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ソード・アンチノミー  作者: Penドラゴン
【13章】先生として
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【2-5b】餌付けされた雛鳥たちは

「みんな! 大変だよー!!」


 ハウスの扉を勢いよく開けたのはティエンとユエだった。


「ティエン、ユエ。どうかしたのかい?」


 パーシヴァルが尋ねるが、ティエンはあわあわとしていてうまく喋られそうになかった。固い表情をしたユエが答える。


「ダート全体に変な植物が蔓延ってるみたい。今住民が避難してきた」


「な、なんで急に……」


「ぐっ……!」


「エヴァンさん? どうかしたんですか?」


 椅子に座っていたエヴァンが表情を険しくして傷で塞がった右目を押さえている。迅が様子を心配した。


「この傷はあの女に傷つけられたものだ。あのとき以来、やつの力とこの傷がシンクロしてうずくようになった」


「エヴァンさん。聖女の力って何なんですか? 植物を操っているように見えましたけど」


「あれは寄生木だ。奴の霊晶剣ミスティルテインは寄生木を操り、生物に寄生させて支配することができる。やつはそれでセフィロトを支配し、トリックスターを呼び寄せている」


「それで私は操られてたんですね。でもセフィロトを支配って、そんなことできるんですか?」


ひかるが尋ねる。


「現にできている。俺たちもお前の剣で操ろうとしているからな。奴がトリックスターを無造作に呼び寄せている。自分の秩序に人間を呼び込むために」


「じゃあ、今もトリックスターが召喚されているんですか?」


「かもしれん。それも大量にな。このままでは故郷の人間が減ることになるぞ」


「は? 減ったら……、なんかやべぇよな……?」


 その場の慌ただしさに踊らされながらも分かっていない鉄幹にイリーナが説明をする。


「発電所、病院、食糧を作っている人が突然いなくなったら? 社会全体が機能不全になるかもしれないじゃない」


「冗談じゃねぇぞ! 早く聖女をぶっ飛ばさねぇと!」


 鉄幹の言葉に皆が頷きあった。













 迅たちはパーシヴァル、アナスタシアを加え、臨時の馬車2台を使って王都へ向かう。エヴァンは空を飛行する。


 空を飛んでいたエヴァンが馬車より先の地面に注意をやり、馬車の御者や中の迅たちに向かって声を張り上げる。


「止まれ! 来るぞ!!」


 御者はバイコーンを止め、馬車の中から迅たちが出てきた。剣を出して前方を警戒する。


 バイコーンたちが騒ぎ出しはじめ、地面が揺れる。そして、前方の地面から現れたのは巨大なムカデ型の魔族だった。鉄のような頑丈そうな殻を纏っており、顔部分には植物が絡みついている。


「ひぇっ!? 虫ぃ!!」


 アナスタシアは情けなくたじろいで尻もちをついた。アナスタシアを守るようにパーシヴァルが前に出る。


「この虫、聖女が操っているのか……!? アロンダイト!!」


 パーシヴァルはすぐさま魔法を発動し、地上に露出したムカデを氷漬けにした。


「すげーな、流石のSクラス」


 鉄幹が称賛したのも束の間、全身の氷は砕け散ってうねうねと動き出す。


「やっぱり氷では脆いか……。ぐっ……!」


「おい! 大丈夫かよ!?」


 鉄幹が心配する。パーシヴァルは息を荒くして服の胸部分を掴む。すると、アナスタシアまで胸を押さえた。


「な、なんだろう……? 喉が乾いたような……。いや……、これは……そんなもんじゃ……」


「ハァ……、ハァ……」


「二人とも!!」


 ひかるが顔色が悪い二人に呼びかける。ムカデの襲来はまだ終わっていない。ムカデは地面に潜り始めた。空のエヴァンが追い打ちの魔法を放つが尾のハサミを切り落とすことしかできなかった。エヴァンが声を上げる。


