454 激化する攻撃
アルの言葉に、セオドアの動きが一瞬だけ、ピタリと止まった隙を突いて……。
無機質な表情のまま、淡々と、魔法を繰り出してくる、アルヴィンさんからの攻撃が激化していく。
それから、手の上に出していた、炎の塊だけじゃなくて、空気を裂くような『かまいたち』とも思えるような風の刃が、セオドア目がけて幾つも降ってきたあとで……。
それを、瞬時にセオドアが、擦れ擦れのところでかわしてくれて、アルの方へと驚いたような視線を向けると……。
「死ぬぞっっっ! ……無闇矢鱈に踏み込んで、アルヴィンに立ち向かおうとするなっ!
頼むから、お前は、アリスを守っていてくれ……っ!」
と……。
続けざまに、アルヴィンさんからの魔法……、特に、炎系統の魔法について、相殺するように水の魔法で、この場の被害が甚大にならないよう打ち消してくれていた、アルの口から降ってきた強い警告の言葉に、私もビックリしてしまったんだけど、セオドアも少なからず、その言葉には、動揺してしまったみたいだった。
――セオドアの身体能力をもってしても、アルヴィンさんには敵わないんだろうか……?
確かに、セオドアには、アルみたいに、アルヴィンさんの魔法を打ち消すことが出来る能力はないけれど、それでも、身体能力だけでいったら、この場にいる人達よりも、セオドアの方が、ずっと上のはずなのに……。
「……っ、以前、僕の半身だと、アルヴィンの存在を、お前達に説明した際にも言っただろうっ!
アルヴィンと僕が、二つに分かたれた時、僕は補助魔法に特化して、アルヴィンは、攻撃魔法に、より特化するようになったんだって……っ!
僕ですら、攻撃魔法については、総合的に見て、セオドア、お前の身体能力での攻撃力に比べて、僅かに下回るくらいなんだ……っ!
純粋な攻撃力で、恐らく、アルヴィンに匹敵する力を持つ人間など、この世には、いないはずだ……っ!
僕自身、防御魔法として、シールドを張ることは出来るが、あちこちに放たれた魔法を打ち消すために魔法を使わねばならないし、防戦一方で、僕とセオドア、二人合わせても、今の、アルヴィンの攻撃に太刀打ちできるかどうかは分からないっ!
それに、今は、周囲の人間を守るのに手一杯で、セオドア、お前に加勢して、一緒に、アルヴィンに立ち向かうことも出来そうもないんだ……っ!
お前が、アリスから離れれば、その瞬間に、好奇と見て、アルヴィンが、アリスのことを掻っ攫いにくるぞっ!」
普段、滅多に声を荒げたりすることのないアルの口から、どこまでも切迫した状況を伝えるような言葉が降ってきたことで……。
私は、以前、アルが黒の本の解析をしてくれたあと、初めて、自分に半身がいるのだと、アルヴィンさんのことについて私達に教えてくれた際に、確かに、アルが『自分は、補助系や生活魔法に特化していて、アルヴィンが攻撃魔法により特化している』のだと、教えてくれたことを思い出した。
同一の存在だった二人が、人型として半分に分かれた時に、そうなったのだと……、アルにも、アルヴィンさんにも、魔法に関して、得意、不得意のようなものがあるのだと。
だからこそ、きっと、純粋な攻撃力では、セオドアよりも、アルヴィンさんの方が上なのだろう……。
セオドア自身も、幾ら、身体能力の高いノクスの民といっても……、私達と変わらず『生身の人間』だし、何よりも、アルが、アルヴィンさんのことをそういうのなら、そこに間違いは、ないはずだから。
アルが、既に、自分が精霊であることについて、周囲の人達にバレても構わないといった様子で、人間である私達のことを守ってくれるために、アルヴィンさんの攻撃の矛先を見極めて、防御魔法を展開してくれていることや……。
庭園である、この場が、一面、火の海などになってしまわぬようにと、水の魔法を使って、アルヴィンさんの魔法を打ち消してくれていることも含めて、防戦一方というのは、本当に、その通りなのだろうなと感じて……。
――こういうとき、何の戦力にもなれないどころか、お荷物になってしまう自分のことを、歯がゆく思ってしまう。
アルヴィンさんに、攫われることのないように、セオドアが私のことを、身を挺して守ってくれているから、余計、そう思うのだろうか……?
