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478 エヴァンズ邸に



 翌日、ベラさんとヒューゴと一緒に、村の人達に見送られて、ブランシュ村を発った私達は、その足でエヴァンズ家まで戻り、お父様との話し合いが終わって、自宅に帰ってきていた『エヴァンズ侯爵』と合流し……。


 エヴァンズ夫人と、エヴァンズ侯爵から、改めて、ソフィアさんの寿命が戻ったことに関して、少しでも感謝の気持ちを受け取ってほしいと言われ、最大限のおもてなしとお礼を言われることになった。


 そこで、エヴァンズ家の応接室をお借りして、エヴァンズ夫人とエヴァンズ侯爵と、エヴァンズ家のシェフが腕によりをかけて作ったという王都のお店顔負けとも思えるような、タルト生地のチーズケーキを頂きながら……。


 あまり時間もない中で、侯爵と夫人からだけではなく、エヴァンズ家の従者達からも、口々に感謝の気持ちを伝えられたあと……。


 私達がブランシュ村に行っている間、目に見えて弱ってしまっていたソフィアさんが、何事もなかったかのように、ベッドから出て普通に歩けるようになったことで、エヴァンズ家の人々は、そのことに、凄く感動してしまったとのことだった。


 そのあと、エヴァンズ侯爵に連れられて、ソフィアさんが、ひょっこりと顔を見せに来てくれると……。


 私の姿を見つけた瞬間、目を輝かせ、勢いよく駆け寄ってきたかと思ったら、抱きつかれてしまって……。


「アリスお姉様っっっ! お会いしたかったですっっ!

 みてください、ちゃんと、こうして、あるくことも出来るようになったんです……っ!

 お姉様のおかげです……っっ!」


 と、そう声をかけられたことで、私はその反動で、ソファーの背もたれに寄りかかってしまったんだけど……。


 エヴァンズ家のこだわりが詰まっているであろう高級なふかふかのソファーだったこともあり、私とソフィアさんの重みなんて何のそのといった感じで、ソファーがしっかりと吸収するように優しく受け止めてくれた。


 その姿を見て、慌てたのは、エヴァンズ侯爵と、エヴァンズ夫人の方で……。


「こらっ! ソフィア、やめなさいっっ! 皇女様に、何ていうことを……っっ!」


 と、ソフィアさんの言動を、直ぐに叱りつけるように止めてくれたものの、私自身は、そんなソフィアさんの様子に微笑ましくなったのと同時に……。


 『ごめんなさい……っ!』と素直に謝ったあと、私達の姿を見て、この場に、ベラさんもいることに気付いて、『アリスお姉様だけではなく、ベラお姉様まで来て下さったんですねっ!』と、驚いた様子を見せるソフィアさんに、本当に、私の能力で健康になってくれているのだと感じられて……。


 自然に、ジーンと胸が熱くなってきて、エヴァンズ家の人達が、この姿を見て感動してしまったというのも理解することが出来るなぁ、と私は思わず嬉しくなって、ふにゃりと口元を緩ませてしまった。


 その姿を見て、セオドアとお兄様とアルだけでなく、エヴァンズ家の人達も、どこか微笑ましそうな表情をして、申し訳なさと嬉しさが入り交じったような雰囲気で、私の方を見ていて、そのことに、私は、ハッとしたあとで……。


 ――これじゃぁ、一体、どちらが子供なんだか分からないかも……っ!


 と、気まずい思いをしながら、表情をぐっと引き締めていたら、その様子を見たセオドアから……。


「姫さん、そんな可愛い態度をしたあとに、誤魔化すようにそんなことをしたって、ただただ可愛いだけだぞ……っ」


 と、困ったようにも見える、柔らかい視線で、そう言われてしまって……。


「……アリス、本当に自覚がないのかっ?」


 と……、その上で、ウィリアムお兄様からも、セオドアの言葉に同意するようにそう言われてしまい、私は二人からの言葉に、ただただ、キョトンとしてしまった。

 

