457 親子の関係
「……っ、母上っ、」
今、この瞬間、テレーゼ様のその様子を見て、ウィリアムお兄様と、ギゼルお兄様の瞳に浮かんだ悲哀の表情と、失望の色。
特に、今、テレーゼ様に向かって、『母上……っ』と、声を上げた、ギゼルお兄様の瞳には……。
長年、テレーゼ様が、世間から見た理想の第二妃として、皇后として立ち回れるように演じて、取り繕ってきていたことを、信じてしまっていた分だけ、裏切られたという感情のもと、反発するような気持ちが強く乗っかっていて……。
『この場においても、そんなふうに取り繕うのかよ……っ!?』
と、皇族であることに誇りを持っていて……。
普段から、この国を背負うべく、第二皇子として、自分には何が出来るだろうかと、ウィリアムお兄様の背中を追って努力してきたギゼルお兄様ほど、今の、テレーゼ様を受け入れられなくなってしまっているんだと思う。
もちろん、ウィリアムお兄様にも、そういった感情が全然無いわけじゃないものの。
剥き出しになった嫌悪感を隠すことも出来ずに、ギゼルお兄様から、非難する強い『その視線』を浴びて、テレーゼ様の瞳に僅かに宿った、自分自身を嘲るかのような薄い笑みに……。
私は、ここに来て初めて、テレーゼ様が、ウィリアムお兄様からの視線よりも、ギゼルお兄様からの視線を優先し、反応したのが見えたことで『複雑な感情』を抱いてしまった。
【多分、お母様と私ほどの関係性ではなかったとしても、テレーゼ様とギゼルお兄様の間にも、確かに、家族としての確執のようなものが、あったんだよね……?】
私自身も、ここ最近になって、ウィリアムお兄様のことは褒めて持ちあげるのに、殊更、ギゼルお兄様に対してだけ、厳しい視線を向けていたテレーゼ様のことは気になっていたから……。
今、こうして、ギゼルお兄様の視線を受けて、まるで、母親として、一人の人間として『失格』だと言わんばかりに、自分自身のことを嘲るような感情を表に出していること自体は、特に問題だとは思わなかったんだけど。
どうして、その表情を浮かべるのが、今だったのだろうと、あまりにも遅いその感情に、私はギゼルお兄様に対する心配の気持ちで、事の成り行きを、ハラハラと見守ることしか出来なかった。
テレーゼ様自身、ギゼルお兄様が生まれてから、母親として、ギゼルお兄様に対して、何の感情も抱かなかった訳ではないと思う。
だからこそ、今、僅かながらでも、お兄様に向けて、隠しきれなかったその感情の変化を向けたことについては、テレーゼ様の本心からの想いが、滲み出るかのように、表に出てしまった結果なのだろう。
今まで、取り繕って、自分の本心や感情を『表』では、上手いこと隠しながら、生きてきた人だからだろうか?
