333 懐かしい半身を思う
それから……。
私達は、ジェルメールのデザイナーさんと一緒にスタッフルームまで戻って、今回問題になっていた、ジェルメールと、シベル側との確執について、改めて詳しい事情を教えて貰っていた。
デザイナーさん曰く、ジェルメールで新しく雇った女性の新人スタッフさんが、元々シベルの従業員だったということは間違いないらしく。
彼女はシベルで見習いとして働きながらも、将来デザイナーになるという夢を持って頑張っていたみたい。
……ただ、業界でも有名なほど、シベルのデザイナーさんは、自身のデザインに圧倒的な“プライド”を持っていて。
自分だけではなく、周囲に対しても、いっそ、孤高とも呼べるくらいに、一切の妥協や手抜きなどを許す人ではなく。
新人教育についても、凄く厳しいと有名で……。
どちらかというのなら、スタッフさん同士、仲が良く、みんなで切磋琢磨しながら、お互いを高め合うようなジェルメールの方針とは違い。
定期的に社内コンペと呼ばれる、デザインの競技会を店舗内で積極的に開催し、敢えて従業員同士を競わせながら、そこで働く人達のデザインの質を高める、というのがシベルの遣り方だったみたい。
当然、その方針に、ついていける人はそこまで多くなく。
途中で、頑張る気力を無くして、挫折をしてしまうようなスタッフさんも沢山いたみたい。
そうして、働いている従業員同士がお互いに競い合うような状況は、デザインの向上という面でのメリットもありながら……。
店舗内での派閥争いや、スタッフ間の亀裂を生んで。
お店の中は、常に緊張感が張り巡らされ、裏でお互いに相手の粗探しをして、蹴落とし合うような、ギスギスとしているような状態があった、とのことで……。
「デザインの、上手い下手は関係ないんです。
デザインが上手くなければ、それだけで、周囲から蔑まれる対象として見られますし。
新人のスタッフが、少しでも“シベルのデザイナー”である、クロエさんに気に入られるような、デザインの案を出せば、出る杭は打たれるような感じで、目を付けられてしまうような状況で……。
それで、その……。
クロエさんの見えない所で、先輩スタッフから、陰口などをたたかれてしまうような状況や、親切な顔をして近づいてきた同僚から手ひどい裏切りにあってしまったりで……。
私自身、耐えきれなくなってしまったんです……」
そうして、ジェルメールのデザイナーさんが、私に対して、シベルの状況を説明してくれたあと。
新人のスタッフさんが、困ったように眉を下げ、悲しげな表情で、当時の辛かった状況を打ち明けてくれるのを聞きながら……。
“凄く、大変な思いをしたんだなぁ……”という気持ちで。
私は、彼女の話に『そうだったんですね……』と、深く頷きながら、相づちを打った。
私自身、今まで、人から蔑まれたりするような、そういう状況に身を置くことの方が多かったから……。
周りにいる人の“誰を信用すれば良くて”、“誰が信用出来ない”のか、疑心暗鬼になってしまうような気持ちも分かるし。
ずっと、その環境にいたのだとしたら、日に日に疲弊して、頑張ろうと思うような気力さえ奪われて、きっと、息が詰まるような苦しさだったんじゃないかと、感じてしまう。
「それで、夢を諦めて、実家に帰ろうと思って、シベルを辞めてから……。
少しの間、これからの自分の将来について考えてみたんですけど、それでも、やっぱり、デザイナーの道を諦めきれなくて……。
最後にダメ元で、新人スタッフの募集をしていた、ジェルメールに飛び込みで応募したんです。
そこで、洗いざらい事情を話したら、ヴァイオレットさんは、“辛かったわね”って慰めてくれて、こんな私のことも、温かく迎え入れてくれて……。
だから、そのっ……。
私、本当に、ヴァイオレットさんに、感謝してるんです……っ」
