470 暫くぶりの再会
そうして……。
侯爵邸を出た私達は、ウィリアムお兄様が事前に決めてくれていた合流地点で、裕福な上流階級の人が旅行に行くよう見せる目的で使用する、偽装用のためのワゴン車二台と合流し。
前回と同様、国内でも、あまりにも遠い距離にあるブランシュ村まで行くのに、一日だけ、宿泊を挟み……。
その場所で、ソフィアさんの寿命を延ばすために使った『能力の反動』によって辛い身体を回復させるよう、こういう時に、ロイが処方してくれた鎮痛剤を飲みつつ、アルの魔法で癒やして貰いながら、私は出来る限り、ベラさんに会うまでに、自分の体調を万全の状態まで持っていく。
その上で……。
次の日、私達は、なるべく急ぎめに、ベラさんが住んでいるブランシュ村の外れの森にある木造で出来た一軒家まで向かうことにした。
因みに、王都からほど近い場所に領地を構えるエヴァンズ家とは違い、ブランシュ村まで手紙を届けるにはあまりにも遠すぎて、行った方が早いということと、ベラさんが魔女であることも、あまり、誰にも知られない方が良いからということで、完全に、今日行くという約束もしていないまま、突撃訪問になってしまうんだけど……。
『もしかして、家にいなかったりしたら、どうしよう?』と、ドキドキした気持ちを抱えつつも、ヒューゴもベラさんも優しいから、多分、私達が、突然来たことに驚きはされるかもしれないけれど、嫌な顔はせずに、きっと受け入れてくれるんじゃないかな……っ?
早く、魔力を回復させることで、ベラさんの寿命も延ばしてあげたいなと感じつつ……。
私は逸る気持ちを抑えながらも、でこぼこの山道を走っていたことで、ブランシュ村の近く……、行けるところまで馬車で移動したあと、ベラさんのいる森までは、どうしても徒歩で向かわなければいけない道になってしまうことから、そこから先は、馬車を降り、みんなで歩いて向かうことにした。
確か……、ベラさんが住んでいる森の中の一軒家も、エヴァンズ家が手配したものなんだよね……っ?
前に、洞窟で採取した黄金の薔薇で作った薬を持って行った時、ベラさんが、ヒューゴに向かって……。
【アンタは、心配しすぎっ。
前にも言ったけど、今のアタシを見てよ。
早くに両親を亡くしたアタシが、こんな森の奥に無償で家も建てて貰って、一般的な村人なんかよりも、こうして随分と、裕福な暮らしが出来ている。
魔女の能力が発現した時、誰がアタシのことを助けてくれたと思ってるの……っ!?
アンタは、アタシが能力を発現した時には、ソマリアに居て、いなかったから分からないでしょうけど。
殆どの村人は、アタシのこと……、みんな、見て見ぬフリよ。
そりゃぁ、ここ何年も人として扱われることもなくて、大変な思いもしてきたけど、以前とは違って、アタシは好んで自分の能力を使ってるって、何度言えば分かる訳……?】
と……。
衣食住も含めて、全てのことで、『自分が能力を使うことを契約している貴族には、本当にお世話になっている』と言っていたから、そこで繋がりがあったのだと、こういう形で知れたことに、何だか凄く不思議な感覚がするというか……。
エヴァンズ夫人とも、ここに来るまでの馬車の中で、ベラさんのことについて、お互いに話し合ったんだけど、初めて会ったベラさんが、誰かと勘違いをするように赤髪の私を見て、妖精ちゃんと呼んでいたのが、まさか、ソフィアさんのことだっただなんて……、『本当に、凄い縁ですね……っ!』と、ちょっとだけ盛り上がってしまった。
ここ数日、どうしても暗めのニュースばかりだったからか、エヴァンズ夫人は、緊迫した雰囲気で硬い表情をすることが多かったんだけど……。
ソフィアさんが助かったことで安堵した部分もあっただろうし、私に対して莫大な恩を感じている様子で、申し訳なさと感謝の気持ちと共に、ブランシュ村に着く頃には、ちょっとずつ、穏やかな笑顔も見れるようになってきて、私は、そのことにも、ホッと胸を撫で下ろしていた。
罪を犯してしまい、然るべき刑罰を受ける人に関しては、独房の中で贖罪のために反省して生きていくのが基本だとは思うものの……。
普段の生活の中で、どんな人だって、ずっと、そのことだけを考え続けて生きていくことは出来ないと思うし。
ましてや、家族の立場なら、尚更のこと……。
自分の家族がそうだったとしても、日常生活を送るときにまで、四六時中、そのことだけを考えて、気を揉みつつも、一緒に罪を償うために、真剣に内省し続けるだなんて、本当に難しいことだろうから……っ。
