456 決裂
それでも……。
セオドアが今かけてくれた言葉も、何もかも、今のアルヴィンさんの耳には届かないのだと、アルヴィンさんの表情から、ただ、悟る。
セオドアが、アルヴィンさんに対して刃の切っ先を突きつけていることで、私達にとって、どこまでも有利な状況であることには、変わらないはずなのに……。
変わりが、なかったはずなのに……。
「……そう。……お前達の考えは、よく分かったよ」
と、誰に聞かせる訳でも無く、まるで独り言のように、ぽつりと漏らしたアルヴィンさんの声色は、この場の状況など、どうとでもなると思っているかのようなもので……。
さっきから、アルの半身であるアルヴィンさんを傷つけることは難しいと、私自身も感じていたことだったけど。
アルヴィンさん自身、自分に、セオドアが致命傷を負わせるような攻撃をすることは出来ないのだと見透かすように、余裕を失ってはいなくて……。
私もそうなんだけど、セオドアも、どこかで、アルと同じ精霊だから……、元々、アルと同一の存在だったのだから……。
……きっと最後には、分かり合えるんじゃないか、って思ってくれている部分があるんだと思う。
いや……っ、もしかしたら、セオドアは、アルヴィンさんが、アルの大事な半身だということを、考慮してくれつつも……。
ここまで、アルヴィンさんのことを追い詰めれば、流石に大丈夫なのではないか、と……。
『アルヴィンさんが諦めてくれるのではないか……』と、さっきまで信じきっていた、私のそんな甘い考えを汲み取って、合わせてくれている部分が、大いにあるんじゃないかな?
――今この瞬間の、セオドアの躊躇いは……、私の躊躇いそのものが、まるで、映し鏡のように反映されたものだ。
私自身が、アルの半身である、アルヴィンさんを傷つけることに、今、凄く躊躇ってしまっているから、セオドアもアルヴィンさんに向かって、制圧するために動いてくれているものの……、きちんとした攻撃を、負わせることが出来ないのだと……。
その……、セオドアの優しさにつけいるような形で、一瞬だけ生まれた隙を、アルヴィンさんは見逃してはくれなかった。
バッと、その場で、力強く地面を蹴って、飛び退くように後退して、私達から距離を取ってきたことで、折角のチャンスを生かし切れなかったと思うよりも先に、思わず、アルヴィンさんから降ってくるであろう、次の攻撃を予想して身構えてしまう。
……だけど。
先ほどまで、攻撃の手を一切緩めることがなかったアルヴィンさんの動きは、そこで、ピタリと止まり……。
今までだったら、絶対にあり得なかった疲労の色を強く感じさせるように、額から汗が滲み出て、胸元をぎゅっと握りしめながら……。
突然『はぁ……っ、はぁ……っ』と、荒い呼吸を繰り返し、まるで、能力を使ったあとの魔女の反動のような症状が、アルヴィンさんの身体を襲っているかの如く、今、この瞬間にも、目に見えて苦しみ出したのが分かって、私は、思わず混乱してしまった。
……私の傍にいるようになってから、人間の生活に馴染むために、魔法の使用を制限してくれていたとはいえ。
今までに、魔法を使っていたアルが、そんなふうになっているのは見た事がないし、アルから、そういった症状が起きることがあるとも聞いたことがなかったから……。
一つの能力に特化している魔女は、人だということもあり、魔法を使う度に、自身の寿命を削っていってしまうものだから、そういった反動が起きてしまうのも仕方がないことだと思うけど。
――精霊も同様に、あまりにも魔法を使いすぎたら、そうなってしまうものなんだろうか……?
