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ソード・アンチノミー  作者: Penドラゴン
【12章】姉妹喧嘩
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【2-4c】止まらない憎悪

 19時。エヴァンが湖畔でクロエたちと話をしている時。


 採取班のハウスの外でイリーナはアスカロンで素振りをしていた。


「ふっ! はっ! せいっ!」


「おー、精が出るねー」


 その声でイリーナはアスカロンを地面に刺して素振りを中断する。


 声をかけたのはハウスから出てきたひかるだった。


「よっす、イリーナ! ハラショー!」


「ふふっ。夜の挨拶ならДобрый вечер (ドーブライ ヴェーチェル)だけどね」


「どーぶら……。ごめん、ろしあゴワカリマセーン……」


 二人は笑いあうと、ハウスの壁にもたれかかる。


「あー、ていうかごめんね。練習中だったんでしょ?」


「いいわよ。休憩も大事大事!」


 すると、ひかるはイリーナの腹部を見て、


「ていうか、腹筋すごいよねー。あんなでっかい剣振り回せるわけだわ」


「ええ、だいぶ剣にも慣れてきたみたい。ナーディアに負けてられないもの」


「ナーディア?」


「私の妹。今はギネヴィアって名乗ってるみたいだけど……」


「え!? ギネヴィアってイリーナの妹さん!? あー、確かに似てるかも……」


「あぁ、ひかるはギネヴィアに会ってるのよね」


「まぁ。あの時は学院長に操られてたっぽいけど……」


「……。ねぇ、ナーディア……、ギネヴィアがどんな子だったか、教えてくれる?」


「えぇっと、無理しなくていいよ。ナーディアはそうだなー。負けず嫌いって感じかな。アーサーとかに負けたら凄い悔しそうで、勝ったら涼しそうな顔してて……」


「そう……」


「イリーナはナーディアと仲直りしたいんでしょ?」


「えぇ……。でも、何故かアタシのこと恨んでるみたいでね……。それがなぜなのか分からないの……。これじゃ、姉失格ね……」


 ひかるはうーん、と唸る。そして、出した答えは、


「……。反抗期?」


「反抗期……、そうなのかしら……」


「イリーナも覚えない? 大人とかの言いなりが嫌ってやつ。でも子供じゃだいたい大人に敵わないでしょ。それがどうしようもなくなっちゃってワーってなっちゃうの」


「そうね。反抗期ならアタシにもあったけど。じゃあ、どうすればいいのかしら? わざと負けてもナーディアは納得しないでしょう?」


「そうだなぁ……。家族として受け止めてあげるしかないんじゃない?」


「家族として……」


 その時だった。集落の出入り口あたりが騒がしいことに二人は気づく。


「お、お前……! 何の用……、ぐあぁぁぁぁああ!!!!」


 野太い悲鳴が耳につんざく。その悲鳴を聞いたのか、ハウスから鉄幹やオルフェたちが出てきた。


「なんだ!? おい、イリーナ、センパイ。今の聞いたか!?」


「えぇ、入り口よ。行きましょう」


 先頭にイリーナ、その後にひかる、鉄幹、オルフェとついて行った。













 王都方面の入り口。迅たちとひかるたちが合流すると、そこに牛の頭をした魔族が赤黒い血を流して仰向けに倒れていた。獲物の斧が真っ二つに断たれている。


 その魔族を見下ろしていたのは、銀の短髪に白いケープを羽織った少女。


「な、ナーディア……」


「……」


 ナーディアは見ているだけで胸を切り裂きそうな鋭い目つきでイリーナたちを無言で見据える。


 さらに、体から緑色のオーラが立ち上っていた。


「なんだ、ありゃ……?」


「あれは……、なんだ……? 見覚えが……」


 鉄幹やエヴァンが異様なオーラに戸惑っていると、ナーディアは大剣を振り上げる。刃に緑色の風が纏いはじめた。


 イリーナは正面でナーディアに訴えかける。


「ナーディア!! やめて!!」


「ナーディアじゃないっつってんだよ!!!!」


 怒りと憎しみを込めてナーディアもといギネヴィアは剣を振り下ろした。


「ティルフィング!!」


 おのおの左右に散り、一歩遅いイリーナに向けてオルフェが風の球をぶつけると、イリーナは吹き飛ばされ、斬撃から免れた。


 風の刃を纏ったギネヴィアの斬撃は、駆けつけたトリックスターたちやハウスの石の塀すら吹き飛ばした。


 起き上がった迅たちは霊晶剣を引き抜いて、ギネヴィアに向かう。


「眠って! 布都御魂!」


 ひかるが剣から白い光の渦をギネヴィアに当てる。しかし、体から立ち上るオーラが術をかき消してしまった。


