3話 ミデルの能力
『アレンもミデルと同じく帰る場所がないと言っていましたが、これからどうする予定なのです?』
森の中を歩きながらそう聞いてきたミデル。
「この森を抜けた先にあるロイグルって街にあるギルドで、冒険者登録をしようかなって思ってるんだ」
スキルが狂化ではないと判明したので、故郷に帰ろうかとも少しは考えた。
しかし今から故郷に戻って皆に「俺のスキルは実は強化だった」と伝えても、あの様子では信じまい。
また追い出されるのが目に見えているし、家を焼いたのが誰であれそんな人がいる場所では安心して暮らせやしない。
「とは言え俺は成人の儀を迎えたばかりの身で、手に職がついている訳じゃないしな……」
今後の選択肢は適当な場所で下働きか冒険者になるかの二択だが、下働きとは言え誰とも知らない若造を拾ってくれる職場もそうないだろう。
ならば誰でもなれるらしい冒険者で食っていく道を探すのが、妥当だと思うのだが。
「あと、ミデルは体が大きいから冒険者登録が済むまでは街の外にいてもらうことになるかな。前にミデルを襲った冒険者に街中で会っても一大事だし」
そう言うと、ミデルは不満そうに唸った。
『みゅ〜っ。ミデルはアレンと一緒にいたいのですが……あ、でもいい方法がありますっ! 要はミデルの、ドラゴンの姿を見られなければいいんですよね?』
「言うのは簡単だけど、確かにそうだな」
『だったらこれでどうでしょう?』
ミデルは動きを止め、足元に魔法陣を展開した。
凄まじい魔力の解放によって目も開けられないほどの光が生まれているが、ミデルは何をする気なのか。
しばらくして光が収まり、目を開けると……。
『アレン、これでどうでしょう?』
とんでもない美少女が立っていた。
流れるような長い銀髪に、しなやかな体つき。
胸など出ているところは出ているが、どこか儚げな印象のある少女だった……って。
「ミデル、だよな?」
『はいっ、アレンのミデルですよ? 実はミデルには変身能力があるのです!』
俺は【鑑定】スキルを発動し、何事だろうかと調べてみる。
『月光竜(幻竜種):月が満ち欠けするように、魔力を消費して変化が可能。
ただし元々の質量以上のものには変化できない』
そうか。
こんな能力があるから月の幻竜、月光竜なのか。
一人で納得していると、ミデルは『これなら問題なしですね?』と言いつつドラゴンだった時のようにすり寄ってきたが……大問題が一点。
「ミデル、人間に変身できたのはいいけど服は?」
そう、ミデルはめちゃくちゃな美人さんに変身したのに全裸なのだ。
ドラゴンは服を着ない。
けれど人間姿の時は着て欲しいと、ミデルの大きくて柔らかいもの二つを押し付けられながら切実に思った。
『確かに裸では目立ちますよね、アレンたち人間は服を着ますし。魔力をちょこっと服に変換してしまいましょうか』
ミデルはまた魔法陣を展開すると、服を生成して纏った。
……中々露出が多めな気がするが最低限の部分はカバーできていた。
全裸でも全く恥ずかしくない様子だったし、この格好でもミデルがいいと言うなら構わないか。
『これで問題ないですね。ミデルも一緒に冒険者登録とかできちゃいますか?』
「多分大丈夫じゃないかと思うけど、でもミデルを襲ったのは冒険者なんだろ? 同業者になることには抵抗とかないのか?」
気になったので聞いてみると、ミデルは『大丈夫です』と胸の前で両手を組んだ。
『アレンについて行くと決めたので、アレンが冒険者になるならミデルも冒険者になります。それに……』
「それに?」
『今はアレンの【強化】で体調も万全なので、また襲われても負けません。アレンに何かあっても力にもなれます』
微笑みながらそう言ったミデルに、俺は頷いた。
「分かった。それなら一緒に冒険者になろう」
『はいっ、ぜひとも!』
それから俺たちは、森を抜けてロイグル街の冒険者ギルドへと向かった。