表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/588

19 精霊王

 

 ……色んな情報が一気に入ってきて、全く追いついていかない脳内で、なんとか『協力関係……?』と、聞いた私に、少年が小さく頷く。


『純粋な、魂の輝き。

 力のあるお前達は、気のような波動を常にその身体に(まと)っていて、それが、僕達精霊にとっては、生きていく為の何よりの糧になるのだ。

 お前達人間は、基本的には能力の使用に対する反動に耐えられぬ身体をしておるだろう?

 僕達、精霊がそんなお前達を癒やし、お前達は僕達に糧を与えてくれる。双方にとっても、利のある契約だった』


 そうして、そこまで言い切って、少年は『だが……』と、今度は一転、くぐもったような口調で説明を続けた。


『いつからかお前達は、この世界から明らかに数を減らしてしまった。

 それが、僕達精霊にも甚大な被害を及ぼしてな……。

 結果、神聖力のあるこのような泉でしか僕達は生活出来なくなってしまったという訳だ』


 そうして、吐き出された言葉の数々に思わず、硬直してしまう。


 少年の口から、人間と、明確に区別して出された()()()という言葉は、『能力を持っている魔女』ということだろうか?


 だとしたら……。


 ――昔から、魔女は存在していて、本来は精霊と共にあった?


 ……そんな話、聞いたことがなかった。


 でも、目の前で、少年が私に語っていることは、本当なのだろう、とも思う。


 嘘をついているようには全く見えないし、彼が嘘をつかなければいけない理由も何処にもない。


「姫さん……?」


 唐突に、セオドアに声をかけられてハッとする。


 ……私達の会話に、当然ながらついていけてないセオドアが困惑したような表情でこっちを見ていた。


 傍から見れば、目の前にいる少年と、ずっと見つめ合ってただけだから、そんな顔もされるだろう。


 もしかしたら、表情は変わっていたかもしれないから余計怪しかったかもしれない。


「ああ、置いてけぼりにしてすまなかったな其処(そこ)の。

 そこにいる姫さんとやらが気になって、視線を交わし合ってしまった。

 お前も、僕達にとって、大切な客人なのだから、茶でも出してやればよかったな。……気が利かなかったことを詫びよう。泉の水で良いか?」


 一人、慌てながらセオドアに弁解しようと声を上げる前に、少年がセオドアに向かって声を出したのが聞こえてきた。


 マイペースといえば良いのか……。


 少年の口から出る会話のテンポは、あくまでも此方に合わせるというより、自分主体で。


「……どこから突っ込んだらいいのか、分からねぇよ」


 どこまでも、自由奔放な様子の少年に、セオドアが呆れたように突っ込みを入れれば。


「これでも、ここの泉は特殊な力を持っているのだぞ。

 人間は、何て言っていたか、エリクサーだった、か? ほら、重宝するのではないか?」


 と、少年は、まるで何でもないかのようにそう言って「これなら、人間も喜ぶだろう?」と、ウキウキした様子で表情を綻ばせながら、私達に向かって声を上げてくる。


「……オイ。

 ……もしもソレが事実なら、なんつぅ、ヤベぇもん持ってんだよ?

 伝説の不老不死の薬とか、表に出たら洒落になんねぇぞ」


「……これは別に、僕の持ち物ではない。

 この泉には神聖力が宿っているから、長い期間を経て水に溶け込んだせいで、水自体が神聖化しただけだ。あと確かに万病には効くが、不老不死とまではいいすぎであろう?

 せいぜい、重篤な病気が次の日には完治しているくらいの効力しかないぞ」


(……わわわっ! 気軽にお茶を出すノリで、万能薬を出してこないで……っ)


 あっけらかんと、何でも無いかのように声を出してくる少年に、その説明だけで、『不老不死』じゃなくても、それが、表には絶対に出しちゃいけない薬だということが私にも十分に理解できる。


 最悪、薬を巡って戦争が起こったりする可能性だってあるかもしれないんだから……。


「あぁ……。

 ここがそれだけで、滅茶苦茶ヤバい場所だってのは分かった。

 ……それで、あんたが、精霊だっていうことも」


 そうして、少年に向かってセオドアがそう言ったあと。


「精霊ではない。お前達が僕達を精霊だというのなら、僕は子供達を束ねている訳だから、僕のことは気軽に【精霊王【・・・】とでも呼んでくれ」


 ……と、何でも無いように吐き出された少年のその一言に、当然、一度に、全ての情報を処理出来るはずもなく、とうとう、私の許容範囲を超えて、頭の中がパンクしそうになってしまった。


『魔女と精霊の関係』


『神聖力のある泉がもたらす薬』


『精霊王を名乗る少年』


 ――こんなの、お父様に、皇帝に、なんて説明すれば……っ!