……こういう姿を見ると、テレーゼ様に人間らしさのようなものを感じて、頭が良くて器用な人だとばかり思っていたけれど、自分の息子に対しては、感情面の方で、不器用な一面も持っているのだなと思ってしまった。
私自身、テレーゼ様に、あれだけのことをされてきたんだから、もっと不快に思う気持ちや、嫌悪感のようなものなど、そういった感情を抱いても可笑しくないと思うし、それが正常なことだとは、自分でも感じるんだけど……。
でも、そういった感情よりも、もっと強く、今は、目の前にいるテレーゼ様に対して、その言動に哀れんで、同情してしまう気持ちしか湧いてこなくて……。
だって、この場においてもなお、虚勢を張っているテレーゼ様の姿は、自分が既に追い詰められていて、どう足掻いても手詰まりな状態にあるのだと、この状況を、頭の中では理解していても、心の部分で、そのことを強く否定しながら、今まで、自分が、このような生き方しかしてこなかったのだということを、まさに、体現していて……。
今更、誰かに対して、誠心誠意、謝罪をしたり、後悔の念を抱いたりすることさえも出来ないのだと……。
もしかしたら、内心では、そういった気持ちを感じていたとしても、それを表に出すことは、絶対に出来ないのだと……。
多分だけど、自分の中にある、なけなしのプライドが邪魔をして、何も出来なくなってしまってる。
だからといって、先ほどまでの罪が暴かれる前の段階では別だったけど、こうして罪が暴かれたあとに、マルティーニ家が主催した御茶会でのミリアーナ嬢のように、自分がしたことを棚に上げて反論してきたり、私に向かって、今ここで、強い憎しみのような感情をぶつけてくる訳でもなく……。
私が時間を司る能力を持っているからこそ、より深く感じるのかもしれないけど、戻ることも、前に進むことも、何一つ、今のテレーゼ様には、難しいのだと言わんばかりに、ただ、この場の成り行きに任せるかのように、断罪される時を待って、背筋を伸ばして佇むことしか出来ていない。
だからこそ、強く思うんだけど……。
内心では、きっと、自分が犯した罪についても、充分に理解はしているんじゃないかな、と感じるし……。
そのことに、『一度たりとも、罪悪感を抱いたことはなかったのか?』と聞かれたら、さっき、一瞬の間でも、憎かったはずの私を心配するような目つきで見たことも含めて、今、ギゼルお兄様の視線に対して、僅かにでも、自分自身を嘲るような反応を示したことで、本当は、罪悪感や、罪の意識については、きちんと持っているのではないかなと思ってしまう。
……じゃないと、きっと、こんな反応には、ならないだろう。
特に、本人からしたら、今更感が拭えなくて、隠しておきたいことだったのかもしれないけど。
今後の、ギゼルお兄様や、ウィリアムお兄様のことを考えたら、今まで犯してきた自分の行動のせいで、二人の立場が向かい風となってしまう可能性を、恐らく考えた上で、申し訳ないと思う気持ちが隠せなくなって……。
この短い時間の中で、瞬く間に、じわり、じわりと、そういった感情が、ぼろとなって表に出てきてしまっているということ自体が、今まで、清廉潔白としての仮面をつけ続け、完璧に世間を欺いてきたテレーゼ様の姿からは、考えられないことだったし……。
――それだけ、今、テレーゼ様の本音の部分が、この場において、炙り出されてきている証拠なんじゃないだろうか……?
……もちろん、それで、テレーゼ様が犯してきた罪が、全て消えて無くなってしまう訳じゃない。
自分の罪がこうして暴かれることになってしまった時、それによって生じる被害のことを、一切、考えることが出来なかったかと言われたら、きっとそうじゃなく、最初からそのことについては、絶対に、僅かながらでも、頭の片隅にあったはずで……。
それでも、テレーゼ様自身が、私やお母様に対して感じていたであろう、一方的な憎しみのようなものから、いけないことだと分かっていながらも、罪を犯し続けるという状況を選び続けてきたことへの責任は、絶対に取らなければいけない。
ただ……、テレーゼ様が犯してしまった罪については悪いものとして、その罪に対して、誠心誠意、償っていかなければいけないと感じるものの。
それでも、これから、テレーゼ様が、何を感じて、どう生きていくのかという部分に関しては、幾らでも、変えていけると私は思う。
――たとえ、それが、皇宮にある牢屋の中で、長年、自分が犯してきた罪に対して向き合って、償うことになろうとも……。
