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410 賑やかな会話

 


 私達が、ダンスを一曲踊り終えると、今日の夜会に来ていた人達から、一気に、注目の的になってしまっていた。


 中には、ルーカスさんとダンスを踊ったことで、羨ましそうな雰囲気で眺めている令嬢の姿もいて、思わず、今日のマルティーニ家での御茶会の一件があるから、彼女達の羨望の視線に、ドキドキしてきてしまう。


 こういうところを見ると、お兄様もルーカスさんも、本当に、社交界では『圧倒的に、人気なんだなぁ』と改めて、実感するようなことばかりだ。


 ただ、エヴァンズ家のパーティーだということもあってか、そこまで、嫌味を言ってきたり、絡んで来るような人はおらず、私は、ホッと一安心して、胸を撫で下ろした。


 ちらちらと、羨望や嫉妬のような感情を向けられていても、今日の御茶会での『ミリアーナ嬢』みたいに、露骨に私に対して、苛立ちをぶつけたりするような視線は感じないから、それだけが、唯一の、救いだっただろうか。


 それに、今後、ルーカスさんが『私のマナー講師になってくれている』ということが、もっと、世間的に広まって、認知されるようになれば、たとえ、今日のように、一緒に過ごしていたとしても、そこまで違和感は、持たれなくなるかもしれない。


 ……というか、昨日のパーティーでも感じたことなんだけど。


 さっき、私に対して、政治的な話題や、水質汚染を解決した話題などを振ってきてくれていた貴族の人達の中には、それとなく、自分の息子を紹介してくるような人も、結構、いたんだよね。


 お父様の言うように、皇宮での私の立場が『それなりに上がってきている』ことの証でも、あるんだろうけど……。


 みんな、この機会に、ここぞとばかりに、私と歳の近いという『自分の息子の名前』を言って紹介してきたり、いきなり関係性を持とうとしてくるから、本当にビックリしてしまう。


 今も、ルーカスさんが、私のマナー講師になってくれていることを知らない貴族達は、ちらほらと、その関係性について、もの凄く気にしているような視線を向けてきていて、分かりやすい彼等の態度に、思わず、苦い笑みがこぼれ落ちた。


 それから……。


 私と、ルーカスさんが、ダンスホールから出たあと、アルとセオドアの元へと戻ると。


 誰が一番最初に、私達に『ルーカスさんと、私の関係を聞きにくるのか』ということで、話が出来る権利について、貴族同士が視線で牽制(けんせい)し合い、何故か、膠着状態(こうちゃくじょうたい)が続いてしまっているという状況が出来あがってしまっていた。


 正直に言うと、誰でもいいから、誰か一人でも()()()()()()()()のなら、ここで代々的に『ルーカスさんは、私のマナー講師なので、その関係で、一緒にダンスを踊ることになったんです』と、言えるのになぁ、と思ってしまう。


 多分だけど、令嬢達の間でも、ルーカスさんが私にプレゼントを贈るのに悩んでいたという情報が広まっていたくらいだから、貴族の人達からも『もしかしたら、ルーカスさんなら、私の婚約候補としてあり得るのかも』と、思われてしまっているのかもしれない。


 そうして、彼等の無言の睨み合いにより、最終的に、私達に話しかける権利を獲得したであろう一人の貴族の男性が、私とルーカスさんに、話しかけようとしてきたところで……。


「オイ、ルーカス。

 ……お前、何、ちゃっかりと、アリスと一緒にダンスを踊っているんだ?

