371 ブライス主催の夜会
それから……。
さっと正門を開けてくれた守衛に通されて、館の玄関まで向かうと……。
「帝国の太陽、そして、帝国の可憐な花にご挨拶を。
皇帝陛下、皇女殿下、お待ちしておりました。ホールまでご案内致します」
と、老齢で燕尾服姿の使用人に深々と頭を下げられたあとで、私たちはブライスさんの邸宅にあるホールへと案内された。
年齢的に考えても、もしかしたら彼が、ブライスさんの館の一切を取り仕切っている執事長なのかもしれない。
あまり、『人様のおうちを、きょろきょろと見渡す訳にもいかないなぁ』と思いつつも、案内されたホールへと足を踏み入れると、その中は既に招待客の殆どがやって来ているとも思えるくらい、賑わっていて……。
思い思いに談笑していたり、パーティーで提供されている軽食を摘まんだり、種類の豊富なお酒などを嗜んでいる人達の姿が目に入ってくる。
今夜は、宮廷貴族であるブライスさんが開催している夜会なだけあって、招待客の姿も、一般的な舞踏会のように『将来のパートナー探し』に来ているような、貴族のご令嬢や、貴族の嫡男である若めの男性の姿はあまり無く……。
まさしく、政治的な意味での『大人の社交場』と言ってもいいくらいには……。
その殆どが、30代以上の男性と、そのパートナーである夫人の参加になっており、その年齢層はもの凄く高めで、その分だけ気品に溢れたような雰囲気になっていた。
それと同時に、ただでさえ普段から同年代の子がいないのに、若い人の姿がないことで、更に私の場違い感がもの凄く際立ってしまっていて……。
お父様と一緒に、パーティーホールの中を歩こうと一歩、踏み出した瞬間っ。
それまで談笑していた貴族達が喋るのをやめたり、動きを止め、好奇心に満ちあふれた突き刺さるような視線を一斉に私へと向けてきたのを感じて……。
何となく、気まずい感じになってしまう。
いや……、彼らの視線は、確かに私に向けられていると言っても過言ではなかったけど……。
お父様も含めて、私たちに向けられていると言った方が、より正確かもしれない。
『皇帝陛下』という立場で、誰かのパーティーに参加するだけで否応なしに目立ってしまう上に、お父様自身がこういうパーティーには、普段、誰も相手を伴わず、一人で行くことの方が圧倒的に多くて。
パーティーの性質上、どうしてもパートナーを連れ添っていかなければいけない時は、テレーゼ様と一緒に参加する場合が殆どだから……。
今日のお父様の夜会のパートナーが『私』であるという、あまりにも珍しい光景に、びっくりされてしまっているような気がしてならない。
その思いを裏付けるかのように、遠くから『……陛下が、皇女様を伴ってやって来られたぞ』だとか、『まぁ、珍しいですわね……!』という、誰かの驚いたようなささやき声が、耳に入ってきた。
彼らの噂話にもなっていないような“ひそひそ声”が聞こえていても、まるで意に介すことなく、堂々とした振る舞いのお父様を見習わなければ……、と。
私が一人、皇族の一員として、どこから見てもきちんと見えるように背筋を伸ばして表情を意識していると……。
「……帝国の太陽、そして帝国の可憐な花にご挨拶を。
皇帝陛下、皇女殿下、我が邸宅へようこそお越し下さいました。
……皇女殿下がデビューされてから、初めての社交場に選んで頂いたのが私の開催する夜会だということで、こんなにも光栄なことはありません……っ!」
と、音を立てたりはすることなく、あくまで品よくだったけど、駆け足で此方に向かって近寄ってきて挨拶をしてくれたのは、ブライスさんだった。
こういうパーティーの時に、主催者が招待客に個別に挨拶をしに来るのは基本中の基本だ。
特に重要な招待客に関しては、玄関で顔を確認したあと、案内役の執事に言われて『更に、その下で働いている館の従者』が先手を打って、主催者である自分の主人に誰が来たのかを伝える役目を担っている。
だから、私たちが来たことをブライスさんが一早く知って、個別に挨拶をしに来てくれたことに関しては、何も問題が無かったんだけど……。
ブライスさんのその発言で、一気に、周囲からどよめきが起こったことに。
私は、どうして周りの人が急にびっくりしたような表情を浮かべて、その場でざわついたのか分からなくて首を傾げた。
それから、お父様が、ブライスさんの言葉に、どこか呆れたような表情をしながら『はぁ……』と、小さくため息を溢して……。
「アリスが水質汚染を解決した件で、お前との人脈も出来ていたからな。
知り合いだからこそ、アリスの初めての夜会に相応しいと判断したまでだ。
全く、私がちょっとでも気を抜けば、娘のことさえも、直ぐに政治的に利用しようとしてくる。
……これだから、五老星と呼ばれる連中は嫌いなんだ」
と、そう言ったことで、私は思わず驚いて目をパチパチと瞬かせた。
「……いやぁ、はははっ……っ! 一体、何を仰るかと思えば……っ!