 そんな二人の様子に、アルも『間違いない……っ。アリスは、本当に可愛いな』といった様子で、優しい視線を向けてくるし、ローラやエリスは、どこまでも温かい視線で、私のことを見つめてくるしで……、私は一人、戸惑ってしまうばかりだったんだけど……。


 そんな遣り取りをしていたからか、ふわりと、一気に急上昇するかのように温かくなったこの場の雰囲気に、『みんな和んでいる様子だし、良かったのかも……っ?』と感じて、私は、よく分からないまま、みんなに向かって、にこにこと微笑んでいく。


 そうして、温かい空気感はそのままに、私の姿を見て興奮したように駆け寄ってくれたソフィアさんが、大人しい雰囲気に戻り、この場の空気が少し落ち着いたところで、パッと辺りを見渡せば……。


 ベラさんのことは、エヴァンズ家の従者達の中でも、家令などといった一部の上の人間しか知らされていないみたいだったけど、ソフィアさんのことについては、魔女であるということも含めて、みんなが知っていることだったのだろう……っ。


 エヴァンズ家の人達から、『ソフィアお嬢様……、本当に良かったです……っ! 皇女様のお陰ですねっ!』と、嬉しそうに見守られているソフィアさんのことを見れば、それは一目瞭然で……。


 ソフィアさんが、あんなふうに人気の少ない別棟(べつむね)のような場所にいたということは、エヴァンズ家が侯爵家という家柄である以上、本館には、貴族の客人などがやってくることが多いため……。


 万が一にも、ソフィアさんの存在が、誰か外部の人間に見られてしまったらいけないと、エヴァンズ家の人達が何としても隠し通すという強い意志を持って、ソフィアさんの身を守るための配慮をしていたんじゃないだろうか……?


 逆を言うと、これだけ、エヴァンズ家で働く従者達からも『ソフィアさんのその存在が、隠されることもなく受け入れられている』ということも含めて考えると、今まで一度も、その情報が外部に漏れなかったということは、それだけ、エヴァンズ家の従者達の忠誠心が高いことの何よりの証しだと思う。


 ソフィアさん自身も、ベラさんから今まで受けた恩があると幼いながらにも感じているのか、久しぶりにベラさんに会えたことで凄く嬉しそうな雰囲気だったし、ベラさんも、ソフィアさんの元気な姿を見て、もの凄く感動した様子で『妖精ちゃんっっ! あぁっ、本当に、良かったっっ!』と、ソフィアさんに向かって、快活な笑顔を向けていた。


 その上で、何故か私の傍から離れようとしなくて、私の隣に座っても良いか聞いてきて隣に座っていたソフィアさんごと喜びを隠せない様子で、ベラさんが両手を広げて、どこまでも、ぎゅっと抱きしめてきたかと思ったら……。


「皇女様、妖精ちゃんっ! アタシ達、3人揃って、赤髪同盟ですね……っっ!

 アタシ、自分以外の赤髪の人達と、こんなふうに元気な姿で、一緒に過ごすことが出来る日が来るだなんて、思ってもいなくて……っ!

 ずっと、自分一人だけがそうなんじゃないかと、心細い感じでしたが……っ。

 こんなっ、可愛らしいお二人と一緒だと感じられると、まるで、アタシの価値まで上がったみたいな気がして、今、とっても嬉しいですっっ!

 本当に、ありがとうございます……っ!」


 と、ほっぺをすりすりされながら、感極まったように『お二人と一緒で、アタシ、本当に良かった!』と、そう言われたあとに……、ハッとした様子で、我に返ったベラさんが……。


「あぁぁぁっ、皇女様も、妖精ちゃんも、本当にごめんなさいっ!

 アタシより、全然身分が高いお二人に、アタシったら、感極まって何てことを……っっ!

 今まで、アタシのことを真に理解してくれる人がいなかったから、お二人も一緒だと思うと、ついつい、嬉しくって……っ、!

