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1話 ドラゴンとの出会い

「はぁ、はぁっ……ここまでくれば追ってこないか」


 俺は辺境の街近くにある森の中へと逃げ込んでいた。


 森は広くて深く、とある事情からここ最近は近寄る人は少ない。


 ここなら街より安全だと思いつつも、俺の気分は最悪だった。


「ははっ。故郷から追放されて、逃げた先はドラゴンが出る森か……」


 そう、この森に人が近寄らなくなった理由とはドラゴンが現れたからだ。


 ドラゴンとは言わずと知れた、最強クラスのモンスターの一体。


 成体のドラゴンが本気を出せば、街の三つ四つは一晩で瓦礫になるとまで言われている。


「でも、何でドラゴンがこんな森に……」


 俺は少し悩んで、それでも森の奥へ進むことにした。


 どうせこの森を超えなければ、他の街には入れない。


 それに今の俺は行くあてもない身だし、薬草採取で安全な道もいくらか知っている。


「大丈夫だ、今までだって問題なかった……」


 足音を殺すように進んで耳をすませると、何やら寝息のような音が聞こえてきた。


 まさかと思い足が止まるが「この際だ、せっかくなら少しだけ」と興味には逆らえずに寝息のする方へ歩いていく。


 ……すると大樹の際に、純銀の鱗を持った巨体が横たわっていた。


 巨大な翼と四肢、精悍なトカゲ似の顔つき。


「ドラゴン……!」


 小声でそう言い、慌てて口を塞いだ。


 ドラゴンは聴覚も優れていると聞く、今の声でバレでもしたら一大事だ。


 けれどドラゴンは身じろぎもしない、よく見れば息が荒くて弱っているようだった。


「横になってる理由はそう言うことか」


 あの様子なら襲ってこないだろうと、俺は木の陰から出てドラゴンへと近づいていく。


 世界各地で旅をする冒険者でさえ滅多に近づけないと言うドラゴンを、一度間近で見てみたかったからだ。


「こんなチャンス滅多にないぞ……んっ?」


 突然こつんと、頭に何かが当たった。


 しかし石のような重みも痛みもなく、足元に落ちたのは折られた紙切れだった。


 こんな森に紙とは不思議だと思いつつ開いてみると、そこには……。


『アレンさま


 大変お世話になっております、天界の女神アルテミスと申します。


 本日は執り行われた成人の儀における不具合について、ご連絡させていただきました。


 先ほどあなたのスキルは【狂化】となっておりましたが、実際には【強化】となっております。


 取り急ぎ訂正の旨をご連絡させていただきます。


 また、その補償として調整した【強化】スキルの他にサブスキルとして【鑑定】スキルを授けさせていただきます。


 この度の不具合、大変申し訳ございませんでした。


 引き続き現世での生活をお楽しみいただけますと幸いです。


 よろしくお願いいたします』


「な、な、な……なんじゃそりゃああああああああ!!??」


 俺は【狂化】スキルを授かったと思われ、家を焼かれて故郷を追い出されたのに。


 実際には女神さまのミスでスキル名を間違えたと?


 あまりの不条理に叫ぶと、天から光が降り注いだ。


 これは俺が今日、神殿で成人の儀を受けた時に浴びた光と同じもの。


 それから視界の端では【狂化】の文字が【強化】と訂正され、それに加えて【鑑定】の文字も浮かび上がっていた。


「……か、【鑑定】」


 そこいらの石を見ながら言ってみると、視界に


『石ころ。岩より小さくて砂よりも大きな鉱物質の塊』


 と言った解説が浮かび上がった。


「つまりあのアルテミスって女神さまの手紙は本物か……!?」


 何て酷い手違いだと、俺は思わず頭を抱えた。


 ついでにあの訂正文も家が燃やされる前に欲しかったところだ。


 しかし俺はここで、大ポカをやらかしていた。


『うっ……!』


「あっ」


 見れば、ドラゴンが身じろぎして起き上がろうとしていた。


 あまりの衝撃に忘れていたが、俺はドラゴンの目の前で騒いでいたのだ。


 やばいどうしよう、どうにか逃げ切れるか。


 そんなことを思っていたら、ドラゴンが『ひっ』と声を漏らした。


『あなたは、冒険者さんですか? こ、これ以上ミデルをぼこぼこのぼこにするのはやめてくださいっ……!』


 ドラゴンはよく見れば、小刻みに震えていた。


「ぼ、ぼこぼこのぼこ……?」


 何となく可愛らしい言い回しをしたドラゴンに、俺はひとまず警戒を解いた。


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