477 心からの謝罪
そうして……。
荷造りも全て終わり、明日の引っ越しへの準備が出来たところで、ヒューゴが『ベラさんからの面会の許可がもらえた』と、ブランシュ村の人達に伝えに行ってくれたことで、その時は、直ぐにやってきた。
村の人達と急遽会うことになったというのもあり、ベラさん本人も緊張の面持ちをしていることもあって、そこまで元気には見えないのも、ほんの少し良かった点だろうか……。
さっき、ベラさん自身が『歌劇で活躍するような女優を目指す』というような感じで、頑張ると意気込んではいたものの、やっぱりどう考えても、善人のベラさんには、演技をして取り繕うことだなんて不可能そうだったし……。
一応、ヒューゴが村人さん達を呼びに行ってくれている間にも、私達の間で少し練習してみたんだけど、演技をしようとすると、どうしても表情が強ばってしまい、何故か、片言の外国人のようになってしまって、私は、そんなベラさんの姿に、ちょっとだけ微笑ましく感じていたんだけど……。
ベラさんは、上手く出来ないことに『こういうことをするのって、本当に、苦手で……。アタシ、もう、無理かもしれません……っ!』と、珍しく弱気になった様子で、もの凄く落ち込んでしまっていた。
それでも『魔女関連や精霊などのこと』に関しては、言えないことの方が多いというのもあって、ベラさんは……。
「そのことについては、絶対に秘密にするつもりですので、安心してください……っ!
アタシ、これから先も一切口外せずに、墓場まで、ちゃんと持っていきますので……っ!」
と……、ベラさんのその言葉のチョイスは一体、どこから出てくるんだろうと思うくらい、気さくな雰囲気で面白いことを言って場を和ませてくれるベラさんに、私は終始、楽しくて柔らかい空気を感じ取りながら、頑張るベラさんのことを手助けしたい気持ちでいっぱいになってしまった。
だからこそ、何かあれば、いつでも、ベラさんと村人さん達の遣り取りに関して、フォローに入りたいなと感じつつも……。
私は、大勢の村人さん達が、緊張の面持ちで、ベラさんのお家まで謝罪に来たことで、家の外に出て、完全には回復していない病人として、念のため、パジャマ姿に着替え、エヴァンズ夫人から借りたストールを羽織ったベラさんと……。
ブランシュ村の人達の間にある、久しぶりに再会したことでの緊迫した雰囲気を肌で感じ取り、みんなと一緒に、ベラさんの後ろでその様子を眺めながら、心配する気持ちから、ドキドキしてしまった。
本当なら、ベラさんが病人であることを考慮するのなら、ベッドの上などで会う方が良かったのかもしれないんだけど、さすがに、大勢の村の人達が、全員、家の中に入るということは、物理的に不可能だということもあって、この形に落ち着くことになった。
「……っ、べ、ベラ……っ、久しぶり……、だなっ、? 身体は、大丈夫か……っ?」
「ベラ……っ、今日は、私達に会ってくれて、本当にありがとうね……っ!
もう、それだけで、私達、凄く嬉しくって……、あまりにも、久しぶりで……っ、」
そうして、いつまでも、お互いに顔を見合わせているだけでは良くないと感じたのか……。
村人さん達が、ぽつり、ぽつりと、申し訳ないという表情を前面に押し出しながら、ベラさんの近況と様子を窺うように、恐る恐る慎重に声がかけられていくのが見えた。
今、ベラさんに声をかけたのは、お爺さんと、クレアおばさんだったけど、周りの人達も、その言葉を皮切りに、ベラさんに向かって何かを言わなければと、『久しぶり……っ』といった感じで声をかける人もいれば、黙ったままだったけど、ベラさんに対して本当に後悔したように、謝るように視線を向ける人などもいて……。
多分だけど、久しぶりに会ったことと、ベラさんに対して自分達がしてきたことへの罪悪感で、一体、どういうふうに声をかければいいのかさえ分からなくて、こんな感じの声かけになったのだと思う。
一方で、ベラさんも久しぶりに会う村の人達に、戸惑った様子を見せながら……。
「イエ……っ、エット、アノっ、大丈夫デス……っっ。
あ……っ、違っっ、でも……、その……っ、ごめんなさいっ、あまり、大丈夫じゃないかもしれません……っ。
そうですよね……っ、確かに、村の人達と会うのも、本当に久しぶりで……、アタシ……っ」
と、片言で大丈夫だと言ったあとに、その台詞に関しては、まずいかもしれないと感じたのか、オロオロしつつ、素の状態で声を出していて……。
ベラさんのその言葉に、ブランシュ村の人達は、盛大に勘違いしてしまったのか、奇跡的に、ご飯などを少し食べられるようになって、動ける感じになったくらいで、やっぱり、そこまで体調は良くないのだろうと、強く思ってしまったみたいで……。
この場の雰囲気が、ベラさんのことを思い遣るように、どんよりと、重々しくなったあとで……。
「ベラっっ! 今も、体調に無理を押し通して、私達に会ってくれて本当にありがとうっっ!!