「馬車は逃げろ!」


 御者たちは謝ると、集落方面へバイコーンを走らせてこの場から避難した。


 足元がグラグラ揺れる。道の真ん中を避けて散る。クロエが右往左往したが、イリーナの導きで同じ方へ走る。何故か苦しんでいるパーシヴァルをオルフェが、アナスタシアをイリーナがおぶった。


 ムカデは道の中央から現れ、皆難を逃れた。地上に現れているうちに皆遠距離から魔法攻撃を当てる。しかし、間もなくムカデはまた地面に潜り始めた。


「オイオイ、効いてんのかコレ……!?」


 遠距離魔法が使えない鉄幹が言う。上空にいるエヴァンが地上に向かって、


「頭の寄生木を狙え! 弱体化が狙えるはずだ!」


 エヴァンはそう言うが、ムカデの動きも巨大ながら速く、地面に潜るので狙いがうまく定まらない。


 そこでクロエが道の真ん中へ飛び出し、カラドボルグを地面に突き刺す。クロエの後をイリーナが追った。


「クロエ! 今は危な……」


「イリーナ! 剣を叩いて! 思いっきり!」


 クロエの真摯な眼差しから、イリーナは頷き、アスカロンを大きく振り上げて柄に当てた。


 キーンという金属音が鳴り響く。すると、地鳴りがしてイリーナはクロエを抱えて道端にステップする。


 ムカデが地上に出てきたが、グッタリ仰向けに倒れている。迅は天叢雲剣を取り出し、


「音で気絶した! 今だ!」


 迅の落雷雷攻撃、オルフェの風の刃でムカデにダメージを与えていく。


「最後はオレだ!!」


 鉄幹がムカデの頭に飛び乗り、頭に絡みついた寄生木を斬り刻み、最後に赤く染まった刃を突き立てた。


『キシャァァァァァ!!!!』


 刃から焼かれたムカデは鋭い声を上げ、プスプスと黒焦げになって倒れた。


「それにしても、君たち、どこか具合が悪いのかい?」


 オルフェがパーシヴァルとアナスタシアに尋ねるが、アナスタシアが首を横に振る。何故か涙を流していた。


「分からない……! ムズムズするような……、イガイガするような……! うぅ……、嫌だ……!」


「ここで何かの病気になったとすると、一旦集落に戻った方が……。馬車は戻ってしまったし……」


「お前たち、剣を抜け」


 イリーナの提案を遮ったのはエヴァンだった。その言葉に皆顔にはてなが浮かぶ。


「何言ってんだ、お前?」


 鉄幹が尋ねると、


「あぁ、そうだ……。料理……、学院長の料理が……」


「アナ……! それを言ったら僕まで……、うえっ……!」


 パーシヴァル、アナスタシアが口から垂らしたのは透明の唾液だった。


「ね、ねぇ二人とも……? ホントにどうしたの……?」


 ひかるが二人に聞いても、青い顔で唾液を垂れ流して、目が虚ろなままであった。


「やはりシャウトゥめ。こんな仕込みまでしていたか……!」


 エヴァンが怒りの眼を二人に向け、レヴァテインの切っ先を突きつける。


「仕込み……? まさか……!?」


 何かに感づいたオルフェも剣をデュランダルに変えて構える。それにつられるように、迅、ひかる、鉄幹、イリーナ、クロエも二人を警戒する。


「ぁああぁぁ……、駄目だ……。駄目だと分かってるのに……、あの料理が……恋しくて……」


「サラダ、スープ、チキン、デザート……。全部ほしい……。もうダメ……。あああああぁぁああぁぁ……!」


 すると二人のどこからか寄生木が現れ、体に絡みつく。パーシヴァルからは水色の、アナスタシアは黄色のオーラが立ち上る。オーラの威圧に皆は剣で顔を庇った。


「こ、これは……、ナーディアと同じ……!!」


「聖女が仕込んだって……? とんだ悪魔じゃねぇか!?」


 イリーナと鉄幹が驚愕する。オーラが収まると、二人は甲冑に身を包んでいた。


「剣憑依が二人……。これは……」


 剣を構えながらも、迅は額から汗を垂れ流した。


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