368 五老星と呼ばれる人達
「私が無知を装って、宮廷伯の方達に、色々と質問をしてみる、ですか……?」
お父様から提案されたその言葉に、内心で『そんなこと出来るかな……』とちょっとだけ不安に思ったものの。
どっちみち、騎士団を良くするために、彼らと接近したいとは思っていたし……。
まだ、彼らが一連の事件の犯人だと決まっている訳ではないものの、仮面の男の裏にいる人を暴くことも出来るチャンスなら……、と考えて。
「分かりました。……なるべく、頑張ってみますね……っ」
と、お父様の目を見ながら、真っ直ぐに伝えると……。
「……っ、ここでアリス様が、動くことで。
何か勘ぐられているかもと、余計、周囲を煽ることにもなりかねないし。
そこに、危険性はある……と、思いますが……」
私の言葉を聞いてから、セオドアが少しだけ眉を寄せたあと、私のことを思って言葉を濁すこともなく、率直にお父様に向かって声を出してくれるのが聞こえてきた。
そうして、お父様の隣に座っていたジャンが、まるで『お父様に意見をするだなんて信じられない』と言わんばかりに、驚いて目を見開いたのも……。
【もしかしてだけど、ジャンは、お父様の傍にいても、お父様に直接意見をすることなんてあまり無いのかな……?】
普段のお父様を見ていると、どちらかというなら、セオドアみたいに臆することなく、率直に自分の意見を言ってくれる人の方が、好きだと思うんだけど。
そこまで考えて、セオドアが特別なだけで、最年少で近衛騎士になったジャンの立場から考えたらお父様に直々に意見をするなんて難しいことなのかもしれない、と直ぐに思い直した。
お父様の近衛騎士は確か、ジャンも含めて、何人かいるはずだし……。
そこでも、多分だけど、一応、護衛騎士としての序列みたいなものは存在していると思う。
だから、その中で、ただお父様の護衛に付いているだけではなく。
『必要であれば意見する』だなんてことは、お父様の近衛騎士の中でも一番上の立場にいる人なら別かもしれないけど、ジャンからしたら、考えられないことなのかも。
「あぁ、それは確かに一理あるな。
だが、怪しい動きをしている人間が宮にいるかもしれぬ時に、ただ手をこまねいている方が危険だ。
まだ、宮廷貴族がそういったことに、関わっているかどうかは分からないにしてもな」
そうして、お父様の言葉を聞きながら、セオドアが少しだけ険しい表情を浮かべながら。
「一昨日、建国祭で、……アーサーと思われる人物に、接触しました。
真白いフードを被っていて、姫さ……、アリス様の後をつけてきていた」
と、声に出してくれる。
その瞬間、お父様の顔色が、セオドアと同じように険しいものになり『……それは、本当か?』と問いただすように、私に向けられた視線で、私もこくりと真面目な表情で頷き返した。
この中で唯一、ジャンだけが私たちが何の話をしているのか分かっていないだろうけど……。
ジャンはお父様の近衛騎士に付いていることもあって、そういう話を余所に漏らしたりするようなこともないはずだから、大丈夫だと思う。
「もしかしたら、まだ、裏にいる人間と、アーサーは繋がっている恐れがある……」
そうして、セオドアが私を思ってお父様に説明してくれることに、お父様は少しだけ考え込んだ様子だったけど。
「ふむ、そうか……。
だとしたら、アーサーという騎士を知っているかどうか、宮廷貴族の面々に聞いてみるのは有りだと思う。
私自身、その様子を見たいし。……そう、だな。
以前、騎士団でアーサーという騎士を見てから気になっていると、アリス、お前が全員に話を振ってみることは出来そうか?」
と、苦渋の決断をした様子でそう言われて、私は、『……やってみます』と、正直に返答して、こくりと頷き返す。
その様子を見て、セオドアは未だに険しい表情をしたままだったけど、最終的には……。
「俺自身も、他の人間の感情の機微には聡い方なんで、アリス様の後ろでその顔色を、見……、窺いましょう」
と、声をだしてくれた。
その後で……。
「……一つ、聞いておきたい、んですが……。
皇宮内で、怪しい人間は他にもいると、俺は思うんですけど。