今代の五老星はみな、陛下がお選びになった人間ばかりじゃありませんかっ!
それに、そこにどのような理由があろうとも、私が皇女様のデビュタント以降、初めて参加する夜会に相応しいと思われたのも、また陛下のご判断によるもの……」
そうして、お父様の言葉を聞いて……。
一瞬だけ虚を衝かれたような表情を浮かべたブライスさんが、まるで人懐っこいとも思えるような気さくな雰囲気で、茶目っ気たっぷりに、にこやかに笑みを溢してくる。
その一瞬あとで……。
「……ならば、この有り難い名誉を、周囲にほんの少し自慢したとしても、罰は当たらないでしょう?」
と、表情はずっと笑顔のままなのに、その瞳の奥が鋭くなったブライスさんの姿を見て、私はドキッとしてしまった。
ブライスさんは基本的に、私に対してはいつも優しい雰囲気のイメージだったから、ここにきて、それがほんの少しだけ覆ったというか……。
【多分だけど、私が初めて参加する夜会が“ブライスさんの開催するもの”だったことで。
敢えて、そのことを公にすることで、間接的に、自分は皇帝陛下であるお父様から特別な扱いを受けているということをこの場にいる全員に周知させた、んだよね……?】
そうすることで、自分の宮廷伯としての立場に箔を付け。
『皇帝陛下の側近としての地位は揺らがない』と、改めて周りに知らしめるために……。
挨拶と共に、下手に出ながらも、さらりと自然な形で会話に織り交ぜてくる辺り、凄く巧妙なテクニックというか、そのスマートさには思わず目を見張ってしまう。
それと同時に、決して綺麗なことばかりではない皇宮という様々な人間の思惑や派閥が渦巻く場所で……。
ブライスさんが宮廷伯という、この国でも5人しかなれない『その地位』に就いている理由が、ここに来て垣間見えた気がした。
お父様は、呆れたような様子で、ほんの少し嫌そうな雰囲気を醸し出していたけれど……。
こういう時、言葉の裏に“いろいろな意味合い”が込められていることは、貴族同士の会話だと、特別、珍しいことでもなく、許容範囲内のものであるから別に失礼でもないし。
自分の立場を守るために使用されることも多い上に……。
ブライスさん自体、普段は私に対してもどこまでも気さくで優しい人だから、私自身は別にそれで、嫌な気分になったりもしていない。
ただ、考えてみれば当たり前なんだけど『ブライスさんって、こういう貴族としての一面もしっかりと持ち合わせているんだなぁ……』と、思わず感心してしまった。
「陛下の仰る通りだと思うがねぇ……、ブライス殿。
水質汚染の件で、皇女殿下が貴方と関わるようなことがなければ……。
もしかしたら、皇女殿下は今宵、私の主催する夜会に参加してくれていたかもしれない」
そうして、別口から、いきなり声が降ってきて、思わずそちらの方へ振り返ると……。
「帝国の太陽に……、そして、帝国の可憐な花にご挨拶を……。
昨日は、突然話しかけてびっくりさせてしまい、申し訳ありませんでした、皇女殿下」
と、私を見て、丁寧なお辞儀と共に『にこやかな笑み』を浮かべてくれたのは、法務部のベルナールさんだった。
知っている人の登場だったことにホッとしながらも、昨日ぶりに再会したことで、私は慌てて……。
「……っ、ベルナールさん……。
昨日は、私のためにわざわざ足を運んで、祝辞を述べて下さってありがとうございました」
と、声を出す。
……私がベルナールさんにお礼を伝えたことで。
多分、私がブライスさんだけではなく、ベルナールさんとも知り合いだったことに驚かれ……。
周囲からの視線と、どよめきが更に大きいものになったのを感じつつも。
「いや……っ、あれくらいのことは皇宮で働いている者として、当然のことです。
それにもしも仮に、あの場にいたにも関わらず、国のために功績を挙げた皇女殿下にきちんと挨拶をすることもなく、立ち去るような人間がいたとしたら……。
その人間は、この国を盛り立てる者としては失格でしょうから」
と、ベルナールさんからは特に周りの人達の様子を気にした様子も無く、まるで当然だと言わんばかりに真面目な言葉が返ってくる。
さっき、馬車の中でお父様が『マナーや規律を重んじる歩く法律』だとベルナールさんのことを評していたけれど……。
本当に律儀なまでに、しっかりとマナーを大切にしている人なんだなぁ、ということがその言葉ひとつとっても分かってしまった。
「ベルナール卿、今は私が陛下と皇女殿下と話しているんだが……?」
「五老星として、貴方と私……。
互いに同等の地位に就いている以上は、マナー違反な訳でもないし、別に構わぬでしょう?
