21話 メルラの実
朝から飛び続けたミデルを休ませるため、夕暮れ時に俺たちは適当な場所を見つけて野営することにしていた。
川も近く、かと言って急な増水にも巻き込まれなさそうな少し高い土地。
リナはハーフエルフらしく「木の上で寝れば解決よ?」と言っていたが、残念ながら人間の俺には真似できそうにもなかった。
そして俺と一緒に薪を拾うミデルは、ふと呟いた。
「アレン。こうして薪を拾うのも、何だか少し楽しいですね」
「出先だと尚更な。今度依頼とは関係なく、こうして皆で遊びに行くのもいいな」
『行きましょうっ!』
ふと呟くと、ミデルがススッと寄ってきて猛反応した。
『最近依頼ばかりですから。たまには皆で旅行もいいかもです!』
「確かにな……」
言われてみれば、冒険者になってからガンガン依頼へ行ってばかりだ。
金には余裕があるのだから、今度少しくらい遊んでもいいだろう。
……そんなことを長々と考えていたら、いつの間にかミデルがいなくなっていた。
首を回すと……。
『ふあぁ……!』
なぜかとある木の真下で、歓声を漏らしていた。
「ミデル、これ何なんだ?」
『ミデルの故郷でメルラの木って呼ばれてたものです! この木の実、竜にとっての大好物なんです! アレンも一個いかがですか?』
「へえ、竜の好物か……」
そう言われれば、気になってしまう。
手のひらサイズの赤色の実をもいで、表面を拭って齧ってみる。
「……。…………」
不味くもないけど、美味くもない?
香りはいいけど微妙に甘いかも、そんな味だった。
しかし横をみれば、ミデルはせっせと嬉しそうに実を回収していた。
「これも人間と竜の味覚の差なのか……?」
ひとまずミデルがあまりに嬉しげだったので、俺はミデルの持っている薪をもらって「先に野営地へ戻るから、ゆっくり取ってきてくれ」と伝えた。
【強化】スキルで体を強化し、多くの薪も軽々持てるようにした。
それからその辺でキノコや木の実を取って先に戻っていたリナに、今さっきのことを話してみると……。
「メ、メルラの実? ……ミデル、沢山食べて大丈夫なのかしら」
「んっ、食べ過ぎるとまずいのか?」
「まずいと言うか……あの実、ドラゴンの好物だけど食べ過ぎると人間でいう酩酊した状態になるって古い本にあったわよ? あの子、食べ過ぎて二日酔いとかにならないでしょうね?」
訝った様子のリナに、これはまずいと俺は即座にミデルの元へ戻った。
よく思い出せば、あの実からしたいい匂いもどこか酒っぽかった気がする。
ミデルには明日、ふらふらの状態で飛ばれても困るが……。
『ふ、ふにゃああ……』
「遅かったか」
齧ったメルラの実をいくつかお腹の上に乗せ、ミデルはふにゃっと木にもたれかかっていた。
「仕方ない、背負って運ぶか」
ミデルを背負うと、何だかミデルの吐息が耳にかかった。
それから……。
「あむっ」
「ちょっ!?」
耳を食われた……と言うか、甘噛みされた。
「ミ、ミデル?」
『う、うるるるるる……』
酔っているせいか、人間の姿なのに若干ドラゴンに戻っている気がする。
ミデルは痛くない程度に、耳をもっこもっこと齧ってから、
『ア、アレンの匂いです……。ご主人さま、もっとミデルにお仕置きを……』
「……って、どんな夢見てんだ!?」
他に人がいたら明らかに勘違いされそうな発言をかましていた。
それからミデルは野営地に戻る途中
『アレンは最近、ミデルへのスキンシップが足りないのです……』
『そこ、そこをもっと……』
とか寝言を連発していた。
そこってどこだ。
……なお、翌日になってからミデルは無事に回復し、昨晩のことは何も覚えていないといった様子だったが……。
「ふふっ、アレンったら。ミデルにあんなことしてたのね」
「ミデルの寝言を鵜呑みにしないでくれ……!」
『……みゅっ?』
意味深げに見つめてくるリナに、ミデルは首を傾げていた。
……今後しばらくメルラの実はミデルに食べさせないようにしようと、俺は心の中で固く誓った。




