砂が落ちる間まで
「では、お好きなように語って下さい。」
砂時計をひっくり返す。砂が落ちきるまでの三分間の間に愛を語る男子の言葉を聞き流しながら本を読む私…
なんて嫌味で高慢な女…
やっている本人が言って良いセリフではないとは分かっているけど…呆れながらも次のページをゆっくりと開く。
中学の頃から続く放課後や休み時間に行われる告白する為の呼び出し。結果は勿論、当然の如くお断りである。毎日のように教室で下品に馬鹿騒ぎを繰り返す男子の何処に惹かれるものがあると言うのだろうか。本を読みながらも聞こえてくる雑音に毎日のように辟易しているのに、趣味の本を読む事さえも邪魔をされるのだから私からすれば本当にいい迷惑である。
高校に上がれば、少しは大人な考えの男子も増えるだろうと期待してみたけど、期待とは予想裏切られた。変わらない馬鹿騒ぎを繰り返す男子達。そして中学の時よりも増えていく告白の呼び出し…
本を読む時間を阻害されて、毎度の様に言いたくもないのに言わされるお断りしますのセリフ。同性の女子からは調子に乗っているなどの悪口が聞こえたりもした。そんな日が続き、いい加減、嫌になった私は条件を出す事にした。
『1日に一人だけ。告白したい人はこの砂時計の砂が落ちきるまでの間、好きなだけアピールをしてください。その言葉に私が心惹かれるものがあったらお付き合いしたいと思います。告白をしてる間も私は自由に本を読んだりしてますが、もしそれを邪魔する時はその時点で終了。勿論返事はお断りとします。』
この条件の話題は学校全体に瞬く間に広がっていった。そして毎日の様に続く告白タイム。
ただ面白がってその気もないのに参加する男子。
挑んでみるも最初は出てくる言葉が時間が過ぎていくと言葉が浮かばず2分後には脱落する男子。
せっかくこっちが告白してるのにと逆上する男子。
様々な男子は来るものの結局は似たり寄ったり。いい加減告白自体諦めるといった選択肢が浮かんできてくれないのだろうかと溜息をこぼしながら、私は読んでいる本のページを開いていった…
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「えっと…今日はまだ受け付けてるのかな?」
そんな毎日の様に繰り返される告白タイムは今日も変わらずに行われるみたい…
「はぁ…良いですよ…ではこの砂が落ちきるまでの間貴方は好きな様にアピールをどうぞ…では勝手にはじめて下さい。」
めんどくさがりながらも砂時計をひっくり返して、私は読みかけの本に目を通す…
……
…?
始まってからずっと喋りかけてこない事に疑問に思ってふと目線を本から離す。そこには本を読んでいる彼の姿があった…砂時計が三分の時間が経つ事を伝えてくる。
「あっ!もう終わりか。三分ってやっぱりすぐたつね。また明日も予約していいかな?」
「えっ?…えぇ、まぁそれは貴方がしたいならお好きにどうぞ」
「ありがとうなら明日もよろしくね。」
テキパキと本を閉じて席を立ち教室を出て行く彼の後ろ姿、呆けた私は目で追っていった…
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「宣言通り今日も参加させてもらうね。あっ今日学校に来るときお菓子買ったんだけど良かったら勝手に摘んでもいいからね。」
お菓子の封を開けて机に置くと彼は読みかけの本を開く。
「えっ?あ、ありがとう。」
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「せっかくの砂時計、有効利用する為に紅茶を淹れてみるとかどう?」
「学校なんだから駄目に決まってるじゃない。」
「そりゃそっか…なら缶の紅茶で我慢かな…良かったら差し入れに一本どうぞ。」
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「この間紅茶くれたからそのお礼…」
「えっほんとに?ありがたくいただくね。」
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砂時計の三分間…会話は最初と終わりに交わされるだけ。それ以外、私達の間は読書の時間が流れた…
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「ねぇ今更だけど貴方って他の男子と違ってアピールとかしないけど理由聞いてもいいのかな?」
そんな二人の時間が一ヶ月程続いた…今までと違いゆっくり好きな本を読める時間が増えたことに対して彼に感謝の気持ちが少し芽生えていた。そしてふと感じた疑問を彼に投げかけてみる。
「アピール?……強いて言うなら読書友達になりませんかというお誘いはしてる…かな?」
投げかけられた質問に、なぜだろうと頭を捻る彼。
「俺も本読むの好きだからってのもあるけど、告白を嫌々聞きながら本を読んでる君の顔が可哀想だったから声をかけたというのが本音かな。」
そう言いながら彼は今日も持ってきていたチョコを口に放り込みながら本に目を通し続けていた。
「それなら…もう砂時計置くのやめようかな…三分間って短すぎだと思うし…」
「そう?三分間だけの限られた時間を集中して本を読むって結構面白いけど…それに砂時計をやめたらまた告白タイム増えそうじゃない?」
「確かにそれはありそうだけど…」
それよりも私は彼と一緒に過ごす読書の時間が楽しみであり、三分じゃ物足りないと感じていた…
「なら、今度の休みにでも図書館にでもいく?それなら砂時計入らないでしょ?」
悩む私の表情を察してくれたのか、彼は本から顔を上げて提案してくれた。
「図書館だと飲食駄目だけど大丈夫?貴方本を読む時口に甘いの入れておかないと駄目でしょ?」
「うっ…バレてた?…なら俺の行きつけの喫茶店にする?そこなら静かだし顔馴染みだから本を読んでて滞在してても大丈夫なとこだし。」
「ええ良いわよ。なら次の休みは予定空けておくから…」
砂時計を見ると、時計は三分間を告げていた…
「ありゃもう時間か残念…分かった。なら休みの日はよろしくね。」
彼は本を閉じて席を立つと、教室を出て行った。その後ろ姿を彼が見えなくなるまで目で追った…
初めてあった時と同じ光景…違うのは私の心の中…
喫茶店で読書…これもデートになるのかな。
私が読んでる本の中には、勿論恋愛物の本もあったりするし、そんな本の中にも色々なデートが存在している事も知っている…
はずだけど…
とりあえず…休みの日は何を着て行こう…
今日は珍しく本以外のことが私の心の中を支配した…