それに、最近、その活躍が目覚ましい皇女殿下のことを思えば、誰もが今、皇女殿下に一度でもいいから話しかけて、己のことを認知しておいて欲しいと願うもの。
国の上に立つ者として、皇女殿下の独り占めは良くないのでは、ブライス殿?」
そうして、何故か、ブライスさんとベルナールさんの間で、ちょっとだけピリッとした緊張感が漂って、よく分からない『バチバチとした火花』が散っているのを見て、私は首を横に傾げた。
二人の会話の遣り取りから、その話題の中心にいるのが私であると判断することは出来るんだけど、一体何の話をしているのか、さっぱり分からなくて困った顔をしていたら……。
「アリス、お前が昨日、勲章の授与式で正式に表彰されたことで、その価値は今、もの凄い勢いで跳ね上がっている。
その存在は、決して、社交界でも無視出来ないものになり……。
……今や貴族の中でも、お前と話して、できる限り近づきたいと思っている人間も多くいるということだ」
と、耳元でお父様からこそっと教えて貰って、私はその事実に、思いっきり驚いて目を瞬かせた。
そういえば、前にウィリアムお兄様が自分の瞳の秘密を教えてくれた際『俺たちの価値は常に変動している』って言ってたっけ。
あのときは『誰の後ろ盾になるのが、一番、利があることなのか』という意味合いで使われていたものだったけど……。
今でも、私たち兄妹の中では、ウィリアムお兄様がお父様の跡を継ぐ可能性が一番高いとはいえ。
それでも、今回、私が勲章の授与式で正式にお父様から『水質汚染を解決した件で、表彰された』ことにより、政治的に、私に対しても敬意を払って、仲良くしておくのに越したことはないと色々な人から判断された、ということなのだろう。
巻き戻し前の軸も含めて、今までそんな風になったことがないから、正直、どうしたらいいのか分からなくて戸惑ってしまう。
「……そこまでにしておけ。
お前達の話を聞いているだけで、うんざりしてくる」
そうして、お父様がどこか呆れた様子で、二人に向かって声をかけると……。
お父様の言葉を聞いて、それまで言い争って、傍から見てもバチバチとした雰囲気を出していた二人が揃って、申し訳なさそうな表情を浮かべながら、お父様と、次いで私の方を見てきた。
ブライスさんとベルナールさんは、あまり仲が良くないのかな?
それとも、ウィリアムお兄様とルーカスさんみたいに、あくまで軽い嫌味のようなものを言い合っても、大丈夫な間柄なんだろうか……?
その辺りのことは、まだまだ、パッと見ただけじゃ判断がつかないなぁ、と内心で思いつつ。
「申し訳ありませんでした、陛下、皇女殿下」
と、ブライスさんと、ベルナールさんから改めて謝罪されたことで、私はふるふると首を横に振る。
「いえ、気にしないで下さい。
それより、お二人はやっぱり五老星ということもあって、親しい間柄なんでしょうか……?」
そうして、五老星の人達“それぞれの相関図”を把握しておくためにも、気になったことはとりあえず聞いてみようと声をかけると。
ブライスさんもベルナールさんも、お互いに凄く嫌そうな表情を浮かべながら……。
「ははは……っ! まさかっ!
皇女殿下は面白いことを仰いますね……っ!?
