407 エヴァンズ侯爵夫妻との遣り取り
エヴァンズ夫人が、今、この場にいることで……。
これまでずっと『エヴァンズ家が、家族のように大切に思っている人の看病をしていたはずなのでは?』と、一人、困惑の色を隠せない私を置いて。
私の近くに立っていたお父様が、エヴァンズ夫妻の姿を、その目に止めたあと。
「そういえば、さっき、挨拶に来てくれた時には、他にも私に声をかけようと待っていた人間がいたから、結局、聞けず仕舞いだったのだが……。
夫人はもう、公の場に出ても、問題がなくなったのか?」
と、侯爵に向かって声をかけたのが、目に入ってきた。
お父様が今、侯爵と夫人に向かってかけた言葉の内容で、わざわざ私に『エヴァンズ家の面々』が、挨拶をしに来てくれる前に……。
既に、お父様も含めて、お兄さま達やテレーゼ様とは、一度、挨拶をして『遣り取りを終えたあとだったのだろう』ということは、私自身、何も言われなくても察することが出来た。
どうりで、エヴァンズ侯爵も夫人も、『帝国の太陽にご挨拶を』と、お父様に向かって挨拶をしてくるのではなく。
一番に、私に向かって『帝国の可憐な花にご挨拶を』と、声をかけてきてくれた訳だ。
基本的に、最初の挨拶に関しては、その場にいる『一番、位が高い人』に向けて、挨拶をするというのがマナーとされていて……。
中には『帝国の太陽にご挨拶を』と、お父様に挨拶をした上で、更に、その場に一緒にいる皇族の誰かに対して、わざわざ丁寧に、続けて挨拶の文言を言ってくれるような人もいるけれど。
私以外の皇族が全員揃っている状態で、一度、お父様に対して挨拶をしていたのなら、再度、改めてする必要はどこにもない。
ただ、お父様も私と同様に、一番に、そのことを気にしてくれていたのか……。
私が『この場に来る』までは、その話が出来ていなかったと前置きをした上で、心配そうに、今ここで、エヴァンズ侯爵と、夫人の顔色を見ながら……。
周囲で、聞き耳を立てているであろう貴族達がいる手前。
『エヴァンズ家が、これまで隠していた、詳しい事情を話す訳にはいかない』と、細心の注意を払いつつ、言葉を濁しながらも、声をかけているのが見えて。
私自身も、夫人がこの場にいるということで、どうしても嫌な予感がよぎってしまうのを抑えられず。
お父様と、ルーカスさん、エヴァンズ侯爵、それから、夫人の方を……、心配の色を隠せない表情で見つめていたら……。
「ご心配ありがとうございます、陛下。
……それについては、まだ、完全に復帰という訳にはいかないのですが。
いつまでも、妻が公の場に出ないというのも、問題があることですし。
折角の建国祭で、国自体が祝いのムードに包まれている中、エヴァンズ家としても国の催事を、盛大に祝わぬ訳にもいきませんからね」
と、目の前でウィンクをしながら、茶目っ気たっぷりに、エヴァンズ侯爵がお父様に向けて、そう言ってくるのが聞こえてきて、私はホッと胸を撫で下ろした。
侯爵自体、凄くかっちりとしていて、大人の男性といった雰囲気を漂わせていることからも、パッと見は、そこまで似ている訳でもないのに……。
こういうふうに、言葉の節々に『茶目っ気が垣間見える』ところがあると、本当に、ルーカスさんにそっくりだなぁと感じてしまう。
頭の中で、侯爵とルーカスさんの共通点を見つけながらも……。
『まだ、完全に復帰という訳にはいかない』と、社交界に出なくなって久しいエヴァンズ夫人のことについて。
侯爵の口からそう説明があったことを『こんなにも喜べる日が来る』だなんて、思いもしなかった。
詳しい事情について、一切、知らない人が聞いただけでは……。
下手をすれば『社交界に、夫人が完全には復帰できないということで、それは良くないこと』とも、取られかねないものだけど、
事情を知っている私達からすれば、『エヴァンズ家が家族のように大切に思っている』という人の命が、まだ、なくなってしまった訳ではないと……。
敢えて、エヴァンズ侯爵が『言葉を濁す形』で、私達にも分かるように、そう伝えてきてくれているようなものだから、一安心してしまった。
それよりも、エヴァンズ夫人が、今、私のことを真っ直ぐに『本当に感謝している』かのごとく、見つめてきている状況が、今ひとつ、よく分からなくて……。
――私は、夫人に見つめられながらも、キョトンとして、首を傾げたんだけど。
「皇女様にお目にかかる機会があったなら、ずっと、お礼を伝えたいと思っていたんです。
皇女様のお陰で、ジェルメールのデザイナーである、マダム、ヴァイオレットの一日をもらえただけではなく。
一度、皇女様のデビュタントで遣り取りをしただけの、夫の話を覚えてくれていて……。
私どものために、貴重な、黄金の薔薇で作った薬の入っている薬瓶を、ルーカスに持たしてくれましたよね?