もしも、私の能力が時を司る能力じゃなくて、他の能力だったなら……、攻撃系統の能力だったなら、私一人の力では無理でも、セオドアとアルと協力したら、アルヴィンさんの動きを止めたり、事態を収めることも出来たかもしれないし。
自分の身を、自分で守ることも出来たと思うんだけど……。
今、この瞬間にも、セオドアや、アルに、傍で守ってもらうことしか出来ない自分自身に嫌気が差して、本当に情けなく感じてしまう。
唯一、これから先の私に出来ることと言ったら、時間を巻き戻したりすることだけではあるんだけど……。
セオドアのみならず、私が能力を使った際に、感覚を共有してくれているアルと同じく、精霊王であるアルヴィンさんにも、もしかしたら、私が時間を巻き戻したことは、伝わってしまうんじゃないかと感じるから、そこで、対策を打たれてしまうと、どうしようもなくなってしまう。
普通なら、過去に戻ることで、未来を知っている私達の方が、そこから先の行動について有利になることは間違いないことだと思うんだけど。
アルヴィンさんが、事前に未来を知ることになってしまったら、その先の行動自体を変えてくるだろうし、結局は、意味がない。
その上、能力を使ったことにより、一時的に、私が血を吐いて、動けなくなってしまうという、私達にとって、致命的な欠陥がついてくることを思えば、慎重にならざるを得ないというのは、間違いのないことで……。
私が、心の底から、自分の能力について、こういう時、全く何の役にも立たないことを、悔やんでいると。
お父様の口から……。
「お前達、出来る範囲で構わないっ! 精霊王様……っ、いや……っ、アルフレッド様が、シールドを張って、私達のことを守ってくれている間に、あの男の攻撃の範囲が及ばない所まで、出来るだけ、すみやかに離れてくれっ!」
と、この場にいる全員に向けて、必死の声色で、指示が飛んできたのが聞こえてきた。
そうして、この非常事態に、続けて……。
「この場から、辛うじて、逃れることが出来た人間がいたならば、誰でもいい……っ、皇宮の騎士達を呼んで来てほしい……っ!」
と、更に、的確な言葉が全員に伝えられたことで、アルヴィンさんの無慈悲な攻撃により、絶望とも思える状況で諦めかけていたみんなの瞳にも、まだ『この状況を何とか出来るかもしれない』という淡い期待の感情が、宿っていくのが見えた。
だけど、それでも……。
お父様の声かけによって、私達が今感じた、微かな希望ですらも打ち砕かれるかのように……。
「無駄だよ……っ!」 「それは、無駄だ……っっ!!」
と、アルヴィンさんと、アルの口から、同時に聞こえてきた強い否定の言葉に、私は、ビクリと肩を震わせて、アルヴィンさんと、アルのことを交互に、マジマジと見つめてしまった。
アルヴィンさんのみならず、アルの口から、そんな言葉が降ってきたのがビックリで、戸惑うことしか出来ない私を、置いてけぼりにするように……。
口元を、ほんの少しだけつりあげて、薄く笑みをたたえたアルヴィンさんの口から……。
「僕が展開した魔法で、この場からは、誰一人として逃げることを許してはいないんだよ……っ」
という、どこまでも冷酷な言葉が降ってきたあと……。
「……っ、うむ、実は、そうなのだ……っ!
さっきから、アルヴィンの手によって、これだけの魔法が使われていることを思えば、普通なら、騒ぎになっていても可笑しくないところ、誰一人として、この場にやってこないだろうっ!?
それは、皇帝が食事会のために人払いをしていたとか、ここが、皇宮から少し離れた庭園だからだとか、そういった理由によるものじゃないっ!
既に、アルヴィンによって、僕達以外の人間が見た時には、普段通りの光景が広がるようにと認識阻害の魔法がかけられて、僕達が、この庭園から出ることが出来ないようにと、用意周到に囲われてしまっているっ!
アルヴィンの展開した魔法を解除することは、僕にも出来るが、一人で自由に魔法を展開しているアルヴィンと、複数人を守りながら、魔法を使おうとしている僕では、どうやったって、そこに差が生じてしまうっ!