今、この場において……。
みんなには、甘いと言われてしまうかもしれないなと感じつつも、突然、息を荒げて苦しみ出したアルヴィンさんのその姿を見て、さっきまで攻撃されていた事実を、一先ず、心の奥底に追いやって『大丈夫なんだろうか?』と、瞬間的に、ハラハラと心配してしまっていたら……。
「……アルヴィンっ、やはり……、お前っっ、! 身体の調子が……っ」
と、アルが何かに気付いたかのように、僅かばかり心配を滲ませた声色で、アルヴィンさんに向かって声をかけたのが、私の耳にも入ってきた。
そうして、アルの問いかけに、アルヴィンさんは、まるで自虐するみたいに、ふわりと、儚いとも取れるような笑みを浮かべ……。
「……あぁ、そうだっ。
まさしく、お前が、今思っている通りだよ、アルフレッドっ!
僕達の通信が途絶えてしまったことで、薄々、お前も感じていただろうっ……!?
僕の体内に内在する魔力は、長いこと、魔女や精霊の子供達を助けてきたことで、すり減って、もう、大分弱まってしまっているんだっ。
……僕自身、かつてのように、魔法を連発することも出来なくなっていることは事実だよっ!
言っただろう……っ!? この計画に、必ず犠牲は、付きものなんだって……っ!
それは、僕の命だって、そうだ……っ!
だからこそ、アルフレッドもそうだが、特に、セオドア……っ、今この瞬間にも、アリスを守ろうと動いてくる、お前の存在は、僕にとっては邪魔でしかないっ!
たとえ、僕の大切な半身であろうともっ、……ノクスの民という赤を持つ者であろうともっ、僕の邪魔をするのなら、これから先、お前達は、等しく僕の敵でしかないんだよっ!」
と……。
まるで、魂からの叫びかのように、私達に向かって声を張り上げてくる。
その言葉が、あまりにも重くて……。
アルヴィンさん自身、赤を持つ者だけを救う理想の未来を作るためならば、自分の命さえも、どうでも良いと思っているのだと……。
――犠牲として、捧げることが出来るのだと……。
それを邪魔する人間は、たとえ、自分の半身だった人ですらも、もうどうしようもなく、取り返しも付かないくらいに、等しく敵だと思っているのだと……。
その言葉から、狂おしいほどの思いが伝わってきたことで、『そんな悲しいことがあるのか』と、私は、今のアルヴィンさんの姿に、ひたすら胸が痛くなってきてしまった。
そうして……。
自分の頭を、一度だけ、掻きむしるようにしながら、私達の方へと鋭い視線を向けて……。
「……あぁ、本当に、嫌になる……っっ!
僕が使う魔法の頻度に制限がかけられている以上、どう考えても、ずっとここにいるのは得策じゃないっ!
さっき、アルフレッドが言っていたように、長期戦になれば、やがては“じり貧”になって、僕の方の分が悪くなってしまうのは避けられないだろうっ!
だからこそ、今、この瞬間においては、一度、退くことにするけどさ……っ!
……だけど、アリス……、これだけは覚えておいて……っ!
君が、僕達を救うことが出来る唯一の存在である以上、どんなことがあったとしても、僕は、君のことを絶対に諦めない……っ!