 その……っ、申し訳ありません……っっ!」


 と、私達に向かって、わたわたと慌てながら、何度も頭を下げて謝ってくるのが見えて、私はふるりと首を横に振ったあと『全然、気にしないでください』と、ベラさんに向かって、ふわりと微笑みかける。


 寧ろ、私は、『ソフィアさんと一緒に、ベラさんにぎゅっと抱きしめてもらえて、すごく嬉しいな……っ!』と、そういうふうに接してもらえたことで、喜びの方が(まさ)ってしまって、パァァァっと表情を輝かせてしまい……。


 ソフィアさんも、そのことに凄く嬉しそうにしていたんだけど、ベラさんの方が立場や身分を気にして、我に返って恐縮してしまったみたい。


 でも、まるでお姉さんと妹が同時に出来たような感覚がして『私にお姉さんと妹がいたら、本当にこんな感じなんだろうな……っ』と、私は思わず、その対応に、ほんの少し(くすぐ)ったい気持ちを抱いてしまった。


 そうして、エヴァンズ家で、ほんの僅かばかり楽しい一時を過ごしたあと、ソフィアさんには、ルーカスさんのことがまだ言えなくて、彼女の前では、みんな賑やかな雰囲気ではあったものの……。


 やっぱり、どうしても、エヴァンズ夫人とエヴァンズ侯爵は、応接室でみんなで話している間も、そのことが気がかりではあったのだと思う。


 私達が、皇宮まで戻るために、エヴァンズ侯爵家の敷地に停めさせてもらっていた馬車に乗り込もうとしたところで、お見送りに出てきてくれた二人の顔色が、ほんの少し申し訳なさそうな表情に変わり……。


「ウィリアム殿下、皇女殿下……っ、ソフィアの前で、配慮して頂き、本当にありがとうございました。

 それどころか、ソフィアの無礼な態度まで許して頂けて、心よりお礼を申し上げます」


 と、エヴァンズ侯爵から頭を下げて、改まった口調で、謝罪とお礼を言われてしまった。


 その横で、申し訳なさそうに、一緒になって頭を下げてくる侯爵夫人の姿も見えて……。


「全然、大丈夫ですので、どうか、気になさらないで下さい。

 私自身も、ソフィアさんと一緒に過ごせて、嬉しかったですし……。

 体調面も凄く心配だったので、元気な姿を見ることが出来て、本当に良かったです」


 と、私は慌てて『本当に何も気にしなくて良いし、私自身もそのことについては、何とも思っていない』ということが、今ここで、最大限、二人に伝わるように、配慮しながら声をかけることにした。


 私のそんな態度に、二人は心底、ホッとしたような表情を浮かべながらも……。


 その上で……。


「ウィリアム殿下だけではなく、もう、ずっとそうなのですが、皇女殿下の優しいご配慮に、本当に救われています……っ。

 ソフィアのこともそうですが、うちの馬鹿息子である、ルーカスのことも……っっ!

 私達の口から、このようなことを言うのは、本当に烏滸(おこ)がましいことかと感じるのですが、ウィリアム殿下と皇女殿下が、本日、うちの馬鹿息子に面会する機会を設ける予定だと陛下から伺いました……っ。

 ですので、もしも可能なら、あの馬鹿息子に、どうか、一言、お伝え頂けると嬉しいのですが……っっ。

 子供なんだからっ、家族に甘えたって良いし、一人で抱え込んで、とんでもないことをしでかそうとするな……っ!

 お前が帰ってきても、エヴァンズ家自体は揺らがないんだから、安心して、罪を償ってこいっっ!

 と、どうか……っ……、何卒、宜しくお伝え頂ければ、と……」


 と……、ここに来て初めて、ルーカスさんのことで、泣きそうな表情を浮かべたエヴァンズ侯爵から、あまりにも力強い言葉で、ルーカスさんに対しての叱咤激励(しったげきれい)の言葉が降ってきたことで……。


 私は、その言葉に……。


「はい……っ、任せてくださいっ! ルーカスさんに、このあと、必ず、お伝え致します……っ!」


 と、エヴァンズ侯爵の、息子を真に思い()るような、その厳しくもあり、優しいとも取れるようなそんな言葉に、真剣な表情を向けて、こくりと頷き返すことにした。


 その横で、エヴァンズ夫人が申し訳なさそうに、『……本当に何から何まで、ご配慮下さり、ありがとうございます』と、私達に向かって、改めて、深く頭を下げてくれると……。