 お前がアリスとダンスを踊っていたら、どう考えても、目立つだろうっ?」


 と、耳馴染みのある声が聞こえてきたことで、私は、思わず振り返って、声のした方に視線を向けた。


 見れば、眉を寄せて、あからさまに不機嫌そうな表情をしたウィリアムお兄様が、ルーカスさんに対して、ちょっとだけ怒ったような感じで、遠くからこっちに、大股で近寄ってきていて。


 ウィリアムお兄様が、この場に来てくれたということで……。


 さっきまで、私達に勇み足で、話しかけようと思ってくれていたのであろう、貴族の男性が、目に見えて、しょぼんと落ち込んだ様子で、がっくりと肩を落としているのが見えて。


 思わず、『あ……、あの人、凄く可哀想……っ! 折角、牽制し合っていた、貴族の人達同士の熾烈な戦いに勝ってたのにっ……!』と、同情する気持ちが湧き上がってしまった。


「えぇ……っ、? 何、言ってんのっ……?

 誰かさんの所為で、俺がお姫様と、デビュタントで一緒に踊ることが出来なかったんじゃん。

 あの日、踊れなかった代わりに、今日、お相手を務めて頂けませんかって、お姫様にお願いをしたら、快く、オーケーしてくれたから、一緒に踊らせてもらったんだよ。

 殿下の許可なんて、そもそも取る必要ないでしょ?」


「……俺は、そういうことを言ってるんじゃない、っ!」


 にこりと笑みを溢しながら、全く悪気のない口調で、そう声に出すルーカスさんに、呆れたような雰囲気のお兄様から、ピシャリと厳しい言葉が降ってきた。


 エヴァンズ家の広いホールの中といえども、一カ所に、ルーカスさんだけでなく、ウィリアムお兄様も来てしまうと、どうしても目立ってしまう。


 特に、こんなふうに、一緒のところに固まって、みんなで話していると余計……。


「えー、じゃぁ、言うけど、お姫様と最近、俺が親しくしているのは、随分、前から、俺がお姫様のマナー講師になっているからってことを、大々的に、ここで宣伝しておけば、それで文句はない訳だよね?

 普段から、ダンスのパートナーとしても、講師として練習に付き合っている俺が、今日、ここで、お姫様と踊るのは、充分な理由になっていると思うけど」


 貴族の人達からの注目を一身に浴びながらも、私のことを心配してくれたのか、ちょっとだけ、機嫌が悪くなってしまったお兄様に対して……。


 どこか面白いようなものを見るような目つきで、ルーカスさんが先手を打つように、この場で、私の『マナー講師になってくれていること』を、周りで、聞き耳を立てていた貴族の人達にも、聞こえるように言ってくれると。


 ざわり、と……、この場が一瞬だけ(どよ)めいたのが、私自身も肌で感じることが出来た。


「……ああいえばこういうから、俺はお前のことが嫌いなんだ」


「あれ? もしかして、それって、俺のことを、大好きだって言ってくれてるのっ?

 殿下ったら、こんな場所で大胆すぎない……っ? 全く、モテすぎて、本当に困っちゃうなぁ……っ!」


「うむ。……ここまで、みんなから、塩対応をされているというのに、ルーカスのそのポジティブなところ、僕は嫌いじゃないぞ!」


 お兄様の呆れたような視線を受けながらも、ルーカスさんは何処吹く風で、相変わらず、のらりくらりと立ち回っていて、アルがルーカスさんのそのメンタルを『真剣な様子』で、褒め出したのを聞きながら……。


「姫さん、あのダンス、デビュタントの時よりも、格段に上手に踊れるようになってたな?

 これまでの練習の成果が、きっと出たんだろうな」


 と、私の傍に立ってくれていたセオドアから、耳元でそう言ってもらえて、セオドアに褒められたことが嬉しくて、『本当……? ありがとう、セオドア』と、私は、パァァァ、っと、表情を綻ばせた。


 にこにこと、嬉しい表情を隠しきれなくて、笑顔を浮かべる私を見て……。


 何故か、みんなの視線が私に集まったあと、みんなが穏やかな表情になって。


 さっきまで、私のことを心配してくれて、ルーカスさんに対して怒ってくれていたお兄様も、毒気が抜かれたような柔らかい表情を向けてくれながら……。


「アリス、疲れてないか?