そうして、ひたむきな雰囲気を滲ませた彼女の口から、今までの経緯についての詳しい説明を聞き終えて……。
私は、今回、ジェルメールとシベルの間にあった一連の確執について、ある程度ハッキリと、その流れに関しては、頭の中で整理することが出来ていた。
「採用面接の時に見せて貰った、彼女のデザインにはキラリと光るものがありましたし。
それで、店舗内でイジメとも思えるような状況が起きてしまったんでしょうね」
「シベルのデザイナーであるクロエさんは、そのことは知らなかったんでしょうか……?」
それから、ジェルメールのデザイナーさんに、そう言われて……。
その状況をシベルのデザイナーさんは、一切、知らなかったんだろうかと、気になって質問をすれば。
「そうですね……。
ただ、そこまで、しっかりとした事情については知らなかったとしても、少なくとも、一切、把握していなかったということはないでしょうね。
……それに、彼女は、そういった現状も、ある程度は“黙認”する質というか。
困ったことに、自分が今まで苦労しながらも。
その状況下で“成果を上げてきた”という自負があるから、それに耐えてこそ、強さが得られると考えているような所が度々、見受けられるというか……。
可愛い我が子ほど、這い上がってきて欲しいと、突き放すように谷底に落とすような教育を取るというか……」
と……。
珍しく、言いにくそうに言葉を選びながら、もの凄く困ったような表情を浮かべた“ジェルメールのデザイナーさん”にそう言われて。
思わず、目を見開いてしまった。
シベルのデザイナーさんは、そこまで、大変な状況になっていることは知らなかったにしても。
周囲がギスギスしていたり、お互いにライバル関係を持って、明確に勝ち負けがハッキリとするような状況を良しとして……。
敢えて、その状態を黙認していたんだろうか。
愛情と言うには、あまりにも厳しすぎるような気もするし……。
私自身、こうして、ただ話を聞いているだけなのに、明確に二つの店舗が相反するものだと思えるほどに、シベルとジェルメールのお店の在り方や、スタンスがまるで違っていることに驚いてしまった。
素人の私からしても、ジェルメールのような雰囲気で仕事が出来る方が、スタッフさん達の士気もあがって、お店にとっては良いんじゃないかと思うんだけど……。
――そこに、他に何か、理由があるのかな……?
私の戸惑いが、思いっきり表情に出てしまっていたのか……。
「……決して、それが、悪いと言っている訳ではないんですの。
見習い期間を経ても、大多数の人間の想いは届かないことが大半で……。
こういうお店を持つということ自体、たった一握り、夢を叶えられたものだけが辿り着くことの出来る厳しい世界ですから。
夢を叶えられても、その先に待つのは流行り廃りの激しい、競争社会です。
長く愛される店として生き残るために、常に、お客様から“飽きられることのないよう”、最新の流行に自身をアップデートしながら……。
ブランドとしての独自の個性も出して、戦い抜いて行かなければならないし。
お店を持ってからは、従業員を路頭に迷わす訳にはいかないという責任も付いてまわりますしね。
そういった状況を潜り抜けられる程の、ある程度の強さを持っていなければ、どこかのタイミングで、きっとポッキリと心が折れてしまうでしょう。
見方を変えれば、それが“優しさ”でもあると捉えることは出来ます。
ただ、良くも悪くも、私とはその方針も遣り方も、何もかもが正反対で。
仕事柄、顔を合わすことも多いんですけど、彼女とは本当に反りが合わないんですの」
と、ジェルメールのデザイナーさんが苦笑しながら……。
シベルのデザイナーさんの方針について『ある程度、こうなのではないか』という予測を立てて、分かりやすく説明してくれた。
そうして、改めて、普段見ることの出来ないジェルメールのデザイナーさんの仕事に対する考えのようなものを知って。
