6話 冒険者としての初仕事
冒険者登録が済んだ翌日、俺とミデルは朝から冒険者ギルドに顔を出していた。
クエストボードに貼られた依頼を見ていると、ミデルは『みゅーん、ほんほん』と少し不思議な唸り方をしていた。
それから良い依頼を見つけたのか、一枚の依頼書をボードから剥がして意気揚々と持ってきた。
『アレン、この依頼に行きましょう!』
「おっ、どれどれ。へぇ、報酬は三十万クーレか。それで肝心の内容は……ベヒーモス討伐!?」
ベヒーモスとは、ドラゴンほどではないにせよ強大なモンスターとして知られている。
別名、大地の化身。
強靭な筋力と岩盤のような甲殻が自慢の大型モンスターであり、モンスターとしての等級はFからSのうちでもBだと依頼書に書いてあった。
「……ミデル、まずは肩慣らしも兼ねてもっと簡単なのにしないか? 俺たち登録したてのFランク冒険者だしさ」
『んっ、そういう選び方なんですか? ……困りました、ミデルは数字しか分からないので依頼が簡単かどうかは……』
「って、報酬金額だけ見て持ってきたのか」
何となくミデルらしいとも思ったが、しかし初っ端からこんな難しそうな依頼でいいものか。
と言うか、俺たちでベヒーモスなんて強大なモンスターを倒せるのか。
そんなふうに少し悩んでいるうちに、いつの間にかミデルが目の前から消えていた。
『受付さーん! これ、お願いしますっ!』
「ちょっ!?」
見れば、ミデルがいつの間にか依頼書を受付に持って行っていた。
いかん、このままでは依頼を受ける羽目になってしまう。
そう心配してたが、やはりと言うかで受付嬢も苦笑いでこう言った。
「しかしこの依頼は、昨日冒険者登録をしたばかりのミデルさんには……」
「そうだぞミデル、あまり職員さんを困らせるのもよくない」
受付嬢に便乗してそう言うと、ミデルは『む〜っ!』と頬を膨らませた。
『大丈夫なのですっ! ベヒーモスくらい簡単にぼこぼこのぼこにしちゃいますし、ミデルのご主人さまであるアレンには絶対に恥をかかせません!』
「でもだな」
『それとも……』
ミデルは自信満々な様子から一転して、上目遣いでこちらを見てきた。
『アレンはミデルのこと、信じてくれないんですか?』
「ぐぅっ……!?」
か、可愛い。
儚げな雰囲気でそんなことを言われたら、信じざるを得なくなってしまう。
……だがしかし、実際にだ。
「ミデルの実力を見せてもらうって意味では今回の依頼、割とアリなのかもしれないか」
ミデルは俺と一緒にいれば虚弱体質も改善され、ドラゴンとしての本領を発揮できる。
しかし俺は、まだミデルが本気を出したところを見ていない。
ミデルの力量でこの先の冒険者生活も変わるし、ミデルの力を知っておく必要はあった。
『アレン、ミデルを信じてくれますか? ミデルは、ミデルを救ってくれたアレンの力を信じています。だからアレンも、ミデルと自分の力を信じてください』
改めてまっすぐにそう言ってきたミデル。
現実的にはこれ以上ミデルの蓄えに手を出す訳にもいかないし、できることなら冒険者としてがっつり稼ぎたいと言う気持ちもある。
何よりミデルにここまで『信じて』と言われたのだ、俺も応えてやりたくなってきた。
「分かった、この依頼を受けよう。ただし危なくなったら即撤退、これだけは厳守だ」
『了解ですっ! ミデルはご主人さまの言いつけをちゃんと守れるドラ……』
「おっと!」
『ふみゅっ!?』
人前でドラゴン、と言いそうになったミデルの口を慌てて塞ぐ。
前にミデルを襲ってきた冒険者が聞いていないとも限らないし、用心に越したことはない。
それから受付嬢は「ギルド側には基本的に、冒険者を止める権限はありませんから」と言ってどうにか依頼を受けさせてくれた。