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18話 天界の女神

 昇格試験を終えた日の晩。


 俺は夕食後、ベッドの上でくつろいでいたと思うのだが……。


「ここ、どこだ?」


 いつの間にか周りは青空で囲まれ、足元は雲だ。


 夢にしたって突飛だなと感じていると「失礼します」と声がした。


「あなたはアレンさんでお間違いないですね?」


 振り向けば、金髪碧眼の女の人が立っていた。


 彫刻のように整った顔立ちに白磁色の肌、服装はそれなりに煌びやかだった。


 この人は誰だろうと考えたら、女の人はくすりと笑みをこぼした。


「私は女神。女神アルテミスです。あなたにスキルを授けた張本人と言えばお分かりいただけますでしょうか?」


「アルテミスって、あの手紙の女神さま!?」


 【狂化】は誤字で実際には【強化】スキルだったと書かれていた、あの手紙の送り主。


 それに俺が考えたことを正確に読む力にこの不思議な空間……なるほど。


 確かに本物の女神さまかもしれなかった。


「それで女神さま、今日は俺に何の御用でしょうか?」


「あなたに、直接お詫びをしたかったのです。……あなたに【鑑定】スキルを授けた後、あなたは既に故郷から追放されてしまっていたと知りました。決して間違えてはならないスキルの名を、私が失敗したばかりに。アレン、本当に申し訳ありませんでした。私は何と取り返しのつかない過ちを……」


 深々と頭を下げてきた女神さまに、俺は少し慌ててしまった。


「い、いえ! その、故郷を追放された件は思い出せば今でも少しショックを受けます。でも今の俺には、一緒に冒険者をやっている仲間がいます。皆が一緒にいてくれるから、俺は大丈夫です」


 そう伝えると、女神さまは安堵した様子になった。


「そう言っていただけると、私も少し心が軽くなる思いです。……もしよければ、最近の冒険者生活について教えてくださりませんか?」


「えっ、冒険者生活ですか?」


「はい。私は天界での執務に追われることも多く地上の生活には少々疎いものでして、興味があるのです。こうしてお会いしたのも何かの縁。もし不快でないのなら、ぜひお願いしたく存じます」


 どこか期待している雰囲気の女神さまに、俺は「自分の話でよければ」とこれまでの冒険者生活について話した。


 ミデルに出会い、フィベルーやリナとも一緒に住むようになって。


 それに女神さまが調整して授けてくれた【強化】S+と【鑑定】のお陰で、冒険者生活もやっていけていると。


 ……そこまで話すと、女神さまはにこにこと嬉しそうな表情だった。


「そうですか。補償とは言え、私が授けたスキルがそこまで役に立っているなんて。アレンさんの今の生活が喜びにあふれているようで、私も嬉しいです。しかし……」


 女神さまはふと、真面目な表情になった。


「私が補償として授けた【強化】S+と【鑑定】は、あくまでスキルの誤字に関するもの。【狂化】スキルを持つと勘違いされたアレンさんが故郷から追放されてしまった件については、まだ一切の補償をしていませんでしたね」


「いえいえ、さっき謝っていただきました。それだけでも十分です」


 女神さまに頭を下げてもらった人間なんて、そういないだろう。


 しかし女神さまは納得していないようで「いいえ」と首を横に振った。


「この件についても、きっちり補償させていただきます。本来なら、今頃アレンさんは故郷でのんびり過ごせていたはず。その未来を奪ってしまった以上、私にもきっちり償う必要があります」


 ……もしや今回は謝るついでに、わざわざ新たな「補償」をしにきてくれたんだろうか。


 そう思っていると、女神さまは両手から金色の光を放った。


 そこから一振りの剣を取り出し、俺に手渡してきた。


 剣の鞘には竜の紋章が彫られていて、芸術品のようだった。


「女神さま、これは……?」


「天界にいる鍛冶の神が鍛えた剣です。決して折れない神力と、多くの魔力を注いであります。あの邪竜の鱗すら切り裂くとされる業物です、きっとアレンさんの冒険者生活にも役立ってくれるでしょう」


 女神さまがそう言った途端、周囲の景色が歪み出した。


「おや、そろそろお別れの時間のようですね。アレンさん、私はこの先もあなたを見守っています。あなたの人生に多くの幸あれと、願い続けていますよ」


 柔らかく微笑む女神は最後に俺の手を取って、ぎゅっと優しく握ってくれた。


 こんな素晴らしい剣をもらった以上、俺も女神さまにお礼を言わなければ。


 それに邪竜について知っているなら、ミデルのためにも詳しく教えてもらいたい。


 俺がそれらを聞こうと、口を開いたところ……。


「……んっ?」


 ぱちりと目が覚めた。


 窓の外は朝日が昇っていて、小鳥が鳴いている。


「まさか今までの、全部夢か?」


 いや、流石に女神さまに会うなんて夢以外の何物でもないか。


 しかし起き上がろうとすると、体の上に確かな重みがあった。


 見れば、女神さまから授かった剣が乗っていた。


「ゆ、夢じゃなかった……!?」


 その証拠に、授かった剣はここにある。


 試しに少し剣を抜いてみると、まばゆい光と共に膨大な魔力が漏れていた。


 ……すると。


『ア、アレン!? 今凄い魔力を感じましたが……なっ、そんな剣ありましたっけ!?』


 部屋に飛び込んできたミデルが、剣を見て仰天していた。


 ドラゴンのミデルがこんなに驚くということは、やはりこの剣はただの剣ではないらしかった。


「……神界の剣か」


 スキルに続いてまたとんでもない物を補償で貰ってしまった。


 女神さまは冒険者生活に役立つと言っていたが、果たしてどれほどの力を秘めているのか。


 けれど今はひとまず、目を丸くしているミデルに事情を説明しようと考える次第だった。


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