陛下は、もしも一連の犯人が、宮廷貴族の中にいるとしたら……。
誰か怪しい人間に、目星は付いている……んですか?」
と、セオドアがお父様に向かって、問いかけるように質問してくれるのが聞こえてきた。
「いや……、それは、中々、難しい問題だな。
……宮廷貴族の面々は、中央の行政を担っているため、基本的に常に公正な視点を持つことが求められていて。
表向きは、どこの派閥にも所属してはいけないことになっている。
だが、奴らは、どいつもこいつも、腹に一物を抱えている“曲者揃い”といっても過言ではないだろう。
それぞれが、それぞれの所属している部署での最適任者であるが故に、その性格、思考についてもある程度、偏ってしまうものだしな。
一番、私が怪しいと睨んでいるのは、五老星の中でも、赤を持つ者に否定的な外務部のスミスだが……。
あの男は、基本的に、その仕事柄、国内にいることの方が少ない人間だ。
他国から、国内の事件について指示を出しているとも、思えないのがな……」
そうして、新たに教えて貰った『外務部に所属する、スミス』という人物について、私自身、お父様から名前を聞いただけでは、その人となりも何もかもが全く分からずに、疑問に思いながら、首を横に傾げた。
そもそも、巻き戻し前の軸の時も含めて、五老星の人達について、詳細なプロフィールや性格をきちんと把握していた訳でもないから、誰が『どんな思考』を持っているかなんてことも、当然知るよしもないんだけど……。
外務部と言われているくらいだから、他国の人達との友好を保つために尽力したり、交渉役などを一手に引き受けている人なのだろうということは、辛うじて今の段階でも理解することが出来る。
その人が『赤を持つ者』には否定的な人なのだろうか……。
「外務部の、スミスさん……、ですか?」
困惑しながらも、お父様の口から出たその名前を復唱しながら、問いかけるように声を出せば。
お父様は『……あぁ』と頷きながらも、外務部であるスミスさんについて、私たちにも分かりやすいように、更に詳しく教えてくれるために口を開いてくれた。
「さっきも話したと思うが……。
基本的に、五老星とは、みな、それぞれの部署のプロフェッショナルであり、その部署の特色や役割に、“思考までもが合致している”人間が就いているものだ。
外務部は、他国との友好を保つために尽力したり、交渉役を引き受けている部署だが、基本的に他国では、まだまだ赤を持つ者に寛容ではない国が殆どだからな。
当然、他国の外相と交流する中で、コミュニケーション能力は勿論のこと、それと“渡り合っていかねばならぬ人間”として抜擢した人間がスミスになる。
それと同時に、スミスは、魔女を利用しての他国の軍事的な力の入れように危機感を抱いていて……。
幾ら、今が平和な世であろうとも、先代も含めて私の代でも、魔女の人権を考慮して、その力を頼ったりしていない状態にやきもきしているところがある。
もっと、積極的に、軍事力を強化すべきだとな……」
そうして……。
改めて、お父様からしっかりとした口調で説明されたことにより。
外務部の役割や、スミスさんがどうして『赤を持つ者』に対して否定的なのか、その理由についても理解することが出来た。
他国での意見に流されている訳ではないのかもしれないけれど……。
職業柄、魔女を人として扱っていない人達を目にすることが多いからこそ、それに異を唱える訳ではなく、それを良しと考えるような人で。
なおかつ、他国の状態に危機感を覚えて、魔女を一個人の人間としてではなく、軍事力という物として捉えている人なのだということも……。
それから続けて、お父様が外務部であるスミスさん以外の『五老星』の人達について……。
「今日の夜会で会う前に、それぞれの簡単な情報だけでも耳に入れておいた方がいいだろう」
と、プロフィールを教えてくれたことで。
お父様の言う、彼らが、みんな、それぞれの部署のプロフェッショナルであり、その部署の特色や役割に、思考までもが合致している、と言っていた意味が、段々と私にも分かってきた。
