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お前を失うのならば鬼になろう(馬4)  作者: 蔵前
十八 さあ叫べ、停滞した世界を破壊するのだ
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インナーイメージ

 俺達に声かけた男はそれなりの高齢であり、首から下げたネームプレートには栢山かやまと書いてあった。

 彼はあからさまな視線で俺と楊を交互に見比べており、僧侶の姿の自分がそんなに怪しく見えるのかと自分を見下ろしたほどだ。


 そういえば、俺をいじめる四人の高齢の女傑、俺がババーズフォーと影で呼ぶあの面々が、民生委員やら元教員やら町医者やら地主で音大出のピアノ講師とやらであった。

 彼女達が近隣の学校関係に顔が利かないはずが無い。


 腐れ坊主と彼女達に名高い俺だ。

 彼女達から近隣の小学校などに、俺が不審者だというお触れでも出ていたに違いない!

 畜生!

 俺に猫洗いをさせておきながら!


「すいませんが、あちらの受付で訪問日時とお名前をご記入の上、訪問者カードを受け取ってから入館していただけますか?」


 栢山が手ぶりで示した先には小さな机が置かれており、そこに開かれた大学ノートと紙箱が乗っていた。

 恐らく紙箱の中には、彼が言う訪問者カードが入っているのだろう。


「あぁ、失念していてすいませんでした。子供の為に学校の下見をさせて頂こうと思いましてね。」


 俺はそう言いながら楊を押し出した。

 僧侶の格好の俺よりも、スーツ姿の楊の方が子供のために学校を下見する父親らしいだろうという思惑であるが、楊はぴょこんと頭を下げた。


「息子です。」


「ふざけんな。何を勘違いしてやがる!」


 しかし栢山には受けたようで、彼は先ほどまでの敵意を一瞬で消し去ると、にこにこと笑いながら自ら俺達を受付にまで案内し始めたのである。

 受付にあった外来者名簿と言う名の大学ノートは開かれたままで、そこには山口の名前が書かれていた。

 だが、玄人の名前はそこには無い。


「すいません。この男は一人でしたか?」


 栢山は再び敵意を纏って尋ねた俺を睨みつけたが、俺の隣の楊が警察バッジを懐から出したことで、敵意を驚愕に変えたのである。


「身分を黙っていてすいません。私たちは犯罪被害者の青年の安全を確かめに参っただけです。」


「え。犯罪被害者?それで、彼はあんなにも辛そうで?あぁ、それでは、あの刑事もそれで彼と一緒にいて手助けをしていたのですか?」


「はい。関係も何も上司部下です。部下が保護している子を迎えに来ただけです。あの子は大怪我をしているから、日が暮れる前にお家に返してあげたいなぁって。あなたもそう思うでしょう。あんなに辛そうなのに、風邪まで引いたらって。まだこんなちっこいのに。」


 楊は栢山に話していく度にどんどんと言葉を砕けさせていき、最後には右手で子供の身長を測る様な仕草をしたが、自分の胸よりも下の位置に手を持ってきた時点でそれは絶対に玄人ではない。


「おい。あいつはそんなちっこくないだろ。」


「えぇ。うそ。俺のインナーイメージではこんな感じよ。ねぇ、あなただってそうでしょう。あの可愛い子をこれ以上怪我させたくないって、俺は心配で心配で。それで、どこかなぁ、あの子?どこに行ったのかわかる?」


 栢山はこんな楊に警戒を解いていいのかと俺が叱りつけたいぐらいに簡単に警戒を解き、あまつさえ、玄人と山口がプール場にいるとまで口にしたのだ。

 個人情報はどうしたと俺は憤りながら外来者名簿に記入をして、ノートの隣にあった紙箱からビジターカードを二つ取り出した。


 楊に手渡すと彼はそれを首に掛けるやプール場へと駆け出して行ってしまった。

 都内のプールは屋上設置が多い。

 例に漏れずこの四階建てのこの小学校も屋上がプールだ。


「畜生!ゆっくり歩こうや!」


「百目鬼はちびが心配じゃないの!」


 すでに二階に行ってしまっただろう奴の声と足音を聞きながら、楊は心配よりも玄人を見つけたら、タックルをしてでも次は逃がさない気なのだと確信した。


「あん馬鹿が!クロに乱暴したら許さないからな!」

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