自分が、どんな場所にいたって、その身ひとつあれば、過去を反省して、今を生きていくことは、きっと出来ると思うから……。
私の考えは甘いのかもしれないけど、犯してしまった罪に対して、どう向き合っていきたいと思っているのかというところと、これから先の未来のことについて、どういうふうにテレーゼ様が感じているのかというところで、その気持ちを知りたいなと思ってしまう。
ウィリアムお兄様や、ギゼルお兄様のことを思えば、テレーゼ様が、生きていく中で、幼い時から今のような考えをする人だったのかと言われたら、絶対に違うと思うし……。
お兄様達の祖父に当たる、テレーゼ様の父親だったというフロレンス伯爵は、世間からも碌でもないと、白い目で見られるような人だったという話は聞いたことがあるから、テレーゼ様自身、そういった苦しい境遇の中で生まれて、否応なしに揉まれていく内に……。
長年、貴族や、他の人達を相手に上手く立ち回るために『次第に、裏でそういったことをするのが、平気になっていったのだろうか?』と、思ってしまう部分もある。
もちろん、同じような境遇や、状況下に置かれていたとしても、そんなことはせずに、真っ当に生きている人も、世の中には沢山いるし、傍から見れば、テレーゼ様のやってきたことは、特に私にとっては『悪』でしかないものだから、擁護することは、出来ないんだけど……。
それでも、お兄様二人を産んだ人でもあるし、今のテレーゼ様の表情を見て、後悔する気持ちもあるのだと、僅かばかり、期待するような気持ちも沸き上がってきて……。
私自身、アルに身体を癒やしてもらったあと、能力の反動による気持ちの悪さのようなものは、少しずつ落ち着いてきたものの。
立ち上がる気力はもう残っていなくて、セオドアとアルに介抱してもらいながら、地面にぺたりと座った状態で、テレーゼ様の方へと、その『本心を知りたい』と思いながら、真っ直ぐに見上げてしまう。
そうして、少しの間、誰も、何も喋らない空白の時間が、また、この場に流れていくのを感じながら……。
沈黙を破ることになったのは、お父様で……。
「テレーゼ。……今、ここで、申し開きはあるか?」
と、重々しく口を開いたお父様が、テレーゼ様に向かって声をかけると。
「いいえ、陛下。……何の、申し開きもございません。
今更、このようなことを言えば、自己弁護が過ぎるかと思われるでしょうが、私がしてきたことへの罪に対する重さに関しては、重々、理解しているつもりです。
分かっていながら、こうして、罪を重ね続けてきたことは、嘘偽りようもなく、真実でしかありません。
だからこそ、最初から、こうなる可能性については、視野に入れていた。
……それが、今、私の身に、真に、降りかかってきているだけ。
誰に理解されなくとも、たとえ、道理に合わなくとも、この場で全ての罪が暴かれなければ、私は、これから先も、変わらずに、罪を犯し続けていたでしょう。
……愛する我が子のためにも……っ、第二妃として……、皇后としての自分の立場を守るためにも……っ!
ですが……、こうして、私の罪が白日の下に晒されたのならば、もう、何一つ、弁明する気などもなく、裁きを受ける覚悟も出来ています。
今更、足掻こうが、藻掻こうが、どうにもならないが故に……。
どうぞ、この身を、如何様にも、処分して頂ければと思います」
と、どこまでも落ち着き払った様子のテレーゼ様から、淡々と、言葉が降ってくるのが聞こえてきた。
その言葉を聞いて……。
「母上っっ……! 一体、どうしてですかっっっ!?
常日頃から、兄上のようになれ、と……っっ!
皇族として、兄上のように正しい姿でいろと、俺に、言い続けてきたのは、母上じゃないですかっっ!?
なぜ、これほどまでに大きなことを仕出かしておいてっ、それでもなお、今、この瞬間にも、正気を保っていられるのですかっ!?
今まで、第二妃として……、皇后として……、あなたが民衆に見せてきた正しい姿は、全て偽りだったんですよねっ!?
俺は、ずっとあなたに、自分のことを見てほしいと思って生きてきましたっ!
それでも、兄上に向けるのと同じような視線で見てくれなくてもいいと思っていたのは、兄上が、本当に、俺にとっては、敵わないと思ってしまうくらい、何でも出来る特別な人だったから……っ!
そうして、何よりも、母上、あなたのことを、尊敬していたからです……っ!
……あなたのことを、国の頂点に立つ父上の横に並んでも、何ら遜色のない存在として、素晴らしい人だと思っていた俺の気持ちを返してくださいっっ!
