336 ファッションショーの演出の練習
あれから……。
ファッションショーでの優勝店舗が一年間、私と共同で賞品を開発する権利を得ることが出来ると、大々的に『ゴシップ誌に載った』ことで。
よほど、世間からの関心を惹いたのか……。
建国祭前にもかかわらず、どこもかしこもその話題で持ちきりの状態になってしまい。
私自身、滅多に人に会うことがないものの……。
皇宮で働く人達からは、興味津々という感じで、誰かとすれ違う度に、事情を聞かれたりする状況に、受け答えするだけでもかなり大変なことになってしまっていた。
そのお蔭もあるのか……。
副産物として、最近では皇宮で働く、私に付いてくれている従者ではない人達とも“挨拶以外に話す”ことが増えて、少しずつ打ち解けることが出来てきているような気がする。
シベルのデザイナーさんが『持ちかけてきたこの話』は、話題作りという意味で、建国祭を盛り上げることに関して、凄く成功していると思うし。
本来なら、開催側でもあり、国を盛り上げる立場である私自身も、喜ばないといけない部分はあるんだろうけど……。
良いことがあった反面、その所為で、ジェルメールにも一時期、別の記者の人達が殺到して“事情”を聞きに来たり……。
普段、ジェルメールに来るお客さんではない層まで、物珍しさからお店へと押しかけるようなことがあったりで、その対応に追われたりと。
中々、ファッションショーに出す為の『衣装作り』が進まなくて……。
【んもう……っ!
お客さんは何一つ悪くはないですけど……っ、記者達に関しては明らかに、営業妨害ですわ~!】
と、珍しく、ジェルメールのデザイナーさんが頬を膨らませて怒ってたりもしていて……。
一時、凄くカオスな状況だったというか、一騒動あったりしていた。
最近になって、ようやくそれも収まってきて……。
衣装に関しても、形やデザインがハッキリと決まって、制作し始めてくれているものの。
出来上がるのは、本当にファッションショー当日のギリギリなラインになりそうだと、デザイナーさんからは平謝りされてしまった。
そうして、一応……。
当日、私とセオドアが、ステージ上で行わなければいけない演出についても、大まかにどういう風に動く必要があるのかを聞いてみると。
忙しい合間を縫って、デザイナーさんが『大体、こんな感じにして欲しい』というイメージとして、わざわざ書類を作って手渡してくれていて……。
今日は、その練習を“セオドアと一緒にする予定”に、なっていたのだけど……。
「オイ、一体、何なんだよ、この演出は……。
巫山戯ているのか?
あまりにも、お前達の距離が近すぎるだろう……っ?」
「うわぁ……。
お姫様、当日は、お兄さんとこんなにも近い距離で接するの?
こういう世界って、俺、初めて触れるけど。
ファッションショーってのも、大変なんだねぇ……っ?」
何故か……。
偶然、ウィリアムお兄様と、皇宮に来ていたルーカスさんに出くわして。
セオドアとアルと一緒に、何処へ行くのかと聞かれたので……。
ダンスのレッスンをしたりする専用の部屋に、ファッションショーの演出の練習をしに行くという事情を話すと……。
興味津々という感じで、ルーカスさんが『俺も見に行ってもいい?』と聞いてきて。
あれよあれよという間に、見物人が増えてしまった。
そうして、今に至るんだけど……。
「知るかよ。……別に、俺がこうして欲しいって、頼んだ訳じゃねぇし。
俺と姫さんは、言われた通りに練習するだけだ。
文句があるんなら、ジェルメールのデザイナーに、直接、言ってくれ」
どうしてか分からないんだけど、デザイナーさんが作ってくれた台本に目を通した瞬間、ウィリアムお兄様が難色を示し……。
セオドアとの間で、ほんの少し、ピリッとした空気になってしまった。
といっても、いつもの遣り取りの延長上という感じで、お互いに本気で怒っている訳ではないと思うんだけど。
【一応、念の為にも、止めに入った方が良いかな……?】
その遣り取りを見つつ、適切な時を、見計らいながら……。
『止めに入った方が良いか』と、私が、2人に声をかけようとしたタイミングで……。
何故か、ルーカスさんだけは、その様子を見て、1人、もの凄く楽しそうにしていて。
「いやー、今や、お姫様が“賭けの賞品”になったってことで……。
建国祭前から、世間の話題はそのことで持ちきりで、大賑わいだもんな……っ!