普段なら、そういったものを解除するのは、アルヴィン以上に、僕の得意分野でしかないのだが……っ!」
と、目の前で唇を噛んで、悔しそうに声を荒げたアルから、詳しく今の状況を説明してもらったことで、私は、今まさに、文字通り、自分達が、絶体絶命のピンチの中にいるのだと、強く認識してしまった。
アルだからこそ、話す余裕もあって、軽々と魔法を展開して、私達のことを守ってくれているように見えるけど……。
見た目以上に、複数の人達を気に掛けて、適切な魔法を打つという動作自体、繊細なコントロールが求められるものだと思えば、想像以上に、その身体には、負荷がかかってしまっていると思う。
だからこそ……。
アルヴィンさんの目的が、私である以上、私がこの場にいることで、みんなにも迷惑をかけてしまっていることについて、どうしても、悔しさのようなものが沸き上がってきてしまって……。
【いっそ、私自身が、アルヴィンさんのもとに行くと決めたなら、アルヴィンさんは、この攻撃の手を緩めてくれるだろうか……?】
と……。
――今、この場において、私以外の人達を、傷つけることはしないでくれるだろうか……?
と……、私さえ、アルヴィンさんのもとへ行けば、少なくとも、この状況は収まってくれるのではないかと、そんな馬鹿な考えが、一瞬だけ、頭の中を過ってしまった。
それと同時に、もしも仮に今、私が、アルヴィンさんのもとへ行ったことで、一時、この場を収めることが出来たとしても……。
どちらにしても、アルヴィンさんが『自分の理想を叶えたい』と、強く願っていることを止めることは出来ず。
結局、未来では、アルヴィンさんの手によって、みんなが死んでしまう状況が訪れるんじゃないかと、私自身、しっかりと先のことを考えるだけの、冷静さは、まだ失ってはいなくて……。
どうしたら良いのか判断することが出来ずに、二の足を踏んでしまっていた。
私が悩んでいる間にも、アルヴィンさんの攻撃が止むことはなく、その力は、どんどん激しさを増していき、今は、アルが何とか、それを食い止めようとして、みんなのことを守ってくれているけれど、状況は、刻一刻と、悪いものになっていく。
それも、充分に、理解しているんだけど……。
「あぁ、クソ……っ、確かに、嫌な気配が、ずっと纏わり付いてきてやがるな……っ!
あの男に、近づいただけで、一瞬のうちに、跡形も無く、この命が奪われるかもしれねぇってのは、対峙している俺自身が一番、肌で感じてんだよっ!
感じてるんだけどよ……っ! オイ、アルフレッド、防御するだけじゃ、何ともならねぇだろうがっ!
何とかして、俺とお前で、攻めに転じることは出来ないかっ!?」
……私が、セオドアに守ってもらいながら、私の判断で『この状況を良くすることは出来ないものだろうか?』と悩んで、躊躇っていたら、アルに意見を仰ぐための、吠えるようなセオドアの声が、隣で聞こえてきた。
その瞬間……。
「……アルフレッドっ! 俺のことは、守らなくていいっ!
俺自身が、特殊な能力を持っていることに変わりはないんだっ!
一般の人間よりは動ける方だし、たとえ、一回や、二回、魔法が当たったところで、俺が、死ぬことはないだろうからな……っっ!
俺に回す魔法の分だけ、何か、他のところで、この状況を打開するような策を見いだすことは出来ないかっ!?」
と、アルヴィンさんからの攻撃を、なるべく自分の力で避けつつ、他の人まで庇おうと動いていた、ウィリアムお兄様の声が聞こえてきて、私は、セオドアと、ウィリアムお兄様の言葉に、ただただ勇気づけられて、励まされていく。
【そうだ……、弱気になってる場合じゃない……っ!】
――私自身も、何か、力になれることが残っているはずだし、今以上に、考えることをやめちゃダメだ……っ。
セオドアも、ウィリアムお兄様も、私以上に、この場の状況を打開するために、頭を悩ませて考えてくれている。
そうして、二人に問いかけられて、険しい表情を浮かべたままだったアルが、きっと、その頭の中で、一番『どう動けば、最適に立ち回ることが出来るのか?』と、今、この瞬間にも、知略を巡らせてくれているだろうということは、私にも伝わってきた。
実際に、ウィリアムお兄様が、自分の身を自分で守ると言ってくれたことで、アルが気に掛けて守ってくれる対象が一人減っただけでも、凄く、大きなアドバンテージになるだろう。
みんなが、力を合わせれば、アルヴィンさんにも立ち向かうことが出来るかもしれない。
私の能力だって、一人だけの力じゃなくて、みんなと一緒に協力することで、もっと、上手く、扱える方法があるのかも……。
そうして……。
「アルっっ! 私にも出来ることがあるのなら、遠慮無く、言ってほしい……!