私とベルナール卿は、水と油のようなものです」
「……互いに五老星と言えども、ブライス殿とは全く合う気がしないというのは私も同感ですな。
幾ら調査のためとはいえ、体中にべっとりと泥を付けて帰ってきた時には、不潔すぎて、皇宮から追い出してやろうかと思いました」
という言葉が返ってくる。
そこに遠慮などは一切ないながらも……。
明らかに、お互いがお互いのことを嫌がっている雰囲気を醸し出していることから『あまり相性が良くない二人なのか……』と、頭の中に、新たな情報を忘れないよう、インプットしておく。
そうして、調査のためにブライスさんが体中にべっとりと泥をつけて帰ってきたということにも驚いたけど……。
もしかして、ベルナールさんって少し潔癖なところがあるのかな、と、そっちにもびっくりしてしまった。
……あ、でも、マナーや規律を重んじる人だから、皇宮内では『何時いかなる時もきちんとしておかなければならない』と思っているのかも。
「……直ぐに、現場にまた戻らなければならないのに、皇宮に入る度に、風呂に入って身なりを整えろと言われたらたまったもんじゃない。
一々、そのようなことをしていたら日が暮れてしまう」
それから、ブライスさんのため息が混じった“げんなりとした一言”に。
「私は、陛下の御前にも関わらず、そんなにも汚い格好のまま会うなと言っているんだ。
貴方の仕事内容は把握しているが……。
曲がりなりにも、五老星という立場で国を盛り立てている人間である以上、自覚は持って然るべきだと思うし。
陛下に会うのに、身なりさえも整えないでいることがどうしても許せない」
と、ベルナールさんが応戦するように、声を出してきたのが聞こえてきた。
ただ、ここまでズケズケとお互いに色々と言い合えるということは、完全に仲が良くないという訳ではないのかもしれない。
否定はされたものの、どことなく二人の間に見え隠れする、互いに対する親しみのようなものを感じつつ。
お互いに五老星という特殊な地位に立って国を盛り立てている人達同士、宮廷貴族としてのライバルという意識もあるのかも……。
「ベルナールさんは、まさに歩く法律と言ってもいいくらいマナーや規律などを人一倍、重んじる方だとお父様に伺いました。
それから、ブライスさんは環境問題に取り組んでいることもあって、古き良きものを大事にしながらも、革新的な意見なども積極的に取り入れることが出来る方だとも」
……どうせ、お父様のことだから、普段から言葉数が少なくて『あまり積極的には、五老星の人達を褒めたりもしていなさそうだなぁ』と思いながら……。
この際だから、彼らのことを知るのに、お父様が普段思っていることを間接的に私の口から伝えつつ。
『色々と聞けたらいいなぁ』と感じて、声を出せば。
私の言葉を聞いて、ブライスさんもベルナールさんも驚いた様子で目を見開いたのが見えた。
「陛下がそのようなことを、皇女殿下に……?」
そうして、ベルナールさんに問いかけられて、私はこくりと頷き返す。
「はい。今代の五老星の方達は、これ以上無いと言ってもいいくらいに、それぞれが適任であると」
それから、にこりと口元を緩めながら微笑みかければ。
「いつも人にも自分にも厳しい陛下が……。
いやはや、これは、珍しいこともあるものだ。……明日は、雨が降るかもしれませんね」
と、ブライスさんがおどけたような口調で、茶目っ気たっぷりな雰囲気で返してくれる。
それを見てお父様が、どことなく嫌そうな表情を浮かべたあと……。
「褒めたと言っても、お前達のことをアリスに説明するのに必要な情報を伝えただけだ。
……アリスが皇族として、五老星も含んだ中央の行政について、きちんと勉強しておきたいと私に聞いてきたからな」
と、私に話題を振ってくれた。
さりげないお父様のフォローにより、私が『政治に関して勉強しておきたい』と思っているのだと、周囲に知らしめてくれたお陰で……。
ブライスさんの瞳も、ベルナールさんの瞳も、それから、他の人達の視線も一斉に私の方へと向いたのが分かった。
どことなく、彼らの視線が、感心したような瞳だったり、私に対して見直すようなものになっているのは、きっと気のせいじゃないだろう。
そのことで、お父様に有り難いなぁ、と思いつつ。
私は折角のお父様のキラーパスを無駄には出来ないと気を引き締めながら……。
警護のために、私の後ろに立ってくれていたセオドアに『一応、彼らのことを観察しておいて欲しい』と一瞬だけ視線を向けて、アイコンタクトをしたあとで。