必ず、また、攫いにくるから……っ!」
と……。
吠えるような声色で、さっき、アルが言っていたように、このままだと自分の分が悪くなって、劣勢になってしまうと感じた上で、最後まで……、『アルヴィンさん自身が思う、理想を叶える』という意志を曲げることもなく。
今度は、人を傷つけるための攻撃ではなく、自分がこの場から身を守りながら立ち去ることが出来るようにと、まるで、その身を防御するかのように、竜巻のような風を巻き起こしたのが目に入ってきた。
それを見て、一早く、動いてくれたのは、やっぱり、セオドアで……。
「……っ、逃がすかよ……っ!」
と、瞬時に、アルヴィンさんを、この場から逃がさないようにと、その身柄を拘束するために、走り出してくれたんだけど……。
既に、距離を取られてしまっていたこともあり、セオドアが、アルヴィンさんに追いつく前に、アルヴィンさんが包囲網を築くために張っていた結界から出てしまって、私達自身は、この庭園から出ることが出来ず、それ以上、追いかけることも出来ずに、結局、その姿が、この場から消える瞬間を、ただ、ただ、見届けることになってしまった。
そうして……。
アルヴィンさんが、私達に向かって攻撃魔法を使うのをやめて撤退していく状況を見ながら、アルも即座に魔法を使って、アルヴィンさんが張っていた結界を解くのに尽力して、頑張ってくれていたんだけど。
まるで、こうなる可能性も視野に入れていたかのように、先手を打って……。
私達が、食事会をしている間に、用意周到に、徐々に、アルに気付かれないところから、長い時間をかけて、術式を組んで展開していた『精巧な結界』だったみたいで、流石のアルでも、一瞬のうちに、それを解くということは厳しかったみたい。
それでも、私達、複数の人間を守るような防御魔法を使っていなければ、数十秒程度の時間で、その魔法を、いとも簡単に解くことが出来たんだけど……。
数十秒という僅かな時間さえあれば、アルヴィンさんが、この場から立ち去るには充分だったみたいで、何の変哲もない、いつもと変わらない景色だけが、私達の視界に入ってくる。
その上で『アルヴィンさんが、どっちの方向に逃げたのか分からない以上、それ以上の追跡をするのは難しい』と、アルに教えてもらったことで、私自身、言い知れない漠然とした不安感に襲われながらも……。
同時に、あまりにも短い時間に頻発して、自分が魔法を使ったこともあり、その反動と共に、一気に身体にガタがきて、さっきまでは、気力で持ちこたえられていて、何とか耐えられそうだった状態すらも、今は、失っていく感覚がする。
そうして……。
ドクン、という痛みでしかない胸の鼓動が、私の身体を苦しめて、ギシギシと悲鳴を上げ始めたのを感じながら……。
何度も何度も、せり上がってくるような、強い吐き気に襲われ、そのたびに、胸の奥が熱くなって、込みあげてくる鮮血が、口からこぼれ落ちるのを抑えることも出来ずに、身体全体から力を失って、地面に右手をついて、蹲ったあと、左手でドレスの胸元を、ぎゅっと強く握りしめ、荒い息を溢す私の姿を見て……。
「……っっ、姫さんっっ!」
と、さっきまで、アルヴィンさんのことを逃がさないようにと追いかけてくれていたセオドアが、必死の形相をしながら、脇目もふらずに、折り返すように私の方へと戻ってきてくれた。
「「「……っ、アリスっ!!」」」 「……お姫様っっ!」
そのタイミングで、弾けるように顔を上げたアルや、お父様、ウィリアムお兄様、そして、ルーカスさんが、私のことを心配して、慌てた様子で、此方へと駆け寄ってきてくれたのが見える。
だけど、その間にも……、こらえきれずに、ポタポタと地面に落ちる水たまりのような血の塊に、驚いたのは、私の親しい人達だけじゃなく……。
ギゼルお兄様も含めて、ハーロックや侍女長といった使用人達、新聞記者のトーマスさんという部外者の人ですらも、私の状況を見て、ウィリアムお兄様達と同様に、心配してくれたみたい。
……特に、今この瞬間、時間を巻き戻したり、止めたりするという私の能力の関係上、私が何の能力を持っているのか知らない人ほど、訳が分からなくなってしまっているはずで。
それでも……。
テレーゼ様や、使用人達を守るために時間を巻き戻したことは、彼等には、伝わっていなかったとしても、私がアルヴィンさんの腕を握って、何かしらの能力を使って、その動きを、僅かに止めたのだということは、把握してくれているのだと思う。
それもあって、この場にいる全員が、アルヴィンさんの脅威から逃れることが出来たのは、私のおかげでもあると感じてくれているのだろうということは、私にも伝わってきた。
そうして、先ほどまで、私のことが憎くて仕方がないといった様子だったテレーゼ様でさえも、私が突然、苦しみだしたことに動揺して、僅かにその場で、たじろいだのが、目に入ってきた。
更に……、私の惨状を見て騒然とする周囲に、何かしたいという雰囲気を醸し出してくれながらも、何も出来なくて、その場で固まってしまっている様子のギゼルお兄様の姿も視界に入ってきたんだけど。
