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ソード・アンチノミー  作者: Penドラゴン
【7章】悲恋のアリーナ
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【1-7c】この戦いは前座だ

 闘技大会トリックスター部門はトーナメント形式で行われる。4人チームで行うチーム対抗戦で、試合は一対一の3回勝負で戦うことになる。チームは迅たちやアーサーたちのチームを入れて8チームが参加する。


 トーナメントの割り当てによると、迅たちがアーサーやひかるのチームと当たるには、お互い2回の準決勝まで勝ち上がればいいらしい。


 迅たちは入場ゲートで待機し、アナウンスによると、たった今前の試合が終了したらしい。


 迅はソワソワして腕を揉んだりしている。それを見た鉄幹が肩に腕を乗せる。


「なんでお前が緊張してんだよ。今回、お前は控えだろ?」


「いや、俺もチームの一員だし……。それに、クロエは大丈夫なのか……?」


 今回試合に参加するのは順にクロエ、鉄幹、イリーナとなった。もし、3試合中クロエと鉄幹で2勝を修めれば、そのまま勝ち上がることができる。


 クロエは不安がる迅に頬を膨らませる。


「なに? わたしが子供だから心配なの?」


「いや、それもあるんだけど……、クロエが魔法メインで戦うならやっぱり……」


「心配しないで。ちゃんと作戦は練ってあるから」


 イリーナがそう言うと、クロエと顔を合わせて「ねー!」と笑い合う。


「い、一体何をする気なんだ……?」













「さぁ、大会はまだ始まったばかりだぞぉ!! 続いてEチーム対Fチーム! Fチームは勇士学院外からの出場だ! お前ら! うたた寝してる暇はねぇぞ!!」


 テンションが高い男勝りの女アナウンスが鳴り響く。


 試合はアリーナの真ん中に設けられた石畳のリングの上で行われ、リングから出たり、武器の破損や選手の負傷等で戦闘不能になった場合に敗北と見なされるという。


 1戦目。クロエと相手の赤いケープの地球人のような男子生徒がリングに上がる。


 相手の男子生徒はクロエを見るなり、ブロンドをサラリと流して嘲笑する。


「相手は子供か……。舐められたものだね。ま、せいぜい遊んでやるとしようか」


「……」


 クールな男子生徒はレイピア型の霊晶剣を引き抜き、


「……。ママ……、大丈夫……。わたしも戦えるよ」


 クロエは一人静かに呟くと、カラドボルグを呼び出すと、試合開始の銅鑼が鳴る。


 相手の男子生徒は勢いよくクロエの間合いに走る。それと同時にクロエはオレンジ色の魔法陣を瞬間的に展開した。


「遅いっ!」


 相手がクロエの目の前で剣を横に振りかぶる。その瞬間に、


「落ちて……!」


「な!?」


 男子生徒の足元に穴が現れ、相手は叫びを上げてその中に消えていった。


「お、落とし穴……。古典的な戦法で来たね……」


 迅が苦笑する。


 リング上でクロエは穴を覗くと、相手は深い穴の底で尻餅をついていた。


「くっ……! このクソガキ……! ジョワユーズ……」


「カラドボルグ」


 男子生徒が剣を握り直したと同時に、目の前から鉄の棘が顔の真横に向かって突き出した。掠れて髪が少し切れる。


「ひぇっ……!」


「カラドボルグ! カラドボルグ!」


 クロエが次々と魔法を使うと、鉄の棘が次々と現れ、相手を貫かないスレスレの所を突き刺していく。男子生徒は慌てふためき、


「こ、降参だ……! だから止め……、ぎゃぁぁぁぁあああ!!!!」


 悲痛な叫びで降伏した。


「穴の中で一体なにが起こったぁ!? とはいえドロップアウトが出たぞ! 勝者はクロエ選手だぁ!!」


 アリーナからは歓声ではなく、ザワザワと騒然としたこえが湧き上がる。クロエはキョトンとした顔でアリーナを見回し、リングから降りると、控え室からイリーナが駆け出してくる。