本当に、何て、感謝を伝えたら良いのか。……ありがとうございました」
と、私が不思議がっている間に、夫人から本当に感謝しているのだと言わんばかりに……。
心のこもった優しい瞳で、ぎゅっと手を握られて、そう言葉を続けられたことで、ようやく私も、今ここで夫人から感謝されている理由に思い当たって『……あぁっ』と、納得するように声を上げた。
一方で、私が、ルーカスさんに『アルが黄金の薔薇で作ってくれた薬』を、手渡しているとは知らなかっただろうから……。
そんなことをしているとも、今の今まで、思ってもいなかったのか、その話を聞いて、ウィリアムお兄様とセオドアとアルが驚いたように、目を見開いたのが視界に入ってきた。
【いつの間に、そんなことをしていたんだ……?】
と、問いかけてくるような三人の視線に、ちょっとだけ気まずい気持ちを抱きつつも。
「薬瓶に関しては、偶然、私も人から頂いたものでして……。
こんなことしか出来ませんが、喜んで貰えたのなら、本当に良かったです」
と、夫人に向かって微笑みながら、声をかける。
そういえば、デビュタントの時にも、ジェルメールのデザイナーさんの一日を貰えたということについては、侯爵からも凄く感謝されたんだよね?
恐らくだけど、エヴァンズ家が家族のように大切に思っている人のために『洋服か何かを作って貰ったんだろうなぁ……』ということは、デビュタントの時の侯爵の話からも、間違いはなさそうだけど。
今、この場においても、社交界では一切、その話が流れていないことを考えると……。
やっぱり、ジェルメールのデザイナーさんは『基本的に、顧客の情報を外部に漏らすようなことはしない人だよね』と、改めて、尊敬の気持ちが湧いてくる。
私自身、巻き戻し前の軸でも、何度か『デザイナー』と、名の付く人には会ったことがあるんだけど。
意外にも、自分が余所で見聞きしたような情報を、依頼者に向かって『話の流れ』で言ってしまうような人は、結構、存在する。
そうすることで、気まずくならないように話題を作りながら、依頼者と距離を縮めて、仲良くなるための手段として使っているのだろうなとは、思うんだけど。
……顧客の情報を、ペラペラと喋ってくるような人は、基本的に、どこにいっても『そういった噂話をしてくる人』であることは間違いなく。
自分の家の秘密などが知られてしまったら、社交界で、あっという間に、面白おかしく話されて広まってしまうのは、避けられないと思った方が良い。
そういう意味でも、王都で一流と呼ばれているお店なだけあって『ジェルメールは、やっぱりしっかりとしているなぁ……』と、何だか、自分ごとのように嬉しくなってきてしまった。
ただ、一度、私のデビュタントの時に、侯爵からもお礼を言われていたことだし。
律儀にも、改めて、今ここで『私に、そのことで、お礼を伝えてくれなくても良いのにな』と思いながら、にこにこと笑みを絶やさずに、夫人の方を見つめていると……。
「妻だけではなく、私も、皇女様には本当に感謝しているんです」
と、夫人と私の周りにある雰囲気が、どこまでも、ほわほわと、まるでこの辺り一帯に、お花が咲いているような感じの和やかさに変わっていったあとで……。
――侯爵からも、丁寧に、頭を下げられてしまった。
今、この場において、エヴァンズ家の当主と、夫人が、私に向かって、揃って『感謝するような意』を示してくれたことで、ざわりと、この場にいる他の貴族達から、どよめきが巻き起こる。
皇室に忠誠を誓い、侯爵家の中でも『武のクロード』と並んで、特に力を持っているとされる名門『知のエヴァンズ』が……。
皇女という立場にしか過ぎない私に向かって、お礼を伝えてきている状況が、気になって仕方がないのだと思う。
それに、さっき、エヴァンズ夫人の口から出た『黄金の薔薇で作った薬の入った薬瓶』という単語も、彼等の好奇心をそそる状況に、輪をかける要因になってしまっていると言えるだろうか?