そして、心の底から、当時、お前を村から追い出してしまったことについて、申し訳なかったと思っているっっ!
決して許されることじゃないかもしれないが、すまなかったっっ! 本当に、この通りだっっ!」
と……、村人達を代表するように、ベラさんに謝罪の言葉を言いながら、村の代表格だったお爺さんがしゃがみ込み、地面に手をついて、頭を下げるのが見えた瞬間……。
ブランシュ村の人達が、それに続くように、みんな一斉に、ベラさんに向かって、お爺さんと同じポーズで……。
「ベラちゃん、私からも謝らせて頂戴……っ!
取り返しのつかないことをしてしまって、本当にごめんなさいっ!
あの時、ベラちゃんを村から追い出さなかったらって……、みんな、凄く、そのことを後悔していて……っ!
私だって、許されることじゃないと思うんだけどっ、これくらいのことしかもう、出来なくて……!」
だとか……。
「すまなかったっ、ベラっっ!
お前は、本当に優しい性格の持ち主だったのに、俺たちは……っっ!」
といった感じで、謝罪してきたことに……。
今の今まで、ブランシュ村の人達から追い出されたことを複雑に感じてしまっていたであろうベラさんの方が、その謝罪に関しては、『偽らざる、村人さん達の本音の部分なのだろう』と強く感じ取った上に、村人さん達が、ベラさんの体調に関して、悪い方向に勘違いしているのだと、ハッと気付いたあとで……。
「……いえいえっ、そんな……っ、! 皆さん、お願いですから、顔をあげてください。
そんなにも、地面に、頭をこすりつけそうなほど、深く謝罪して頂かなくても……っ」
と、戸惑った様子で、あわあわと、村人さん達の行動を止めているのが見えた。
その姿に、ベラさんは『やっぱり、本当に優しい人だよね』と感じつつも、ベラさんの言葉に驚いた様子で、しゃがみ込んで謝罪をしたままだった、ブランシュ村の人達が、恐る恐るといった感じで顔を上げてくる。
ベラさん自身も彼等の態度に戸惑っていたけれど、ブランシュ村の人達の方が、きっともっと戸惑ってしまっていただろう。
ともすれば、自分達のやったことを詰るような罵声などが、ベラさんの口から飛んできても可笑しくないところ、ベラさんの方が、ブランシュ村の人達の謝罪を止めるような行動に出ているのだから、そのことに混乱して、パニックになっても不思議ではないと思う。
ただ、それが凄く良い方向に機能してしまったみたいで、ブランシュ村の人達は、ベラさんの言動に更に勘違いを加速させ……。
『こんな自分達のことを、手放しで許してくれるのか……っ!』と、未だ、困惑した様子ではあったものの、大きく目を見開き、ジーンと胸が熱くなってしまったのか、感動しきりの様子で涙ぐむ人の姿も見られるほどだった。
「だが、ベラ……っ、私達は本当にお前に申し訳ないことをして……」
そうして、ブランシュ村でお店を営んでいたおじさんが、ベラさんに向かって、再度、謝罪をしようと口を開いたのが見えたかと思ったら……。
「いえ……っ、あの……、本当に……っ。もうっ、大丈夫ですよ。
今の皆さんの反応で、皆さんが、どれだけ私にしたことを後悔してくれているのかは、伝わってきましたから……。
そんなふうに謝って頂いただけで、あの時の記憶が、和らいで……っっ。
アタシも……、ごめんなさい、凄く嬉しいかもしれません……っ、!