 貴族というものは、本当に、現金な生き物だからな。

 お前が水質汚染の件を解決した途端、今まで、興味も関心もなかったくせに、手のひらを返して、いきなり話しかけてくるような貴族も多くて、相手をするのも大変だっただろう?」


 と、周りの人達に、やんわりと釘を刺すようにして、そう言ってくれるのが聞こえてきた。


 その言葉を聞いて、今、この場所で、私達の話に聞き耳を立てていた貴族の人達が、お兄様の言葉を図星に感じたのか、罪悪感を感じた様子で視線を逸らし、そそくさと私達の周りから退散してくれたのが見えた。


 私達が、彼等から注目を浴びてしまっていたから、人払いをする意味でも、お兄様は、こうして、私に声をかけてくれたんだと思う。


 さっき、熾烈な争いに勝って、声をかけようとしてくれていた貴族の人には、『ちょっとだけ申し訳なかったかな』という気持ちを抱きつつも。


 ルーカスさんが、先手を打って、周囲の人達にも聞こえるように、私との関わりについては、しっかりと話してくれたから、多分、みんなが知りたかったことの大半は、それだったはずで、問題はないと思うんだけど……。


「お兄様、心配してくださってありがとうございます。

 ですが、今まで、積極的に、私に話しかけてくれる貴族の人達がいなかったことを思うと、こうして話しかけてくれるような人が、沢山出てきてくれただけでも、凄く嬉しいです」


 私が、目に見えて、がっかりしたような雰囲気を醸し出していた貴族の人について、思いを巡らせながらも……。


 デビュタントを行う前も、皇宮で働いている官僚でもある子爵や、宮廷伯の人達なども含め、私の良くない噂話を信じて、嫌厭(けんえん)され、話しかけて貰えなかった時のことを思うと。


 こうして、話しかけてくれることで、私を気にかけてくれる人達が、『私が、皇族の一員であるということを、認めてくれている証』でもあると感じるから、それだけで嬉しい、という自分の気持ちを隠すこともなく。


 にこりと笑みを溢しながら、お兄様に向かって、正直な気持ちを伝えると……。


 『それなら良いが……』と、柔らかい表情を向けてくれたお兄様と、なぜだか、未だに、この場に残っていた少数の貴族達から、一斉に、温かいような表情を向けられてしまった。


 ――もしかして、今の話、聞かれていたのかな……?


 ちょっとだけ、そのことに、むず痒い気持ちになりながらも、暫くの間、私達が、5人で談笑していると……。


「あ、兄上、このようなところにいらっしゃったのですね……っ! 探しましたっ!

 ……おっ、おぉう! アリス……、奇遇だな? お前も、いたのかよっ!?

 さっきの、ダンスだけど、ま、まぁ、皇族としては、何とか及第点だったなっ!

 悪くはなかったと思うけど、もっと、精進して頑張れよっ!」


 と、前方から、私達の方まで歩いてきたあとで。


 一体、どうしたのか……。


 どことなく緊張したような面持ちで、ギゼルお兄様が、ウィリアムお兄様に声をかけてから、ついでと言わんばかりに、あからさまに、ギクシャクした様子で、早口で私のことを褒めてきて、私は思わず、その意図がよく分からなくて、首を横に傾げてしまった。


 この感じだと、ギゼルお兄様は、ウィリアムお兄様に用があったんだと思うんだけど、私とルーカスさんが踊っていた様子を、偶然、見てくれていたのかな?


「ありがとうございます、ギゼルお兄様。

 そういってもらえると、嬉しいです。……ダンスの練習、もっと頑張りますね」


 此方に向かって、声をかけてきてくれたものの。

 

 ウィリアムお兄様に用事があったのなら、私の方は手短に済ませた方が良いだろうと感じて、お礼の言葉と、お兄様に指摘された内容について、もう少し、皇族として『ダンスの練習を頑張ろう』と思っていることを、素直に伝えれば……。