私にとっては、エヴァンズ侯爵夫妻が、ルーカスさんについて、『親である自分達の責任だ』と感じているだけでも、本当に充分すぎることなんじゃないかなと思う。
特に、私自身……、ルーカスさんがテレーゼ様の下でしてきた、私に関することにおいては、殆ど、気にもしていなかったり……。
他の人はともかく……、私自身は、ルーカスさんが、一時的にでも『私の婚約者』になってくれていたことで、私自身が、それ以上の被害を受けないように、テレーゼ様から守ってもらっていたこともあって、そのことに感謝する気持ちだって、全くない訳じゃない。
だから、エヴァンズ夫人が『そのことに、重大な責任を感じる必要は、どこにもないのにな……』と、どうしても思ってしまう。
そうして……、私が頭の中で、ぼんやりとそのことについて、考えながら歩いていたら……。
お家の煙突が視界に入ってきたことで、気付けば、あっという間に、ベラさんの住んでいる家の近くまでやって来ることが出来たのだと、私は一気に、意識を目の前のことに引き戻していく。
ここに来て、ベラさんを助けられることに嬉しそうな表情を浮かべながらも……。
ソフィアさんをエヴァンズ邸に連れて帰る際、最後まで自身の力を惜しみなく使ってくれたという、一人暮らしをするベラさんに配慮して……。
【ブランシュ村は、どうしても不便なことが多いし……。
何かあった時には、王都に近い方が、何かと、身体にとっても負担にならないだろうから、もしも、ベラさんさえ良かったら、エヴァンズ邸に一緒に来てほしい】
と、誘ったみたいなんだけど。
ベラさんに丁重に固辞されたことで、結果的に、ブランシュ村に一人残して来てしまった状態だったからこそ、久しぶりに会うというベラさんに、侯爵夫人も、『ベラさんの体調が、必要以上に悪化していなければ良いんですが……』と、ほんの少しだけ、不安を滲ませた様子だった。
……そのあとで、私達が一度、扉を、コンコンとノックすれば、シーンと静まり返った家の中からは、一切の音がないようにも思えて。
【もしかして、タイミング悪く、ベラさんは不在だったのかな……?】
と、私達は、この場にいる全員で、思わず顔を見合わせてしまった。
前に、この場所で会った時……っ、ベラさんが能力を発現したことで、一気に冷たくなってしまったというブランシュ村の人達とは、あまり仲が良くないという雰囲気を醸し出していたことからも、流石に、体調が良くないベラさんが、村に行っているということは考えにくいものの……。
一応、ベラさんが家にいなかったとしたら、森や、ブランシュ村も候補として探しに行くことも視野に入れつつ、人の気配が全く感じられないくらい静まり返っている様子に、唐突に、焦燥感にも似たような漠然とした不安感が、私のことを襲ってくる。
それは、私だけじゃなくて、エヴァンズ夫人を筆頭に、この場にいる、セオドアやお兄様、アルといった面々も、きっと同じ気持ちだっただろう。
みんなが、頭の中に、『もしかして、ベラさんに何かあったのではないか……っ?』という最悪な事態を想像して、危機感を抱き、胸騒ぎを覚えながらも、逸る気持ちを抑えつつ。
「オイ……っ、誰かいるか……っ!? いたら、返事をしてくれたら嬉しいんだが……」
と、私の代わりに、今度は、ウィリアムお兄様が、少し強めに扉をドンドンと叩いてくれた。
その間に、セオドアが、私達に向かって、自分の意見として……。
「もしも、玄関の鍵が開いていたら、勝手にではあるが、家の中に入ることも視野にいれておいた方がいいだろうな……っ!
体調が、あまりにも思わしくなくて、倒れてるかもしれねぇ……っ!」
と、口にしてくれたことで、みんなで、もしもの時を覚悟しつつ、頷きながら、真剣な表情を作り出していると……。
それまで一切、何の音も聞こえてこなかったのに……、確かに、家の中から、ガタッという音がしたかと思ったら……。
「……オイオイ……っっ、ふざけんじゃねぇぞっっ!
今更、どの面下げてやってきてんだっっ! マジで、遅ぇんだよっ……!
魔女だって分かった途端に、村八分にするように、ベラのことを、追い出したくせによォっ!
そのことがチャラになって、消えるとでも思ってんのかっ……!?
お前等がどんなに今、後悔したって、ベラの命が延びる訳じゃねぇんだぞ……っ!
助けられる目処が立ってからやってこいよ、オラ……っっ!