まさか、魔女であることも認めてもらえる日がくるだなんて……っ」
と……、ベラさんの方が、凄く涙ぐみながらも、村人さん達の中心で嬉しそうに表情を緩ませているのが見えて、私は、その光景に感化されてしまい、本当に良かったなと、感じてしまった。
そこから先は、まだほんの少し、お互いに遠慮し合うような、ぎこちなさが漂っていたものの、双方共に硬くではあったけど笑顔が見られたことで、かなり和やかな雰囲気に変わっていって……。
「ベラ、ちゃんとご飯、食べれてる……っ?
これまでの間、どういうふうにして過ごしていたのかっ、私達が聞いても良いのかしら?」
「エ……っ!? アァ、ッ、ハイ、エット、ソウデスネ……っ。
あの……、ごはん、三……っ、い、いえ……っ、何とか、それなりに、食べられるように……。
えっと、今まで、どういうふうに、過ごしていたか……、ですか……っ?」
「あぁぁっ……! えっとぉ……っ、みんなぁ、ベラは、とりあえず回復したばかりで、オートミールみたいに胃に優しいものなら、何とか食べることが出来てるんです……っ!
それで……っ、ベラが今まで、どういうふうに過ごしていたかなんですけど……っ」
「あ……えっと、そうですね……っ!
ベラさんは、本当に……、今まで……、寿命を削っていってしまっていたので……っ、昨日もご飯を食べるのに、何とか……っ」
と……、ブランシュ村の人達から、突っ込んだ質問が降ってくる度に、ベラさんが、一生懸命、頭の中で、どういうふうに言えばいいのか、言葉を考えている間……。
それを見て、ヒューゴと私で、横からフォローをするように言葉を並び立てていくと、更に、この場の空気が温かいものになり、どんどん柔らかくなっていく反面で……。
「いいんですっ、皇女様、ヒューゴちゃんっっ。……皆まで、言わなくても……っ!
きっと、今、二人が言いよどんでしまうほどに、ベラちゃんは、大変な苦労ばかりをしてきたんでしょうねっっ!」
と、もの凄い方向に、良いように勘違いされてしまって、私はそのことに嘘ではない部分もあるものの、ちょっとだけ、今、自分が出した言葉に、罪悪感を抱いてしまった。
それでも、ベラさんが、ソフィアさんのために能力を使用して寿命を削っていっていたのは本当のことだし……。
そこまでの事情を詳しく知らない『ブランシュ村の人達』が言うように、ベラさんが大変な苦労をしてきたということに間違いはなくて、当たらずとも遠からずのことを言われているなぁと思いながら、私は、その勘違いをそのままにさせてもらうことにした。
そのあと……、話をしている間に、ほんの少し打ち解けてきたのか、先ほどまでの緊張感が大分解れた様子で、ベラさんも久しぶりに会う村人達と、思い出話などに花を咲かせている様子だった。
特に、ヒューゴや、アーサー、ベラさんといった村の少ない子供達が、昔から遊んで、幼馴染みの間柄だった話など……。
「ねぇ、覚えてる……っ!?
ヒューゴが、ヤンチャして、私のお家の庭でかくれんぼして、植木鉢を割ってしまったこと。
あの時、ヒューゴと、ベラと、アーサーが一緒に、私の家まで、ごめんなさいって謝りに来たことがあったわよねっ!
ヒューゴったら、ばつの悪い顔をしてっっ、ベラとアーサーの方が、その横で、一生懸命に謝ってて……。
アーサーも、皇族の皆様のご配慮で、皇宮で働く騎士達が行方不明の事件として、一生懸命、捜索してくださっているんでしょうけど、その消息が心配でっ、早く元気な姿を見せてくれたら良いんだけど……」
「ちょっっ! クレアおばさんっっ!
昔のことは、言いっこなしでしょう……っっ!
あの時のことは、俺も反省していて、本当に悪かったって思ってますってばっ!」
「あーっ、そういや、ヒューゴ、あの時、自分はそんなに謝らなくて……。
アタシと、アーサーに、滅茶苦茶、謝らせてたわよね……っ?
言いにくかったのは分かるけど、本当に、昔から、碌でもないんだから……っ」
と、私自身も、彼等が幼かったころの話については全く知らないことばかりで、話を聞いているだけでも、ほんの少し、幼い頃のヒューゴや、ベラさん、アーサーといった面々が、ブランシュ村という『のどかな場所』で、追い駆け回って遊んでいるような、そんな微笑ましい情景が浮かんできてしまった。
その上で……、早く見つかれば良いんだけど、とその安否を心配して、クレアおばさんの口から名前が出てきたことで、私は『あ……っ、アーサー……』と、ちょっとだけ複雑な気持ちになってしまう。
ベラさんやヒューゴはもう少し詳しく事情を知っているけれど、ブランシュ村の人達は、アーサーが単なる行方不明者であるとしか、思っていないんだったよね……っ!
