5話 ミデルの思い
俺は宿を選ぶにあたって、ひとまず安いところを選ぼうと考えていた。
飛び出すように故郷の街を出た俺の手持ちは少なく、多く見積もっても数日泊まれるかどうかと言うところだったからだ。
けれど、金銭面の不安はすぐに解消されることとなった。
「驚いた、ミデルって金持ってたんだな」
『ミデルもドラゴンなので、鱗の隙間に財宝や金銭を溜め込んでいたのです。光るものを見ると集めておくのは、ドラゴンの習性と言うか習慣ですから』
清潔な宿のベッドの上で、ミデルは『ふふーんっ!』と得意げに大きな胸を張っていた。
「でもよかったのか? せっかくミデルが集めたものなのに」
『当然、構いません。ミデルはアレンにお仕えすると決めた身、それに命を助けられたことに比べればこの程度は当たり前です。……とは言え、貯めていたのはこの程度ですが』
「いやいや、十分多いと思うぞ」
しゅんとしてしまったミデルの横には、どっさりと金銀財宝が積まれていた。
洞窟いっぱいに金銀財宝を溜め込む習性を持つらしいドラゴンの基準では、確かに少ない方かもしれない。
けれど人間の俺からすればこれだけでもひと財産だった。
「でも、ミデルの貯めたものに頼ってばかりはいられない。今日はゆっくり休むとして、明日からは依頼をこなして稼いでいこう」
『はいっ! アレンが勤勉なご主人さまで、ミデルも鼻高々ですっ!』
それから俺とミデルは宿で食事をいただき、宿の裏の井戸水を借りて体を綺麗にした。
それから夜も深まり、後は眠るだけと言うところで。
「……ミデル、どうして脱いでいるんだ?」
いそいそと服を脱ぐミデルは、こともなげに言った。
『部屋にいるならアレン以外の人はいないので、脱いでも問題ないかなと。それに服、ゴワゴワして変な感じなんですもん』
「いや、問題はある」
俺がかなり悶々としてしまう。
とびっきり可愛い子が目の前で全裸はまずい。
ミデルは自分の見た目の破壊力を分かっていないんだろうか。
……きっと分かっていないんだろう。
ミデルは首を傾げた。
『問題って、どこがですか?』
すすっと、森の中であったようにすり寄ってくるミデル。
これはまずい変な気分になってしまうと、俺は少しだけミデルから距離を取った。
「ま、待った待った。全裸で寄られるのはちょっと……」
『嫌、ですか?』
直視したらまずいと今までミデルから目を逸らしていたが、ちらりと見ればミデルは泣きそうだった。
……えっ、何で!?
困惑していると、ミデルはぽつりと話し出した。
『子供や若いドラゴンは、普段も寝る時もぴったり仲間に寄り添うものです。ミデルもまだ巣離れしたばかりなので、そういうふうにしたいのです。それともやっぱりミデルが銀のドラゴンだから、邪竜に似た姿だからアレンも嫌なんですか……?』
震える声のミデルの話を聞いて、そういうことかと納得した。
こうしてすり寄ってくるのもドラゴン特有の習性のようなもので、ミデルにとっても抑えがたいものだと。
「いや、ミデルが銀のドラゴンだからじゃない。俺の方が女の子と接する機会が今まで少なくて、びっくりしちゃったんだ。でも今は落ち着いたし、大丈夫だ」
故郷を追い出されて、きっとミデルも不安になっていたのだと思う。
腕を広げて問題ないことを示すと、ミデルはすぐに俺の胸元へ寄ってきた。
『はぅぅ、やっぱり誰かと一緒だと落ち着きますね。服がないと密着できて好きです。……ミデルは小さい頃から、大人のドラゴンにこうしてもらっていたことが少なかったので。ずーっと憧れだったんです、誰かと一緒に眠るのは……』
ミデルは一日の疲れが出たのか、静かな寝息を立てて眠ってしまった。
俺もそのまま横になって、ミデルと一緒に毛布を被った。
「おやすみ、ミデル」
腕の中のミデルの体は暖かくて甘い匂いがして、自然と眠気が大きくなっていく。
そのまま俺も、この日はゆっくりと眠りについた。