が出てきたあと……。


 ウィリアムお兄様からの『ついては、お前は、これから先、父上の跡を継いだ俺を支える侯爵家の……、筆頭貴族として、これから国を盛り立てていくという役割を担っていかなければいけなくなるだろう』と言う言葉に、お父様がウィリアムお兄様に説得役を頼んだにしては、あまりにも可笑しいことに気付いて、珍しく、その内容について理解しきれない様子で、戸惑いの表情を浮かべて、此方を見てくることに……。


 ウィリアムお兄様が、どこかしてやったりといった雰囲気を出しながらも……。


「通常なら、そうなる筈だったんだがな……。

 ここで、多少、悪い知らせなんだが、それじゃぁ、お前が納得しないと思って、俺がお前の刑期を4年から6年に延ばすという提案をすることにした。

 その代わり……、エヴァンズ家が追うべき責任は免除されることになるという話で、父上と意見が合致した上で纏まってな……。

 お前が罪を犯してしまったことで、どうしてもエヴァンズ家自体、世間からの風当たりは強くなってしまうだろうが、今のお前は、その背景に同情出来る余地があったと、貴族ではなく一般市民から可哀想だという声が上がって支持も受けている……。

 だからこそ、世論を味方につけることで、他の有力な貴族も下手に動くことは出来ず、少なくとも、お前の刑期が延びるという刑罰も含めて考えると、エヴァンズ家は侯爵家(マーキス)からの降爵はないと言ってもいいだろう。

 その上で、今までのエヴァンズ家の功績を加味した上で、将来、父上の跡を継いだ俺を支える貴族として、その傍にはお前しかいないだろうということが、正式に父上からも認められた」


 と……、お兄様の口から、ルーカスさんに対して、はっきりと今後の処遇が伝えられると、その言葉を聞いて、目に見えて驚いた様子のルーカスさんが、異例とも思えるようなそんな処遇を自分が受けることになるとは、夢にも思っていなかった雰囲気で、戸惑いながらも……。


「殿下……っ、さすがにそれは、俺に甘すぎるんじゃない……っ?

 陛下も、一体、どうして、殿下のそんな、()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ……っ?」


 と、困惑しきりの様子で、お兄様に向かって、声を出したのが聞こえてきて……。


 私は、目に見えて狼狽した様子のルーカスさんに、『今までのルーカスさんが、危険薬物の摘発などで国に貢献してきたことや、エヴァンズ家の功績などを考えれば、無茶苦茶な提案だなんて、そんなことはないですよ……っ』という気持ちを込めて、思わず、真剣な表情を向けてしまった。 



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♡正魔女コミカライズのお知らせ♡

皆様、聞いて下さい……!
正魔女のコミカライズは、秋ごろの連載開始予定でしたが、なんとっ、シーモア様で、8月1日から、一か月も早く、先行配信させて頂けることになりました!
しかも、とっても豪華に、一気にどどんと3話分も配信となります……っ!

正魔女コミカライズ版!(シーモア様の公式HP)

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1話目から唯島先生が、心理的な描写が多い正魔女の世界観を崩すことなく、とにかく素敵に書いて下さっているのですが。

原作小説を読んで下さっている方は、是非とも、2話めの特に最後の描写を見て頂けたらとっても嬉しいです!

こちらの描写、一コマに、アリスの儚さや危うさ、可愛らしさのようなものなどをしっかりと表現してもらっていて。

アリスらしさがいっぱい詰まっていて、私は事前にコミカライズを拝見させてもらって、あまりの嬉しさに、本当に感激してしまいました!

また、コミカライズ版で初めて、お医者さんである『ロイ』もキャラクターデザインしてもらっていたり……っ!

アリスや、ローラ、ロイなどといった登場人物に動きがつくことで。

小説として文字だけだった世界観に彩りを加えてくださっていて、とっても嬉しいです。

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本当に沢山の方の手を借りてこだわりいっぱいに作って頂いており。

1話~3話の間にも魅力が詰まっていて、見せ場も盛り沢山ですので、是非この機会に楽しんで読んで頂ければ幸いです。

宜しければ、新規の方も是非、シーモア様の方へ足を運んでもらえるとっっ!

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※また、表紙や挿絵イラストで余す所なく。

ザネリ先生の美麗なイラストが沢山拝見出来る書籍版の方も何卒宜しくお願い致します……!

1巻も2巻も本当に素敵なので、こちらも併せて楽しんで頂けると嬉しいです!

書籍1巻
書籍2巻

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✽正魔女人物相関図

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+注意+

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