あまりにも珍しくて、たとえ、皇族という立場であろうとも、中々、入手することは出来ないと言われている黄金の薔薇が、薬草としても優秀で、喀血に効き、咳や肺にもかなり有効な『効能を持っている』というのは、誰もが知っているようなことではあるし。
そうじゃなくても吐血の方で、消化器官から出てしまう血などについても抑えるのに効果があって。
尚且つ、気管支に膜を張り、優しく保護してくれるような効能も持っていることから……。
そんな珍しいものを、『どうして、エヴァンズ家に譲ったのか?』だとか。
どうやって、黄金の薔薇を入手することが出来たのか、『まさか、皇女には、黄金の薔薇を手にすることが出来る商人との伝手があるのか』だとか。
『その薬瓶を、エヴァンズ家は何の目的で使用したのか』だとか、そういうことも含めて、詳しい事情を知りたいのだろう。
この場では、パーティーを楽しむように、別の人達と会話をするような素振りを見せていたり……。
ワイングラスを手に持って、それを飲んでいるようなフリをしながらも、そわそわと、興味や関心を隠しきれない様子で、此方を気にかけてくるような視線が、圧倒的に多いのを肌で感じながらも……。
『黄金の薔薇で作った薬』については、そもそも、ヒューゴが、ベラさんのためを思って作ったものを、折角だからと、ベラさんにお裾分けをしてもらっただけのものに過ぎなくて。
そこまで、感謝されるようなことでもないと思うから、私は、ちょっとだけ複雑な気持ちだった。
ただ、前にもルーカスさんに、その話題に関しては直接、触れられなかったものの。
クッキーのお礼を言うついでに、『手紙を一緒に添えてくれてありがとう』と言われたことで、黄金の薔薇で作った薬についても、間接的に、お礼を言われたことはあったけど……。
田舎にあるという『エヴァンズ家の、親戚のお家』で、療養をしているという、その人にも、渡した薬がきちんと役に立ったのだと。
――今、夫人の言葉で知ることが出来て本当に良かった、と、私はホッと胸を撫で下ろした。
侯爵も夫人も、『エヴァンズ』という立場から、招待客があまりにも多すぎて、一人一人に対しては、そんなにも時間を取れないだろうと思うのに……。
こうして、わざわざお礼を言うために、私にも時間を割いてくれるのは、本当に有り難いな、と思いつつ。
お兄様から、社交界の顔と呼ばれていて……。
エヴァンズ家の御茶会で、私を貶しながら水をかけてきたボートン夫人からも『気位の高い素晴らしい方』だと呼ばれていたように……。
今日の、夫人の格好も、本当に自分に良く似合うドレスを、洗練された様子で着こなしていて。
『侯爵夫人が身につけているものは必ず売れる』というジンクスがあると、以前、お兄様に言われていた通り。
今回のパーティーでも夫人に向かって、憧れの視線を向けているような令嬢達や、他の貴族の夫人の姿は、かなり多いようにも見えるから。
改めて、侯爵夫人が『社交界に出てくることの影響力』というものを、私は、今、まざまざと実感していた。
それから、少しだけ、侯爵夫妻との会話を楽しんだあと。
『皇女様が、ファッションショーに出られるのを、本当に楽しみにしていますね!』と、二人とも、わざわざ、それだけのために、チケットを取ってくれたみたいで。
私の出るファッションショーに来てくれると、約束をしてくれながら。
『他の招待客の方にも、ご挨拶をしに行かなければいけないので、私達はこれで……』と、丁寧に頭を下げてくれて……。
――最後まで、一切、私に気を遣わせない感じで、颯爽と私の下から去っていってしまった。
二人並んでいると、本当に『素敵な夫婦』に見えるなぁと感じて、その後ろ姿を見送りながらも……。