あまりにもしつこい上に、いい加減にしねぇと、塩を撒いて追い返してやるからなっっっ! ……帰れっっ! 帰れっっっ!」
と、まるで、怒鳴り声とも思えるような、あからさまに柄の悪い男の人の声が聞こえてきたかと思ったら、玄関口のドアが、バンっっ、と、強く音を立てながら、乱暴に開かれたことで、私達は目を点にして、ビックリしてしまった。
――目の前で、激昂するように立っているのは、まさしく、ヒューゴ、その人で……。
怒りに任せて、眉やその瞳なども含めて、至るところで、つり上がっていた表情が、私達の姿を目撃した途端、あまりにも大きく見開かれ……。
「えっ……!? あぁっ……!?
こ……、皇女様っっ!? 皇太子殿下まで……っっ!? ……うわわわっっ!?」
と、自分が今、私達に向かって何を言ったのかを思い出して、顔面蒼白になりながら、目に見えて、オロオロ、あわあわと、私達の前で慌て始めてしまった。
「あっ……、えっとぉっ……、! コイツは、そのっっ……、ちがっ、違うんです……!
うあぁぁぁぁっ、皆さんお揃いで、こんな辺境の村まで、一体、どうしたんですかいっっ!?
いや……っ、それよりも、本当に、すいません……っっ!
俺ぁ、てっきり、ベラの寿命が短いことを知って、今更になって罪悪感に苛まれたのかっ、自分達が、殺しただなんて思いたくねぇから、都合良く謝りに来た、ブランシュ村に住んでる村人達だと思って、つい……っ!
ここ最近、ベッドから出られねぇほど、ベラが弱りまくってんのに、自分達の都合で、ドアを叩かれる回数が多かったもんでっ……!
もう、近頃は、対応すら面倒くさくて、居留守戦法を使うように切り替えていた矢先のことで……っ!
えぇぇぇっ、どうしましょうっ!? ベラも、今、完全にベッドで眠ってて、何のお構いも出来ませんが、大丈夫でしょうかっ!?」
そのあとで……、私達に怒りの感情をぶつけてしまったことで……。
まるで、ヒューゴの頭の上に犬の耳が付いていたら垂れ下がっているかの如く、あからさまに、シュンと落ち込みつつ、今の状況に、テンパってしまいそうになりがらも、何とか、ここ最近の『ベラさんと、ヒューゴの事情』について教えてもらったことで、私は、その言葉に納得しながらも……。
「ヒューゴ、落ち着いて下さい。……私達なら、大丈夫ですよ」
と、とりあえず、思いもよらなかったであろう来訪者に焦りまくっているヒューゴを、何とか落ち着かせてあげようと思って、柔らかい口調で声をかける。
私も含めて、お兄様も、セオドアも、アルも、エヴァンズ夫人も、誰も何も気にしていないのに、ヒューゴだけが、自分が仕出かしたことを重大に感じてしまったみたいで、恐縮したように、何度も頭を下げて、此方に向かって謝ってくる。
その姿を、ほっこりと微笑ましく思いつつ。
その上で、冒険者を生業にしていることからも、一度、鉱石を採る目的で洞窟に行ったら、数日は帰ってこれないにも拘わらず、この様子から推測するに、ここ最近はずっと、ベラさんの傍で体調を見守るために、ヒューゴが付いてくれていたのだと知れて、ちょっとだけ安心してしまった。
ただ、ここでずっと、長話をしている訳にもいかず……。
ヒューゴの口ぶりから考えて、ベラさんもまた、あまり体調が思わしくないのだと感じられたことで『急を要するのでは……っ?』と、私は一度、お兄様達と視線を交差させたあと、挨拶もそこそこに、性急に、本題に入ることにした。
「……ヒューゴっ! ……私達が、今日、ここにやって来たのは、他でもありませんっ!
完全に、魔女の能力を消したりすることは出来ないのですが、ベラさんの寿命を延ばして救うための手立てが見つかったんですっ!
ベラさんが手遅れになってしまう前に、皇宮から、ブランシュ村に宛てた手紙を送るよりも、私達が直接来た方が早いと思って……っ!」
……それから。
落ち着いて、冷静に聞いて欲しいと感じつつ、私が、目の前に立っているヒューゴに向かって、焦ってしまう気持ちを何とか抑えながらも、簡単に事情を説明すると。
目に見えて、ヒューゴの瞳が、さっきよりも更に大きく見開かれ、私の両肩をガシッと掴んだあとで、前のめりになりながら……。
「こ、皇女様……っっ! ソイツは、本当のことなんですかいっっ……!?
寿命を殆ど削ってしまったベラのことを助ける手立てが……、まさかっ、この世の中にあるだなんてっ!
