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ソード・アンチノミー  作者: Penドラゴン
【8章】終わりの始まりへ
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【1-8c】幻影 躾(しつけ)

「う……、あっ……! うあぁぁぁああ!!」


 迅は叫びを上げると、鉄幹やひかるが衝撃で吹き飛ばされ、迅のその身は黒い焔に包まれた。


「フウゥゥ……!! ウ、アアァァ……!!」


「照木くん……?」


「迅……!?」


 迅は右手に現れたストームブリンガーを手にシャウトゥへ向かって行く。シャウトゥは手から現れた植物を束にして剣を作り、迅の力任せの一太刀をなんでもない顔で受け止めた。


「あなたを虐げていたのも昔の話。だけど、年月経ってもあなたは、相変わらず煩わしい……」


 シャウトゥは軽く剣を捻り、弾き返した。仰け反る隙をつき、頭を鷲掴みする。黒い焔など意に介さず。


「グッ……!! グガァァアア……!! コロス……! コロス……!! キサマワ……!!」


「悪い子には、躾が必要ですね。身の程を知りなさい」


 迅を掴む手から植物が現れ、迅の体を飲み込むように侵食していき、やがて焔もストームブリンガーごと消え去り、その場で倒れた。


「テメェ!! 迅に何しやがった!!」


 憤る鉄幹に問い詰められても、シャウトゥはクスクスと笑い、


「大丈夫です。命は取りません。この子には身をもって知ってもらうだけです。自分が何者なのかをね」


「……。学院長が照木くんのお母さんってどういうことですか……? あなたは、100年前の英雄で、100年も生きていて……。信じられるわけが……」


 ひかるが戸惑いながら尋ねる。


「あなたと同じですよ。時空すら干渉するセフィロトの前に地球の常識など、役に立つわけないでしょう? ねぇ、オルフェ教官?」


 シャウトゥはオルフェに話をふられ、思考するとハッとするが、とても信じられないように驚愕する。


「ひかるくんが半年前のアバロンに来た。では、あなたは……、100年前のアバロンに来たと言うのか!?」


「な!?」


 根拠もない仮説に過ぎない。しかし、鉄幹を始めとした誰もが驚愕してしまった。あり得る話だと。それをシャウトゥは微笑みで肯定してしまう。


「そして、それから100年も生きながらえているのは、そいつのおかげか? 霊晶剣ミスティルテイン」


 魔王がシャウトゥの植物でできた剣を指す。シャウトゥは両手を広げ、諭すように言う。


「剣は迷える私を導きました。そして、私は新たに誓ったのです。今度は私が自らの業を捨て、トリックスターたちを導くと。誰も傷つかない、新たな迅を生み出さない、確固たる秩序を。絶対的な平和を」


「ほざくな!! 魔女がっ!!」


 魔王が一瞬にして憤った。他の皆も魔王に向く。


「そのための犠牲は見ぬふりか!!? この世界は……、ネイティブを……、ローリたちを苗床にした造花の箱庭だろうが!!!!」


 シャウトゥは憤る魔王にむけ、憐れみの眼を向ける。


「なんて憐れな人……。あなたは、まだローリの死を振り切れていないのですね。過去に囚われることになんの意味があるのですか? ローリはいつもあなたと戦っているというのに……?」