「クロエすごい!! 勝ったんだね!!」


 イリーナから思い切り抱きしめられ、クロエは「えへへへ」と照れ臭そうに微笑んだ。その光景を控え室から迅と鉄幹は苦笑して見守る。


「何があったんだ……?」


「こっからじゃ……見えなかったね……」


 鉄幹はふぅと息を吐き、迅の横で準備体操をする。


「次はオレの番か。大会なんて縁がねぇが、ちょっくら行ってくっか!」


 2戦目はすぐには始まらず、クロエが魔法で手伝って相手の救出作業をしてから、またクロエの魔法で穴が埋められた。


 それからすぐに試合が再開され、鉄幹がリングに上がる。相手は前の男子生徒と同じ赤いケープを着た女子生徒で、頭から角を生やしている。女子生徒は鉄幹に指を指して、


「あ、この前落第した……」


「うっせーな!」


「なーるほど。でも、勝ち目はあるかもね」


「わりぃが、アンタも前座だ。ここで負けてやれねぇな」


 女子生徒はサーベル型の霊晶剣を抜き出す。鉄幹は左腕に手を添えて、


「行くぜ、クラウ……!」


 赤い光からクラウソラスを取り出して抜刀すると、始まりの銅鑼が鳴る。


「うぉぉおお!!」


 鉄幹が走り出して、女子生徒と剣撃を打ち合う。クラウソラスの刀身が黄色くなると、鉄幹は後退して一度鞘に納めた。


 その隙に女子生徒は魔法を展開して、周囲から複数の風の刃を生み出して鉄幹に飛ばした。


「ラハイヤン!」


「効くか!」


 自分に迫る風の刃を引き抜いた刀身で打払っていき、刀身が黄色くなるとまた納刀して女子生徒に駆けていく。


「せいっ!」


 女子生徒は地面を切払うと、風の刃が走り鉄幹に向かって走る。


「やっべ!」


 寸のところで鉄幹は横に転んで受け身を取り、これをかわした。その隙を見逃さず女子生徒が鉄幹に斬りかかる。


次々と襲う斬撃を鉄幹は鞘で防ぎ、上に振りかぶったその合間に横へ走り抜けて、背中に鞘で突きを食らわせると女子生徒はよろめく。女子生徒は舌打ちして、


「落ちこぼれが調子に乗って……!」


「わりぃが、今のオレはSクラスにも負ける気がしねぇ!」


 そう言い捨て、鉄幹は抜刀すると足元をなぎ払って刀身を黄色くすると納刀して腰を落とす。女子生徒は緑の魔法陣を展開して、大気の塊を放った。


「ラハイヤンっ!!」


「クラウソラスぅ!!」


 鉄幹は鞘の引き金を引いて剣を斬り抜いた。巨大な赤い炎の刃が大気の塊を受け止め、斬り裂いて女子生徒へ向かっていく。


「はっ……! いやぁぁああ!!」


 女子生徒は横に身を投げて交わすが、刃の余波に圧されて剣を手放してしまう。


 炎の刃は塀を焼いて、周囲の観客たちがわらわらと逃げ出す。


 相手の女子生徒は起き上がって剣を見つけるが、先に鉄幹が拾ってリングの場外に投げ捨てた。


「あっ……!」


「これで終わりだろ?」


 女子生徒が俯くと歓声が湧く。


「Eチーム、これでは戦闘続行不可能! テッカン……、テッコン選手の勝利!」


「テッカンで合ってるわぁ!!」


 鉄幹が客席に向かって叫ぶ。


「これでFチームが3戦前で2勝を収めました! よってFチームが準決勝進出決定だぁ!! とんでもないダークホースの登場だぞ!! 見逃すなよぉ!!」


 アナウンスが煽り、歓声とどよめきが混ざるアリーナ。リングを降りた鉄幹は手を上げた迅とハイタッチする。イリーナは鉄幹の背中を叩いた。


「やるじゃん、テッコン選手!」


「なんだよテッコンて……。締まんねぇなぁ……。でも、これで米原たちと当たれんだろ」


「あっちのチームが勝てばだけどね」


 イリーナがそう言うが、本心ではチームの誰もがアーサーたちが勝ち上がるのを予想しているだろう。神妙な面持ちでアリーナから立ち去った。













「Aクラスを圧すなんて、やっぱり只者じゃないな……」


 アーサーがそう言うこの観客席は、個室となっている所謂VIP席で、ガラス窓から試合を観戦することができる。その両隣にギネヴィアと『ジャンヌ』が試合を観ていた。


「……。アイツは結局出なかった……」


 ギネヴィアが睨むように窓の向こうのアリーナを見やる。


「準決勝で当たるんだよな? じゃあこっちの順番を教えておこうか」


「その前に次の試合通過しないとじゃない?」


「心配ない。俺たちなら越えられる」


 VIP席の扉を青緑の髪の双子が開けてきた。


「アーサー。そろそろ出ないと」


「はやくはやくー! アタシたち待ちきれなーい!」


 急かす二人にアーサーとギネヴィアは振り返ってVIP席の個室を出ようとする。アーサーは後ろを見ると、誰もいない部屋に一人、『ジャンヌ』がまだ窓の外をボーッと見据えていた。


「ジャンヌ?」


「……。ねぇ、アーサー。私って『ジャンヌ』なんだよね……?」


「ん? 当たり前だろ? 記憶がないの、まだ気にしてるのか?」


「だって……! あっ……」


 不安にかられる『ジャンヌ』の頭をアーサーは優しく撫でる。


「昔がどうだろうと、俺たちは仲間だ。世界のために戦える今がある。それでいいだろ?」


「……、うん」


 晴れない顔で頷き、アーサーは先に部屋を出た。そして、中には誰もいなくなる。その中で、『ジャンヌ』は頭を押さえて跪いた。視界が歪んで、耳鳴りがする。


 頭に霞がかかりながらもビジョンが浮かぶ。


 神社。学校。保健室。


 そして、手を差し伸べる男の子の影。




『先輩!』




 誰かの呼ぶ声。その声に手を差し出すと、その手を握る者がいた。


「まだ、迷っているの? 『ジャンヌ』」


 優しい、しかし耳にまとわりついて、頭の中を弄るような声。


「学……院ちょ……」


「あなたはセフィロトに、この世界に選ばれた光。その宿命を忘れてはいけません」


「でも……、でも……。うぅ……、てるき……くん……!」


 足元をふらつかせながら、首を横に振る『ジャンヌ』。


「過去を振り切らなければ、前に進めません。あなたを悩ませる過去があると言うのなら」


 『ジャンヌ』の手を握る白い手から、植物の蔦が現れ『ジャンヌ』の手を伝い、やがて全身を覆うように伸びていく。


『私が食べてあげますね』


「あっ……! ぁあああああぁぁぁぁあ!!」

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