そもそも、皇族が賭け事の対象になるってのは、良いのか悪いのかっていう論調はあれど……。
概ね、娯楽に飢えた一般人からは、好意的に受け止められてるし。
お姫様、一躍、時の人だね……?」
と、ニコニコしながら……。
私が2人の間に入ろうとしたのを『止めなくていい』とでも言うように、手で制したあと。
此方に向かって、声をかけてきて……。
その姿に、思わず目をぱちくりとさせてしまった。
「オイ、ルーカス。
他人事だと思って、お前、楽しんでるだろう?」
「そりゃぁ、もちろんっ。
こういうのって、当事者じゃなくて、傍観者の立場が、一番、気楽に楽しめるものじゃん?」
「お前なっ……、!」
「まぁまぁ、殿下。……あんまり怒ると、身体にも良くないよ。
ファッションショーなんだからさ、それに対して演出が付くっていうのは当たり前だし。
そこに、目くじらを立てても仕方がないでしょ?
お姫様も自分が賭けの対象になってる以上、ジェルメールを優勝させたい気持ちの方が強いんだろうし。……ねっ?」
そうして、お兄様に対して、さりげなくフォローを入れて、説得をしてくれながら……。
私に対して確認するように、ウィンクをしてくれたルーカスさんに、感謝の気持ちが湧いてきて……。
「あ、あの……、ルーカスさん、ありがとうございます。
私もジェルメールが優勝出来るように、何の役にも立てないかもしれないけど、頑張りたくて……」
と、声を出せば。
私の言葉を聞いたウィリアムお兄様が、『……うっ、』と、小さい声を出したあと……。
私の方を見て、気まずそうな表情を一瞬だけ見せてから、押し黙ってしまった。
「オイ、アンタ……。
たまには、スゲェ、良いことを言うんだな……っ、!」
そうして、ウィリアムお兄様と対称的に、びっくりしたように目を見開きながら……。
ルーカスさんのその言葉に、感慨深げに反応したのは、セオドアで……。
「……たまには、って何だよ……っ!
前々から、ちょいちょい、思ってたんだけどさっ。
お兄さん、マジで、俺への扱いが雑っていうか、酷すぎじゃない……!?
ねぇ、俺、いい加減、泣いちゃうよっ!? ……泣いちゃうよっ!?」
と……。
セオドアの発言を聞きながら、ルーカスさんがあからさまに傷ついたという表情を隠すこともなく、オーバー気味に、身体全体を使って表現しているのを見て……。
何となく、私にもルーカスさんのこの表現の仕方は、本当に傷ついている訳じゃなく。
傷ついたようなフリをして……。
『面白おかしく突っ込みを入れてくれているんだな』ということが、一緒に過ごしている時間が長くなっていくに連れ、徐々に分かるようになってきていた。
「ふむ……。
ルーカスが、セオドアの扱いで、本当に泣くのかどうかはともかくとして。
ウィリアム。……アリスも、ジェルメールを優勝させるために、ここ数日、衣装をどうするかなどで、頻繁に店に通い詰めて、相談をし合っていて、忙しくしているのだ。
演出どうこうに関しては、僕には分からぬが、それをしなければ勝てないのだというのなら、アリスの気持ちも汲んでやってくれ」
それから、ルーカスさんが、オーバー気味にセオドアの発言に傷ついたようなフリをしている間に……。
アルがウィリアムお兄様に向かって、さらっと、私の意見も含めて代弁してくれて……。
ここ数日、私がジェルメールのデザイナーさんと、色々なことを相談しながら、一生懸命頑張っていたのを見てくれて有り難いなぁ、と思いつつ。
アルの言葉に、お兄様も『……そうか。……それなら、仕方が無いな』と納得してくれて、私はホッと胸を撫で下ろした。
お兄様に、ジェルメールのデザイナーさんが“用意してくれた演出”のどこが駄目だと思われたのか、よく分からないんだけど。
仮初めとはいえ、ルーカスさんと婚約関係を結んだばかりで、他の異性と近づくのは……。
【……といっても、相手はセオドアなんだけど】
――体面的に、あまり良く無いと思われてしまったのかな……?
