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柿の木の下で眠る君へ

作者: 砂上楼閣

もう数年も前のことです。


家で10年近く世話をしていた子が老衰で逝きました。


その日、朝から妙な胸騒ぎを感じていたのを覚えています。


昼頃、私は仕事先であと一歩で命を落としかねない状況から奇跡的に生還しました。


すぐに家族に連絡し、週末に実家に帰った私を待っていたのは冷たくなった、私が世話をしていたあの子。


母が言うには、私が連絡する数時間前、ちょうど私が死にかけたその時間帯に息を引き取ったのだそうです。


その時感じた思いは未だに忘れられません。


数年経って、ようやく言葉にできました。

ごめんね、一言きみに謝りたい。


実家に顔を出すたび、どんどん弱っていく君に気付いてた。


前みたいに鳴かなくなったし、ご飯も残してた。


羽もだいぶ抜けちゃったね。


日差しの当たる場所でじっとしてた。


もう止まり木に上がることもできなかったのかな。


なんだか一回り小さくなったみたいだね。


もともと私の両手で包めるくらい小さかったのに。


ケガをして、飛べなくなって、そうして私のうちにきて。


君は一度だって私の手から直接ご飯を食べてはくれなかったね。


そっと手を伸ばす私から逃げて。


飛べないのに、飛ぼうとして、転んで。


両手で包むように持たないとすぐ暴れて。


君のおうちを掃除するにも一苦労だったよ。


けど、もう君は鳴くことも、逃げることも、暴れることもしないんだね。


あんなに温かかった君は、こんなに冷たくて、軽くなった。


初めてなでた君の体は、すごく、作り物みたいだった。


どうして私は君の最期に立ち会えなかったのかな。


「また来週ね」なんて。


なんでもっと話しかけてあげなかったのかな。


近くにいてあげられなかったのかな。


どうして連れて行ってあげなかったのかな。


せめて最期だけは私がそばにいてあげたかったな。


君の軽くなった体を私のタオルで包み込む。


玄関を開けてすぐそこの、君がいつも見ていた古い柿の木。


その根元に穴を掘って、君を寝かそう。


ご飯と水、おもちゃも一緒に。


さようなら、ごめんね。


ありがとう、またね。


行ってきます。

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