 巻き戻し前の軸で、殆ど引きこもりに近かった私が、そんなもの経験している訳もなく、こんな状況になったのは、当然、初めてのことだから、これからのことを考えすぎて、くらくらする頭の中で……、けれど私は、巻き戻す前の軸、そんな話は一度も聞いたことがなかったことを思い出す。


(精霊王がいて、こんな泉があったなら、どうして……?)


 古の森の砦は、巻き戻す前の軸、一番上のお兄様のものだった。


 それなのに、一度もこういった類いの話は聞かなかったし、皇帝が事実を隠蔽したとしても、ちょっとした騒ぎにもなっていないのはどう考えても可笑しいはず。


「そんな泉が……、どうして、こんな、真っ新な状態で残ってるんだよ」


 セオドアも丁度、私と似た様なことを考えてくれていたのだろうか。


 まるで測ったように、今、私の知りたかった質問を、精霊王である少年に聞いてくれていた。


「僕達、精霊も馬鹿じゃ無い。

 欲を持った人間から身を隠す術は身につけている。そもそも、ここに来ることが出来る人間の方が、稀なのだ。森で遊んでいた子供達が……、お前達の、ほら、人間の乗り物が、あるだろう?」


「馬車のことか?」


「うむ、あれを、見つけてな。

 ……あまりにも、澄んだ人間を見たのは久しぶりだと騒いで、わざわざ此処へくるように誘導したのだ」


「……もしかして、土砂と、あの岩……アンタらの仕業かよ」


「ああ、あれか。あのまま行ったら僕達の方には絶対にたどり着けなかっただろうからな、ちょっと細工をさせてもらったぞ」


 『頭が痛い……』と、思わず、我慢出来なくなって、ぽつり、とその場に溢れ落ちたような、セオドアのその一言に私も内心で同意する。


 次から次へともたらされてくる情報は本当にどれも直ぐには、信じがたいようなものばかりで、それらを全て呑み込んで咀嚼(そしゃく)するには、今はまだ、あまりにも時間が足りなかった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
♡正魔女コミカライズのお知らせ♡

皆様、聞いて下さい……!
正魔女のコミカライズは、秋ごろの連載開始予定でしたが、なんとっ、シーモア様で、8月1日から、一か月も早く、先行配信させて頂けることになりました!
しかも、とっても豪華に、一気にどどんと3話分も配信となります……っ!

正魔女コミカライズ版!(シーモア様の公式HP)

p495h6r1hg61p2cb188d3l8egxm_1bvg_1kw_1kw_19qs9.jpg

p495h6r1hg61p2cb188d3l8egxm_1bvg_1kw_1kw_19qs9.jpg

1話目から唯島先生が、心理的な描写が多い正魔女の世界観を崩すことなく、とにかく素敵に書いて下さっているのですが。

原作小説を読んで下さっている方は、是非とも、2話めの特に最後の描写を見て頂けたらとっても嬉しいです!

こちらの描写、一コマに、アリスの儚さや危うさ、可愛らしさのようなものなどをしっかりと表現してもらっていて。

アリスらしさがいっぱい詰まっていて、私は事前にコミカライズを拝見させてもらって、あまりの嬉しさに、本当に感激してしまいました!

また、コミカライズ版で初めて、お医者さんである『ロイ』もキャラクターデザインしてもらっていたり……っ!

アリスや、ローラ、ロイなどといった登場人物に動きがつくことで。

小説として文字だけだった世界観に彩りを加えてくださっていて、とっても嬉しいです。

p495h6r1hg61p2cb188d3l8egxm_1bvg_1kw_1kw_19qs9.jpg

本当に沢山の方の手を借りてこだわりいっぱいに作って頂いており。

1話~3話の間にも魅力が詰まっていて、見せ場も盛り沢山ですので、是非この機会に楽しんで読んで頂ければ幸いです。

宜しければ、新規の方も是非、シーモア様の方へ足を運んでもらえるとっっ!

dofggpy65wbc3bz1ebwegzqy4ovs_7p8_u0_tw_ubal.png

※また、表紙や挿絵イラストで余す所なく。

ザネリ先生の美麗なイラストが沢山拝見出来る書籍版の方も何卒宜しくお願い致します……!

1巻も2巻も本当に素敵なので、こちらも併せて楽しんで頂けると嬉しいです!

書籍1巻
書籍2巻

p495h6r1hg61p2cb188d3l8egxm_1bvg_1kw_1kw_19qs9.jpg


p495h6r1hg61p2cb188d3l8egxm_1bvg_1kw_1kw_19qs9.jpg

✽正魔女人物相関図

p495h6r1hg61p2cb188d3l8egxm_1bvg_1kw_1kw_19qs9.jpg
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