今、現在、皇宮で、テレーゼ様が自白したことで、実は、アーサーが裏で関与して、テレーゼ様に使われていた駒だったということは、既に明らかになっており……。
その事実を知っているのは、私とウィリアムお兄様とギゼルお兄様といった皇族の面々と、お父様の執事であるハーロックなどといった信頼出来る人間にのみ知らされていることではあって、世間一般には、公表もされていないことから、この件に関しては、村人達に伝えることは一切出来ないと思う。
とういうのも……、テレーゼ様の自白によって、ナナシと、テレーゼ様から名前を付けられて呼ばれていたアルヴィンさんが、『生死に関しては特別問うつもりはないが、アーサー自身がもう皇宮には絶対に戻ってこれないよう脅して、ある程度痛めつけるように』と、テレーゼ様から指示されていたみたいで……。
恐らくだけど、アーサーは、自分の犯した罪を告白することも出来ずに、国内外において身分を隠したまま逃げ回っている可能性の方が高いだろうという話だった。
その上で、この間、建国祭が行われている最中に、アーサーと思われる人物が、どこも怪我をしている様子などなく元気な姿で、私達の後をつけていたことに関しては、私達に用事があったのではなく、アルヴィンさんに何かしらの用事があったのではないかと……。
もしかしたら『今現在、アーサーは、アルヴィンさんと一緒に行動などをしているか』、そうじゃなかったとしても『ほんの僅かばかり関わりがあるんじゃないだろうか』というのが、みんなで話し合った時の、アルの見解でもあり、お父様の意見でもあった。
だからこそ、アルヴィンさんがもしかしたら、アーサーと深く関わっているかもしれない以上は、アーサーの事情を考慮すれば、今後も、世間一般の人達に『アーサーの犯した罪』については知らせずに……。
集団毒殺事件に関与している容疑者としてではなく、騎士団の上役である副団長のレオンハルトさんに、信用出来る騎士達のチームを編成してもらった上で、『国の極秘事項に関わる重要参考人』として、秘密裏に、その行方を捜すようにと通達がされただけだった。
そういった事情があることからも、アーサーのことについては、ブランシュ村の人達もそうだし、その行方を気にしているであろう、ベラさんやヒューゴといった面々にも、詳しい事情を説明することは出来なくて、私はちょっとだけ、そのことに申し訳なさのようなものも感じてしまった。
アーサーが集団毒殺事件に関与していたことは、テレーゼ様の口から、はっきりと明らかになってしまったことであって、もしもそのことを知ってしまったら、その時には、幼い頃に三人で過ごした幼馴染みとしての関係性が、ほんの僅かばかり、良くない方向に行ってしまうのではないかと、ベラさんとヒューゴの心情を考えて、私自身が心配してしまう。
一人、そういったことに関して、モヤモヤを募らせて、不安な表情を浮かべていたら……。
さっきまで、ブランシュ村の人達と一緒に、話に花を咲かせている様子だったベラさんが私の方に振り返って……。
「皇女様……っ。改めて、本当にありがとうございます……っ。
まさか、村の人達と、こんなふうに、昔のように話が出来る日が再び訪れるだなんて……っ、アタシ、思ってもなくて……っ!
皇女様の説得がなかったら、きっと、ブランシュ村の人達に会う決断すらしてなかったでしょうし、こういった、嬉しい気持ちを味わうことも、私達の間にあったわだかまりが、ちょっとずつ解けていくようなこともなかったと思います……っ!
このような、機会を与えて下さって、本当に……っ!」
と、もの凄く感謝の気持ちを込めて、様々な感情がわき上がってきたのか、目尻を下げて『まさか、こんなことになるとは思ってもいなかったですっ』といった様子で、幸せそうな表情を浮かべたベラさんから、お礼を言われてしまい……。
そのことに、私自身も、嬉しい気持ちが抑えきれなくなって、思わず口元を緩ませて、ベラさんに『ブランシュ村の人達と和解することが出来て、本当に良かったですね……っ!』と、微笑みながら、声をかけてしまった。
そのあと……。
「ベラ……っ、それでなんだが……っ、これは……っ、村の人間から……っ、!
