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お前を失うのならば鬼になろう(馬4)  作者: 蔵前
二 お祖母ちゃんには時々電話してあげよう
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安否確認したいだけというけれど

 お気に入りの坂下にまで叱られて、目をフクロウのようにまん丸にしている玄人は、坂下に尋問される身の上にまで落ちた。


「玄人君、ちょっといいかな。お婆ちゃんが秘密って言うけどね、とにかく、今すぐ島田さんの連絡先だけでも教えてもらえないかな。ね、大事なお話があるの。」


 まるで迷子の幼児に語りかけるようだ。

 玄人は百六十センチの身長に華奢で童顔なせいで十代の少年にしか見えないが、れっきとした成人だという事を忘れていないか?


 ただし、外見と違わず馬鹿だ。

 危ないからと匿っていたのに、ゲーム展に行きたいと女装して出かけた馬鹿だ。


 だが、馬鹿でも女装しても誰も彼を責めないのは理由がある。

 真っ白な肌に黒髪に縁取られた顔は完璧な卵形の輪郭で、そこに大きな黒目がちの瞳が輝き、その美しく大きな瞳は長く濃い睫毛で覆われているという美少女顔のため、彼は女装した方が可愛いという哀れな特質があるのである。


 俺は俺が保護している馬鹿の顔を今一度眺めて、無意味に美少女顔な彼の額や目元に黒々と未だに残る打撲の痕に大きく溜息をついた。


 少女どころか無抵抗の人間そのものにしか見えない彼は、常に人の暴力を身に受ける不幸までも背負っているのである。


「ねぇ、玄人君。教えてくれるかな。」


「あの、でも、おばあちゃんが。」


 玄人はおどおどしながら坂下に答え、そして、「どうしよう。」という声が聞こえるほどの顔つきで俺に視線を投げかけ始めたのである。


 実は以前に玄人から島田の連絡先を俺は聞き出して知ってはいたが、島田の連絡先を俺が勝手に坂下に伝えられる筈は無い。

 坂下に詰め寄られている玄人に助け舟を出すべきか逡巡していると、彼は眉間が陥没するほどに眉根を寄せた困った表情をつくり、そんな情けない顔で俺をじとっと見つめ続けているではないか。


 彼は困ると俺に全てを放り投げる習性であったと思い出し、それでも「咲子との約束」を玄人に無碍にさせられもしないと、俺は再び溜息をついた。


「坂下さん。玄人の大事にしている親族の情報なんです。連絡先を知ったとしても、それはあなたまでで絶対に留めてもらえますか?」


「えぇ、勿論です。約束します。」


「そりゃあ、約束するよね。極上の情報を独り占めだもん。」


「うるさい!かわやなぎ!」


 俺は子供のように茶々を入れて坂下に子供のように叱られている楊を眺めながら、彼が自分が仲間外れとなるのをとても嫌がる性質だったと思い出し、三度目の大きなため息を吐く羽目となった。

 楊は俺の知っている島田以外の情報を自分も欲しがっていたのだ。


「わかった。クロ、電話番号はこのまま誰にも教えない事にしよう。」


「えー、ケチ。百目鬼は知ってるくせによ。」


 坂下ではなく楊が抗議の声をあげていたが、坂下は俺に殺意の籠った視線を向けるのに一生懸命なのだから仕方が無いだろう。

 俺は面倒な警察官達におもねることをやめて、彼等の上位に立つことに決めた。


「事情を話して咲子に聞いてみたらどうだ?」


「そうですね。聞けばいいのですよね。」


 俺の言葉に玄人はウンウンと頭を大きく上下させて頷き、スマートフォンで祖母に電話を掛けはじめた。

 すると、坂下は殺意を消したばかりか俺を物凄い感謝の目線で見つめてきたではないか。

 坂下は楊よりも警察魂があった男であるようだ。


「あ、おばあちゃん。さっきはありがとう。それで、僕がお世話になっている警察の人がね、おばあちゃんが内緒にしとけって言っていた人達の安全確認をしたいそうで。おばあちゃん?」


 そこで玄人は面倒になったのか、おもむろに電話を坂下に渡した。

 それから床にぺたりと座り込むと、目の前の座卓にある自分の弁当をもそもそ食べ始めたのである。

 坂下は「え?え?」と訳もわからない様子でありながらも、玄人から電話を受け取ってその耳にスマートフォンを当てた。


「わたくし、神奈川県警の坂下と申します。」

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