 ギゼルお兄様は『……お、おう……っ!』と、言ってから、そのままの状態で、言葉を続けることもなく、固まってしまった。


【……ウィリアムお兄様に、何か用事があった訳じゃないのかな?】


 ギゼルお兄様からの続きの言葉を、この場にいるみんなが待っていて、一拍置くようにして、誰も何も喋らず、無言の空間が出来てしまったことで。


 ――気まずい雰囲気が流れてしまったことに、耐えきれなかったのか……。


 ギゼルお兄様が、目の前で珍しく、あわあわと動揺した様子で、思いっきり赤面をしながら……。


「あ、あと……! 本当は、俺、兄上に用事があって、えっと、その、別に大した用事でもなかったんですが、ここに来るまでに、ちょっと忘れてしまって……。

 また、思い出したら言いにくるので、俺は、これで……っ!」


 と、どう考えても、今、急場しのぎで考えたのか……。


 しどろもどろになりながら、明らかに嘘っぽいことを言って誤魔化しながら、この場を、そそくさと去ろうとしていて、その言動に、私がびっくりしていると。


「まぁまぁ、ちょっと、待ってよ、ギゼル様!

 こうして、ギゼル様も、お姫様と俺のダンスを見て、わざわざ、褒めに来てくれたみたいなんだし……?

 折角、ここまで来てくれたんだからさ、もうちょっと、ここで話していこうよっ!」


 と、ルーカスさんが、この場の空気を読んでくれて、ここから立ち去ろうとしているギゼルお兄様のことを、咄嗟に呼び止めてくれて、フォローするように明るく声を出してくれた。


 その言葉に、私も、凄く居心地が悪そうにしているギゼルお兄様に、何らかのフォローの言葉を言った方が良いかもしれないと思っていたものの、一足早く、ルーカスさんがそう言ってくれたことで。


 そのことを、有り難いなぁと感じながら……。


 ルーカスさんの言うように、本当に『ギゼルお兄様は、私のことを褒めてくれるためだけに、わざわざ来てくれたんだろうか?』と、そのことが信じられなくて、目を瞬かせてしまった。


「そうだぞ、ギゼル。

 ……俺と話をしている間に、何かしら、今、お前が言っていた、俺に伝えたかったという用事のことを思い出すかもしれないだろう?

 今すぐ、この場から立ち去る必要など、どこにもないし、このまま、一緒にいれば良いと、俺も思う」


「あ、兄上……、いえっ……、ほ、本当はっ……、俺に、用事、なんて、どこにも、な……っ!

 あぁ……っ、じゃなかった! ……そうですよねっ! そうさせてもらいますっ!

 ルーカス殿も、お気遣い頂き、ありがとうございます……!」


 そうして、続けて、ウィリアムお兄様から、ギゼルお兄様の言動について、多分、全部分かった上での『フォロー』が入ると。


 あまり嘘が上手くなさそうなギゼルお兄様は、目に見えて、そのことに動揺したあと、誤魔化すように、ルーカスさんに向かって『ありがとう』という感謝の気持ちを、早口で伝えてきていて。


 流石に、人の感情の機微を悟るのが苦手な私でも、お兄様の『この感じ』を見ていると、ただ、私のことを褒めるためだけに来てくれたんだと理解することが出来た。


 ……それと同時に、嬉しい気持ちが、じわじわと湧いてくる。


 お兄様に、感謝の気持ちを込めて、そのことを伝えたら、多分だけど『お前に、用事があった訳じゃない』と、一刀両断されて、怒られてしまいそうだから、言うのは躊躇ってしまったけど。


 段々と私にも、ギゼルお兄様が、今、どんなことを思ってくれているのかは、何となくだけど、読めるようになってきたかもしれない。


 こうやってみると、本当に、さっきの『テレーゼ様』との遣り取りの時も含めて、少しずつ、私に対して、ギゼルお兄様が歩み寄ろうとしてくれていることを、実感することが出来る。


「それよりさ……。

 みんな、もう、今回のパーティーで、大抵の貴族との遣り取りは終えて、公務としての役割も全うして、大方(おおかた)、重要そうな話についても、済ませてるでしょ?