皇女様や、ヒューゴから、お前が明日、王都に向かうって聞いたからっ、急いで、みんなで用意したものなんだ……っ。
少ないけど、王都での暮らしに役立ててほしいと思って、みんなで集めたお金と、お前がこの先、苦労をしないように村で作った財布に、お守りを……っ!」
と、村人さん達を代表して、お爺さんが、ブランシュ村の人達の思いが籠もった村の伝統工芸であるお財布を、ベラさんに渡そうとすると……。
「えぇぇっ……っ!? そっっ、そんなっ、そんなものっ、受け取れませんよ……っ!
だって、みんなだって、決して裕福な暮らしは、してないでしょう……っ!?
そりゃぁ、ブランシュ村は、割と鉱山が近いから、農業だけじゃなくて、そういった方面でも、冒険者達が立ち寄ってくることで、多少の収入などもあるでしょうけど……っ。
さすがに、それは、申し訳なさすぎます……っ」
と、ベラさんが大慌てで、ブランシュ村の人達の好意に対して、両手を左右にブンブンと振って、その餞別に関しては、受け取れないと固辞しようとしているのが見えて……。
「ベラ……っ、俺が口を挟むのも何だけど……っ。
ブランシュ村の連中は、お前に謝罪したいという気持ちを込めて、せめてっ、少しでも何かしたいと思って、餞別を渡すという話で落ち着いているんだ……っ!
だから、お前もその……っ、コイツは、村人達の善意によるものだし、餞別に関しては、受け取ってやった方が喜ぶんじゃねぇかと思うんだけど……っ」
と、ヒューゴが言ってくれたこともあり……。
私も、ここぞとばかりに、その言葉の援護をするように……。
「ベラさん、実は、私達が買い物をしようとしている間に、ブランシュ村の人達は、どうしたら、ベラさんが喜んでくれるのかということを、一生懸命話し合って、この贈り物にしようと、みんなで決めていたんです……っ!
だから、彼等の謝りたいという気持ちに応えるためにも、このお財布を受け取ってあげた方が、きっと、ブランシュ村の人達も嬉しいんじゃないかと思います……っ」
と……、ベラさんに向かって正直に、私達が村に行っている間、ブランシュ村の人達がベラさんを思ってもの凄く悩んでいた様子について、ありのまま伝えることにした。
その上で、『実は、そちらにいらっしゃるおじさんも、ベラさんのことを思って、引っ越しのためにお鍋などの商品を無料で譲ってくれたんです』ということを、併せて説明すれば……。
ベラさんは、その言葉に、大きく目を見開いたあとで『私の知らない間に、そういった遣り取りがあっただなんて……!』と、ブランシュ村の人達の配慮に恐縮しきりの様子だった。
それでも……。
彼等に向かって凄く嬉しそうな表情を見せていることを思えば、さっきまでの時間で、殆ど解けていたけれど、ようやく、この場で完全に、ブランシュ村の人達とベラさんの間にあった『わだかまりの部分』がなくなったと言えるかもしれない。
そのあとに、ベラさんの口から……。
「そんなふうにみんなで考えて、贈ってくれようとしたものなのだとしたら……、アタシも、皆さんの気持ちを受け取りたいと思います。……本当に、ありがとうございますっ」
と、ブランシュ村の人達に『ありがとう』という感謝の気持ちが伝わったことで、彼等もまた、ベラさんのその反応に喜んで、凄く嬉しそうな表情を見せていた。
そうして……。
双方のことを気遣うような雰囲気はそのままに、最初のうちにあった『わだかまりや緊張感』などは、今は完全になりを潜め、優しい空間が広がっていくのを感じて……。
その光景を、穏やかに見つめながら、私は、ただただ、村人さん達とベラさんとヒューゴの間にあるハートフルな関係性に、ほっこりと胸が温かくなってきてしまった。
今後のベラさんのことを思えば、今ここで、そういった会話が出来ただけでも、良かったことだと思う。
そうして、その何よりも貴重な時間が、終わりの時を迎えるまで、私はセオドアや、お兄様、アルといったみんなと一緒に、柔らかく視線を交わし合い、ベラさんや、村人さん達の間にある温かい空間を分かち合うことにした。