 シャウトゥの言葉を受けると、魔王は目に見えないスピードでシャウトゥに迫り容赦ない剣撃を打つが、シャウトゥは簡単に受け止めてしまう。魔王はひかるに振り向き、


「女! ひかると言ったか! コイツを目覚めさせろ!」


 顔で植物に侵食された迅を指す。


「私が……!?」


「コイツは精神操作を受けている。シャウトゥの手に落ちる前に……! 早くしろ!」


 魔王が要請すると、ひかるは迅に駆け寄ろうとする。しかし、どこからともなく現れた植物の蔦がひかるに向かって伸びていく。


「いやっ!」


「させるかよっ!」


 そこに鉄幹が入ってきて、炎を纏った剣で蔦を斬り裂く。


「オレからも頼む……! 今度はアンタが……迅を助けてやってくれ! いつかのは謝る!」


 ひかるは鉄幹のお願いに頷き、迅の側に寄って霊晶剣を引き抜く。顔の前に剣を掲げ、白い光を発する。


「布都御魂よ、お願い……!」













 青空が広がっていた。雲一つない快晴。眩しくて少し暑い。肌を撫でる風が心地いい。


 起き上がると、そこは草原だった。風が草原を波立てていく。


 腹が収縮する。腹の虫が鳴ると言うのか。


「うぅ……、腹減ったな……。どこか町はないのか……?」


 キョロキョロ見回すと、遠くの森の中に木で作られた柵が見えた。集落のものそっくりだった。


「なんだ? 戻ってきたのか……? いや、腹ごしらえが先だな……」


 腹を押えて集落まで足を急がせた。


 集落について、キョロキョロ見渡す。男の人がいたので声をかける。


「すみませーん……。あの、申し訳ないんですけど……」


「うわあぁぁぁぁああ!!」


 男の人は血相を変えて逃げて行った。


「え? ちょっと……!」


「きゃあぁぁぁああ!!」


 振り返ると、女性がフルーツを乗せた籠を投げ出して逃げて行く。


「えぇ……? どうしたんだ……?」


 ふと、地面に転がったフルーツを見て、口の中でヨダレが分泌される。あの女の人の落とし物だ。しかし、


「うぅ……。ごめんなさい……!!」


 落ちたフルーツを拾ってがっつく。口に甘い味が広がって、満たされていくような、しかし、もっと食べたくなり、落ちたフルーツをすべて平らげてしまった。


「うっ、なんか水がほしいな……」


 しかし、周りを見渡すと人がいない。いや、いることはいるのだが、物陰に隠れてこちらの様子を覗っている。


 家に入って台所まで借りるのは気が引けて、近くに湖があったのを思い出して歩を進める。


「なんだお前……! うわぁぁ!!」


「おかあさ〜ん!!」


「誰かっ……! 誰かぁぁあ!!」


 出会う人皆そう言って逃げて行く。何がおかしいか分からない。それより、喉を潤すのが先だとかまわず湖に足を運んだ。


 湖に着いた。普通は手ですくって飲むのだが、なりふりかまわず、口を水面につけようとした。つけようとした。


「っ!? なんだ……、コレ……」


 水面に映し出されたのは、真っ黒な、狼のような深い体毛に覆われ、普通にしているはずなのに噛み付いてきそうな赤い双眸、隙間からヨダレを垂れ流す鋭い牙。


「なんだコレ……。なんだコレ……!!」


 手を見てみると、そこも体毛に覆われ、指先には鋭く長い爪が生え、右手には手の代わりに先が平らな剣の刃がついていた。


「化け物だぁ!!」


 背後にいた老人が叫ぶと、剣を持った青年がこちらに駆けてくる。


 殺意に満ちた目。殺される。


 目を瞑って不意に右手を突き出した。すると、温かい飛沫が身にかかった。恐る恐る目を開くと、


「あ……、あぁ……!」


 青年が刃に貫かれ、生気のない目をこちらに向けていた。刃からぬるっと体が抜けて、地面に崩れ落ちた。地面に血溜まりが広がる。


「あっ……! すみません……! 違う……、違うんだ!! 俺は……!」


 更に青年と同じ仲間であろう男女がかけつける。その中の女は青年の死体に駆け寄り、涙を流している。


「そんな……。子供の頃、約束したじゃない……。大人になったら結婚してくれるって……」


「っ!!」


 胸が苦しくなって押さえる。しかし、仲間たちは剣を抜いて襲いかかってくる。


「や、やめてくれ……!! こんな……こんなはずじゃ……!」


 殺されまいと自分に向かって振るわれる剣撃を必死になってかわす。


 青年の死体に跪いていた女が立ち上がり、剣を抜いた。そして、涙で腫れて、憎しみに満ちた目で睨む。


「お前が……! お前がぁぁああ!!」


 そう叫んで剣を振り回す。悲痛な叫びを上げながら。


「返せ! 返せ!! あたしの彼を!! もっと色んなところに行って! 買い物して! ご飯食べて! 結婚して! 子供も作って! 幸せになるはずだったのに!! お前が!! お前が全部っ!!」


「あっ……! あぁあ……!! うわぁぁぁああ!!」


 右手を振り下ろした。


 すると、女は倒れて、血を流しながら、倒れた青年のところまで這いずって、手に触れようとする。


「ごめんね……。でも……、あたしも行くから……。これで……、一緒……だね……」


 女はそれで事切れた。


「あぁ……! そんな……! 俺はただ……」


 それでも襲いかかる剣をかわしながら、近くの森の中へ逃げ出した。

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