月並みの感想しか言えないのがもどかしいんだけど。
私自身、『本当に、凄いなぁ……』と、感心してしまった。
【確かに、自分のお店を持って、それを王都という流行の移り変わりが激しい状況の中で存続させるということ自体。
私達の目に見えないだけで、本当に凄く大変なことだよね……】
――夢を叶えられても、その先に待つのは流行り廃りの激しい、競争社会。
という言葉の通り……。
毎月の売上げや、経営に関する苦労なんて、きっと計り知れないほどあるだろうし。
ジェルメールのデザイナーさんだけではなく、シベルもそうだと思うけど、王都で一流とも呼ばれている、たった一握りの華々しいお店の裏には『誰にも見せていない、影の努力がきっと沢山あるんだろうな……』と、感じてしまう。
裏を返せば、そういう大変さを表に出すことがないから、一流なのかもしれない。
だけど、それでも……。
……こうすればいいと判断したことの、結果が出てくるのは、ずっと後のことで。
経営者として、上に立つ者としての、悩みが一切ない訳じゃないだろうし。
どうすればいいのか考えながら、正解のない道を、切り開きながら進んでいくのは、本当に難しいと思う。
多分、困難にも思えるような問題に直面した時に、経験と、知識を一つ一つ積み重ねながら、丁寧に対処していくしかないんだろうな……。
そういう意味で言うと、私自身も皇族として、人の上に立つ者として、今後も立ち回っていかなければならない身ではあるから。
こういう時、立場は違えど、ジェルメールのデザイナーさんの『言葉の節々』からヒントを得られたりして、勉強になることも多くて、凄く有り難いなぁ、と思う。
「そうだったんですね……。そんなことが……」
「ええ……っ。
私達の所為で、結果的に、全く関係のない皇女様を巻き込むような形になってしまって、本当に申し訳ありません。
ましてや、賭けの賞品だなんて……っ!」
そうして、ジェルメールのデザイナーさんに再度、丁寧に謝罪をされて、私は慌てて首を横に振った。
私自身は、どうしてもジェルメールとの関わりの方が深いから、こういう時、ジェルメール側の立場になって物事を考えてしまうんだけど。
シベルのデザイナーさんの真意がどこにあるのかは、憶測でしか測れないから、私には分からないものの。
ジェルメールのデザイナーさんも、新人のスタッフさんについて、そのデザインに光るものがあったと言っていたくらいだから……。
もしも仮にシベルのデザイナーさんが、ジェルメールで雇われることになった彼女のことを高く評価していて、シベルのデザイナーさんなりに目を掛けていたのだとしたら。
そこに辿り着くまでの経緯に、例えどんな理由があったとしても、ジェルメールに奪われたと思っても、仕方がないことなのかもしれない。
それで、私自身が賭けの賞品になるだなんて思ってもなかったけど……。
方針の違いだったり、考え方の違いで、いざこざが起きてしまったような物に思えるから、どちらが悪いということでも無いような気がするし。
これで、特にお互いの店舗に遺恨が残らないのなら、お節介かもしれないって思いながらも、やっぱり、勇気を出して“仲裁に入ってみた”のは、結果的に良かった気がする。
内心で、そう思いながら……。
「1年だけなら、例え、シベルが優勝しても、私にもあまり大きな負担はありませんし、本当に気にしないで下さい。
でも、私自身、出来ることなら、ずっと“ジェルメールと、懇意にしていたい”気持ちがありますし……。
今回のファッションショーで、優勝出来るように、一緒に頑張りましょうね……っ」
と……。
ふわりと、ジェルメールのデザイナーさんに『精一杯、頑張ろう』と伝えて、微笑みかければ。
「こ、皇女様~っ!
あーん、本当にもうっ、大、大、大好きですわ~っ!
私も絶対に、ぜーったいに、皇女様のことを手放すつもりなんて、毛頭、有りませんからっ!
