8話 ベヒーモス討伐作戦
『アレン、来ました!』
木々に隠れながら小声で言ったミデル。
ドシン、ドシン! と地鳴りを起こしながら進むモンスターの姿に、俺は息を飲んだ。
「あれがベヒーモス……!」
『GRRRR……!』
体高はドラゴンの姿となったミデルの二倍以上はある。
全身を覆う岩肌のような甲殻からは、亀と獣を混ぜ合わせたような印象を受けた。
木に体を擦った跡から大きいとは思ってたが、これほどとは。
「ミデル、これから先は作戦通りに。しばらくは俺に任せてくれ」
『はい、ミデルはアレンを信じています!』
笑みを浮かべながらそう言ってくれたミデルに嬉しくなって、俺はミデルの頭を一度撫でた。
「じゃあ、行ってくる!」
木々で体を隠しながら、ベヒーモスよりも少し速く走って行く。
それから少し先で待ち構えるとベヒーモスがある地点で足を止めた。
そこは木に括り付けた縄で囲んでおいた、網の中のようになっている場所だった。
ベヒーモスが突進すれば一撃で破れるが、思った通りに戸惑ったベヒーモスの足が一瞬止まった。
「ここが正念場だ、【強化】スキル起動!!」
俺は【強化】スキルで力のSTRと攻撃力のATKを選択。
その瞬間、ほとんどのステータスがDだった俺のSTRとATKが一気にS+まで跳ね上がったと視界の端に表示された。
同時、体の中に強い魔力が巡って身体機能が爆発的に向上したのを感じた。
そうして強化された体で、ベヒーモスを囲う網となっている縄とは別の荒縄数本を思い切り引いた。
その荒縄が繋がっている先には、剣で受け口や切り口のような切り込みを入れた大木が立っている。
俺の【鑑定】スキルによる可否判定だと
『十分な切れ込みを入れた大樹なら、【強化】S+スキルで増加された筋力があれば引き倒し可能』
との結果が先ほど出ていた。
それなら後は、ミデルも信じてくれた俺の力を信じるだけだ。
「うおおおおおおっ!!!」
足場の岩がバキン! と砕けるほどに全身に力を込めると、メリメリッ! と言う音を立てて大樹が折れていく。
『GRRRRR!!??』
大樹が倒れていく先にはベヒーモスがいるが、もう回避は間に合わない。
『GRRRRRRRRRR!!!』
ベヒーモスは咆哮を上げながら大樹の下敷きとなり、呻いた。
しかしベヒーモスの巨体を見る限り、十秒もあれば大樹の下から這い出てくるだろう。
けれどこのタイミングが、俺たちが勝負を仕掛けると決めていた瞬間だった。
「ミデル!!」
『はいっ!!』
合図と同時に素早くドラゴンの姿に戻ったミデルが、身動きの取れないベヒモスの背後に立った。
そのまま口元に魔法陣を展開して魔力を収束させていく。
輝ける光の吐息、ドラゴン最大の攻撃手段であるブレスだ。
『はぁぁぁぁぁっ!!』
ミデルの口から、ゴゥ!!! と凄まじい衝撃波と共に銀の光が放たれた。
銀色のブレスは、身動きの取れないベヒモスの背中を貫いて一瞬で仕留めた。
『G、GRRRRR……!?』
ベヒーモスは力尽き、そのままドスン! と横倒しになった。
それからミデルが駆け寄ってきて、ドラゴンの姿のままはしゃぎ出した。
『凄いですアレン、ベヒーモスをあんなふうに倒すなんて! ベヒーモスの動きを止めたところも、ぜーんぶアレンの作戦通りでしたね!』
「ああ、上手くいってよかったよ」
作戦が成功して、俺はふぅと一息ついた。
今の作戦は故郷近くの森に入ってきたモンスターを倒す時に使っていた方法をベースにして、罠の規模をベヒーモスに合わせて大きくし、最後にミデルのブレスを追加した形だ。
【鑑定】による大樹引き倒しの可否判定とS+相当の【強化】による力技が合わせて仕上げたが、上手くいってよかったと思う。
「それに【強化】S+の身体能力向上って半端じゃないな……」
切れ込みを入れておいたとは言え、大樹を縄で引いてそのまま倒してしまえるとは。
女神から調整されたと言う【強化】S+スキルの真価を、俺は身をもって理解していた。