 どうしても、こういうパーティーの時は、堅苦しい人間付き合いをしなければいけなくなって大変だから。

 ……そろそろ、疲れも溜まってきてるだろうし、休憩にしない?」


 そのあとで、ルーカスさんが、私達の方を見ながら、提案してくれたことに……。


 休憩という単語を聞いて、もしかして、このホールの中にあったソファー席に『みんなで座って休憩するのかな』という意味で、私は受け取ったんだけど。


「あぁ、それが良いな。

 ……ここにいると、どうしても、俺たちと関わりを持ちたい貴族が近寄ってくるからな。

 人がいない場所に移動できるのなら、それに越したことはない。……どうせ、いつもの娯楽室だろ?」


 と、ウィリアムお兄様がそう言ったことで、私は驚いてしまった。


 娯楽室というのは、今日の御茶会で、マルティーニ伯爵令嬢であるミリアーナ嬢から案内された画廊(ギャラリー)と並んで、親しい貴族同士しか入れない場所だ。


 別名、遊戯室とも呼ばれている場所で……。


 頻繁に、お互いの家を行き来をしているような友人同士は勿論のこと、こういった煌びやかなパーティーや、晩餐会、御茶会などでも、案内されることはあるんだけど。


 それでも、ある程度の関係性を持っていたり、この人と仲を深めたいと思われない限りは、絶対に案内されることのない場所だったりもするから、動揺してしまった。


 私自身、巻き戻し前の軸では勿論、一度も案内されたことがなかった場所に足を踏み入れることになるなんて、と、思わず、ドキドキしてきてしまう。


 特に、画廊に関しては、貴族の令嬢達同士でも見せ合ったりすることはあるんだけど、娯楽室というのは、どうしても、大人の男性の社交場というイメージが強く、確か、トランプで、ポーカーをしたり、ビリヤード台があれば、ビリヤードをしたりするんだよね。


 招待した貴族の方針によっては、そこが、実質的に『賭け事の場』になっているようなこともある。


 カジノほどの規模ではないけど、ちゃんとお金を使ってチップを購入し、その家が雇っているディーラーと勝負をする場としても、密かに人気だったりしていて。


 お酒も入っていたりで、夜な夜な、みんなで楽しんだりするのだと噂で聞いたことがある。


 だから、そんな大人の男性が入るような場所に、私も入っていいのかと、オロオロしていると……。


「そんな、心配そうな表情をしなくても、大丈夫だよ、お姫様。

 何も……っ、金銭を巻き上げて、取って食おうって言ってる訳じゃないからさ。

 ……今日は多分、俺たち以外は誰も来ないと思うから、休憩がてら、みんなで、カードゲームをしたり、ビリヤードをしたりして、親睦を深めたいなって思っただけだよ」


 と、私の表情の意味を誤解した様子で、ルーカスさんからそう言ってもらって、私は慌てて……。


「あ、違うんです! そうじゃなくて……。

 ……娯楽室って、大人の男性の社交場のイメージが強かったから、私も、その中に参加させてもらっても良いのかなって思ってしまって」


 と、訂正するように、声を出した。


 その上で、私の言葉に、ルーカスさんが『あぁ、確かにそうだね』と、納得してくれながらも……。


「女の子だからって、別に、気にすることなんてないよ。

 はっきり言って、もう、みんな、身内みたいなもんでしょ……?

 ……何なら、殿下も、俺ん()に来る時は、基本的に、いつだって、娯楽室に入り浸って、俺と、ビリヤードをして遊んでるしね。

 俺がいない時でも、勝手に家に入ってきては、人の(いえ)の使用人を捕まえて、家令とかとビリヤードをしたり、カードゲームに興じてたりするんだよ……?

 流石に、これには、俺も怒っていいよね……?」

 

 と、言ってきたことに、驚いてしまった。


 お兄様って、エヴァンズ家に、そんなに頻繁に通っているんだろうか。


 それよりも、ルーカスさんがいない時も、エヴァンズ家に行っているって、一体、どういうことなのだろう?