俺は、あなたのことを、今、心の底から、軽蔑していますっっっ!」
と、その瞳を潤ませて、目を真っ赤にしたギゼルお兄様から、怒号のような声が、テレーゼ様にかけられる。
――今までのギゼルお兄様の状況を思えば、それは、どこまでも真っ当な、心の底からくる本音だったのだと思う。
……信じていた分だけ、裏切られたことへのショックは大きくなって……。
それでも、自分の母親だから、完全には嫌いになれなくて、テレーゼ様に向かって、責め立てるような言葉だけが、あとから、あとから、出てきてしまってる。
そうして……。
「母上、俺も、ギゼルと同じで、今、あなたのことを、軽蔑しています。
俺自身、小さい頃に、持って生まれた右目によって、熱が出てしまったのは、本当のことですし、あなたがそれで、俺の持って生まれた赤に対し、まさしく呪いそのものだと……。
嫌悪感と、自分の子供を奪い去ってしまうようなものだと、強い憎しみを感じるようになったことは、俺も理解しています。
ですが、赤を持つ者に対して、アリスに対して……、ここまで、一方的な感情を募らせて、排除するような動きをしているだなんてことは、知りたくもありませんでしたっ!
ルーカスが言っていたように、それが、俺の将来のためだと言うのなら、それは、ただの自己満足でしかないっ!
あなたが、どう思っているかは知らないが、俺の親しい友人でもあるルーカスを脅し、駒のように使って、アリスのことを排除しようと動いてきたことが、本当に、俺のためになると思いますかっっ!?
……もう俺は、あなたの前で、高熱を出して死にかけていた、幼い子供じゃないっっ!
貴方自身は、俺のことを過剰に思い遣って、大切にしているのだと感じていたのかもしれないが、いつまで、俺に対して、あの頃のままの感情を持ち続けるつもりなんですかっ!?」
と……。
ウィリアムお兄様から、ありのまま、今、自分が思っていることを率直に伝えるように責め立てる言葉が降ってくると……。
テレーゼ様は、ギゼルお兄様と、ウィリアムお兄様の方を交互に見つめながら、その言葉を真正面から受け止めた上で、反論しようと何かを言いかけるために口を開いては、結局、何も言葉にならない様子で、あまりにも強いショックを感じてしまったのか、その場で、固まってしまった。
テレーゼ様が、こんなにも狼狽している姿を、私自身、初めて見たかもしれない。
その状態を、傍から見ている私ですら、お兄様達とテレーゼ様との間にある親子としての絆や、関係性が、一気に崩れ落ちていくような感覚がして、心が痛くなってきてしまう。
テレーゼ様は、ギゼルお兄様にとっても、ウィリアムお兄様にとっても、血の繋がった肉親であることには変わりがない。
そうして、テレーゼ様の今までの行いに関して、完全に失望して、突き放しているようにも見える二人の言葉の裏と……、その表情からも、今まで築いてきた親子としての関係値の分だけ、躊躇いがあるのだということは、私にも伝わってきた。
……ウィリアムお兄様はもちろん、ギゼルお兄様も、素直じゃないだけで、凄く優しい心を持っている人なのだと、最近、私にも分かるようになってきていたから、余計。
今、テレーゼ様に対して失望し、軽蔑すると言っている二人の気持ちは、多分、本当のことだと思うんだけど、でも、それだけじゃなくて、本当に、複雑に入り組んだ愛憎のような、様々な感情が綯い交ぜになって、自分達の母親が犯していた罪の重さに信じられないという気持ちと、裏切られてしまったという気持ちから、責めるような感情が強くなっていて、拒絶する気持ちの方が大きくなっていることは、私にも伝わってくる。
そのことが、これから先も、ウィリアムお兄様と、ギゼルお兄様の感情に暗い影を落とすことになってしまうのは、変えられないと思うんだけど……。
それでも、これまで、テレーゼ様と親子として関わってきた時間の分だけ、きっと、楽しかった思い出とか、嬉しかった気持ちだとか、そういった感情を抱いたこともあっただろうし……。
何も、今ここで、完全に、テレーゼ様のことを拒絶して、そういった感情すらも、捨ててしまうことはないんじゃないかな……?
