301【ギゼルside】
子供たちと少しだけ触れあってから、孤児院を出て、かなり夜遅くに皇宮の自室に帰ってきた俺は……。
今日、アズと久しぶりに出会えたことを、ちゃんとした思い出として噛みしめるように、心の奥に残す。
会話をしていた時もチラッとその話にはなったけど、もう二度と、アイツとは出会えないかもしれない、っていうことはお互いに多分、分かりきっていたことで……。
ほんの少ししかない時間の中で、アイツと遣り取りをするには、本当に何もかもが足りなさすぎたと思う。
それでも、偶然でもアイツと今日、俺が出逢えたことは本当に奇跡のようなものだっただろう。
――結局、アイツの出自のことに関して、詳しくは聞けなかったな……。
アズの口から出てくる綺麗な言葉遣いだとか、そういうのを考えれば、多分。
以前、俺が予想していた、アズが元々は教養をしっかりと教えられて育った、何処かの貴族の子供だって可能性はかなり高いだろう。
それでも……。
【ごめんなさい、ギゼル様……。
……僕は縛られることもなく、自由に生きていたいんです】
と、言っていたアズのことを思うと。
『縛られることもなく、自由に生きていたい』という、その言葉自体が……。
きっと、アイツの本心なんだと思う。
自分の過去も何もかもをかなぐり捨てて、もしかしたら帰れるかもしれない元いた居場所や生活を捨ててまで、アイツが手にしたいもの……。
詳しいことは何一つ語られていないのに、その言葉で、アイツが『本当の家族』の元に帰りたいと思ってはいないのだと推察することが出来る。
……アズが女だろうが、魔女だろうが、関係なく。
俺は、アイツのことを本当の親友だと思っているし、その気持ちに嘘偽りはない。
だからこそ、アイツの意思とかそういうのを抜きにして……。
“皇宮で保護される、魔女”という立場に思うことはあれど。
叶うなら『これから先も、一緒に皇宮で過ごすことが出来れば……』という、そういう自分本位な邪な気持ちがなかったかと言われたら、それは嘘になるし、確かにあったと言わざるを得ない。
それでも、アイツの状況や境遇なんかを考えても、皇宮の中というある意味で安全で、しっかりと保障されているような生活を一切望むようなこともなく。
テオドールと2人、自らスラムや危険な場所に身を置いてまで、苦労することが目に見えて分かっていながら、情報屋として外で暮らす状況を望むというのは、きっと、余程の決意がある証拠だろう。
【……なぁ、? アズ、お前……。
一体、今まで……、誰から、どんな風に、縛られて生きてきたんだよ……?】
いつもそうだけど、何でもないように吐き出されるアズの台詞は……。
ともすれば聞き逃してしまいそうになるくらい軽い口調で、耳の中を通り過ぎていくのに。
よくよく、その言葉をしっかりと噛みしめて考えると、あっさりと受け取るには、どれもかなり胃もたれしそうなくらいに重たいものばっかりだ。
例えば、過去に誰かから捕まって狭い部屋の中に閉じ込められたことがあるだとか。
赤色の髪を持って生まれてきた所為で、忌み子として、薄気味悪がられて、人扱いして貰えなかっただとか。
そういう状況にただ諦めて、過ごしてきた、だとか。
アズが、今まで、どんな暮らしをして、どういう風に生きてきたのか……。
ある意味、皇宮の中で……、安全で手厚い状況下の中、温々とした生活を送ることが出来ていた俺には想像することも出来ない。
【……だからこそ、アイツのことをもっと知りたいと思うんだろうか?】
――どうして、その状況で、アイツは誰よりも周囲にいる人間を思い遣って優しく出来るんだろう。
その正体を、別に暴くようなつもりはないと……。
