2話 ダブルスキルの真価
銀のドラゴンから話を聞くこと少し。
俺は「なるほどなるほど」とそれっぽく腕を組んで頷いた。
「君はミデルって名前で、故郷を追い出されてしまったと」
『は、はい。ミデルは銀の鱗を持つからって。太古に暴れた邪竜と同じ銀の鱗は不吉だから出て行けって言われて……』
ドラゴンことミデルはぐすんと、泣きそうな雰囲気だった。
『それで辺境で静かに暮らしていたのに、冒険者が来てミデルをいじめて。ぼこぼこのぼこにされたのでこの森に逃げたんです』
「ぼこぼこのぼこって、そう言う話か」
確かにミデルの体は、よく見れば各所に傷があった。
「でもドラゴンをここまで痛めつける冒険者ってことは、相当な凄腕か」
そう呟いた時、ミデルが『こほっ、こほっ』と咳き込んだ。
「ミデル、傷が痛むのか?」
『それもありますが、ミデルは元々病弱で。故郷から出た時点でこうなってしまうのは、分かっていたんですけど……』
「だからって、それは他のドラゴンも知ってたんだろ? なのにそいつらときたら……!」
たかだか鱗の色が違うだけで追い出したのか。
それがさっきスキルのせいで故郷を追い出された自分と重なって、俺はミデルを放ってはおけなかった。
「ミデル、薬草とか効かないのか? この森には薬草も多い、すぐに集めてやる!」
『えっ。……アレンはミデルを助けてくれるんですか? アレンは人間なのに、どうして?』
「当たり前だろ。人間もドラゴンも関係なく、そんな状態のミデルを放っておける訳がない。待っててくれ、すぐに薬草を」
ミデルは首をゆっくりと横に振った。
『薬草は効くかもですが、もう時間がありません。せめて天に召されるまでミデルと一緒にいてくれると嬉しいです、一人は寂しいので……』
既に諦めた様子のミデルの声は弱々しかったが、しかし俺はまだ諦めたくはない。
ちょうどいいことにさっきサブスキルを授かったところだ、早速役に立ってもらおう。
「【鑑定】」
『ミデル:月光竜(幻竜種)
性別:雌
体長:五メトラ……
〜〜〜〜〜
状態異常:病弱、外傷大、竜殺の病……
〜〜〜〜〜』
【鑑定】スキルで得られる情報に有益なものはないかと探していると、最後にこう書いてあった。
『提言:【強化】S+で強化可能です』
「S+って、これは……」
スキルにもグレードがありFからAまであるとされるが、ごく稀にAの上のSまで到達する人もいると聞く。
S+は聞き覚えがないが、さっきの女神の手紙には補償として【強化】スキルを調整したともあったからそのせいか。
「ともかくSなら希望はある、【強化】スキル起動!」
スキルの使い方は自然と体が知っていた。
攻撃力のATKや防御力のDEFなど、視界の端に映った【強化】可能項目はいくらかあったがその中で体力のHPと生命力のVITを選んで【強化】する。
【強化】スキルを使うと俺の両手が魔力で輝き、ミデルに触れるとその全身を包んでいく。
そして視界の端に表示されているミデルのHPとVITが瀕死寸前の最低値Fから最高値Sまで一気に跳ね上がった。
『暖かい……』
光が収まると、ミデルの全身の傷は治っていた。
『すごい、体が軽い! こんなの生まれて初めてです……! アレン、ありがとうですっ!』
ミデルは頭を俺の胸元に擦り寄せてきた。
しかし俺の起動中の【鑑定】スキルにはこうあった。
『状態異常:【強化】S+による再生能力の増大により治癒(病弱のみ【強化】がなければ再発)』
「なるほど、生まれ持ってのものは完治が難しいのか……」
それから俺は、恐らく俺がミデルから長く離れると【強化】スキルの恩恵が消えてしまうことを話した。
するとミデルは、頭を下げてこう言った。
『生まれ持っての病弱がそのままでも、外傷や病を治していただいただけでミデルは幸せです。でもミデルはアレンにお返しできるものを持っていません。だから、もしよければこの先もアレンに同行させてください!』
「つまり、仲間になってくれるのか?」
『はいっ! ミデルは行くあてのない野良竜で、さっき死ぬはずだった身です。だから一生を使ってこのご恩をお返します。この身がまた、ぼこぼこのぼこになるまでっ!』
ミデルの気合いの入りように、俺は苦笑を返した。
「ぼこぼこのぼこは困るけど、でも俺と一緒にいればミデルの病弱さも【強化】で打ち消せる。だからミデル、これから一緒にきてくれるか? 俺も故郷を追い出されたから、帰る場所がない身だけどさ」
『付いて行きます、どこまでもっ! それがミデルの道となりますから』
ミデルは頷き、快活にそう答えてくれた。