躊躇いがあるのなら、なおのこと……。
――今の二人には、後悔するような道を選んでほしくはないと思う。
だからこそ、今、この瞬間を逃してしまったら、もう二度と、テレーゼ様とは関われなくて、恨みや、憎しみの気持ちだけが残ってしまい……。
そういった幼い頃の楽しかった思い出などが、ふとした瞬間に、頭の中に過ったとしても、お兄様達が、そのことに酷い罪悪感を感じて、自分の気持ちとして、それ以上は出てこないようにと、強制的に蓋をしてしまう気がして……。
私自身が、亡くなってしまったお母様と、もう二度と、会話をすることも出来なければ、最期の瞬間が、あまりにも酷い状況で、トラウマになってしまっていることもあり……。
生前、お母様とは、一度もわかり合えることが出来なくて、どうにもならなかった親子の関係だったからこそ、お兄様達には、そんなふうになって欲しくないなと思ってしまう。
お父様が、今回の事件で、どういった判断を下すのかは分からないけれど、それでも、テレーゼ様の身分を考えれば、一国の皇后が犯した罪として、前にも、馬車の中で話してくれたけど、身内に甘いと取られてしまわないように、重い罰を下すことにはなってしまうだろう。
――最早、これは、被害者である私の一存で決めれるような話じゃない。
それでも……っ、どうしても、お兄様達には、後悔をしてほしくなくて。
お母様が亡くなってしまった時に、愛されていなかったことの悲しみと絶望とも思えるような状態になりながらも、もう二度と話せなくなってしまったんだと、苦しんだ私のようにはなってほしくなくて。
今、この場で、テレーゼ様に対してかける言葉が、最後の言葉になってしまわぬようにと……。
私は今、お兄様達からの言葉を受けて、何も言えずに、目に見えて狼狽し、どこまでも苦しそうな表情を浮かべていたテレーゼ様と、お兄様の方を交互に見つめながらも……。
「……ウィリアムお兄様も、ギゼルお兄様も、本当に、それで、後悔しませんか……っ?」
と、意を決して、みんなの間に割って入るように声をかける。
余計なお世話かとも思ったけど、それでも、どうしても、お兄様達二人に葛藤があるのなら、今すぐに、テレーゼ様を完全に切り捨てるというような、はっきりとした決断はしてほしくなくて……。
突然の、私の言葉に驚いたような表情を浮かべたお兄様二人と、テレーゼ様の方を見ながら、私は、今、自分が思っていることを正直に、お兄様達に伝えていくことにした。
「あの……っ、さっきも話したように、私自身、お母様とは、最期まで分かりあえることがなくて、どうにもならない親子関係だったんです……っ、!
それでも、お母様のことを、本当の意味で嫌いにはなれなくて、未だに、お母様と永遠に喋れなくなってしまったことも、時折、思い出しては、苦しくなってしまうこともあるので……っ。
今、状況は、少し違うかもしれませんが、お兄様達も、テレーゼ様と、二度と話せなくなってしまう道を選ぼうとしていませんか……っ?
お兄様達には、私のように、後悔だけはしてほしくないんです……っ!
だから、お父様がこれから下すことになる、テレーゼ様への刑罰が、どれほどのものになるのかは分かりませんが……。
もしも、可能なら、これから、テレーゼ様が収監されるであろう牢屋に、お兄様達さえ良ければ、お手紙を出すという道だけでも、残してみるのはどうかなって、思いまして……」
そうして、はっきりと告げた私の言葉に『お前は、被害者だし、母上に毒を盛られるところだったんだぞ……っ!』と、驚くような視線を向けてきたお兄様達の姿と……。
まさか、私からそんな提案が降ってくるとも思っていなかったみたいで、あまりにもビックリしすぎて、取り繕うことさえ出来ずに、呆然としながら、私の方を『……正気なのか?』と、マジマジと見つめてくる、テレーゼ様の姿が目に入ってきた。