ギゼルお兄様だって、スラムで、私がアズを装っていた時に、魔女の反動については見たことがあるはずだと思うものの……。
私自身、あの時は、仮面を付けている中で血を吐いたから、魔女が能力を使った時に、ここまで酷い状態になるとは、予想出来ていなかったのかもしれない。
勿論、私の場合は、世界全体に干渉することの出来る能力だからこそ、他の魔女に比べても、反動が強くなってしまうというデメリットもあるし。
今日は、連続して二回も能力を使ってしまったから、自分にかかる負担が、どうしても大きくなってしまっていた側面もある。
それに、今回は、私自身、咄嗟に、この状況を良くすることが出来ると思ってしまって、自分で能力を使うことに決めたことで、それが、私の思う通りに功を奏して、アルヴィンさんから向けられていた窮地を乗り越えることが出来たけど。
それでも、やっぱり、誰かから攻撃などをされた際に、連続して魔法を使うことが出来ないこの身に、どうしても『ポンコツ感が拭えない』と思ってしまう。
たまたま、アルヴィンさんが撤退してくれたから良かったものの、私が、連続して能力を使ったことで、今みたいに一歩も動けなくなってしまったことで、更に、みんなのお荷物になってしまう最悪な状況だって、きっと、あったはずだから……。
アルヴィンさんがいなくなったことで、改めて、この場にいる人達を救うことが出来て、心の底からホッとしたのと同時に……。
『……あの時、ああしていれば、もう少し違ったのかもしれない』と、能力の反動によるしんどさと、気持ちの悪さを感じながらも、反省点が、あとから、あとから、沸き上がってきてしまった。
そんな、状況の中で……。
セオドアが『姫さん、大丈夫か、俺のことが分かるかっ!?』と、声をかけてくれるのが聞こえてきて、私は、何とか、こくりと、一度……、私に合わせてしゃがんでくれたあと、顔色を確認するように覗き込むようにしてくれた、セオドアの顔を見つめながら、頷き返す。
今日は、洞窟探検の時のように、二回も連続して世界全体に干渉する魔法を使った訳じゃないから、それに比べたら、負担が軽いものではあったみたいで……。
幸いと言っていいのかどうかは分からないけれど、辛うじて、意識を保てるくらいの気力は残っていて、私自身、あの時のように、気を失ってしまうほどではなかったことに、ホッと胸を撫で下ろした。
それでも、嫌な汗が、背中を伝って溢れ落ちていくのを感じながら、セオドアの言葉にも返事が出来ず、頷くことだけで、精一杯だった私に……。
「アリス、待っていろっ! 今すぐ僕が、治癒魔法をかけてやるっっ!」
と、私に駆け寄ってきたアルが、即座に、私の身体に手を当てて、暖かくて優しい光と共に、身体を癒やしはじめてくれた。
私の寿命に関しては、6年分の時間を巻き戻した時が、一番深く魂を傷つけて、命を削ってしまった要因にもなっていて……。
そこから先は、アルが私の契約者としてついてくれていたこともあり、この一年の間に使った能力によって、そこまで大きく、その傷を広げて、寿命についても削るようなことはなかったんだけど。
――それでも、これだけ頻発して、短期間に、能力を使用していることで、自分の身体に歪みが出来て、良くない状態になっていってしまっているのだということは、私自身が誰よりも理解している。
アルが精霊王だから、その治癒能力に関しては、勿論、他の精霊の子達に比べて、大きいものであることには間違いがないんだけど。
最初に、古の森で、アルと出会った時……。
『僕なら、ほんの少しでもお前の力による消耗を遅らせることが出来るだろう』と言われていたこともあり、当たり前のことではあるんだけど、私が削ってしまった寿命に関して、完全に、元の状態に戻すことは不可能だし……。
私が、力を使っていく、その度に、アルが治癒魔法をかけてくれて、なるべく魂がすり減っていってしまわないよう抑えてくれているだけで、今、この瞬間にも、僅かにでも、寿命が削られていってしまっているのは変えられない。
それに……。
【元来、精霊との契約は“対等”に力を持った者同士でしか行えない決まりだ。
……この中で、お前と契約できる精霊は僕以外にはいない】
と、以前、アルが言ってくれたことを思えば……。
精霊が、生涯の契約主に出会えるのは、本当に、極稀のことであり。
絶対的な相性があるのは勿論のこと、アルと契約出来るということは、それだけ私の能力が、アルに匹敵するくらい大きなもので……。
アルが私を癒やしてくれるのにも、私が使った魔力の分だけ、大きな力が必要になってくる、ということだから……。
きっと、多分、マリアさんを助けるために、アルヴィンさんも、当時、唯一無二の契約者として、自分の持てる力の全てを捧げたんだと思う。
……それでも、未来がより良いものになるようにと願いを込めて、連続して未来を見続けて寿命を削っていくマリアさんが死に行くのを、ほんの少し遅らせることが出来たとしても、マリアさんが能力によって死んでしまうのを防ぐことは出来なかった。
――その後悔が、今になって、尾を引いてしまっているんじゃないだろうか……?