今年のファッションショーには、自分の命を懸ける勢いで挑みますね……っ!」
と、ガバッと両手を広げて、思いっきり抱きしめられてしまった。
「いえ……、あのっ、お願いですから、命は懸けないで下さい……っ」
その言葉に、焦りながら。
ぎゅーっと強く抱きしめられているその状況に、1人、オロオロしつつ、声をかけていると。
「あー、感激して、姫さんのこと“抱きしめてる”とこ、悪いんだが。
そこまでにしといてくれ。
アンタとの体格差を考えたら、このまま行くと、姫さんが押し潰されちまう」
と、私の状況を見かねてくれたのか、頃合いを見て、セオドアがそっと私のことを救出してくれた。
そうして、セオドアに向かって……。
デザイナーさんの腕の中で『どうすればいいのか分からなくて、悩んでいたのを、救い出してくれてありがとう』と言う気持ちを込めて、お礼を伝えれば。
「ファッションショーに出るってだけで、充分だろうに……。
また、周りにいる人間を助けようとして、関係のないことに、首を突っ込んで……。
姫さんのお人好し……っ」
と、セオドアから、どこか呆れたように……。
というか、ちょっとだけ拗ねたような雰囲気でそう言われてしまって。
私は頭の中を『……??』と……。
“はてな”で、いっぱいにしながら、セオドアに向かって、首を傾げた。
「アリス様、もしかして、また何か大変なことに巻き込まれてしまったとか言いませんよね……?」
それから、あまり事情が呑み込めていない、ハラハラとしたような、心配そうな表情のローラからそう言われて。
慌てて、手のひらを横にブンブンと振って否定したあとで。
「ううん、大丈夫。……巻き込まれた訳じゃ……っ」
――ないよ……。
と……。
私がローラに向かって、そう伝えようとした瞬間。
「あ、あの……。
皇女様は、今回の“ファッションショーの、優勝賞品”として、賭けの対象になったみたいで。
そのっ、僕もさっき一連の遣り取りに関しては見てたんですけど。
今回のファッションショーで優勝した店舗が“皇女様と共同で賞品を開発出来る権利”を、1年分貰える、みたいです……」
と、私達の後から、スタッフルームに入ってきた、緑の髪の新人のスタッフさんが……。
ローラに向かって、私よりも先に、今までの経緯をまるっと説明してしまった。
その手に持っているトレーに、人数分の紅茶が乗っかっていることから。
シベルのデザイナーさんが来た時に、先輩のスタッフさんに私達に『お茶を出して欲しい』と言われたことを、律儀にも思い出したのだろうか……。
そもそも、私達も本来なら、お暇しようとしていた上に。
『お見送りをしたいから、待っていて欲しい』と、ジェルメールのデザイナーさんに引き留められただけだったから。
シベルのデザイナーさんが帰った今、改めて、紅茶の用意は必要なかったんだけど……。
――何て言うか、凄く憎めない人だな……。
と、頭の中で思いながら……。
「あっ、紅茶を淹れてきました。
……皆さん、良かったらどうぞ、召し上がって下さい」
と、言われて。
反射的に『あ、ありがとうございます……っ』と、声に出して、思わず差し出されたティーカップを受け取ってしまった。
「あら……? あなたに、紅茶を出すように“誰かが、指示”を出したのかしら……?