アズ本人に言っておきながら、アイツの生い立ちなんかも含めて、気付いたら、頭の中で想像しては考えてしまっている。
貴族の子供として、一般的な教養なんかは教えられることがあっても、家族としての愛情は一切、貰えなかったのか、だとか。
アイツが、テオドールと一緒に過ごすようになったのは、いつからなんだろう、とか。
俺だって、家族全員と何もかもが平等に全て上手くいっているとは到底言いにくいし、アズとは少し違うけど、理解出来るようなことも多少はある。
今まで見ないフリをしてきたけど……。
どうやったって、兄上しか見ていなくて“兄上のことだけに、かかりきり”だった母上に寂しい思いをしなかったと言ったら、それは嘘になる……。
でも、アイツの苦しさとか、悩みなんかも含めて、そういうものは、実際に本心として相談された訳じゃないし。
そういった、苦しみとか辛さみたいなものも、想像するだけで、きちんとはやっぱり理解出来ていないんだと思う。
【実際、俺はアズのように赤を持って生まれてきた訳じゃないから……】
変えようがない持って生まれた見た目の所為で、人格そのものが否定されてきた経験なんてものは一度もないし。
そういう意味で言うのなら、俺はアズよりも随分恵まれているんだろう。
……いや。
そもそも、誰かと比べて自分の状況が恵まれているだとか不幸だとか、そう思うこと自体が可笑しいことなのかもしれない。
人には、誰しもが言えない傷があって、秘密にしたい過去があって……。
ソイツにしか分からない痛みなんていうものも、きっと、生きている以上、長い人生の中で、避けることなんて絶対に出来ない。
兄上が赤を持って生まれてきてしまって、それを親しい人間以外には誰にも言えず、隠すような状況下に、今も置かれていることも。
俺と母上の間にある、何とも言えない僅かばかりの確執も……。
きっと、誰しもがこの世に生まれてきた以上、楽しくて幸せなことばかりの日々を送ることは出来ないんだろう。
考えて、悩んで、時には躊躇しつつ、それでも前を向いて、自分の人生を選択しながら歩いていくしか出来ないんだよな……。
それと、同時に……。
今日、俺に対してアリスのことを言ってきた、自分の側近でもある騎士達の顔が頭の中に浮かんでくる。
アイツ等が、最近になって評価されている皇女の現在の状況を説明するという体で、チクリと俺に対して色々と言ってきたことは、俺自身が一番感じていることでもあった。
――きっと、俺の騎士達は、間違った時にはしっかりと正せるような、俺に真っ当な道を歩んで欲しいと思っているんだろう。
どうしてそういう奴らが集まってきたのかは分からないけど、普段から、割と情に厚いタイプで熱血漢の人間が多く、表情に出やすい俺の騎士達は……。
その表現の仕方から、度々、暑苦しく、鬱陶しいと感じる時もあるが。
それでも、いつだって、何よりも俺のことを心配してくれているのは身に沁みて、俺が一番理解していると思う。
特に、間近で母上の兄上に対する接し方を見てくれている分だけ、俺の近くにいる人間ほど、お節介で俺のことを常に気に掛けてくれるような奴らが多いということだけは確かだ。
それと同時に、日頃から、兄上の側近なんかとも仲が悪い訳でもなく、積極的に親しくしているから、情報だけは色々と入ってくるんだろう。
兄上の侍女達が、アリスにちょっと仕えただけなのに、お世話をしたお礼に、プレゼントを貰っただとか……。
昔から周知の事実になってしまっていたように、アイツの性格が悪いものじゃなくて、寧ろ本来の性格は真逆で、奥ゆかしくて優しいと、積極的に広めているのは勿論のこと。
曰く、アイツが作る服のセンスが良くて、実は王都に住んでいる貴族を中心に、若い貴族の令嬢や……、夫人たちからカリスマ的な支持を得はじめているだとか。