まず、今日のパーティーの主催者である、私とも一番馴染み深い『環境問題』のブライスさん。
鉱山大国であるシュタインベルクならではの、鉱害などによる環境問題について熱心に取り組んでいる人だ。
お父様曰く、五老星の中では一番、お父様と思考が似通っていて、特に話がしやすい人みたい。
ブライスさんは環境問題について取り組んでいることで、古き良き物を大事にしながらも、常にめまぐるしく変わっていく環境を保全するためや、問題を解決するために……。
自分の意見だけではなく、誰かの意見も柔軟に取り入れることが出来る人で、フットワークが軽く、革新的な意見なども一早く取り入れることができる人なんだとか。
それから、昨日の勲章の授与式で会ったばかりの『法務部』のベルナールさん。
帝国の法管理を一挙に請け負っている人。
『服装の乱れは、規律の乱れ。……日々の気の緩みが、怠慢を運んでくる』
と、まさに歩く法律と言わんばかりに、マナーや規律を重んじる人で。
五老星の中でも一番自分たちの部下に厳しく、常に模範的であり、キチッとしていないと許せないタイプみたい。
昨日会った時は、そんな風にはあまり思わなかったけど……。
そう言われて見れば、確かに、私を相手にしても、ベルナールさんの部下が一切、話さなかった所などをみると、マナーや規律を重んじるという言葉に説得力が出てくるような気がする。
自分だけではなく、部下達についても普段から徹底的に管理している人なのかも……。
そして、『財務部』のノイマンさん。
貴族からの税の徴収や、国が行っている事業などでの資金の調達、管理、支出などの『お金に関する業務』全てを担っている人だ。
彼は、お金を管理する財政部という部署に所属している人に相応しく……。
帝国のお金を守らなければいけない立場上、神経質で細かく、無駄な金銭の遣り取りが生じていないかを、逐一確認し。
いかに、経費を削減することが出来るか、国のお金を蓄えられるかということに心血を注いでいるらしく……。
財布のヒモが固いのと同じように、その性格も、どこまでも堅実で、慎重なんだとか。
そういう意味で、五老星の中でも一番の保守派であり、積極性には欠けていて、度々、革新的な意見を押し通したいブライスさんと対立しているようなこともあるみたい。
個人的には、今までお父様のお金を我が儘で使わせて貰っていた経緯があるから……。
『あまり、私には良い感情を抱いてなさそうだなぁ……』と、思ってしまう。
ノイマンさんは財務部ということもあって、彼が一番、五老星の中では、騎士団長と仲良くしている可能性の高い人だし、積極的に話しかけていきたいなとは思うんだけど……。
私自身の印象的にはマイナスからのスタートで、色々と話してくれるようになるには時間がかかってしまうかも。
そうして、最後が『総務部』のヴィンセントさん。
各方面の貴族が受け持っている『地方での運営』がきちんとされているかなどの確認と、行政制度の管理、運営をする人で……。
その地位に関しては基本的に横並びであるとされているものの、総務部自体が『他の部署がきちんと運営されているか確認する役割』を持っているということもあって。
実質的には、5老星の中でもトップに位置づけられている。
その立場上、緊急時には、お父様の代わりに現場で指揮を執ることもあり、迅速な判断と的確さを持ち合わせていて。
割と、新しい制度にも柔軟に対応出来て、積極的に取り入れたりすることも厭わない人みたい。
適切に国を運営していくため、誰よりも公正な目を持っていて、他の人達以上に、どこの派閥にも所属していない、まさに清廉潔白な人だと言っていいのだとか……。
【こうして、お父様から話を聞いていると、改めて、それぞれに個性があるというか……】
――彼らの性格一つとっても、その部署の“適任”と言われている理由がもの凄く分かる気がする。
特に財務部のノイマンさんが、財布のヒモが固いように、保守的だとか……。
法務部のベルナールさんが、歩く法律と言われているほどに、キチッとしているとか。
そういう事情を聞けば聞くほど、他に適任者はいないように感じるし、みんなそれぞれの部署でのみ、活躍出来るような人達ばかりだ。