「いや……、そういったことは、何も気にしなくて良い」


 と、ウィリアムお兄様が、エヴァンズ侯爵夫妻の二人に向かって、励ますように声をかけてくれたのが見えて、私も、ここぞとばかりに、その言葉に同意するように……。


「そうですよ……っ。

 ウィリアムお兄様の言う通り、何も気にしないでください。

 お二人も、ここ数日、色々なことが起こりすぎて、(ろく)に寝られてもいないでしょうし、しっかりと休める時に休んで下さいね……っ!」


 と、二人を気遣って、声をかけることにした。


 その言葉に、本当に有り難そうな感謝の表情を浮かべて、二人が戸惑いながらも、こくりと頷いてくれたことで、私は、そのことにホッと胸を撫で下ろし、ベラさん達とも一緒に、エヴァンズ邸を立つために、二手に分かれ、2台分の馬車へ乗り込んでいく。


 このあと、王都に立ち寄って、ベラさんとヒューゴには、王都にある宿屋に泊まってもらった上で、対外的には、以前、ウィリアムお兄様と旅行に行っていた際に私と親しくなった人として、明日、お父様と話す機会手筈になっているため、そこで二人とは、とりあえず別れる予定になっていた。


 そうして、そのあとで、皇宮まで戻ったら、ルーカスさんと面会の時間が設けられることになっているため、私は、久しぶりに会うルーカスさんに、『疲れから、憔悴しきったりしていないと良いけどなぁ……』と感じつつも……。


 早く、ソフィアさんのことに関する嬉しい知らせや、エヴァンズ侯爵からの言葉を伝えてあげたいと逸る気持ちが抑えられなくて、エヴァンズ家を出立してから、王都まで行き、皇宮まで戻る道すがら、一人、馬車の中で、ルーカスさんに思いを馳せつつ、そわそわしてしまった。


 



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♡正魔女コミカライズのお知らせ♡

皆様、聞いて下さい……!
正魔女のコミカライズは、秋ごろの連載開始予定でしたが、なんとっ、シーモア様で、8月1日から、一か月も早く、先行配信させて頂けることになりました!
しかも、とっても豪華に、一気にどどんと3話分も配信となります……っ!

正魔女コミカライズ版!(シーモア様の公式HP)

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1話目から唯島先生が、心理的な描写が多い正魔女の世界観を崩すことなく、とにかく素敵に書いて下さっているのですが。

原作小説を読んで下さっている方は、是非とも、2話めの特に最後の描写を見て頂けたらとっても嬉しいです!

こちらの描写、一コマに、アリスの儚さや危うさ、可愛らしさのようなものなどをしっかりと表現してもらっていて。

アリスらしさがいっぱい詰まっていて、私は事前にコミカライズを拝見させてもらって、あまりの嬉しさに、本当に感激してしまいました!

また、コミカライズ版で初めて、お医者さんである『ロイ』もキャラクターデザインしてもらっていたり……っ!

アリスや、ローラ、ロイなどといった登場人物に動きがつくことで。

小説として文字だけだった世界観に彩りを加えてくださっていて、とっても嬉しいです。

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本当に沢山の方の手を借りてこだわりいっぱいに作って頂いており。

1話~3話の間にも魅力が詰まっていて、見せ場も盛り沢山ですので、是非この機会に楽しんで読んで頂ければ幸いです。

宜しければ、新規の方も是非、シーモア様の方へ足を運んでもらえるとっっ!

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※また、表紙や挿絵イラストで余す所なく。

ザネリ先生の美麗なイラストが沢山拝見出来る書籍版の方も何卒宜しくお願い致します……!

1巻も2巻も本当に素敵なので、こちらも併せて楽しんで頂けると嬉しいです!

書籍1巻
書籍2巻

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✽正魔女人物相関図

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+注意+

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