その時の、アルヴィンさんの悔しさや、絶望を思えば、尾を引いているだなんて、あまりにも軽々しい言葉で、語っては、いけないものだと感じてしまうけど……。
それでも、アルヴィンさんが望んでいる世界について、私自身は、間違っていると思ってしまう……。
そんな、世界が訪れることになってしまったら、それこそ、世界中が大混乱の渦に包まれて、大きな火種となって、沢山の人達が死んでいってしまうだろう。
……みんなが幸せになって、誰しもが傷つかない世界だなんて、あり得ないとは思うけど。
だけど、それでも、遅まきながらも、私を通して、ちょっとずつ、赤を持つ人達に理解を示してくれている人は、確かに増えているし、赤を持つ人達が差別をされない未来が訪れることだって、きっと、夢物語じゃないんじゃないかな?
勿論、個人の感情で、差別をしてくる人を完全にはなくすことは出来ないかもしれないけれど……。
それが世間でも当たり前の常識に変わっていったとしたら、それだけでも、差別的な声をあげる人達のことを、次第に、抑えることは出来ると思う。
――出来るなら、私自身は、そうなる未来を信じて頑張りたい。
そう感じているのは、きっと、私だけじゃなくて、セオドアも、アルも、今、私と同じ気持ちを持ってくれているのだと思う。
セオドアは勿論のこと、私のことを癒やしてくれている間にも、アルが、悔しそうに噛んだ唇から、アルヴィンさんのことを説得出来なかったことへの後悔が滲み出ているのが分かって、私も、アルに対して何て声をかけたら良いのか分からずに、言葉を出すのを躊躇ってしまった。
そうして……。
私達が、そうしている間にも、アルヴィンさんが張っていた結界が外れたことで、精霊や、魔女のことなど、先ほどまで起きていたことについては伏せながらも……。
テレーゼ様が犯した罪のこともあり、私がアルに癒やしてもらっている間に、お父様の指示で、騎士団の責任者に情報を伝えに行ってくれたであろうハーロックが、慌てたように、副団長であるレオンハルトさんと、数人の騎士を連れて戻ってくるのが見えた。
ここで、騎士団長じゃなくて、副団長のレオンハルトさんを連れてくるところが、長年、お父様の執事として重用され、信用されているハーロックらしい行動だな、と私は思う。
そのあとで……。
色々なことがあって、今の今まで有耶無耶になってしまっていたけれど。
再び、テレーゼ様に注目が集まると……。
先ほどまで、能力を使った反動で苦しんでいた私のことを、僅かに戸惑ったような表情で見ていたテレーゼ様は、スッと背筋を伸ばしたあと、口角を吊り上げて、威風堂々といった様子で、まるで、これから起きる全てのことを受け入れていると言わんばかりに……。
最後まで、皇后としての威厳や、矜恃を保ったまま、ふわりと、この場には似つかわしくないような笑みを浮かべてきた。