もしも仮に、それぞれ、変則的に部署を変わるようなことが起きてしまったら、きっと、自身の力を最大限には発揮出来ないだろう。
【勿論、トップに立つ者として各部署を纏め上げている以上、それだけでは当然上手くいかないだろうから、それ以外の能力も、ある程度高いのだろうけど……】
お父様が、彼らの特徴について、かなり分かりやすく説明してくれたお陰で、なんとか人の名前を覚えるのが苦手な私でも、彼らの部署と名前を一致して覚えることが出来た。
五老星になれば、お父様と対等にこの国の政治について話し合うことが許可されていて、当然お父様も含めた貴族会議に出席して、多数決により『法案を決める権利』も有している。
でも彼らがお父様の側近中の側近と言われるには、単に五老星として『貴族会議に出席出来る権利』を有しているからだけではなく。
その選定について、基本的にはお父様が皇帝陛下に就任した際に行われるものだからだ。
五老星とは、一度決まれば、基本的に殆ど入れ替わることはなく、もしもその立場が大きく変わることがあるのなら……。
私が認識している限りでは、誰かが降格するほどの大きな罪を犯してしまって、その立場を皇帝陛下の権限で降すことになった場合か、もしくは、新しい皇帝が誕生した時の二つだった気がする。
もしかしたら、他にもあるのかもしれないけど、基本的にはその二つが入れ替わりの主な理由で……。
特に、一番大きく変更がある可能性が高いのは、戴冠式を終えた新しい皇帝が行う選任により『五老星』が決められる時だ。
前に、ウィリアムお兄様が私たちに自分の瞳の秘密を話してくれた際……。
【俺が皇帝になれば、父上の側近の殆どを恐らく替えることはしないだろうな。
今のままで、充分この国は上手く回っているし、実力主義の父上は優秀な人材を見極めるのに長けた方だ。
年齢的な問題で引退する人間はいるかもしれないが、その采配に文句など無い】
【あぁ、なんつぅか、おおよそ読めてきた。
そうなると面白くない人間がいる、ってことだな?】
と、セオドアとの遣り取りで言っていたことからも分かるように、基本的に五老星という立場にいる人間は、新しい皇帝の誕生により、大きく変わることがあるもので……。
新しい皇帝の就任に伴って、その選定で前任者がその役目を退くことになった場合は、そのまま引退する人が殆どだと聞くけど。
その場合、伯爵の爵位は取り払われることはなく、宮廷伯を経験したものとして『名誉伯爵』という地位が授けられるみたい。
引退で辞めた後は、今まで国に貢献してきたことを労って、退職金がかなり貰えるらしいし……。
ただ、宮廷伯が世襲制ではなく、任命制であることから、宮廷伯の嫡男が宮廷伯になれるかどうかは、別問題で、多くは宮廷貴族として子爵のままで終わることが殆どになる。
私自身もいまいち、この辺りの制度についてはよく分かってないんだけど……。
「……あの、今の五老星のメンバーは、お父様が選任した人達、なんですよね……?」
頭の中で色々とシュタインベルクの政治問題について整理しながら、問いかけた私の質問に、お父様はこくりと頷きながらも……。
「あぁ、そうだな。
選任と言うには多少語弊があるが、大筋では間違っていない。
……今代は、これ以上ないと言っていいくらいに、誰も彼もが適切な部署のトップに立っていると私は思っている。
だが、基本的にその役職に相応しい人間を推薦するのは私でも、私の一存で決めることが出来ないのが五老星というものだ。
宮廷伯とは、基本的に、帝国のトップである私を監視する役割も兼ねている。
ひとたび、愚かな真似をするような人間が一番上に立った場合、後に待っているのは、国の崩壊に他ならないからな。
宮廷伯に推薦するのは私がやるが、それを決めるのは、“侯爵”の位を持っている人間だ。
……この意味が分かるか、アリス……?」
と、まるで、私を試すように、そう言ってきた。
お父様の言葉に、ほんの少しだけ目をパチパチとさせた後、私は直ぐにそれが『政治的にどういう意味を持つのか』頭を一生懸命に働かせて考える。