みんなに、守ってもらうだけなのは、嫌だから……っ!
微力でも良い、私のことも、みんなの戦力に加えてほしいの……っ!」
と、ありったけの声を張り上げて、アルに向かって、私が言葉を口にすると、驚いたようなセオドアと、ウィリアムお兄様と、アルの視線が、私の方へと向くのが見えた。
――それだけじゃない……っ。
「……あぁ、もう、さっきから訳が分かんねぇよっっ!
精霊だとか、アリス……っ、お前が魔女だとか……。
一体、今、何が起きてんだよっっっ!? つぅか、お前は、一人で格好つけるなよなっ……!
俺だって、多少なりとも剣術を習ってんだぞっ……!
そりゃぁ、兄上には、全然敵わないけど、自分の身くらいは、自分で守れるってのっ!」
と、髪の毛を一度、ぐしゃぐしゃに掻きむしったあと、ギゼルお兄様が、私達に向かって、声を上げてくれて……。
……さっきまで、尻込みをしていた人とは、全く思えないほどの勇敢なお兄様の言葉に、勇気づけられたのは私だけじゃなくて、今、置かれている状況に、さっき以上に絶望感を抱いていたであろう、他の人達の瞳にも、次第に、生気が戻ってくる。
「……っ、お姫様……っ、!
解毒剤を飲んだことで、俺も、さっきよりは、幾分も回復して、ちょっとは、動けるようになってきたよ……っ。
多分、この中だと、今日の俺は、一番の、お荷物だろうけど……っ。
ナナシの目的が、何なのか、今も大筋の部分ではよく分かってないんだけどさっ、あんな意味の分からない理想を掲げられてちゃ、止めるしかないでしょ……っ!?
アルフレッド君同様、頭を使うのは、俺も得意だからさ、出来ることと、出来ないことも含めて、一緒に考えよう……っ!」
それから……。
ふらふらになりながらも、立ち上がって、私達にそう声をかけてきた上で、体調が悪くて仕方がないだろうに、にこりと茶目っ気たっぷりにウインクをしてくれたルーカスさんに、そう言われたことで、親しい人達からの力をもらえて、私自身、本当に、心強く思えてくる。
まだ、打開策も何も見つかっていないのに、みんなのお陰で、何とかなりそうだと思えてくるから、不思議だった。
セオドアもアルも、私が能力を使うことに関しては、多少は、反対っぽそうだったけど、今は、そんなことを言っている場合じゃないことは、充分に理解してくれているから、最終的には、私の意見を仕方ないと飲んでくれた。
「うむ……っ。アリスの能力も活用して、勝機を見いだすことが出来ない訳ではない。
……アルヴィンの動きを見るに、どうにも、様子がおかしいのでな……。
手を抜いている訳ではないと思うが、動きに、かつてのような、精練さがないのだっ。
少なくとも、僕が、知っているアルヴィンの動きではない……。
もっと、昔は、その挙動に、キレがあったと思うのだが……」
それから……。
どこまでも慎重に、言葉を紡いでいく、アルの説明を聞きながら……。
「あれで、かつてのような精練さがないのか……っ!?
セオドア、お前にも、大概、常日頃から、俺自身がそう感じているが、あの男は、それ以上の化け物なんだな……っ?」
と、ウィリアムお兄様が、セオドアと、アルヴィンさんの方を見比べながら、眉を寄せて、そう言ったのが聞こえてきた。
「……俺も、まさか、この年になって、俺以上に、強い奴に出会うことになるとは思わなかったな。
ガキの頃は、それこそ、強くなるために、戦っては負けてを繰り返してきたりしたんだけど、な……。
アルフレッド、姫さんの能力を使うことで、勝機は、本当に見いだせるんだよな……?
お前も分かってるだろうけど、そのあとの、姫さんの反動を考えれば、ぶっつけ本番の、一回だけしか、チャンスがねぇんだぞっ!」
「うむ……、セオドアよ、僕に任せておけっ!