曰く、父上がずっと頭を悩ませていた、とある地域に住む人間にのみ蔓延っていた原因不明の体調不良を、今までは特に国で規制されていなかった鉱石から出る水質汚染だって突き止めて解決しただとか。
それに対して、環境問題に関する官僚でもある父上の側近の1人とも名高い宮廷貴族のブライスがアイツのことを周囲に対して広めて、手放しに褒めちぎっているだとか……。
俺ですら、最近になって、アイツの噂が、何もしなくても耳に入ってくるくらいだ。
皇宮で働いている人間達のネットワークってのは馬鹿には出来ないし、俺の騎士でもあるアイツ等が、そのことを知らないはずがない。
皇宮の中で、ゆっくりとしたスピードではあるが……。
確実に、アリスの評価が上がっていけば上がっていく程に。
出来ることならば、いがみ合うことなどせずに、兄妹同士で力を合わせて国を盛り立てていって欲しいっていう風潮が、皇宮で働く人間達の間で、じわじわと形成されていっているのも、肌で感じてる。
そういう状況下の中で、以前なら、俺自身、アイツの手柄に関しても素直に受け止められず、きっと、裏で何かしたんじゃないかと、勘ぐっていただろう。
直ぐに、その状況を信じることなんて、きっと出来なかったと思う。
そうでなくとも、兄上の背中を見て、兄上の功績の後を追うことだけに固執していた俺は、多分。
情けない話だとは思うけど、10歳という年齢で何かを成したというアイツの手柄を聞いていたら……。
複雑な感情というか、ライバルみたいな嫉妬交じりの感情が湧いて出てきても可笑しくなかった気がする。
そうして、今もスラムで自分が解決した人身売買の事件がなかったら、酷い劣等感に苛まれて、1人焦っていたんだろうな、ってとこまでちゃんと分かってる。
それは、スラムで自分自身が人身売買の事件を解決して自信になっているから、とか、そういうのじゃなくて……。
自分という存在は、その人生も含めて俺だけのものであり……。
他人の人生は他人のものだと、アズのお蔭で思えるから、だ。
誰かに対して劣等感を抱く必要なんてどこにもない。
どんなに憧れている人間がいたとしても、俺は俺以上の誰にもなれないし、俺でしかいられない。
以前、アズに言われた内容が、こんなにも自分の中で今も響いている状況になるなんて思いもしなかったけど。
俺にだって出来ることはあるし、俺がこれから進んでいく道は、他の誰でもない俺にしか決められないものだから。
そこに、他の誰かが介入する余地なんてどこにもないし、見方を変えれば、きっと何にだってなれる。
俺が望みさえすれば、それでいい……。
……この広い世界の中で。
他の誰もが出来ないことであろうとも、俺だからこそ出来ることが、きっとあるんだって、今は、そう思えるから。
だから、最近のアリスの状況を聞いた時も、特に強い嫉妬心を抱くこともなく、心穏やかにいられた。
それと、同時に湧き上がってくる“罪悪感”を、日に日に無視できなくなっていることも、本当は内心で気付いていた。
アズと、アイツは違う人間だって、俺だって分かってるけど……。
【アイツには、アリスには、アズの気持ちが、ほんの少しでも理解出来るんだろうか……?】
少なくとも、俺よりもきっと、同じ赤を持つもの同士、今まで、アイツが置かれてきた環境はアズと似通っている部分はあるだろう。
アリスが、アズみたいに、無償とも思えるような優しさを持ちながら、何でもないことのように、真っ直ぐ前を向いて生きているのか、という所までは、俺には分からないけど……。
ただ、生きているだけで、世間から非難に晒されるような厳しい状況の中で、アズと同じ痛みも、何もかもを……。
――アイツは、1人で、今まで一身に受け続けてきたんだろうか、?
