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ソード・アンチノミー  作者: Penドラゴン
【12章】姉妹喧嘩
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【2-4d】アタシのレシーブ

 迅たちは有効打を探すため、様々な技を試してみる。しかし、繰り出す技はギネヴィアの力の前で弾かれてしまう。


 エヴァンの闇の魔法で多少ダメージを与えられる程度で、それでもギネヴィアの暴走は止められない。


 防戦するイリーナは怒り狂い鬼の如く剣を振るう妹の姿が見られず、ギュッと目を瞑る。


 小さな頃からテニスに一生懸命だった妹が殺意に駆られて自分を殺そうとしている。


「どうすれば……」




『そうだなぁ……。家族として受け止めてあげるしかないんじゃない?』




 つい先程のひかるの言葉が頭に再生され、イリーナはハッとする。


「そうね。同じコートに立って受け止める。たとえ殺意でも……! そう決めたじゃない!」


 すると、アスカロンが青く呼応するように光り出し、剣を握ってギネヴィアに向かっていく。


 刃がぶつかり合う。やはり、ギネヴィアの一撃は重かった。しかし、


「おいで、ナーディア。姉さんが相手をしてあげる!」


「アァ……!! 殺ス……!! 殺スゥ!!!!」


 するとギネヴィアは高く飛び上がり、空中で剣を大きく振り上げる。刃に荒れ狂う風が纏う。


「おい、やべぇの来るぞ! 逃げろ!!」


 鉄幹が促すが、イリーナはその場から動かず、笑ってみせる。


「大丈夫よ。みんなはちょっと踏ん張ってて」


 イリーナは青く光るアスカロンを構え、ギネヴィアの攻撃を待つ。


「死ネェェェェエエエ!!!!」


 風を剣に溜め込んだギネヴィアはバルムンクを伴って、イリーナを狙って急降下していく。


 そして、着地。


 激しい嵐が吹き荒れる。木々や砂、石、そして人も塵のごとく吹き飛ばしていく。迅たちは地面に突き立てた剣にすがって飛ばされまいと踏ん張る。


 強烈な一撃。しかしイリーナは円状の何かを展開させて受け止めた。体が悲鳴を上げそうなほどの負荷がかかるが、イリーナにある精一杯を体全体に込める。


「これが、アタシのレシーブよ……! ナーディア!!」


 円状の何かが消えると、アスカロンが眩い光を放ち、イリーナはバルムンク目掛けて振り払った。


 すると、鼓膜をつんざく金属音とともにギネヴィアは熾烈な衝撃を身に受ける。その威力で体周りに浮いていた円環は砕け、ギネヴィアは上空に高く打ち上げられた。手からバルムンクが離れ、宙を舞って地面に突き刺さる。


「な、ナーディア!!」


 高く打ち上げすぎて、落ちればこのまま受け止めきれない。そう思われたが、黒い影が宙のギネヴィアをさらって地に降り立つ。


「エヴァン……!」


 エヴァンが気を失っているギネヴィアを抱えていた。イリーナは体にダメージを負いながらも、エヴァンに歩み寄る。迅たちもイリーナを囲むように集まった。


「すげーな、イリーナ! なんだよ、あの技!」


 鉄幹が肘で小突いて称賛した。


「『水鏡の剣 アスカロン』。相手の攻撃を吸収し、それを自分の攻撃として返した、と言ったところか。見事だ」


 エヴァンがそう言うと、抱えていたギネヴィアをイリーナに託した。イリーナは最初こそバランスを崩しそうになったが、地面におろしてグッタリした妹の顔を見る。


 すると、ギネヴィアは目を覚ました。


「……。姉さん……」


「ナーディア……。よかった……!」


 イリーナはナーディアを抱きしめた。しかし、ナーディアは力なくだらんととして、口か

ら乾いた笑いがこぼれた。


「ははは……。ワタシ、もう諦めるよ……。ワタシは結局、姉さんには勝てないんだ……」


「何言ってるの? 17年だけでもう決めちゃうの? ナーディアはこれからよ」


 イリーナはナーディアの手を握る。しかし、ナーディアの手はまるで力が入っていないようだった。ナーディアは目に涙を浮かべ、声が震えている。


「違うの、姉さん。もう、無理なの……」


「だから、無理なんかじゃ……。?」


 優しく握っていたナーディアの手が滑るように落ちてしまう。




「手の感覚がないの……。もう、剣もラケットも握れなくなっちゃった……」




 沈黙し、思わずイリーナの口から「は?」という声が漏れた。


「やはり、無事では済まなかったようだな」


「エヴァン……、どういうこと……?」


「勇士戦役でレオもおそらく同じ術を使った。そして、奴は心を失った廃人となった。そいつの場合、腕の感覚を失ったというわけか」


「……!」


 イリーナが言葉にならない声を零して、涙を流した。


 迅がリディルの回復を試みるが、やはり動かせないらしい。


 イリーナは涙を流したまま何も言うことはなかったが、腕で涙を拭い去った。


「ナーディア、姉さんと一緒にテニスやめようか」


「姉……さん?」


「生きて帰ってきてくれただけでも、アタシはうれしいから。それに、人生はテニスだけじゃない。テニスを失っても、アタシたちの人生は終わらない。そうでしょ?」


「……。ありがと、姉さん。でも、姉さんはテニスをやめないで……」


「でも、アタシはナーディアと……」


「家族だから……。テニスだけで繋がってるわけじゃないから。ワタシはワタシの新しい人生を探すよ」


「……。ありがとう、ナーディア。大好き……」


 イリーナはまたナーディアを抱きしめた。













 集落は多大なダメージを受けた。ハウスや食べ物などはほとんどダメになり、生き残ったトリックスターたちが協力して仮設の住居などを組み立て始めた。


 熾烈な戦いから時間が経ち、日付が変わった。その頃だった。


 王都から馬車が来た。定期的に来る馬車ではなかった。馬車から出てきたのは、


「みなさん、こんな夜遅くに申し訳ございません」


 迅たちが出迎えることになったのは、学院Sクラスのパーシヴァルとアナスタシアだった。


「なんの用だよ? 今度はてめぇらが相手か?」


 鉄幹がメンチを切ったが、迅によって止められた。鉄幹の言うことは違うらしく、パーシヴァルたちからは敵意が感じられなかった。


 パーシヴァルが一息おいて、話し始めた。


「学院長を……、聖女シャウトゥを止めてほしい」






To be continued


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