婚約破棄は出来ませんよ?
「聖女リリア、俺はお前との婚約破棄を宣言する。」
ここはルーナ大陸。
四方を魔の森に囲まれてはいるが国も大きく、他の国からも無駄に干渉されることもない、平和な国だ。
四方を魔物の森に囲まれているため、国からはなかなか出ることができない。そこで聖女の力が必要になる。
聖女の力の中に、結界と光の架け橋というものがある。
その2つを使い、他の国に伸ばすことで、他の国とやりとりができるというものだ。
そのためこの国は聖女がとても大切にされている。
歴代では聖女は王子と結婚したものも多くいる。
そう多くいるだけ。絶対ではないのだ。
「マリス様?婚約破棄ですか?」
聖女リリアは今日も薄手の聖女しか許されてはいない黒い色を全身に使った、首から足の先まで覆うドレスを着ている。
そして頭からは顔全体を覆うレースのおかげで、月の光を集めたような白銀のさらさらとした髪しか見えない。
そう。
リリアは肌を一切見せないのだ。
マリスは今18になる。初めてリリアを紹介された15歳の時から3年一度も彼女の顔を見たことがない。
「あぁ、お前と婚約して3年、お前は一切俺に心を開くことがなかった。お前はいつも私の話を聞くだけだ。そして口を出す。そんなものを私は望んでいない。」
「マリス様少しお待ち下さい。婚約して3年ですか?
私たち婚約しておりません。婚約ができないのです。」
リリアは嘘を言っているようには見えない。しかし婚約してないなんてありえないのだ。
周りも婚約者だと思っているのだから。
慌てているように見えるがそんなにも婚約破棄したくないのか。
「そんなことを誰が信じると?父から大事にするようにとお前を紹介された。そう、大事にしろと。彼女は唯一だと。
そして紹介が遅れたが、俺の事を心から癒し支えてくれるユアン公爵令嬢だ。彼女から婚約者のリリアから嫌がらせを受けていると聞いている。聖女でありながらなんて事をしているんだ。ユアンこそ俺の唯一だ。だから、お前とは婚約を破棄する。」
リリアはマリスのすぐ後ろに立つユアン公爵令嬢をみた。
金色の髪にウルウルした大きな青い瞳の可愛い娘だ。
同じ学園で出会いでもしたのか。
「マリス様お待ち下さい。私はいじめなどしておりません。する必要がありません。婚約破棄は出来ません。」
「なにを言っている。どこからか聞いたのであろう?
俺とユアンが恋仲であると。そしてそれをお前は嫉妬したのだろう。今この場でユアンに謝るのならば婚約を破棄するだけで不問とする。」
「マリス様。どうしても信じていただけませんか?」
リリアは何度言っても聞き入れてくれない、マリスに対して呆れているような口調だった。そしてそれはマリスにもとどいた。
「なぜお前を信じると思う?早く謝るといい。俺はすぐに王のもとに行き、ユアンのことを話さねばならない。さぁ早く謝れ。」
マリスはリリアを睨みながら急かす。
ユアンもマルスの後ろから出てリリアと向かい合う。
その顔は少し嫌らしい笑みが浮かんでいた。
「マリス様。婚約破棄はあり得ないと何度も言いましたね。
理由をお見せします。」
リリアは黒のレースでできている顔を覆っているベールを外した。
「え?嘘だろ?」
「え?何故ですか?」
マリスとユアンの2人の声が重なった。
「マリス王子。私はあなたと結婚できる歳ではありません。今年60になるのです。あなたの父君より年上なのですよ?
なのでまず婚約が出来ないのです。ないものを破棄もできないでしょ?」
そう。黒のレースの下には美しいとても美しいおばあさまがいたのだ。若い頃はそれはもう女神のように美しかっただろうと思われる人がいた。
「マリス王子。若いと勘違いをしてくれるのは嬉しいのですが、流石に私はもう60ですの。小言も多かったなんて申し訳ありません。やはり若いものには色々口を出したくなってしまって。」
マリスとユアンはなにも言えず黙ったまま硬直していた。
「来年には私の孫が聖女の跡を継ぐのでね、まだ10歳になる女の子で、優しくしてあげてくださいな。」
マリスとユアンはなにも言えず黙ったままだ。
「この黒いドレスも私の中では旦那様に捧げたつもりだったのですが、聖女の衣装と固定されるとは思いませんでした。孫にはいろいろな色を着て欲しいものです。」
マリスよりも先にユアンが立ち直った。
「旦那様ですか?」
「えぇ。もう40年は前ですね。前陛下の弟君と婚姻しましたの。恋愛結婚ですわ。お二人も恋人同士なのですよね?お幸せにね。」
リリアは黒のベールを掛け直し、薔薇の咲き誇る庭から出て行ってしまった。
マリスとユアンはしばらくの間突っ立ったままでいたところを侍従と侍女に見つかり別々に親のもとに連れて行かれた。
「おばあさま?王宮ってどんなところ?王様って凄いの?王子様って素敵な方?」
「私の可愛いアリア。王子様だっていろんな人がいますよ。素敵な人はたくさんいるから周りをよく見るのですよ?
人の話をよく聞くことのできない人はダメですよ?」
「はいっ!王子様は微妙なのですね!!」