どう考えても、奇跡だとしか、思えないんですが……っっ!
いやっ……! 皆まで言わなくても、大丈夫ですっっ!
俺だって、他の誰でもない、嘘なんて一度も吐いたことがないであろう、誰に対しても分け隔てなく心を砕いて接して下さる皇女様がそう言うってことは、ソイツが、眉唾物の情報じゃあないってことくらい、百も承知ですっっ!
だけど……、こんなにもっ、嬉しいことがありますか……っっ!?
皇女様が、俺やベラとも約束してくれた通り、皇宮に帰ってからも、皇宮の図書館などを利用して、ベラのことを思って治す方法を探したいと言ってくれていた言葉を疑ったことなんてっ、一度もありませんでしたが……っっ!
まさか、そんな夢みたいな方法が見つかるだなんて……っっ!
……うぁぁぁぁっ、本当に、恩に着ります……っ!」
と……。
目尻を下げて、どこまでも嬉しそうな表情を浮かべて、私に向かって、飛びつきそうな勢いで声をかけてくれるヒューゴから、ベラさんのことを大切に思う感情の機微を、しっかりと感じとることが出来て、思わず、私も嬉しくなって、ふわふわと、つられるようにして笑みを溢してしまった。
あの時は、そう言うのが精一杯だったけど、皇宮の図書館ではなくて、お父様にお願いして、ベラさんのために禁書庫などに行ったことを知ったら、ヒューゴが申し訳ないと感じて負担になりそうだから、そのことは黙っておこうと思いつつ。
喜び勇んで、ベッドの上で休んでいるというベラさんの下に案内してくれ始めたヒューゴの後をついて、私達が家の中にお邪魔すると……。
「そういやぁ……、さっきから気になってはいたんですが、そちらのご婦人は、一体、どちら様で……っ?」
と、ヒューゴから聞かれたことで、私は思わず、ドキッとしてしまった。
確か、前に、この家にお邪魔させてもらったとき、ベラさんは、貴族の家の人達に感謝して、自分から積極的に能力を使っていると言っていたけれど、ヒューゴは、そのことを良く思っていなさそうだったし……。
ヒューゴ自身、どこかの貴族と、ベラさんが魔女として契約を結んでいることまでは知っていても、エヴァンズ家が関わっていたことに関してや、ベラさんの能力が何に使われていたのかという詳しい情報については、今まで、ベラさんが隠していたこともあって、多分、何も知らなかったんだよね……?
――勿論、ソフィアさんのことも……。
そのことで、エヴァンズ夫人を、ヒューゴに、どういうふうに説明してあげればいいものなのかと、私が内心で、適切な言葉を探していると……。
「早くに、ご両親を亡くしていたとのことで、ベラさんのご家族はもうっ、いっしゃらないと聞いていましたが……。
きっと、貴方は、ベラさんにとって、本当に、大切な方なんですよね……っ!?
あの……っ、申し遅れました……っ!
私は、エヴァンズ侯爵家のものであり、ずっと、ベラさんに、我が子の命を助けてもらっていた者です……っ!」
と、先に、エヴァンズ夫人が、ヒューゴに向かって、簡潔に事情を説明してしまった。
そのことで、あまりにも驚いて、瞬間的に、頭に血が上ってしまったのか……。
「……アンタが、ベラと契約していたお貴族様で……っ!
ベラの命を奪おうとしていた元凶なのか……っ!?」
と、碌に、エヴァンズ夫人の説明も、きちんと聞けていない様子で、夫人に対して食ってかかりそうになったヒューゴに向かって……。
『違うんです、ヒューゴ、話を聞いて下さい……っ!』と、私は、慌てて、ヒューゴの前に飛び出して、エヴァンズ夫人を庇うように、その身体を止めたあと。
同じように魔女だったソフィアさんのことも含めて、エヴァンズ家にも事情があったことを説明した上で、ベラさんも前に言っていたように、ベラさんに対して、エヴァンズ家からの支援なども、最大限されていたことや……。
世間一般の扱いとして……、ただ、特殊な能力を使えることで、使役するように使い捨ての魔女として接していた訳ではなく、エヴァンズ侯爵夫妻は、ベラさんのことを本当に『恩人』として、自分の娘のように感じていること……。
そうして……、今回、ベラさんを助けるために、エヴァンズ侯爵夫妻が、皇帝陛下であるお父様に向かって、『自分の娘だけではなく、その命を救ってほしい人がいる』のだと懇願していたことなどを、私はヒューゴに、詳しく、順を追って説明することにした。
それから……、しばらく、私の話を黙って聞いてくれていたヒューゴは、それでもベラさんが寿命を削っていたのに代わりはないということも相まってか、心情的には凄く複雑そうな表情をしつつも……。
「……っ、そんな……っ、そういう事情があっただなんて、一切、知りませんでした……っ!
