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オールドタイプ(三十と一夜の短篇第59回)

作者: 錫 蒔隆

この物語はフィクションです。

特定の個人名も、架空のキャラクターです。


「コンノ、もっとうまく踊れ!」


 えらそうに私を罵るナカタは、ニューカマーである。「ニュータイプ」を自称し、ニューカマーと呼ばれるのを嫌う。そして私たちを、「オールドタイプ」と蔑む。


 ニューカマーは彗星に似ている。地球人の流行りモノとなる。


 〝インベーダーゲーム〟のインベーダー。

 〝UFOキャッチャー〟のUFO。

 〝鉄拳〟の吉光。


 〝インベーダーゲーム〟は廃れた。〝UFOキャッチャー〟は〝クレーンゲーム〟となって死んだ。吉光は細々と、自殺技をくりかえしているとかいないとか。


 ナカタとそのパートナーであるフジモリは、リズム&ユーモアの革新によって列島を席巻した。「無双譚ッ無双譚ッ! ムソータンタンタッタンタンッ!」と、日本人種の耳にのこるフレーズを開発。TVショーの寵児となるも、総合力の欠如により凋落。数年の雌伏を経て、フジモリの「軽薄男」が注目される。キャラクター「軽薄男」が飽きられはじめるころ、ナカタの語り芸が浮上する。そうして起死回生のリズム&ユーモア(&シュール)である「ヒューマンパーフェッ、ヒューマンパーフェッ」が開発され、私もその躍り手として駆りだされた。パートナーのタカハシが下着(生態)調査で逮捕され、私への上からの配慮はわかる。ありがたい。


「もっとうまくやれないの? だからだめなんだよ、オールドは」


 ナカタが増長するのも無理はない。オンラインサロンやユーチューブでも稼いでいる。地球人に影響力を持つに至る。


 一度は没落して自転車で宇宙へ飛ぼうとしていたニシノは、新興宗教の教祖として復活を遂げた。粉飾で逮捕されたホリエも復活し、いまではロケットを飛ばして宇宙へ還ろうとしている。ニシノとホリエはよくつるんでいるが、ニューカマーも一枚岩ではない。ナカタとフジモリもコンビではあるが、志を同じくしているとは思えない。

 練習場としてつかわれている倉庫に積みあげられた出荷まえのダンボール箱から、私は鈍器を取りだしていた。私の怒りは、臨界点に達していた。


「コ、コンノ? コーン......ノー!」


 薄緑色の鈍器で、ナカタの頭を執拗に殴りつける。鈍器はナカタの血で、赤く染まる。フジモリやほかの取り巻きも、止めに入ってこない。ニューカマーなどしょせん、こんなものだ。


「おまえらとは年季がちがうんだよ」


 私は唾とともに吐きすてた。鈍器に目をやれば、血まみれの皮が剥けている。黄色い粒の格納が顕わになる。


 玉蜀黍とうもろこし

 何万年もむかしにわれわれの祖先は、この地球の南米大陸に降りたった。地球人が栽培しやすい穀類として、徐々に勢力を拡げていった。ニューカマーが地球で調子づけるのも、われわれの地ならしがあったればこそである。

 玉蜀黍の粒のひとつひとつが、私たちである。地球人の胃液では消化されず、糞としてそのまま排出されてあらたな地に芽吹く。私やタカハシは、ばかな幼児に鼻孔から挿れられてその脳へと達した稀有な個体である。つまりは私たちこそが、念願叶ってようやく到達した「ニュータイプ」のひとつの形態なのである。鼻に玉蜀黍を入れるヨーガでもひろめられれば、私の同類を殖やせる。


 ナカタ暴行事件ののち、ニューカマーは私たちをリスペクトするようになった。ウツミとコマバなどは旧態に見せかけて、あたらしい定型をうみだしている。


「それは焼きとうもろこしやないか。その特徴は、焼きとうもろこしよ」


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― 新着の感想 ―
[一言] 正直言いますと。序盤でついていけるかしら? と恐れながら読み進め…… トウモロコシで拍手喝采となりました。 なんという発想。好きです。トウモロコシも好きです。ええ、(元)道民ですから幼い頃か…
[良い点] 不思議&シュールなお話ですね! 新興宗教のくだりで思わず笑ってしまいました。コンノさんたちは同類を増やして地球征服を目論んでいるのか……!?
[良い点]  トーキビにそんな秘密があったとは!  人間のみならず、鶏も豚も牛も食べてるし、地球上は侵略されているんですね。  連想される人たちの個性がそれぞれ、じたばたしているようで笑えます。
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