私自身は、さっきから、こっちのことを気にかけた様子で、今にも話したいといった雰囲気を醸し出していた、令嬢や、夫人方……。
更にいうなら、昨日、ブライスさんが開いてくれたパーティーにお邪魔した時にも『皇宮での存在感が増したことで、私のことを無視出来なくなっている』と、お父様が言っていたように。
この機会を逃すことなく、私とも関わりを持ちたいと思ってくれているであろう貴族の人達に、あっという間に囲まれてしまって、必然的に、相手をしなければいけない状況に追いやられてしまった。
そうして……。
ファッションショーのことや、今、遣り取りをしていたエヴァンズ家のこと、黄金の薔薇について……。
そして、私が解決した水質汚染のことなども含めて、建国祭の期間中に『ギゼルお兄様と一緒に表彰された』ことなどを、彼等から一斉に聞かれ始めてしまって、てんやわんやになりながらも……。
エヴァンズ家の事情もしっかりと考慮した上で『言わない方が良いこと』は、一切、口にすることもなく。
上手く話題を変えるなどの対応で誤魔化しながら、何とか、その全てを捌き切ることに成功した私は、恐らくだけど、一番多い時で『10組以上は、私と話すために行列が出来ていたと思う』と感じつつ。
まるで、自分が見世物になってしまった気分を味わって、疲れをためてしまったあと、人の流れが切れたことで、ようやく一息、吐くことが出来た。
そのタイミングで……。
セオドアが私のために、会場で働いているホールスタッフから『ドリンク』をもらって来てくれたお陰で、喉を潤せることに感謝しながら、グラスを受け取ったあと。
人の邪魔にならないよう『ホールの壁際』に寄ってから、私は、アルとセオドアと、休憩することにした。
……気づけば、エヴァンズ夫妻が私の下を去ってから、お父様や、お兄様達、それからテレーゼ様も、いつの間にか私の側からは離れていて、別々に『色々な人と会話をするのに忙しい様子』で、みんなとは、散り散りになってしまっていた上に。
ルーカスさんも、ファッション関係のことで、貴族の令嬢が、私に話しかけてくれたタイミングで『俺も挨拶回りに行ってくるね』と、一言、声をかけてくれたあと、この場を離れてしまったから。
ホール全体を見渡すように、視線を向けてみたけれど、みんながどこにいるのかさえ、もう私には分からなくなってしまっていた。
一応、近いところで、ギゼルお兄様の姿だけは、確認することが出来て……。
普段、私に対しては、ツンケンした様子でしか話してくれないけれど。
貴族の人達に囲まれて、一切、疲れを見せるようなこともなく『難しい政治の話』も熟しているお兄様の姿を見ると、ちゃんと皇子として、その役割を全うしようと頑張っているんだなぁ、という尊敬の気持ちが湧き上がってくる。
お兄様自身も13歳ということで、まだ成人している訳でもないし、ハッキリ言って、周りにいる大人達の会話についていくということは、もの凄く大変なことだと思うんだけど……。
ウィリアムお兄様もそうだけど、こういう時、改めて、お兄様達の凄さを実感してしまう。
遠巻きに、ぼんやりと、ギゼルお兄様のことを視界に入れたあとで。
会場に幾つも用意されているというドリンクの中でも、『私が好きそうだったから』と、好みを把握してくれているセオドアが、私のために持ってきてくれたフルーツジュースを、コップを傾けながら、ゆっくりと口に入れると……。
疲れた身体に、フレッシュな果物の味が優しく染み渡り。
ほんの少しだけ、今の間に感じた疲労を取ってくれるような気がしてくるから、不思議だった。
「見てくれ、アリス……っ! 今、僕たちの目の前に、繰り広げられている絶景を……っ!
