プロローグ 外れスキルと追放
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「残念ながら、あなたが天上の神々から授かりしスキルは【狂化】となります……」
「えっ……はっ!?」
今日この日、成人の儀を神殿で迎えていた俺ことアレンは神官の言葉を聞いて素っ頓狂な声を漏らしていた。
この世界では成人となった年に【成人の儀】を受けることで、神さまからひとりひとつのスキルを得ることができる。
だからこそ俺も同郷の仲間と共に、辺境にある故郷の街の神殿で成人の儀を受けていたのだが……。
「【狂化】って、発動すると周りの全てを破壊し尽くすってあの……!?」
スキルには【剣聖】や【賢者】など、歴史に名を連ねる英雄が有していたような「当たり枠」呼ばれるものがある。
しかし逆に多種多様な「外れ枠」もあり、【狂化】もその外れのひとつだ。
【狂化】スキルを授かった者はいずれそのスキルが自然に発動し、狂戦士、つまりバーサーカーとなって周囲の全てを破壊し尽くすとされている。
人も建物も、自分の意思とは関係なく全てをだ。
それは即ち、街での人間的な生活を捨てなければならないことを意味している。
「ひっ、アレン、お前……!?」
「ま、まだ大丈夫だよな。意識ははっきりしているよな……!?」
「な、何だよ。俺は大丈夫だって」
両手を広げて無事を示すが、しかし同い年の仲間たちは後退っていた。
俺は既に腫れ物扱いだった。
【狂化】のスキルを持った若人がバーサーカーとなり街を破壊した逸話は各地に多く、それ故に人々から畏怖の対象となっていた。
振り向けば、俺のスキルを語った神官でさえ小刻みに震えていた。
「【狂化】スキルはいつ発動するか分からない、その爆弾みたいな特性から外れスキルって言われるけど……」
まさか自分がそんなものを授かるとは思いもしなかった。
それから聞こえてきたのは「あいつ、まだ正気だよな?」「狂戦士化する前に隔離とかした方がいいだろ」などの小声。
俺は刺さるような視線を周りから受けながら、とぼとぼと神殿を去るしかなかった。
しかも歩きながら念じてみると、視界の端には明確に【狂化】と言う文字が浮かび上がってきた。
スキルを得るとこうして自分で確認可能になると言うが、確かに俺は【狂化】スキルを授かってしまったらしい。
それからこの後どうするかと考えながら、俺はゆっくりと家に戻ったのだが……。
「な、あっ……!?」
帰るべき俺の家が、燃えていた。
俺は早くに両親を亡くして天涯孤独の身なので、中に誰もいないと分かるのが唯一の救いだ。
けれど家具などは全て火に包まれていて、とても回収しに立ち入れる状況ではなかった。
「誰がこんな……!」
唖然としていると、後ろからゴツン! と石を投げられた。
見れば、街の大人たちが総出で俺と燃える家を囲っていた。
「バ、バーサーカー、狂戦士! 今すぐこの街から出ていけ、今すぐに!」
「いや待ってくれ、俺はまだ狂戦士化しては……!」
「黙れ! そんなこと言ってもう理性がなくなりかかっているんじゃないのか!?」
村の大人たちは震える手つきで、剣や弓を構えていた。
バーサーカーとなった者は、腕の一振りで家を叩き壊すほどの力を誇る。
しかも理性もなしに暴れまわる……つまり街の大人たちは皆、俺が怖いのだ。
俺はもう街の大人たちから見れば、仲間ではなくモンスターのようなものらしかった。
「で、出て行け。今すぐに出ていけっ!!」
「悪魔め、油断を誘ってこの街を壊す気だろう!!」
誰かが放った矢が足元に刺さるのを見て、俺は一目散に駆け出した。
何も持たず、故郷の街の外を目指していく。
途中で別の大人たちに追われることとなったが、皆俺を追い出そうと必死な形相だった。
「……クソ、クソ、クソ! 俺たち、同じ街の仲間じゃなかったのかよ……!」
俺は天涯孤独の身だから街の人に助けられることも少なくなかったし、逆に皆を助けることも多かった。
モンスターの出る山での薬草採取に、今にも崩れそうな古い炭鉱へ潜って貴重な鉱石も採掘してきたし、土砂災害の時だって何度も街の人を掘り起こした。
どれもこれも命がけだったし、俺は街の大人たちが第二の両親のように好きだった。
だからこそ危険な仕事も頑張ってこれた。
けれどスキルひとつでこの始末、思い出していたら涙が溜まってきた。
「チクショウ、こんなスキルのせいで……!!」
俺は振り返らず、街から出た後もそのまま走り続けた。