 ルーカスさんは続けて『……だから、お姫様は、何も気にしなくて良いよ。殿下の図々しさに比べたら、雲泥の差だから』と声をかけてくれたものの。


 ウィリアムお兄様のことが気になってきてしまって、私がそのことを窺うような視線で見つめていたら……。


 ちょっとだけ、ムッとしたような、お兄様の口から……。


「日頃から、公務で、疲れていることが多いんだから、仕方がないだろ?

 ……皇宮にいれば、自室にいる時以外は、誰かしら、宮廷伯やら、その辺の官僚でもある貴族が、俺を見つけた途端、声をかけてくるし。

 父上に話しかけるよりも、まだ、俺に話しかけてくる方が、幾分も、会話がしやすいからって……。

 自分が持ち込んできた話も、良いものじゃなければ、バッサリと父上に切り捨てられてしまうって、皇宮で働いている人間ほど、よく分かっているからな。

 皇宮にいても、全く気が休まらないし、侯爵家は、俺が来ても、いつものことだと思って、放置してくれるから、リフレッシュが出来る最良の場所であることは、間違いない。

 第一、お前が昔、俺にいつでも来て良いって言ってきたんじゃないか」


 その上で、日頃から溜まっている愚痴を溢すかのように『エヴァンズ家が心のオアシス』なのだと言わんばかりのお兄様に、私は、疲れが溜まっているんだなぁ、と、心底、同情する気持ちが湧き出てきてしまった。


 私や、ギゼルお兄様以上に、毎日、公務のことで、誰かしらに捕まってしまっていたら、その状況を想像するだけで『本当に大変だろうな』と思ってしまう。


 特に、お兄様が、お父様の仕事のお手伝いで関わっているものに関しては、別に、お兄様に聞いてきても良いとは思うんだけど。


 もしも、そうじゃなくて、お父様のみが関わっているものだったとしたら、お兄様を通すことで、二度手間になってしまうというか、お兄様の負担が大きくなってしまうのは、避けられないことだと思うから……。


 そういう意味でも、エヴァンズ家が『お兄様にとっての、憩いの場』になっているであろうことは、間違いないんだろうなと、今、ここで、お兄様の話を聞いて、私にも理解することが出来た。


「……だけど、最近は、エヴァンズ家に行く頻度も減っているだろう?

 侯爵邸で働いている従者達はまだしも、お前に会いに行くよりも、アリスの部屋に行って会話をする時間を取る方が心も和むし、疲れも取れる」


「……それで、最近、頻繁に、こっちに来るようになってんのかよ?

 俺は、最近、アンタが、姫さんの部屋に来るようになったことで、滅茶苦茶、迷惑してるけどなっ?」


「お前は黙ってろ。

 というか、それを言うなら、お前の方こそ護衛の限度を超えて、アリスの部屋に入り浸っているだろ。

 居心地が良くて、アリスに甘えてるのは、お前も一緒だろうが。

 あと……、お前は、俺に対して、もっと敬いの気持ちを持て」


「まぁ……っ、何ということでしょうっ!

 お姫様、今の殿下の発言、聞いたっ!? 最低だよねぇっ……!?

 俺のこと、マジで、家以下の存在だと思ってるんだよっ!

 俺だって、毎日会えるなら、殿下よりも、可愛いお姫様の方が心が和むし、良いに決まってるじゃんねっ!」


 私を囲うようにして、みんなが、あれこれと、口々に話してくることで……。


 混乱しそうになりながらも、大げさな雰囲気で、『殿下ったら、本当に酷いでしょ?』と、ルーカスさんに問いかけられたことに、どういう返事を返したらいいのか、一人、戸惑ってしまっていると。


「全員……、フリーダムに、喋りすぎだろ、っ……。

 あっ……、兄上と、ルーカス殿は、気安い雰囲気で互いに接しているのが日常だから、別に、今更、何とも思わないけど……。

 っていうか、あの騎士の発言も、兄上は許しているのか? ……兄上にとって、あの騎士とは、っ? 一体、俺は、これから、あの騎士に、どう接すれば……!?」


 と、私と違う意味で、目に見えて混乱してしまっている、ギゼルお兄様の姿と……。


「……むぅっ! お前達、娯楽室というのに行くのではなかったのかっ……!?