美味しそうな食べ物が、山のように用意されているぞっ……!
ババロアや、クッキー、それからプリンといったデザート系だけではなく、がっつりと、シチューや、パスタのようなものまで、こんなにも複数の料理が用意されているとはなっ!
エヴァンズ家は、本当に、太っ腹だなっ……!」
そうして、私の横で、同じくセオドアに飲み物を取ってきてもらっていたアルが……。
目をキラキラと輝かせて、目ざとくホールの中にある食べ物に、一通り視線を向けながら、ワクワクしたような声色で、此方に向かって声をかけてくるのを聞きながら……。
【人間の食べ物は“嗜好品”というだけで、お腹の足しにも一切ならないはずなのに、パーティーというものを、誰よりも楽しんでいるなぁ……】
と、私は思わず、アルのその姿を、眩しく感じてしまった。
こういう時の、アルの明るさにはいつも励まされているし。
さっきまで、貴族の人達と相手をしなければいけない状況が続いていて、言葉を出すにも頭を使わなければいけなくて、肩が凝るような感じだったから、本当に有り難いなぁと思う。
「オイ、アルフレッド……。
お前、人間の食べ物が無尽蔵に自分の腹の中に入るからって、あまり羽目を外しすぎるなよ?
一応、お前は、皇帝からの紹介で、姫さんの傍にいることになっている、貴族ともとれるような立場なんだからな……っ?」
それから、セオドアがアルの、そのはしゃぎっぷりを見て『ほどほどにしておくように』と、止めるようにかけてくれた言葉に、こくこくと頷きながら……。
「うむ、任せておけっ! 一通り、全種類を制覇することが出来れば、僕はそれで全然、問題ないぞっ!」
と、自信満々に、張り切って答えてくるアルに、とうとう、目の前でセオドアが、頭を抱えてしまったのが見えた。
「マジで、やめろ……っ! 俺の言ってることが、これっぽっちも、伝わってねぇじゃねぇか……っ!
どんな大食いの人間でも、そこまでは普通、食べられねぇんだよっ!」
「うむむ……っ? そうなのかっ……?
だが、折角、こんなにも沢山、料理の種類が用意されているというのに、わざわざ厳選しなければいけないだなんて、そんな、殺生なこともないであろうっ?
セオドアのいけず……っ! 僕は、出来るだけ多く、料理を楽しみたいだけなのだ……っ!」
……そうして、どこまでも常識的なセオドアの『制止する』ような言葉に、キョトンとしながら、不思議そうな表情を浮かべたあと。
まるで、駄々を捏ねる子供のように『これだけ、珍しい料理が、目の前にいっぱいあるのだぞ!』と、アルが、ぷんすかと頬っぺたを膨らませて、力説し始めたのが見えて。
二人のその姿に、テレーゼ様と会話をしなければいけなかったり、貴族の人達の相手をしなければいけなかったりで、自然、強ばってしまっていた身体の緊張が解れ、思わず、笑みがこぼれ落ちてくる。
「私のことを心配してくれているセオドアの言う通り、立場的なものがあるから、どうしても全部の食べ物を制覇するのは難しいかもしれないけど……。
折角、色々な、食べ物が用意されているから、楽しみたいって思うアルの気持ちも、凄くよく分かるよ。
パーティー会場だと、どうしても人と話さなければいけないことの方が多いから……。
食べることが出来る時に、私も、みんなと一緒に、食事を楽しみたいな……っ、」
喧嘩のような形ではあるものの、目の前で繰り広げられている二人の微笑ましい『その遣り取り』に、どちらの言い分も分かるなぁと感じつつも、口元を緩めて、微笑みかけながら、そう伝えれば……。
私がにこっと、笑みを溢して『一緒に、みんなで食事を食べに行こう』と、提案したことについては、二人とも納得してくれたのか。
さっきまで、お互いのことを見合って、喧嘩のような言い合いをしていたのに、二人とも、私の方へと視線を向けてくれたあとで、直ぐに頷いてくれた。