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お前を失うのならば鬼になろう(馬4)  作者: 蔵前
一 それ見つかったらアウトです会開催中
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新会員め

「坂下さんったら、ひどい。」


「ソレよりもさぁ、もしかしてクロト、お弁当は自腹を切るつもりだったの?」


 山口が口を挟んできたが、眉根を寄せている所を見るに、彼はちょっと怒っているようだ。


「気持ちは嬉しいけどね、一人だけで背負うって駄目だよ。それも自分よりも年下の子に無理はさせたくないよ。幾らだったの?払うよ。」


 葉山も山口と同意見の様だ。

 彼らは僕を思いやってくれているのだ。

 なんて彼らは優しいのか。


 楊達と違って、二人は僕と同じ二十代だから、きっと道徳も人の心を失っていないのかもしれない。

 そんな彼らに気を使わせないように、僕は内緒にしないでちゃんと真実を言おうと決意した。


「大丈夫です。馨おじさんにお世話になった人に贈りたいってお願いしたら、馨おじさんがタダで用意してくれたのです。はじめてだねって凄く喜んでくれて。その上、僕はお弁当分おばあちゃんから稼いじゃったんで、丸まるお小遣いゲットです。」


「あ、そうだった。忘れていた!」


 ガッツポーズで答えた僕に坂下の声が被さり、僕がなんだろうと彼を見返すと、坂下の顔が思いつめた真面目な表情に変わっていた。


「どうかしましたか?」


「紅茶友の会の会則の約束を覚えている?」


 幼い僕が作った紅茶友の会は、新会員を会員になったお祝いに、新会員が望む場所で会長がお茶を振舞うというオプションが付いている。

 常に会員達は花房で花房馨のスペシャルコースを堪能する方を選んで来たのだが、坂下だけは僕が全部もてなせる茶会を望んでくれたのだ。

 あとは、坂下が望む場所を僕に伝えるだけなので、僕はようやくその日が来たのだと彼を見つめ返す顔には期待の眼差しで輝いているだろう。


 我が武本物産と親族会社である長柄運送の社長夫人である長柄由紀子が会員を選抜するのだが、彼を入会させた由紀子の目はさすがである。

 彼女の陶磁器に対する審美眼は素晴らしいものであり、長柄の仕事に一切関知せずに入り婿と息子達に全部押し付けて、武本物産で陶磁器を担当しているだけあるのである。


「俺は島田正太郎に会いたい。」


「ごめんなさい。正太郎爺ちゃんは駄目です。」


 坂下が目をギュッと瞑って、指で鼻の付け根を掴んでいる。

 どうした?


「どうして駄目なのかしら。坂下があなたに頼んでいるのは理由があるの。」


 島田正太郎とは、西の大きな回船問屋から成った島田グループの前会長だ。

 老齢からの体の衰えで会長職を引退した今は悠々自適の隠居生活だが、葉子が言うには、そのせいで誰も連絡がつかないのだという。


「この間の橋場を襲った事件の主犯の顔が、島田正太郎の四男であるたもつに似ていましてね。俺は島田家の安否確認をしたいのです。」


 坂下は新会員の特権迄使っても職務を全うしたいという、真の正義の警察官だったのだ。


 本当の橋場の子供である樺根真を殺した峰雄は、逃亡のために整形して別の顔になっているらしいのだが、その人物と接触した人々の証言を元にモンタージュを作って見れば、島田保と同じ顔だという。

 ちなみに良純和尚もその人物と会っていた。

 良純和尚はだからこそ犯人が潜むホテルへ楊と共に出向き、犯人の起こしたホテル爆破に巻き込まれてしまったのだ。


 ホテルは真のものであり、峰雄は真から全てを奪い去りたかったのだろう。

 自分こそ真が授かるはずだった橋場峰雄という名前も、十四年間の家族の愛情も奪っていたというのに。

 その後だって、橋場の家にはいられなくとも、橋場からは金銭的な援助も愛情も受けていたはずなのに。


 橋場家は非常識なほど愛情深い家だというのに、どうしてそこで満足しなかったのか。


「それで、いいかな?島田正太郎に俺を会わせてくれるかな。」


「でも、広子お婆ちゃんが。」


「彼女も一緒ならば、尚更いいじゃないか。」


「えぇ!広子お婆ちゃんは咲子の姉ですよ。姉という事はバージョンアップしているんですよ。咲子よりも温和そうですが、広子はそれ以上の女ですよ。島田家がみんなして船であちらこちらに出かけて消息不明なのは、広子に捕まらない為という噂もある程です。」


 坂下はあからさまにがっかりと俯き、僕は自分の臆病さに申し訳なさだけが勝っていた。


「ごめんなさい。あとでお爺ちゃんに元気か聞いておくから、それでいいでしょう。」


 坂下はがばっと顔を上げると僕を叱った。


「電話連絡が簡単にできるのなら、早くそう言ってよ!」


「だって、お婆ちゃんが秘密にしていろって。」

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