表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お前を失うのならば鬼になろう(馬4)  作者: 蔵前
十四 掃除の確認
43/67

鬼の目にも

「火事を起こしたのは、警察でしたか?」


「さぁ、どこぞの金持ちの青年達が変なパーティで大騒ぎしていたから、それで、でしょう。彼等もこんな大火になると考えていなかったようですけどね。誰にも責任が及ばない、いや、立松の防災不備による不幸が重なった自業自得です。」


 そして、茫然とする俺に、髙は俺が何をどうしたのか一応聞きたいと言ってきた。


「俺は何もしていません。」


「もしも、できるのならば、あなたが奴らに何をしたのだろうか、僕に聞かせてもらえませんか。するべきことをし忘れていたく無いですからね。」


「え、それはもしかして。」


 髙は俺の表情の動きに俺が彼の言わんとしている事に気が付いたと確信したようで、表情は変えずに眉毛だけを軽く動かしたのである。


「あなたにお礼を言うべきでしょうね。」


「いえいえ、警察官が犯罪の証拠を隠滅したなんてありえないでしょう。仕事中に想い人の後を追いかけて職務放棄の上に大暴れした部下や、十数人の警備会社の猛者を後遺症が残る半死半生にしたと言い張る一般人なんて、僕の記憶にも警察の記録にも必要ありません。そんな証拠があるなんて、信じたくないですからね。掃除が完璧だったのか、確認しておきたいだけですよ。」


 俺はひとしきり笑った。

 髙が足元に戻って来た小さな犬を抱き上げると、片目のつぶれた犬は、彼の手の中で安心したかのように体を押し付けじっとうずくまった。

 もっと可愛がってと強請る様に。


「あなたは山口については甘いですね。まるで兄のように立ち回る。」


「あなたこそ。玄人君に対しては、相談役どころか完全に保護者だ。」


「ははは。その子と一緒ですよ。拾っちゃったのだから仕方がない。死ぬまで世話をして守るだけです。」


 俺の返答に髙は目元を柔らかくしたが、その後にやるせなさそうに大きく息を吐いた。


「昔に、子供の目の前でターゲットに殺された男がいましてね。殺した奴はそれで逮捕されて事件はお終いなんですが、父親を失ったその子は当時まだ中学生でね、身寄りがなくて養護施設行きでした。僕が事件の処理をして、そして、それっきりだと思っていたら再会しました。その子は、山口は、いつもニコニコしているだけの空虚な男になっていましたよ。相棒が殺されて、相棒の子供が身寄りが無くなったのに、僕は面倒だと彼が施設行きでも何もしなかった。面会にも行かなかった。僕が彼を壊してしまったのでしょうね。」


 髙に撫でられた犬はころりと簡単に膝に寝転び、撫でられる事にうっとりとしている。

 俺が彼の告白に何も返さない数分後、彼は再び口を開いた。


「――それで。」


「他にもありますか?」


 髙にはまだ告白があるのだろうと、俺は彼を促しただけである。


「――それで、あなたは誰にどんな暴力を振るったのでしょうか。もし、潜入していたとしていたら。」


「え、山口はもういいのですか?」


「もういいです。」


 髙はジトっとした目で俺を少々にらんだ。

 俺に何か言葉をかけて欲しかったのだろうかと考えながら、共感力のない俺が彼の考えなど読めないだろうと、わかりやすい彼の質問の方に答えることにした。

 思い出したくもない事だからこそか、俺は自分の中に詰まっているあの日の映像も記憶も全て吐き出してしまいたいとも考えていたのだから丁度良いと思ったのも事実である。


「俺はまず、玄人の居場所を聞くために、一番手近な駐車場に行きました。そこならば偶然手に入れた立松の制服を着た知らない男でも、違和感なく立松の人間に近づける。そして近づいた男達は偶然にもクロを埋める準備をしていたらしくてね、スコップやら、ブルーシートなどをバンの荷台に乗せながら下卑だ笑い声をあげていましたよ。」


「場面は次でいいですよ。彼等から玄人君の居場所を聞いてそこに駆け付けたのですか?直接に立松誠のいる事務所ですか?」


 俺は二度と穴を掘れない様に両腕の関節を外した上に関節を砕き、その痛みに苦しむ男達に玄人を拷問して置き去りにした場所を聞き出していた。

 その時にはすでに玄人が生きていないと認めるしかないセリフをその男達は吐いており、俺は我慢できないと無意識に手が伸びて、ごりって音に気が付けばおしゃべりな男達の顎関節を砕いていた。


「あぁ、向かった。クロに一直線だ。でもね、俺は遅すぎて、遅すぎたせいで、あいつは犬に振り回されたぬいぐるみのようにボロボロになって転がっていましたよ。あいつは、そこかしこがほつれて元に戻らない、ぐしゃぐしゃの。」


「百目鬼さん。」


 慌てたような髙の声に、あの日の記憶がはっと途切れ、俺の顔をまじまじと見つめる髙に違和感を持って頬を触れば、俺は泣いていたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