俺自身、最近になってアイツの噂が耳に入ってくる度に、そんな風に思いを馳せることが増えてきたように思う。
それでも、正直言って、俺の周囲にいる騎士達が期待するような感情で……。
これから先、アイツと積極的に関われるかと言われたら、どうしても、難しいと言わざるを得ない。
それは、アイツのことを今も毛嫌いしているからとか、そういう訳じゃなくてっ。
何て言うか、もの凄く複雑な感情が、今も俺の心の中に渦巻いているからだった。
アイツの、デビュタントで、今までの自分が悪かったと、俺が謝った時。
アリスは確かに、俺に対して……。
【私は、ギゼルお兄様には嫌われているという自覚はありますが。
……私は、ギゼルお兄さまのこと、嫌いじゃありませんよ?】
と、言っていたと思う。
それから……。
【お兄様が私のことが嫌いなようでしたので、今までは向けられる言葉に同じように返していただけです。
私のことを嫌いな人に、向けられる感情をそっくりそのまま返すことしか出来なかったというか……。
今は私にとって大切な人が出来たこともあって、その対応が間違いだったことも、今までの自分の態度が悪かったということも認識しています。
もしも、その時のことを指摘されているのなら、本当に申し訳ありませんでした】
とも……。
正直、俺はずっと、勝手に皇族としてアイツのことを『ちゃんとしていない』って思い込んでいて……。
俺がアイツのことを嫌っているのと同じように、アイツ自体も俺に対してはガミガミと口煩くて嫌っていると感じていたし。
あんだけ、いがみ合っていて……、お互いにっていうか、俺が突っかかっていくのが常だったけど。
それでも売り言葉に買い言葉で、日頃から喧嘩になってたのに……。
『嫌いじゃない』っていうその言葉自体、衝撃で、直ぐに信じられるようなことでもなかったけど、アイツが嘘を言っているようには到底思えなくて……。
3歳下の、腹違いの妹の方が、俺よりも考えていることがずっと大人だったことに、何て言うかどうしようもない気持ちが湧き出てきてしまって。
今まで、自分の目に見えている状況が全てで、それが当然だと思ってきただけに、肩透かしを食らってしまったような……。
どんなに、狭い世界でしか物事を見ることが出来なかったんだろうだとか。
ハッキリ言って『俺の独り相撲だったことが、とんでもなく恥ずかしい』だとか、今さらアイツに合わせる顔がないとか……。
そんなことばかりが頭の中を過って……。
ぐるぐると出口のない迷路に迷い込んでしまったみたいだ。
最近になって聞こえてくる、アイツの周りの評判から照らし合わせて考えても、俺が悪いなんてことは、百も承知だし。
デビュタントの時に謝罪したとはいえ、このまま、すっぱり、遺恨も何もないなんてことあり得ないんじゃないかって思うし、これから先、アイツと顔を合わせるのが恐いっていうか……。
俺に対しても、何とも思っていないとか、嫌っていないとか、正直、アイツの言うことは全部、本当のことなんだろうけど。
俺自身が積極的に動いて、アイツとの仲を修復するために、どうしたら良いのか、分からないって言えばいいだろうか。
――柄にもなく、ウジウジしているって言えばいいだろうか……。
多分、アイツに対しても、口を開けばまだ、きちんとした言葉は出てこないと思う。
これは、俺の悪い所でもあると思うけど、アイツに対しての接し方も含めて、今までが今までだっただけに。
正直、今になって、どんな顔をしてアイツと接すればいいか分からないっていうか、口を開けば、悪態しか出てこないような気がして……。
アイツと関わりを持った方がいいのかと、何度かアイツの部屋に足を向けかけたこともあるにはあるが、何て言えばいいのかも……、どういう風に話を持って行けばいいのかも分からなくて、結局、どうやったって、二の足を踏んでしまう自分がいる。
だから、同じ皇宮の中にいても『アイツの存在自体』を敢えて見ないようにして、先延ばしに、先延ばしにしているのは自分でも分かっていた。
【こういう時、アズならどうするんだろう……?】
……いや、そもそも俺とアズの性格自体が違うから、アズはその優しさから誰かと喧嘩になるようなことなんてきっと無さそうだよな。
普段から、誰に対しても物腰が柔らかいアイツを見ていると、そういう“いざこざ”なんてものには無縁そうだと、どうしても感じてしまうし。
テオドールとアズの関係を考えてみても、テオドールがアズに激甘過保護なのを見てると、本当は血の繋がりなんて無いんだろうけど、アイツ等兄妹に喧嘩なんていう二文字はあり得なさそうだ。
常に、お互いがお互いのことを思い遣って生活していると、簡単に想像することができる。
まぁ、そうじゃなくても、どちらにせよ、アズは自分が悪いことをしたと思ったら、誰であろうが直ぐに謝罪しそうだし、そういう意味でも俺とは違うよな……。
【嗚呼っ、でもさっ、なんていうかっ、自分でも何て言えばいいのか分かんねぇんだけど……っ!】
――正直これって、俺にとっては本当に、滅茶苦茶、根深い問題なんだよなっ!