これを渡された時に……。
『これくらいの演出は“どこの出場者”も、やっていることですし、普通ですわ』と言われていたのもあって、私自身は何とも思わなかったし。
改めて、演出の内容を見返してみても、特に、違和感を抱いてしまうような部分は無い気がするんだけどなっ……。
一緒に歩く時に、私は小さなブーケを持ってステージに出て、セオドアは花かんむりを持って出て……。
デザイナーさん曰く、主従関係を強調したいとのことで。
ステージの花道にある先端の部分でそれを交換する為に、セオドアが、その場で跪いて、私の頭に花かんむりを乗せてくれる予定になっているのと……。
私はそのお礼にと、手に持っていた小さなブーケを『セオドアに渡す手はず』になっている以外に、特別大きなことは何もないんだけど。
あ……、あとは、それぞれ花を持っていない方の手で、手を繋いで入場するのと、帰りも同じように手を繋いで帰る必要があるから……。
もしかして、そこの部分を、言っていたのかな……?
【確かに、割と近い距離というのは、そうなんだけど。
でも、私達だけじゃなくて……。
多分、どのモデルさん達も、必然的にみんな、それくらい近くにはなると思うし……】
ステージの上の演出のことを、一から順を追って考えながら、お兄様が近い距離だと言っていたのは一体どこのことなんだろう……と。
私が1人、悶々と考えている間に……。
「まぁ、普通は、お姫様の立場で、従者と一緒にファッションショーに出るだなんてこと自体、まずあり得ないし。
ましてや、テーマがテーマだとは言え、自分の従者と手を繋いで出るだとか……。
距離感に関しても、二人の距離がこんなにも近いと、それだけで多分、周囲はびっくりするだろうね」
と……。
ルーカスさんから、まさに今、自分が知りたかった事の答えが、補足するように降ってきて。
私自身、お兄様がセオドアとの距離が近いって難色を示したのは、そういうのも含まれていたのかな、と納得することが出来た。
「……ただ、殿下の場合は、それとは違う意味合いも含まれてんだろうけど」
そうして、続けて、ルーカスさんが『ぼそっと言ったこと』が上手く聞き取れなくて。
困惑しながら、ルーカスさんに視線を向けたあと……。
聞き取れなかったことを謝った上で、もう一度、さっき言ったことを教えて貰いたいとお願いすれば。
ルーカスさんは、無邪気な笑顔で、にぱっと笑いかけてくれたあとで。
「あー、ただの俺の独り言っていうか……。
君が気にすることじゃないから、それに関しては、知らなくても全然大丈夫だよ。
それより俺は、お兄さんについて、今から、もの凄く心配してるんだけど。
だってさ、今回のファッションショーって、殿下や俺だけじゃなくて、陛下も見に来るんでしょ?」
という言葉を出してくれて……。
私自身、その言葉の意味が分からずに、キョトンとしながら、パチパチと瞬きをしてしまった。
――お父様が来ることで、どうしてセオドアの身が心配になるんだろう……?
1人、訳が分からずに、首を傾げていると……。
「オイ、急に、恐いことを言うんじゃねぇよ……っ。
まぁ、仮に、皇帝に何と思われようとも……、別に、俺自身は何も困らねぇけど……」
「ええっ、本当に困らない……っ?
お姫様のことを、溺愛している陛下だよ……っ!?
お兄さん、もしも、それでさ……。
陛下から“お姫様の従者の立場”、降ろされるようなことになったらどうすんの……っ?」
「あっ……?