 僕は、早く、カードゲームとやらと、ビリヤードという遊びがしたくて、たまらないのだが! 一体、いつまで、そうやって話しているのだ。

 アリスだって、どう返事をすれば良いか、もの凄く、困っているだろう?

 そんなことはいいから、早く行くぞっ!」


 と、こういう時、もの凄く頼りになるアルが、私のことを気にかけてくれつつも、みんなを先導してくれるように、そう言ってくれて、私も、みんなに向かって、アルの言葉に同意しながら、視線を向ける。


 はっきり言って、また違う意味で、思いっきり目立ってしまって、貴族の人達から注目を浴び始めてしまっていたから『この場から、早く移動したいな』と思う気持ちがなかった訳じゃないんだけど。


 私の視線を受けてから、さっきまで、お茶目に、ふざけていた様子のルーカスさんが、私とアルの方を見てくれたあとで。


「そうだね。ずっとここにいるのも注目の的になっちゃっているし。

 ……休憩がてら、早くみんなで、娯楽室に向かおうか?」


 と、声をかけてくれた。



いつもお読み頂きありがとうございます。

もう既に、発表させて頂きましたが、この度、TOブックス様の方で、書籍化とコミカライズが決まりました……!

いつも応援して下さる皆様のお陰です。

本当に、ありがとうございます(*´∀`*)

改めて、この場でお礼とさせて頂けたら幸いです。


また、なろうの方でも連載は続けますので、引き続き、宜しくお願い致します〜!(変わらず、日、水、金更新です)

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♡正魔女コミカライズのお知らせ♡

皆様、聞いて下さい……!
正魔女のコミカライズは、秋ごろの連載開始予定でしたが、なんとっ、シーモア様で、8月1日から、一か月も早く、先行配信させて頂けることになりました!
しかも、とっても豪華に、一気にどどんと3話分も配信となります……っ!

正魔女コミカライズ版!(シーモア様の公式HP)

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1話目から唯島先生が、心理的な描写が多い正魔女の世界観を崩すことなく、とにかく素敵に書いて下さっているのですが。

原作小説を読んで下さっている方は、是非とも、2話めの特に最後の描写を見て頂けたらとっても嬉しいです!

こちらの描写、一コマに、アリスの儚さや危うさ、可愛らしさのようなものなどをしっかりと表現してもらっていて。

アリスらしさがいっぱい詰まっていて、私は事前にコミカライズを拝見させてもらって、あまりの嬉しさに、本当に感激してしまいました!

また、コミカライズ版で初めて、お医者さんである『ロイ』もキャラクターデザインしてもらっていたり……っ!

アリスや、ローラ、ロイなどといった登場人物に動きがつくことで。

小説として文字だけだった世界観に彩りを加えてくださっていて、とっても嬉しいです。

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本当に沢山の方の手を借りてこだわりいっぱいに作って頂いており。

1話~3話の間にも魅力が詰まっていて、見せ場も盛り沢山ですので、是非この機会に楽しんで読んで頂ければ幸いです。

宜しければ、新規の方も是非、シーモア様の方へ足を運んでもらえるとっっ!

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※また、表紙や挿絵イラストで余す所なく。

ザネリ先生の美麗なイラストが沢山拝見出来る書籍版の方も何卒宜しくお願い致します……!

1巻も2巻も本当に素敵なので、こちらも併せて楽しんで頂けると嬉しいです!

書籍1巻
書籍2巻

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✽正魔女人物相関図

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+注意+

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