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ソード・アンチノミー  作者: Penドラゴン
【7章】悲恋のアリーナ
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【1-7d】狂乱する舞台

 Gチーム対アーサー率いるHチームの試合は、瞬く間に終わってしまった。


 アナスタシアが放つ光の魔法数々。ギネヴィアの高い身体能力を活かした剣技の前に相手チームは圧され、トリのアーサーまたは『ジャンヌ』が出るまでもなく終了した。素人目で見ても彼らの『強さ』を誰もが実感した。


 迅たちはランチを取るも、緊張でクロエとオルフェ以外はあまり手がつけられなかった。クロエがふる会話も弾まない。そのランチの最中、


「みっなさーん! ハロハロー!」


「元気がない。お葬式の帰りみたい」


 学院のあの双子だった。


「あ、あぁ。えっーと、双子の……」


「ムーっ! アタシはティエンだよっ!」


「ワタシはユエ。それより、アーサーから手紙」


 妹のユエから紙切れが渡される。迅が取って見てみると、アバロン文字で名前が書かれていた。


「『次の試合は、ジャンヌ→ギネヴィア→アーサーの順で出る。そちらにも事情があるだろうから、これを見て次の順番を決めてくれ。アーサーより』か……」


「テメェはトリかよ……。いけすかねぇ野郎だ……」


 そう言う鉄幹の表情は険しい。双子はそそくさとその場を踊るように立ち去って行った。そんな双子のことは目もくれず、迅はただ紙切れを見据えている。


「先輩が、一番手……」


「ジン……」


 イリーナが顔を覗うと、思いつめたような表情をしていた。イリーナは一息吐いて、迅の背中を叩く。


「ジン、行くんでしょ?」


「……。うん……」


「だが、ジンくんは確か気絶しなければ剣を使えないんじゃなかったかな?」


「先輩と会って話すだけです。終わったら棄権しますので。いざというときには……」


 オルフェが疑問を呈すると、迅はブレザーの内ポケットから瓶を取り出す。


 赤い液体は、この世界に実る『ザイカ』という真っ赤な果物の果汁であることが分かり、いつかの採取で取ってきた物から新たに抽出した。ザイカそのものからは強烈な臭みが漂ってきて、飲めば気絶するのも頷けた。


「それしかねぇよな……。で、どうやって元に戻すかだよな……」


 鉄幹が疑問を言うと、オルフェが少し考えて、


「私から審判たちに説明しよう。それをまた飲ませればいいね?」


「はい……、お願いします……」


 試合の段取りはそれで決まった。後はその時を待つだけとなった。













『さぁ、お前ら!! トイレは済ませたか!? 飯は食べたな!? 準決勝第2試合、覚悟はできたかーー!!!!』


 テンションが高い女性アナウンサーの煽りに歓声が湧いた。


『準決勝第2試合は、学院生たちを制した未知なる挑戦者たちFチーム! 対するは圧倒的な力の差を見せつけた学院最強のHチーム! この試合は分からない!! お前ら! 席を立つなよぉ!!?』


 迅たちは入場ゲート前で控えるが、迅は緊張で震えが止まらなかった。


 自分たちを見る無数の視線、そして今まさにひかると相対しようとする現実。


 鉄幹がそんな迅の背中を叩く。


「ギャラリーは気にすんな。あんなの目がついたカボチャだ。オレはそう思うことにしてる」


「それはそれで怖いけど……」


 迅は縮こまったままだった。それを見かねたイリーナがため息をついて、


「迅は強い!」


 大声で発した言葉に、迅は、鉄幹も呆気にとられた。目を丸くしている。イリーナに微笑んで、


「アタシがテニスに出るときのおまじない。『アタシは強い』ってお腹から声出すの。あと、ゲートを通るときは右足から入る。これで、負けたのは一回しかないから大丈夫よ」


 迅は口をパクパクさせながらも、大きく息を吸って、


「俺は大丈夫だっ!! ……」


「どう?」


「うん、だいぶ吹っ切れたかもしれない。ありがとう、イリーナ」


 イリーナに礼を言うと、迅はゲートの手前まで歩き、振り返って仲間たちに力強くサムズアップを見せつけた。仲間たちもサムズアップを返し、右足で歓声を浴びるアリーナに踏み込む迅を見送った。


 歓声は鳥の鳴き声。観客はカボチャ。そう言い聞かせて、闘技場のグラウンドに入り、リングの壇上へ登った。


 そこにいた。迅がこの世界に取り込まれ、知らぬ土地を迷走し、探し続けていた人が。伊吹ひかるが……。


「……? 先輩……?」


「……」


 ひかるの顔は目に見えて様子がおかしい。


 その目はどこを見ているのか、まるでこちらなど見ていないように目が虚ろで、口をぽかんと開けている。


「……。……くめぃ……。……ゅくめい……。わたし……わたしは……、……ャンヌ……、ジャンヌ……」


 一歩、ニ歩と踏み込む足取りはおぼつかないようだ。左腕に手を添えると、黄色い光が発せられる。


「……。布都御魂(ふつのみたま)