お父様が宮廷伯に相応しい人間を推薦し、それを決める権利を持っているのは侯爵家……。
つまり、宮廷貴族が、宮廷伯になるためには侯爵家を蔑ろにすることは出来ず、彼らに認められた人間にしかその任に就けないことになる。
だとすれば、そこに恩が生じてくるはずで……。
宮廷伯というお父様と対等に政治に介入できる『特別とも思える地位』を持っていながらも、彼らは、お父様のことも、侯爵家のことも無視することは出来ない。
互いが互いに牽制し合っていて、誰か一方だけが大きな力を持つこともなく、パワーバランスが考えられて、綺麗な三角形の関係を構築していると言ったら少しは分かりやすいだろうか……。
「宮廷伯がお父様を引き留める役割を担っているのだというのなら。
侯爵家は宮廷伯に、自分たちが決めた人間なのだからと恩を売って、政治的に無茶なことはしないように、と後ろから圧力をかけている……?」
私の回答は、お父様からすると及第点だったのか、少しだけ目を見開いたあとで、直ぐに口元を緩めて此方に向かって微笑みかけてくれた。
「……あぁ、正解だ、アリス。
宮廷伯の力が強くなり政治的に暴走してしまった際は、侯爵家の署名が過半数を超えれば意義を唱えることが出来るようになっている。
場合によっては、犯罪などの罪を犯した時だけではなく、侯爵家が声を上げたことによる降格もあり得るだろう。
つまり、三者間の力がどこかに必要以上に偏ってしまうことのないように、我が国は、それでバランスを取っている」
「では、今の五老星のメンバーについては、お父様がこの人だという方を推薦し、侯爵家がそれを良しとしたことで、その任に就いている方たちだと言うことなんでしょうか……?」
「あぁ、そうだ……。
それぞれが所属する部署で大いに力を発揮し、また、全員の思考が一つに偏らないように、意図的にその思想についてもある程度、ばらけた選定をしているんだ。
一方からしか物事を見れない人間が集まってしまうことほど、最悪なことはないからな。
だが、国で働く人間としては、優秀な人材ばかりだが、例え優秀であろうとも、裏で黒いことをしているのなら話は別だ。
ある程度、政治的に許容範囲である部分を超えて、あってはならぬことに、足を踏み入れている人間がいるのなら許してはおけない」
そうして、お父様との遣り取りで、改めてこの国の仕組みのようなものを理解したのと同時に……。
どこの国でも『後継者争い』が激化してしまう訳だなぁ、と思ってしまった。
シュタインベルクの場合は、凄くよく考えられた制度で、王族と宮廷伯と侯爵家が三つ巴の状態になっていて、互いに力のバランスを考えているから、誰か一人が実権を握ろうとするには難しいように出来ているけど。
あくまでも制度の裏をついて、画策して、侯爵家とグルになり、国の実権を宮廷伯が握るようなこともやろうと思えば出来る可能性はある。
その場合、侯爵家とグルになってどちらの力関係の方が上になるかなどは、難しい問題だと思うけど……。
巻き戻し前の軸、私を必要以上に持ち上げて、私のことを傀儡にしたいと思っているような人達がいたことを思えば、本当にゾッとしてしまった。
やっぱり、正しい人が上に立つのが一番良いと思うし。
そういう意味でもウィリアムお兄様が将来、お父様の後を継いでくれるのが最良であることは間違いないんだろうな……。
ギゼルお兄様だって、ウィリアムお兄様のことを尊敬しているから、ウィリアムお兄様を押しのけてまで自分が皇帝という地位に就こうだなんて、絶対思っていないだろうし……。
そこまで考えて、五老星の人達との話からは、がらりと変わってしまうけど、ここ最近、私自身が気になっていたことを、お父様に直接聞いてみることにした。
「お父様、あの……、五老星の方達から話が変わって申し訳ないんですけど、ギゼルお兄様って、テレーゼ様とはあまり親子の仲が良くないんでしょうか……?」
こればっかりは、ナイーブな問題だから、なるべく控えめに問いかけると、私の発言を聞いて、お父様が驚いたように目を見開いたのと……。
隣にいたジャンが、今日何度目か分からないくらいに『ごほ……っ!』と思いっきり咽せたのが目に入ってきた。