あー、それについては、流石に大丈夫、だろ……っ。
最近になって知ったけど、皇帝が割と実力主義で、そういう人間を引き立てるタチだってのは、把握してるし。
俺以外に、俺と同等なくらい、姫さんの身の安全を護れるような奴がいれば、話は別かもしれねぇけど。
ポッと出てきたような“そこら辺の奴”に、姫さんの隣を、簡単に譲ってたまるかよ。
……とりあえず、常に自分の実力を示し続けてれば、問題ねぇはずだ」
「うわぁぁ……っ!!
お兄さんって、ほんとさ……っ。
本当、何て言ったらいいのかなっ……?
そういうのっ……! 無意識なのか分かんないけど、特に恥ずかしげもなく、素の状態で言う時あるよね……っ!?
そりゃぁ、確かに、お兄さん以上に“お姫様の護衛”に関しての適任者なんて、いないと思うけどさァ……。
聞いてる俺の方が、何て言うか、ちょっと、恥ずかしくなってくるんだけど……」
と……。
セオドアとルーカスさんの間で、お父様がセオドアに『何か』をするかもしれないという前提で、話がさらっと進んでしまっていた。
……というか、私自身、今の今まで、セオドアが私の護衛から離れるだなんて、考えたこともなかったんだけど。
セオドア自身の希望でそうならない限りは、私も、可能な限り『ずっとセオドアに傍にいて欲しい』と思うから、何となくモヤモヤとした嫌な気持ちが湧き出てきそうになって……。
思わず、私は、表に出ることはなかった、チクリと刺すようなその胸の痛みに、首を傾げる。
従者としてだけではなく、一人の親しい人として、セオドアのことは勿論、凄く大切に思っているし……。
アルやローラだけじゃなく、ロイやエリスのことも、出来るなら私の傍にいてくれている人は、今後も誰一人として欠けて欲しくないと感じているからかもしれない。
【そもそも、お父様がセオドアに対して何かをするとは到底思えないんだけど、ルーカスさんはどうしてそんな発想になったんだろう……?】
――セオドアも、セオドアで、それを受け入れちゃってるし……。
頭の中を“はてな”で、いっぱいにしながら、みんなの話を聞いていたものの。
そろそろ、本格的に、ファッションショーの練習に取り組まないといけないかも、と。
「あ、あの……。
みんなで、お話をしている時に、申し訳ないんですけど……。
そろそろ、セオドアと一緒に、ファッションショーの練習をしても、大丈夫でしょうか……?」
と、恐る恐る声をかければ……。
私の言葉を聞いて、ルーカスさんが、ハッとしたような表情になったあと、苦笑いを浮かべながら……。
「あー、うん、そうだったよな……。
肝心な時に、騎士のお兄さんを捕まえて、話し込んじゃってごめん。
俺は、今回……、殆ど関わりがなくて、基本的に、第三者側の立場だからさ。
滅多にないような“この状況”が面白くて、つい、余計なことまで口を挟んじゃったよ」
と、謝ってくれた。
「アリス……。
……その練習とやらは、当日だけではなくて。
どうしても今、何回もしておかなければいけないのか……?」
そうして、ちょっとだけ難しい顔をしたお兄様にそう言われて……。
私は、その言葉の意味が、今ひとつよく分からないながらも、こくりと頷いて……。
「えっと、はい……。
大会で、少しでもジェルメールが有利になるように、なるべく、万全の状態で挑みたくて……。
今の私に出来ることは、これくらいしかないですし。
後悔のないように、しっかりと、準備をしておきたいんです」
と、真っ直ぐに、お兄様に向かって声を出した。
「そうか……。
……オイ、犬っころ。
お前、分かってるだろうな……?」
「へぇへぇ、分かった、分かった。
……たく、心配しすぎだっての。
姫さんが、こんなにも、一生懸命になってんだ。
間違っても、途中で止めるような、野暮なことは、するんじゃねぇぞ、お兄様……?」
「お前に、お兄様と言われる筋合いはないって、何回言わせるんだ。
っていうか、最早、分かってて“敢えて”言ってきているだろう、それは……っ!」
そうして、何故か話の矛先が、私ではなくセオドアに向かってしまったことに『一体、どうしてそうなるんだろう……』と、思いながらも。
相変わらず、仲が良いのか、悪いのか分からない遣り取りをするお兄様とセオドアに。
ルーカスさんが堪えきれないように、ふっと、吹き出したあと、ニヤニヤと悪い顔をして……。
「おやおやぁ……っ?