……アルヴィンの動きにキレがないことで、必ず、そこに機は、見いだせると思う。
僕達の魔力は、無限のように思えるが、何度も頻発して使っていると、当然、疲れも出てくるものだ。
今すぐ、攻めに転じたい気持ちも理解出来るが、お前達、もう少しの間、辛抱してくれ……っ!
じっくりと、機会を窺うのだ……っ!
幸い、僕は、防御魔法の方が、得意なのでな……っ! 長期戦になれば、僕の方に分が出てくるだろう。
そして、アリス、僕が、ここだと判断した瞬間があったなら、その瞬間に、時間を巻き戻してくれ!」
そうして……。
アルにそう言われて、私は、力強く、こくりと頷き返して、いつでも自分が能力を使えるようにと、頭の中で、その覚悟だけは決めておく。
今の間にも、アルは『アルヴィンさんの動きにキレがない』と言っていたけれど、本当にそうなのかと疑ってしまうくらいアルヴィンさんからの攻撃は、頻度や強さを増して、私達の方へと、飛んできているし。
私自身、それを避けることが精一杯で、セオドアに守ってもらいながらも、機会がくるのを、アルに言われた通り、じっくりと、待つことにした。
どうしても焦りの気持ちが沸き上がってくるのを何とか抑えながら、本当に、そのチャンスが来るものなのかと、今か、今かと待っている状況は、たった、数十分のことだとしても、体感的に、途方もないほどの時間が流れていく感覚がする。
――アルヴィンさんが、ここまで、頻発して魔法を使っている以上、絶対に、疲れがくる瞬間が来る。
そのタイミングで、セオドアに、アルヴィンさんのもとへと踏み込んでもらうのが、一番、ベストだから……。
私に出来ることは、アルに言われた瞬間、時間を巻き戻して、セオドアが動いてくれるタイミングを作ることだけだ。
当然、アルヴィンさんだって、私が時間を巻き戻した瞬間、体感的に、そのことを理解すると思うけど、短い時間の、1、2分ほどを巻き戻したとしても、アルヴィンさんに疲れが出て、魔法が途切れるタイミングについては、変わらないだろうから……。
アルが、策を講じて、私達に『待ってくれ』と言ってくれたのは、そういう意味合いで間違いないはず。
この作戦を立ててくれたアルだけじゃなく、私も、セオドアも、アルの短い言葉の中から、その言葉の裏の意味まで、しっかりと汲み取ることが出来ている。
だから『きっと大丈夫』だと、心の中で、思いながら……。
一瞬の隙が命取りになってしまうような、緊迫した状況下で、私は、冷や汗を流しながら、アルの合図を待ちつつ、セオドアのお陰で、アルヴィンさんの攻撃をかわしていく。
私には、攻撃が飛んでこないけど、セオドアと一緒に動いているのは、私が、一人になったその瞬間に、アルヴィンさんに、この身を狙われると分かりきっているから……。
そうして、今か今かと、そのタイミングを待っていると……。
「残念だけど、アルフレッド、お前の負けだ……っ」
と……。
――まるで、私達の行動を、嘲笑うかのように……
私達の希望を、打ち砕くかのように……。
逆に、アルが防御魔法を展開するのが遅れた、一瞬の隙を突かれて、アルヴィンさんが、近くにいたテレーゼ様の方へと、火の魔法を放ったのが見えた。
そこには、テレーゼ様だけではなく、侍女長や、一般の使用人達も数名いて……。
「……っ、しまっ……、! 間に合わない……っ!」
アルが、焦りの表情を浮かべながら、そう言った瞬間……。
私は、アルに『僕が合図をするまで待ってくれ』と言われた、その約束を破って、瞬間的に、自分の能力を使うことにして、いつものように、強く……。
ただ、ひたすらに……。
自分の胸の奥にある、微かな感覚に意識を集中させて、か細い糸を追いかけるように思考を張り巡らせていく。
『巻き戻れ……っ!』
そうして、強く、願うように念じれば、私の周囲が、ぐにゃりと歪んでいき……。
――刹那……。
この庭園にある草花も、風も、アルヴィンさんの攻撃魔法である火の塊も、何もかもが、その場で、刻を止めたのが、手に取るように理解出来た。