ベラの奴、機密情報だからってっ、本当に何も話さねぇから……っ、俺はてっきり、生活を保障する代わりに、貴族であるお偉いさんの利益になるようなことをさせられてんのかと、思って……っ!
まさか、同じ魔女である女の子の命を守るために、能力が使われてるだなんて、一切、予想もしてなかったもんだから……っ!」
と……、聞かされた真実に、目に見えてショックを受けた様子で、自身の喧嘩っ早い性格を、どこまでも反省しきりの様子だった。
その姿を見て……。
「いえいえっっ、とんでもありませんっっ……!
ヒューゴさんに、謝らなければいけないのは、こっちの方なんです……っっ!
たとえ、娘を助けてもらうためだとはいえ、ベラさんが寿命を削っていくのを、見て見ぬフリをしてきたのは事実ですし……。
私達に出来ることなんて、本当に、日々の生活などを手助けしてあげられるくらいの微々たるものでしかなくて……っ!
でも、そのお陰で、私の娘は、命が助かって……っ、!
だからっ、ベラさんには、家の者も含めて、本当に感謝していて……っ」
と、言葉にならない様子でありながら、エヴァンズ夫人が、ヒューゴに向かって改めて謝罪をしているのを見て、私は、以前からヒューゴが持っていた貴族に向けての悪感情が解消されて、誤解が解けたことに、ホッと胸を撫で下ろした。
そのタイミングで……。
「……っ、ねぇっ、一体、どうしたのよ、ヒューゴ! ……随分、騒がしいみたいだけど……っ!
アンタっっっ! また、村の人を、手荒に、追い返したんじゃないでしょうね……っっ!?
今までされてきたことを考えれば、確かに、心情的に、もう、誰にも会いたくないって言ったけどさ……っ、それで、乱暴に追い返すのは、違うでしょっ!?
アンタ、元々、粗野なところがあるんだから、口には気をつけなって、いつも私、口を酸っぱくしながら言ってるわよねっっ!
だからこそ……っ、どっちにとっても都合の良いように、居留守作戦、使えって言ったじゃない……っっ!」
と……。
寝室の扉を開けたヒューゴに、前に会った時より、更に痩せ細ってはいたものの、ベッドの上で上半身を起こして座っていたベラさんが、ぷんすかと、目を吊り上げて、ヒューゴに向かって『特にアンタは、私と違って、憎まれる必要なんてないんだしっ、これから先のことを考えたら、人付き合い、大切にしなよね……っ!』と、叱りつけるように怒っているのが見えた瞬間……。
ヒューゴから、ちょっとだけ視線をずらしたベラさんは、扉の奥にいる私達と、目が合って……。
『ひぁ……っっっ!!!?』と、あまりにもビックリしたこともあってか、おおよそ人間が出すような言葉とも思えない悲鳴を上げながら……。
「そ、っ、そんな……っ! こ、皇女様……っ!? 皇太子様っ……!?
……えぇぇっ、まさかの、エヴァンズ夫人までっ!? よっ、妖精ちゃんは……っ!?
こんな山奥の我が家までっ、ご足労頂いてっ、一体、どうしたんですか……っっ!?」
と……、私達に向かって、体調が思わしくなく、少しでも回復させるために休んでいたであろう、どこまでもリラックスしていた様子から、一気に、背筋を伸ばして、まるで借りてきた猫のように畏まった雰囲気になってしまった。
いつもお読み頂きありがとうございます……っ!
ヒューゴとベラが出てくると一気にギャグっぽくなって、私は本当に、書いてて楽しいのですが。
2022年の7月頃から書いてきた248話からの、エヴァンズ家とベラとの伏線などを、今、一気に放出することが出来て、私はようやく、ここまでこれたんだなと感慨深い気持ちでいっぱいです(笑)
あの当時、Twitterでも『みんなには黒幕分かっているのに、冒険者編やる必要があるのかなって思われてる気がするんだけど、アリスにとってもかなり重要な話になってくるから引き続き楽しんで読んでもらえると嬉しいです』と書いていたのが、あまりにも懐かしくて、思わず、個人的に、ようやくベラのことも助けられると胸がいっぱいになってきてしまいました~!
ここ最近、シリアスな場面なども続いていましたし、二人が出てくると一気に明るく賑やかな雰囲気になるので、引き続き、皆様にも楽しんで読んで頂けると、とっても嬉しいですっ!