「うそ……!」


「効かないんだよ、裏切り者!!」


 ギネヴィアはひかるに襲いかかったが、


「先輩!!」


「させるかよ!!」


 前にデュランダルに持ち替えた迅と鉄幹が出て斬撃を防ぐ。しかし、風を纏った斬撃に耐えられず、弾き返され、続いてギネヴィアの連撃が二人に迫る。


「だめーーーー!!!!」


 クロエの叫びとともに岩の壁が現れ剣戟を阻む。岩の壁は二度目の斬撃で容易く砕かれた。


「甘い!」


 するとエヴァンが背後に素早く移動し、斬りかかる。しかし、


「うあぁぁぁぁああああ!!!!」


 ギネヴィアが雄叫びを上げると纏っていたオーラが強くなり、エヴァンの斬撃すら弾き返した。


「貴様……、同胞を手に掛けた報いは軽くないぞ」


「うるさい……、お前らが……、ガヴェインを殺したんだろうが……!」


「ガヴェインって、あのいけすかねぇ奴か!? 俺たちが殺したってなんだよ!? 知らねぇぞ!」


 鉄幹と同じく、迅たちも知らない風だった。


「いいや、もうこの際誰が殺したかなんて関係ない……!! お前が、お前たちが、邪魔で、目障りなんだよ!!!!」













 青い月の光が差しこむとある一室。


 壁一面に鉢に植えた細い幹の木が置いてある。木の丈は大人の膝くらいのものがあれば、大人の頭に達するほどのものもある。


 シャウトゥはそのなかの一つの前に立っていた。シャウトゥの目辺りまで丈が成長している木だ。鉢にはアバロン文字で『ギネヴィア』と書かれている。


 その木から緑色のオーラが立ち上っている。そして、枝の一つに今まさに開こうとしている蕾が一つ。


「さぁ、今こそ目覚めましょう。この世界の、あなたの秩序のために戦いなさい。それが、あなたの『宿命』なのだから……!! ふふふふふっ!!」


 シャウトゥが嬉々として見守る木のオーラは勢いを増し、部屋が緑一色に照らされ、緑色の花が開いた。













 ギネヴィアのオーラは眩く激しさを増す。オーラの圧を前に迅たちは剣で防ぐ。


 オーラが収まると中から現れたのは変わり果てた姿のギネヴィアだった。


 緑色のスキンの上にバルムンクと同じ黒鉄の甲冑を纏い、肩周りに黒鉄の円環が浮き、ギネヴィア自身も地面から浮いている。


 その姿にイリーナたちは圧倒される。


「ナーディア……? いったい何を……」


 ギネヴィアの体に緑色の電流のようなものが走り、その度に苦痛に歪んだような顔をする。


「グッ……! ググゥ……! 殺ス……! 死ネ……! 死ネェェェエエ!!!!」


 ナーディアは狂ったように叫びを上げ、イリーナたちに向かって大剣を荒く振り下ろす。嵐のような風圧の球を放ち、一つのハウスの前に着弾すると、建築物が破壊され石や木片の塵と化す。中にいた人間や魔族も外に投げ出される。


 ナーディアは衝動に任せ、ところ構わず風圧の球をぶつける。


「ナーディア!! 落ち着いて!!」


 アスカロンを握ったイリーナはギネヴィアに斬りかかった。しかし、容易く受け止めて弾かれてしまう。


「くっ……!」


「イリーナ……! 姉サン……! イリーナ!! 死ネ! 死ネ!!」


 すると、エヴァンが翼を使って滑空し、ギネヴィアに向かっていく。エヴァンの剣戟をバルムンクでガードした。


「おい! 今すぐ術を解け! さもないと、お前もただではすまんぞ!!」


「グガアアァァァァアア!!!!」


 ギネヴィアの振り落としを受けたエヴァンは耐えられず、後方に飛ばされた。


「エヴァンさん!」


 迅とイリーナが駆けつけ、迅のリディルでエヴァンは治療を受ける。


「かすり傷だ。余計な力を使うな」


「ねぇ、ただではすまないってどういうこと?」


 イリーナが迫るように聞くと、エヴァンは立ち上がり、頭を抱えながら剣を振りかぶるギネヴィアを見据えながら答える。


「思い出したのだ。あの力は、レオが魔王を倒したときに使っていた術だ。終戦後、レオは廃人となった。あの娘もこのままでは何かを失うぞ」


「そんな……! ナーディアが……」


「でも、強すぎます。あなたでも苦戦するなんて」


「あの娘が何に覚醒したかは分からん。だが、所詮は霊晶剣を源にしているはずだ。剣を無力化すれば或いは救えるかもしれん」


「わかりました。それなら……。ダーインスレイヴ!!」


 迅がダーインスレイヴの鎖で剣を捉えようとするが、圧倒的な力に鎖はあっという間に砕け散ってしまう。


「拘束も効かない……。どうすれば……」


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