皇女様とは、詳しいお店の事情を話さなければいけなかったから、ここで立ち話をしていたけれど。
本来なら、もう、お帰りの予定なのよ?」
「え……? あっ……、そ、そうだったんですね。
ごめんなさい、僕、気付かなくて……」
そうして、ジェルメールのデザイナーさんに、やんわりと注意されて。
まるで、頭の上に付いた耳を思いっきり垂れさせて、シュンと落ち込んでいるような幻想が見えてしまったというか……。
まるで……。
善意で張り切って、褒めて欲しいと、あれこれと気を回したのに、飼い主に怒られて、項垂れている“わんちゃん”みたいだなぁ、と思ってしまう。
「あ、あと。
先輩のスタッフさんから、休憩に入ってもいいよ、と言われたので……。
僕、このまま休憩してても大丈夫、でしょうか……?」
それから、彼の言葉に……。
「えぇ、勿論。……それは構わないわ」
と、答えるジェルメールのデザイナーさんを見ながら……。
今度こそ、私達も帰った方が良いよね、と……。
みんなに対して、目配せをすると。
それまで、黙ったまま、ずっとこの場の状況を眺めていたアルが……。
「なぁ、そこのお前……。
そのっ、緑色の髪をした、人間……、と、言えばいいだろう、か」
と、どこか訝しげに眉を寄せながらも。
思いきって、問いかけてみたという感じで、緑色の髪をしたスタッフさんに喋りかけたのが見えて、私は目を見開いた。
「え……? えっと、……僕、のことでしょうか……?」
「うむ。……お前、その髪色は、“生まれた時”から、その色なのか……?」
そうして、一つ一つ、何かを確かめるように質問をするアルに『何かあるのかな……?』と思いながら……。
珍しいアルのその姿に、私自身、緑色の髪をしたスタッフさんとアルの方に交互に視線を向けてしまう。
一方で、緑色の髪をしたスタッフさんの方は、アルの問いかけにどこまでも、不思議そうな表情をしたままで。
「……いいえ、違いますけど」
と、まるでアルの質問の意図が分からないとでも言うように、困ったような表情になりながら、声を出していて。
……その瞬間、私はアルが、一瞬だけ、凄く悲しそうな表情になったのを見逃さなかった。
「これ、僕、染めてるんです。
……確かに、凄く珍しい色、ですよね。
やっぱり、王都で、デザイナーを目指す以上は、髪色にも拘りたいな、って」
「そ、そうだったのか……っ、!」
「あの……っ、僕の髪色が、どうかされたんですか?」
「い、いや……っ。あー、その、だな。
何て言うか、僕の、古くからの知り合いと、全く同じ色合いの髪色だったのでな。
そのっ、お前の性格も何て言うか、酷く懐かしいものを感じたというか……。
だが、僕と同じで、決して嘘などは、吐けなかった奴だから……。
お前が染めているというのなら、違うんだろうな。
そうだったら良いのにという、僕の願望も含まれていたのかもしれぬ。……すまない、忘れてくれ」
そうして、アルが、落ち込んだように、緑の髪をしたスタッフさんに向かってそう伝えているのを聞いて。
私自身、アルが、どうしてそんな行動に出たのかということに、ようやく合点がいった。
――もしかして、緑色の髪ということで、アルの半身でもある“アルヴィンさん”のことを思い出したのかな。
そう言われてみれば、何となく、この新人のスタッフさんの憎めない雰囲気は、どこかアルに近いようなものを感じてしまうし。
アルがそう思うくらいだから、よっぽど、似ていると感じたのだと思う。
それから、望みが薄いと分かっていても……。
『どこかで、生きていてくれれば良いのに』という気持ちが、強く出てしまったんだろう。
その気持ちを想像すると、ギュッと胸が締め付けられるような感覚がして、アルに対してどう声をかけていいのか、悩んでしまうんだけど……。
「そうだったんですね。
よく分からないんですけど、その人、今はもう、会えていない人なんでしょうか……?
僕と間違うくらいだから、よっぽど、似てるんですね。
もしも、僕がその人の立場だったら、きっとその気持ちが、嬉しいと思います。
……なんて……っ、えっと、こういうのって、ちょっと、恥ずかしいです、ね」
と……。
アルの気持ちを分かってくれたのか、少しだけ照れたように、はにかみながら、新人のスタッフさんがアルに向かって声をかけてくれた。
その言葉に、傍から見ていただけの私でも、ホッと救われたような気持ちになりながら、アルの方を見つめると。
「うむ、そうだな。
僕も、もし、アイツと同じ立場だったら、きっとこの気持ちを嬉しいと思うだろう。
変なことを質問して、お前のことを惑わしてすまなかったな」
と、いつも通りの、アルに戻ってくれていた。
それから……。
ジェルメールのデザイナーさんには改めて、エリスのお母さんである夫人が作ったクッキーの販売についての“お礼”を伝えたあと、お店の外に出れば。
もうすっかり、日が暮れているような状況で……。
私達は、ようやく長かった一日を終えて、慣れ親しんだ城へと帰ることになった。