「そうなんです……。
その……っ、中央の行政のことや、騎士団など、国を支えてくれている人達が、皇宮内でどういう風に仕事をして下さっているのか、詳しく知っておきたいと思いまして。
……将来、お父様の跡を継ぐであろうウィリアムお兄様のことを、支えるためにも。
私はまだまだ、勉強不足で何も分かっていないので、今は、いろいろなことを吸収して、勉強しておきたいと思っているんです」
と、なるべく無邪気に見えるような微笑みを浮かべながら、ブライスさんとベルナールさんに向かって声を出す。
一応、お父様の言うように無知を装ってみたものの、10歳の皇女としてのあどけなさを出すことは難しかったけど、本題にはこれで入れたと思う。
ここで、お兄様のことを引き合いに出したのは『私が勉強しようと思っているのは、あくまで将来、お父様の跡を継ぐウィリアムお兄様を傍で支えるため』で……。
自分が実権を持とうとは欠片も思っていない、ということを強調させるためだ。
流石に、ブライスさんは違うと信じたいけど、もしも仮にこの二人のどっちかが『仮面の男』と繋がっているのなら、そもそもが、赤髪である私を排除したいと思っていることになるだろうし。
私自身が実権を持とうとしていると勘違いされてしまったら、今以上に良くは思われないだろう。
ここで、私が知りたいのは騎士団の未来のために、騎士団長と特に懇意にしている五老星のメンバーは誰なのかということと。
仮面の男の裏に、宮廷伯の面々がいるのかどうかを調べるということ。
それから、出来れば、今後魔女の人権を確保するような法案を通すためにも、宮廷伯の面々の相関図を知っておきたいのは勿論のこと、彼らと仲良く出来ればいいなという気持ちもある。
「ほう……、それはまた、素晴らしい心がけですなぁっ……!」
そうして、ほんの少しだけ目を見開いて驚いたような表情を浮かべたあと、感心したようにベルナールさんにそう言われて、私はにこにこと笑みを溢しながら。
「そう言って頂けると嬉しいです。
……その、昨日、ブライスさんとベルナールさんに声をかけて頂いたことで私も皇族の一員として、もっと頑張らなくちゃと思いまして。
騎士団の人達が勲章の授与式で表彰されているのを見て、ベルナールさんやブライスさん達のような宮廷伯の方達は勿論のこと、騎士の方達も国を盛り立ててくれているのだと改めて実感しました。
……ただ、少し気になったんですけど、なんだか騎士団の方達にも派閥……? のようなものがあるような気がして。
騎士団には、騎士団長と、副団長を慕う方達が、それぞれ別にいるのでしょうか?
ベルナールさんやブライスさんは、騎士団のことにはあまり詳しくないかもしれませんが、何かご存じだったりしますか?」
と、お父様に馬車の中で言われた通り……。
引き続き、なるべく無知を装いつつ、ただ単純に疑問に思ったのだという風に見えるよう、きょとんとしながら問いかけるように声を出す。
昨日、勲章の授与式があったお陰で、ちょっとだけ強引だったけど、それでもそこまで大きな違和感もなく入れたと思う。
この後、この二人が、アーサーのことも知っているかどうかも聞いておきたいし……。
そっちに話を振るという意味でも、騎士団の話から入ったことは間違いではないと思う。
私の言葉に、それまで、にこやかに話を聞いてくれていたベルナールさんと、ブライスさんは……。
それぞれに騎士団という単語を聞いた途端に、少しだけ眉を寄せて考えるような素振りを見せてしまった。
それがどういう意味を持つものなのか、これだけだと、まだ判断は出来ないけれど。
もしかしたら、私に対してどういう風に伝えていいのかと、迷ってくれているのかもしれない。
そうして……。
二人が口を開くその前に……。
「騎士団内に、騎士団長と副団長の間で派閥があるというのは周知の事実ですよ」
という、説明が別の方向から降ってきて、私は思わず目を瞬かせたあと、そちらに目を向けた。
見れば、50代くらいのなんて言うかちょっとだけチャラそうと言ったら失礼なのかもしれないけど。
まさしく伊達男と言わんばかりに、髪の毛をパーマにして、50代にしては若々しい雰囲気の柄物のシャツに、グレーのジャケットを違和感なく着こなした男の人が、ウィンクをしながら立っていて……。
「スミス……」
と、お父様がぽつりと呟いたことで、私は『この人がお父様の言っていた、赤を持つ者に否定的な外務部のスミスさん……っ!』と……。
思わず、まじまじとその人に視線を向けてしまった。