これは、まさかの、殿下とお兄さんの間に、久しぶりにバトル勃発かな……っ?
いやー、自分のことじゃなくて、人様のことだから……。
積極的に、そこに関わりたくはないけど、見てる分には滅茶苦茶楽しいなァっ!」
と、声を出してきたのが聞こえてきて。
その煽るような発言に、一人、慌ててしまった。
「る、ルーカスさん……っ。
そこで、楽しまないで下さい……っ!」
「……だってさぁ、お姫様。
最近、二人で結託して、俺ばっか標的にされてたじゃん?
ほら……、喧嘩するほど仲が良いって言うでしょ?
たまには、こうやって、俺そっちのけで、バトってくるくらいが健全だし。
お姫様は知らないだろうけど、男の友情を深める為には、こうやって、喧嘩という接点を持つってのが凄く大事なことなんだよ」
そうして、自信満々で答えるルーカスさんに、戸惑いながらも……。
「……?? え、……? そ、そうなんですか……、?」
と、確かに喧嘩するほど仲が良いっていうし、『そ、そうなのかな……』って、一人納得しかけていると……。
「オイ、ちょっと目を離した隙に、姫さんに、適当な事を教えるんじゃねぇよ……。
姫さんの、純粋で、真っ直ぐな目を見てみろよっ……!
今作った、デタラメの、アンタの“ホラ話”を信じそうになっちまってるだろうが……っ!」
「何が、喧嘩するほど仲が良いだ……っ!
表面的にそれらしいことを言っているだけで、お前が関わっていないから、一人、外側でニヤニヤと傍観しているのが楽しいだけだろうっ……!」
と、直ぐに、セオドアとお兄様から抗議が飛んできて……。
そこで初めて、私自身、ルーカスさんに、それっぽいことを言われて煙に巻かれそうになっていたのだと、気付くことが出来た。
というか、たまにあるけど、ルーカスさんのこのお茶目な冗談を見破るには、私とアルには難易度が高すぎると思う……。
「……ふむっ、喧嘩するほど仲が良いというのは嘘だったのか。
ルーカス、図書館で見つけて最近ハマっていて、僕も今、色々と諺を勉強しているのだが。
今後の為にも、一体、どの言葉が嘘で、どれが本当なのか、詳しく教えて欲しいのだが。
アリスとセオドアがファッションショーの演出について練習している間、僕達は暇な訳だし、お前に諺のことを聞いても良いか……?」
そうして、純粋な表情をしたアルが、ルーカスさんに向かって、ぐいぐいと最近勉強したという諺についての真意を確かめようとしていて……。
「ちょ、ちょっと待って……、タンマっ!
アルフレッド君、もしかして、それ、滅茶苦茶“時間かかりそう”な奴……?
っていうか、諺に嘘も本当も無いでしょっ?
……教訓や風刺、真理などを巧みに短い言葉で言い表したのが諺であって。
先人の有り難い教えだし、平たく言うなら、全部本当だよ」
と、何だか、面倒なことになりそうな予感がしたのか……。
慌てた様子のルーカスさんの答えに。
「なるほど、そうなのだな……っ!
では、当時の教訓や風刺、真理に至るまでに、人類が、一体どのような経緯を辿ってきたのか、その歴史についても詳しく紐解きたいのだが……っ!」
……と言いながら、アルが更にキラキラした瞳で、問いかけるのが見えて。
「うわぁぁ……、ヤバイっ、墓穴掘った……。
調子に乗って、お兄さんと殿下を揶揄うようなことを、言うんじゃなかったなァ……。
答えられる気がしないっていうか……。
そもそも、言葉の歴史的な分野に関しては、マジで、俺の専門外なんだけど。
1回、図書館に、専門書借りに行く……?」
と……。
最終的に、もの凄く困った様子で、自分の発言に後悔したように、肩をがっくりと落としたルーカスさんの姿が目に入ってきた。