闇取引の後には美しき癒しの君を想う
男の目の前の平坂は男に本当の意味で見下されているとも知らないのか、もったいぶった動きで男が差し出したアタッシュケースの蓋を占めて足元に置くと、代わりにそこに置いてあった男のものよりも小型の銀色のアタッシュケースを机の上に乗せ上げた。
「ご自分で蓋を開けてください。」
「小賢しい仕掛でも仕掛けていると思っているのか。」
「南部はどうでも、最初からこういうルールでしたよね。」
平坂は軽く舌打ちをすると面倒そうにアタッシュケースを開けた。
すると、札束が整列している中心にインゴットが二つも鎮座しているという、煌びやかな中身を見せつけたのである。
男は平坂に嫌味のように見せつけながら札束を数えだし、インゴットには傷をつけ、純金の本物であるかまで推し量った。
平坂はその嫌がらせに大きく息を吐くと、不機嫌な声を出した。
「全部、お前が言っていた通りの金額に純金だ。警察の手入れ前に食肉工場の職員と私の繋がりの証拠の処分の代金だ。処分ついでにあのデザートを申し出たお前が、そのメインデザートの確保を失敗しても、ちゃんと私は追加ボーナス分も値切ってもいないよ。お前と違って、嘘つきではないからね。ボーナス分の追加インゴットも入ったままだ。結局デザートが無いのであれば、それは返してもらおうか。」
平坂は左手を差し出し、しかし男は追加分を返す気は一切持ち合わせていないらしく、札を確認する手を止めて平坂を見返すと、ぱちっと右目を軽く閉じただけであった。
器用な男のくせにウィンクだけは下手糞なのか、左目までもつられているというそんなウィンクであった。
しかし平坂は映画俳優のような男の魅力に少々ハッとさせられ、そんなウィンクで誤魔化された自分を忌々しく思ったらしく、あからさまに大きく歯噛みをした。
「ふふ。デザートって、少量だから美味しいのでしょう。」
男はスーツのポケットから小さな保冷袋を取り出すと、中から小さなタッパを取り出して平坂の前に置いた。
机に置かれた透明なタッパの中には直系が五センチぐらいの小型のタルトが入っており、タルトは赤黒いジャムが飾られているものであった。
「立松が殺した時に採取したものです。血は固まりますからこんな感じで。」
「おお、おお。素晴らしい。」
「では、ひとまずこれで。」
報酬を確認しきった慇懃無礼に振舞う男は、ばちりと大きく音を立てて報酬の入ったアタッシュケースを締めるとそれを持ちあげた。
目の前の政治家に対して腹の底から軽蔑しているが、平坂は力があるからこそ自分の思惑通りに力を利用でき、また彼本人からは言い値での報酬を手に入れられるという二重に美味しい鴨なのである。
報酬として手に入れた重い小型の鞄を振り回すようにして書斎を出て、ようやく素晴らしい空気が吸えると彼は大きく息を吸い込んだ。
平坂家の本宅は都内でも広い敷地に、昔のチューダー様式と数寄屋造りを合わせた和洋折衷の屋敷が惜しげもなく立っている。
どこぞの屋敷を移設した歴史的な物らしいが、男は廊下を傷がつくほどの無造作で靴音を立てながら歩き、嘘つきな自分が玄人に関しては本心をいつもつい語ってしまうと自分を笑いあげた。
彼が笑い声をあげる度に、一歩進むごとに、廊下は暗みを増して、彼は闇に溶けていく。
しかし世界が完全な暗闇となっても、白く輝く彼が彼自身の灯りともなっているのである。
「こんなに輝く僕なのに、あの子はちっとも僕に揺らいでくれない。自信を喪失だねぇ。まぁ、浮気性だが貞操が固いってのは、堕とすのが一番楽しい獲物だけどねぇ。」
歌うように独り言をつぶやきながら、男はあの拷問室で痛めつけられていた哀れな青年、美少女にしか見えない彼を思い返していた。