 光から抜き出したのは、七支刀のような形の霊晶剣だった。それを握る腕をダランと力なく下げる。


「先輩……? 先輩!! 俺です! 照木迅です!!」


「……。私は……宿命に……セフィロトに……選ばれた……ジャンヌ……」


 迅の言葉に一瞬も反応せず、ただブツブツとものを言うだけ。


 その様子は控え室の鉄幹やオルフェたちにもおかしく思えた。


「なんだ? 会ったときと全然ちげぇじゃねぇか」


「あれは一体……」


それは相手のアーサーたちにすらも妙に映ったらしい。アナスタシアやギネヴィアも訝しげにリング上を見据える。


「ジャンヌさん……? 具合が悪いとは思ってましたけど……」


「ちょっとヤバくない? これ、ちょっと止めたほうが……」


 会場もざわついている。


「なんだ? 始まらないのか?」「あの娘フラフラじゃない?」「あの眼鏡も早く剣抜けよ!」


『おおっとぉ、これは両者大丈夫かなぁ? ちょっと審判? 様子伺っちゃってください?』


 アナウンサーがそう声を発した瞬間。


「ふうううっ!!」


「っ!!」


 丸腰の迅に向かってひかるが斬りかかってきた。迅は寸のところで避けて、ブレザーの袖に切れ目が入る。


 ひかるは曇った目で迅の姿を捉えると、再び斬りかかってくる。


『な、なにぃ!? ジャンヌさん!? まだ始まりじゃありませんよ!? 審判! 止めて止めて!』


 アナウンサーが要請してリング外の大男が両者に近づくと、ひかるは剣を振り回すと、空間を歪ませるような波が襲って迅や審判の大男が当てられた。


「ぐっ……! ううぅぁ……!!」


 迅はそれを受けると頭を抱える。まるで黒板を引っ掻いた音のように鋭く耳をつんざき、脳を揺らし、それに耐えきれなくなった迅はその場に倒れ込んだ。審判も同様に気絶してしまったらしい。


 その余波を鉄幹たちや、相手のアーサーたちにも飛んできた。耳を塞いでなんとか気絶せずに済んだ。


「あの先輩、イカれてんぞ……!」


 それでも脳が揺さぶられて立つこともままならない鉄幹はリングの様子を見る。


 ひかるは倒れたままの迅にさえ剣を振りおろそうとしていた。


「ジン!!」


 イリーナが悲痛な叫びを上げると、今度は迅から風のような衝撃が吹き抜ける。立ち上がると、迅の体は黒い焔に包まれて、


「くっそ! アイツまで……!」


「ヒヒッ……! イヒヒヒ……!」


 フラリと立ち上がり、口を歪ませてひかるに斬りかかる。ひかるは剣を横にしてそれを防いだ。鍔迫り合いになり、両者の顔が近づく。


「オマェ……、タマシィ……!? ユガミガァ……?」


「……。宿命は……絶対……私は……宿命は……ジャンヌ……」


 虚ろな目のひかるは剣筋をひねらせて迅の剣を打ち返す。迅は荒々しい剣を振るい、ひかるは一切無駄がなく、しかし人形のようにカクカクとした動きでいなす。


 相手チームの控え室。その中のアーサーは耳を押さえていた手を離し、控え室を出た。


「ジャンヌ、やめろ!!」


 アナウンサーも異変を感じたらしく、


『ちょっとちょっと! 両チームの人たち! すみませんけど止めてぇ!! 私には手に終えな……。え? なに……? 空のアレ……。あわ……! 一体何ぃ!!?』


 アナウンサーがそう叫ぶと、その通り、空から紫色のオーラがリングに向かって勢いよく降り立った。オーラが渦巻き、その中心に人影が現れた。


 まるでドラゴンもののような翼をはためかせて。


「偶然にも、カードがここに揃ったな」


 リングに現れたのは赤い髪、紺色のローブ、左目は傷で塞がれている。


 その人物は胸のブローチを刺々しい銀のガントレットで触れる。


 すると、アリーナの観客席に取り付けられたアナウンスを流すポール状の結晶から声が流れてくる。


『聞こえているな、トリックスターども。我は魔王。魔族を束ね、この世界を開放する者だ! 矮小なる虫けらは、今ここで死すべし!』


 すると、アリーナの所々が破壊されるや否や、そこから人あらざる魔族の群れが姿を現した。アリーナ内に悲鳴が上がり、逃げ惑う人々。大会参加者や戦士たちが魔族と戦い、混迷に包まれる。


 控え室の鉄幹、イリーナ、クロエは迅たちと魔族たちの襲撃で戸惑うが、その中でオルフェが対処する。


「みんな、落ち着いて! 私と鉄幹くんは会場の魔物を! イリーナくんとクロエくんはジンくんたちの救出を頼めるかい?」


「はい! クロエ、アタシから離れないで!」


「うん……!」


「お前ら、迅を頼む!」


 そう言い合うと、各々控室を後にした。



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