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浄霊
空気の塊?風?とにかくゴウゥって感じで空間が押し寄せ何もかも拭い去るような感覚はわかった。
この風に、良純和尚の起した風に吹かれてパァって消えれるなら、なんて小気味良いだろう。
僕は晴れ晴れとこの世を去れる。
「クロト!」
山口の抱く腕の力が強くなり、僕の感覚は元に戻った。
つまり、……僕は死んでいない!
後ろを振り向いたら、死神がまだ残っていた。
僕のお面は剥がれていたけれど。
「消えていない。これ、玄人の死神じゃない。」
僕をきつく抱きしめたまま山口も死神に振り向く。
「こいつは何者だ?」
お面の剥がれた黒い人型は、真っ黒いくせに口角が上がったのをなぜか認識させた。
「残念。」
それは消えた。
良純和尚に祓われたのではなく、勝手に去っただけだ。
彼に本当の名前を呼ばれなかったから。
「おい、お前ら。そろそろ帰るぞ。こん馬鹿共が!」
父親のように叱りつける良純和尚に、僕達は顔を見合わせて涙顔で笑った。