思わず、ぐちゃぐちゃな思考になった頭の中をどうにかしたくて、八つ当たりのように怒りに任せて自分の髪を掻き毟る。
ハッキリ言って、直ぐに素直になれるんなら、こんなにも苦労してないっていうか……。
アイツとは、何年単位とも思えるくらい、ずっと長いこといざこざがあって、しこりがあって。
それも最近になって、特に何とも思われていなかったってことが発覚した上に……。
何も思われていないどころか、妹からすると『今は私にとって大切な人が出来たこともあって、その対応が間違いだったことも、今までの自分の態度が悪かったということも認識しています』って、俺に言ってきたってことは、俺のことを別段、大切だとも思っていない訳で……。
これがもしも、兄上に対して、俺が何かヤバいことをやらかしてしまったんだとしたら、素直に謝罪することも『反省』も……、その後、どういう風に接すればいいのかというとこまで、簡単に出来るのに。
今まで自分が一方的に嫌ってきたからこそ、謝罪もしたし、反省もしているにも関わらず、頭では分かっていても、アリス相手だと本当に、どんな風な顔をして、何を話せばいいのか、分からなくて。
アイツと普通の家族として関わるということが、俺にはどうしても難しいと感じてしまう。
だからこそ、結局、今までのことがあるから当然なんだけど、アイツが俺に積極的には関わろうとしないのを良いことに、俺もずるずると動かない状況が続いてしまっている訳で……。
同じ赤を持つ人間なのに、こうも違うのかと思うくらい、アズと話す時は本当に心が安らいで気持ちが楽なのに。
アリスと話すことが、こんなにも難解で、どこか苦痛に感じてしまうのは……。
多分、自分が悪いことを分かっていながらも、それを、アイツにどうやって素直に表現すればいいのか分からず、上手いこと距離感が図れないからなんだと思う。
【それは、俺自体が……。
アイツを長いこと家族として見てこずに、きちんとした関係を築いて接してこなかったツケだ】
――全部、分かってはいるんだ、頭の中では……っ!
でも、どうしてもそれが上手くいかない。
それに、まともに会って、アイツと話したら……。
それはそれで意味の分からないこととか、余計なことを口走って、本心じゃない部分が思いっきり出てしまって、逆に傷つけるようなことになってしまいそうだし。
嗚呼、けど、アイツは俺に対して、特に何とも思っていないんだった、か……。
「はぁ……っ、」
――本当にっ、一体、俺はどうすりゃぁいいんだよ……っ!
自室で一人っきり、小さく吐いた溜息が、当然、誰の耳にも届かず今日も虚しく掻き消えていく。
もうそろそろ、建国祭だから。
当然、今までは参加してこなかったとしても、最近のアイツを思えば、父上がそれを許す筈もなく……。
10歳を迎えて、きちんとデビュタントも執り行っている以上、皇族として、表に出ることは認められている訳だし、これから先、アイツが公の場に出てくる機会はどうやったって増えざるを得なくなるだろう。
そうなったら、パレードの時とかも含めて、否応なしにアリスと関わらなければいけない状況は絶対に出てきてしまう。
そういうのを考えると、自分が招いた事とは言え、今から憂鬱でしかない……。
そうして、さっきまで、確かにアズのことを考えていた筈なのに、気付けばいつの間にかアイツのことに頭を悩ませていた今の状況に気付いて……。
俺は、『嗚呼、もうっ、止めだ、止めっ!』と、頭を振って、考えが纏まらずぐちゃぐちゃになった思考そのものを打ち消したあと……。
現実逃避をするが如く、今日、アズと会った時の、楽しいことを考えて過ごすことにした。